上 下
5 / 7

しおりを挟む
「ダレン。お前には責任がある。名家に生まれた責任がな」

 物心つく前から、僕は父にそう言って育てられた。
 
 どうやら僕が産まれたのは名家と呼ばれる公爵家らしい。
 祖先は王族で、その血を引き継いだ僕達は、公爵家ながら王族のように気高く権威を持った存在でなければならないのだという。
 
 まだ幼い僕には父の言っていることの半分も理解できなかったが、歳を重ねるごとに、自分が何を為すべきなのか、何のために生きているのかを理解するようになっていった。

 しかし僕は才能が無かった。
 二人いる兄は子供の時からあらゆる分野で才能を発揮して、公爵家の自慢の息子として両親から褒められていた。

 だが、才能のない僕は何をやってもダメで、兄たちからいじめを受けるようになった。
 
「ダレン。お前は才能のないゴミクズだ。せめて僕達のサンドバッグになって役立ってくれよ」
「兄さん、それじゃあ生温いよ。これくらいじゃなきゃ」

 二人の兄の愚行を両親に相談したこともあった。
 しかし両親は僕を冷たい目で見つめ、取り合ってくれなかった。
 おそらく行為の全容は両親も知っていたと思うが、無価値な僕は守られなかったのだ。

 名家に生まれたからには、その責任を果たす必要がある。
 果たせない失敗作は、虐げられ、愛情を与えられず、無残な人生を送るのだ。
 僕はそのことに強い恐怖を感じ、何としても兄たちのようになることを誓った。

 考えてみれば簡単なことだった。
 才能がないのなら、才能を手に入れればいい。
 それに才能は目に見えないのだから、いくらでも偽装することができる。
 
 その思考に至った時、僕の理性のスイッチは崩壊した。

 たくさんの金と人を使い、僕は自分を才能ある人間に見せかけた。
 他人の成績を自分のものにして、ありもしない英雄談を作り上げ、僕は完璧な名家の息子となった。

 途端に周囲の目は変化した。
 兄たちは僕をいじめなくなり、両親は笑顔で接してくれるようになった。
 その瞬間、自分の行いが報われた気がして、僕は涙を流した。
 僕は正しかったのだ、選んだこの道こそが、僕の生きられる道なのだ。

 やがて僕の評判を聞きつけた国王が、直々に婚約者を選んでくれた。
 相手はエレインという平凡な公爵令嬢だったが、僕は満足していた。
 しかしベロニカという男爵令嬢に出会った瞬間、僕の世界は一変した。
 
 あぁ、これが恋というものなのか。
 幸せに浸った僕は、彼女を手に入れたいと思った。
 しかしエレインが邪魔だった。
 国王直々の婚約を、僕の身勝手な理由で破棄するのはあまりにもリスキーだった。

 だから僕はベロニカと話し合い、彼女を貶める作戦を考えた。
 エレインがベロニカをいじめたことにして、金を使って目撃者を作った。
 今までと同じだ、僕のしたことが真実となり、世界に通じていく。

 これで全てが丸く収まる。 
 僕は欲しい物を手に入れて、幸せな暮らしをするのだ。
 子供が出来たら不出来でも褒めてあげよう。
 僕が経験した苦痛なんて与えないように、大切に育ててあげよう。

 ……が、しかし。

 僕の計画は国王の登場で一瞬にして崩れ去った。
 エレインはどうやら国王の娘で、本当に王女であったらしい。
 国王の怒りを買った僕は強烈なビンタを喰らい、のたうち回った。

「最高級の断罪を用意しておいてやる」

 国王の言葉にベロニカはもう限界だった。
 きっと国王側について、僕の罪を告発するだろう。

 どうしてこうなる。
 今まで全て上手くいっていたのに。

 悔しさと怒りが込み上げて、同時に根拠のない自信が溢れてくる。
 大丈夫だ、僕ならやれる。
 昔のように、もう一度信頼を取り戻せる。
 
「僕は幸せになるんだ……」

 もうあんな辛い日々に戻るわけにはいかない。
 僕にはどんなことをしても幸せになる才能があるのだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冤罪をかけて申し訳ないって……謝罪で済む問題だと思ってます?

