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「ダレン。お前には責任がある。名家に生まれた責任がな」
物心つく前から、僕は父にそう言って育てられた。
どうやら僕が産まれたのは名家と呼ばれる公爵家らしい。
祖先は王族で、その血を引き継いだ僕達は、公爵家ながら王族のように気高く権威を持った存在でなければならないのだという。
まだ幼い僕には父の言っていることの半分も理解できなかったが、歳を重ねるごとに、自分が何を為すべきなのか、何のために生きているのかを理解するようになっていった。
しかし僕は才能が無かった。
二人いる兄は子供の時からあらゆる分野で才能を発揮して、公爵家の自慢の息子として両親から褒められていた。
だが、才能のない僕は何をやってもダメで、兄たちからいじめを受けるようになった。
「ダレン。お前は才能のないゴミクズだ。せめて僕達のサンドバッグになって役立ってくれよ」
「兄さん、それじゃあ生温いよ。これくらいじゃなきゃ」
二人の兄の愚行を両親に相談したこともあった。
しかし両親は僕を冷たい目で見つめ、取り合ってくれなかった。
おそらく行為の全容は両親も知っていたと思うが、無価値な僕は守られなかったのだ。
名家に生まれたからには、その責任を果たす必要がある。
果たせない失敗作は、虐げられ、愛情を与えられず、無残な人生を送るのだ。
僕はそのことに強い恐怖を感じ、何としても兄たちのようになることを誓った。
考えてみれば簡単なことだった。
才能がないのなら、才能を手に入れればいい。
それに才能は目に見えないのだから、いくらでも偽装することができる。
その思考に至った時、僕の理性のスイッチは崩壊した。
たくさんの金と人を使い、僕は自分を才能ある人間に見せかけた。
他人の成績を自分のものにして、ありもしない英雄談を作り上げ、僕は完璧な名家の息子となった。
途端に周囲の目は変化した。
兄たちは僕をいじめなくなり、両親は笑顔で接してくれるようになった。
その瞬間、自分の行いが報われた気がして、僕は涙を流した。
僕は正しかったのだ、選んだこの道こそが、僕の生きられる道なのだ。
やがて僕の評判を聞きつけた国王が、直々に婚約者を選んでくれた。
相手はエレインという平凡な公爵令嬢だったが、僕は満足していた。
しかしベロニカという男爵令嬢に出会った瞬間、僕の世界は一変した。
あぁ、これが恋というものなのか。
幸せに浸った僕は、彼女を手に入れたいと思った。
しかしエレインが邪魔だった。
国王直々の婚約を、僕の身勝手な理由で破棄するのはあまりにもリスキーだった。
だから僕はベロニカと話し合い、彼女を貶める作戦を考えた。
エレインがベロニカをいじめたことにして、金を使って目撃者を作った。
今までと同じだ、僕のしたことが真実となり、世界に通じていく。
これで全てが丸く収まる。
僕は欲しい物を手に入れて、幸せな暮らしをするのだ。
子供が出来たら不出来でも褒めてあげよう。
僕が経験した苦痛なんて与えないように、大切に育ててあげよう。
……が、しかし。
僕の計画は国王の登場で一瞬にして崩れ去った。
エレインはどうやら国王の娘で、本当に王女であったらしい。
国王の怒りを買った僕は強烈なビンタを喰らい、のたうち回った。
「最高級の断罪を用意しておいてやる」
国王の言葉にベロニカはもう限界だった。
きっと国王側について、僕の罪を告発するだろう。
どうしてこうなる。
今まで全て上手くいっていたのに。
悔しさと怒りが込み上げて、同時に根拠のない自信が溢れてくる。
大丈夫だ、僕ならやれる。
昔のように、もう一度信頼を取り戻せる。
「僕は幸せになるんだ……」
もうあんな辛い日々に戻るわけにはいかない。
僕にはどんなことをしても幸せになる才能があるのだ。
物心つく前から、僕は父にそう言って育てられた。
どうやら僕が産まれたのは名家と呼ばれる公爵家らしい。
祖先は王族で、その血を引き継いだ僕達は、公爵家ながら王族のように気高く権威を持った存在でなければならないのだという。
まだ幼い僕には父の言っていることの半分も理解できなかったが、歳を重ねるごとに、自分が何を為すべきなのか、何のために生きているのかを理解するようになっていった。
しかし僕は才能が無かった。
二人いる兄は子供の時からあらゆる分野で才能を発揮して、公爵家の自慢の息子として両親から褒められていた。
だが、才能のない僕は何をやってもダメで、兄たちからいじめを受けるようになった。
「ダレン。お前は才能のないゴミクズだ。せめて僕達のサンドバッグになって役立ってくれよ」
「兄さん、それじゃあ生温いよ。これくらいじゃなきゃ」
二人の兄の愚行を両親に相談したこともあった。
しかし両親は僕を冷たい目で見つめ、取り合ってくれなかった。
おそらく行為の全容は両親も知っていたと思うが、無価値な僕は守られなかったのだ。
名家に生まれたからには、その責任を果たす必要がある。
果たせない失敗作は、虐げられ、愛情を与えられず、無残な人生を送るのだ。
僕はそのことに強い恐怖を感じ、何としても兄たちのようになることを誓った。
考えてみれば簡単なことだった。
才能がないのなら、才能を手に入れればいい。
それに才能は目に見えないのだから、いくらでも偽装することができる。
その思考に至った時、僕の理性のスイッチは崩壊した。
たくさんの金と人を使い、僕は自分を才能ある人間に見せかけた。
他人の成績を自分のものにして、ありもしない英雄談を作り上げ、僕は完璧な名家の息子となった。
途端に周囲の目は変化した。
兄たちは僕をいじめなくなり、両親は笑顔で接してくれるようになった。
その瞬間、自分の行いが報われた気がして、僕は涙を流した。
僕は正しかったのだ、選んだこの道こそが、僕の生きられる道なのだ。
やがて僕の評判を聞きつけた国王が、直々に婚約者を選んでくれた。
相手はエレインという平凡な公爵令嬢だったが、僕は満足していた。
しかしベロニカという男爵令嬢に出会った瞬間、僕の世界は一変した。
あぁ、