水垣するめ
恋愛
それは何の変哲もない日だった。 学園に登校した私は、朝一番、教室で待ち構えていた婚約者であるデイビット・ハミルトン王子に開口一番罵声を浴びせられた。 「シエスタ・フォード! この性悪女め! よくもノコノコと登校してきたな!」 「え……?」 いきなり罵声を浴びせられたシエスタは困惑する。 「な、何をおっしゃっているのですか……? 私が何かしましたか?」  尋常ではない様子のデイビットにシエスタは恐る恐る質問するが、それが逆にデイビットの逆鱗に触れたようで、罵声はより苛烈になった。 「とぼけるなこの犯罪者! お前はイザベルを虐めていただろう!」 デイビットは身に覚えのない冤罪をシエスタへとかける。 「虐め……!? 私はそんなことしていません!」 「ではイザベルを見てもそんなことが言えるか!」 おずおずと前に出てきたイザベルの様子を見て、シエスタはギョッとした。 イザベルには顔に大きなあざがあったからだ。 誰かに殴られたかのような大きな青いあざが目にある。 イザベルはデイビットの側に小走りで駆け寄り、イザベルを指差した。 「この人です! 昨日私を殴ってきたのはこの人です!」 冤罪だった。 しかしシエスタの訴えは聞き届けてもらえない。 シエスタは理解した。 イザベルに冤罪を着せられたのだと……。

許してくれ?自分がしたことをまだ理解していないようですね。

水垣するめ
恋愛
「ノエル・セラフィン! お前との婚約を破棄する!」 パーティー会場に大声が響きわたった。 今まで歓談していた生徒たちの声はピタリと止み、声の方向と私へ視線が一斉に向いた。 現在は学園のパーティーの最中だ。 しかしさっきまでの楽しげな雰囲気は跡形も無くなっている。 私はそれを引き起こした原因である、目の前に立っている人物へ質問した。 「クロード・ルグラン王太子、一体これはどういうことですか……?」 目の前の人物は王太子だった。 そして、私はその王太子と婚約している公爵令嬢だ。 クロードは眦を吊り上げ、私を罵倒した。 「どうもこうもあるかこの売女が! 貴様! 俺という婚約者がいながら不貞をはたらいていただろう!」 クロードは口からつばを飛ばし私を怒鳴りつける。 もちろん冤罪だ。 私が不貞をはたらいていたことなどない。 しかしクロードは平民の男を連れてきて、浮気していたと嘘の証言をさせた。 そしてクロードは言った。 「今、ここで靴を舐めろ。そうしたら不貞のことは許してやる」

義妹に冤罪を着せられ家を追放されましたが、何故か王子と一緒に王宮で暮らすことになりました。

水垣するめ
恋愛
主人公のリーナ・ブラウン伯爵令嬢は義妹のイルマから虐められていた。 大切なものは「これ欲しい! 私に頂戴!」と取り上げられた、もちろん抵抗するが、両親に報告して無理矢理取り上げた。 父と義理の母はイルマを甘やかしていて、リーナのことは敵視している程に憎んでいた。 リーナは父と義母が再婚する前に出来た子供だからだ。 イルマはリーナの立場が弱いことを知って虐めていた。 そして、イルマのリーナに対する虐めはヒートアップする。 ある日、イルマが「リーナに階段から落とされた!」と言い、目の前の階段から転げ落ちた。 父と義母は慌てて駆け寄ってきて、リーナを激しく糾弾した。 リーナは弁明するが、全く取り合われない。 そして、ついに父は「お前をこの家から追放する!」と言い放った。 この家に嫌気がさしていたリーナは追放を受け入れ、家から出ていく。 無一文で家から放り出されたリーナは一夜の宿を求めて自分が通うサマーライト学園の図書館にある仮眠室へと向かう。 そして図書館へ入ると、ちょうど知り合いのウィル第一王子が本を読んでいた。 こんな深夜に学園へやってきたリーナを不審に思ったウィルは質問する。 そしてリーナの状況を聞くと、 「なら、王宮で暮らすか?」 と提案してきて……?

冤罪で婚約破棄したくせに……今さらもう遅いです。

水垣するめ
恋愛
主人公サラ・ゴーマン公爵令嬢は第一王子のマイケル・フェネルと婚約していた。 しかしある日突然、サラはマイケルから婚約破棄される。 マイケルの隣には男爵家のララがくっついていて、「サラに脅された!」とマイケルに訴えていた。 当然冤罪だった。 以前ララに対して「あまり婚約しているマイケルに近づくのはやめたほうがいい」と忠告したのを、ララは「脅された!」と改変していた。 証拠は無い。 しかしマイケルはララの言葉を信じた。 マイケルは学園でサラを罪人として晒しあげる。 そしてサラの言い分を聞かずに一方的に婚約破棄を宣言した。 もちろん、ララの言い分は全て嘘だったため、後に冤罪が発覚することになりマイケルは周囲から非難される……。

話を全く聞かずに冤罪を着せたくせに今さら「申し訳ない」ですか?

水垣するめ
恋愛
主人公、公爵令嬢のエリナ・ファインズは婚約者のマックス・クロフトに冤罪をかけられる。 それは『エリナが男爵令嬢のセシル・ブルースを虐めている』というものだった。 しかし真実は違う。 セシルがエリナに『王子がアプローチをしてくるのを止めさせて欲しい』と相談しに来ていただけだった。 セシルはマックスの熱烈なアプローチに嫌気が差していたのだ。 しかしマックスはそれをエリナがセシルを自分から遠ざけようとしているのだと勘違いした。 マックスはエリナを糾弾する。 そして人格まで罵倒し始めた。 「勘違いで冤罪を着せたくせに今さら申し訳ない、ですか? もう遅いです」

私があなたを虐めた?はぁ?なんで私がそんなことをしないといけないんですか?

水垣するめ
恋愛
「フィオナ・ハワース! お前との婚約を破棄する!」 フィオナの婚約者の王子であるレイ・マルクスはいきなりわたしに婚約破棄を叩きつけた。 「なぜでしょう?」 「お前が妹のフローラ・ハワースに壮絶な虐めを行い、フローラのことを傷つけたからだ!」 「えぇ……」 「今日という今日はもう許さんぞ! フィオナ! お前をハワース家から追放する!」 フィオナの父であるアーノルドもフィオナに向かって怒鳴りつける。 「レイ様! お父様! うっ……! 私なんかのために、ありがとうございます……!」 妹のフローラはわざとらしく目元の涙を拭い、レイと父に感謝している。 そしてちらりとフィオナを見ると、いつも私にする意地悪な笑顔を浮かべた。 全ては妹のフローラが仕組んだことだった。 いつもフィオナのものを奪ったり、私に嫌がらせをしたりしていたが、ついに家から追放するつもりらしい。 フローラは昔から人身掌握に長けていた。 そうしてこんな風に取り巻きや味方を作ってフィオナに嫌がらせばかりしていた。 エスカレートしたフィオナへの虐めはついにここまで来たらしい。 フィオナはため息をついた。 もうフローラの嘘に翻弄されるのはうんざりだった。 だからフィオナは決意する。 今までフローラに虐められていた分、今度はこちらからやり返そうと。 「今まで散々私のことを虐めてきたんですから、今度はこちらからやり返しても問題ないですよね?」

義姉に婚約者を取られて一方的に婚約破棄されましたが一向に構いません。

水垣するめ
恋愛
主人公システィア・ホーリー公爵令嬢は第四王子のアルバート・スミスと婚約していた。 いわゆる政略のための婚約で、本当は婚約などしたくなかったが公爵令嬢の使命として受け入れるしかなかった。 しかしある日、義姉のマーティがアルバートを誘惑し、さらにマーティを虐めていたことにされて婚約破棄を叩きつけられる。 だが、面倒な婚約をマーティに押し付けられると分かったシスティアは、喜んで婚約破棄を受け入れる……。 その後は婚約破棄の慰謝料で夢だった商会を設立し、システィアは自由に生きる。 そしてなんとシスティアが予め考えていた商品ざ国内で大ヒットし、商会は僅か数年で大商会へと変わった。 マーティとアルバートはそれを悔しそうな目で見ており……?

冤罪から逃れるために全てを捨てた。

四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)

処理中です...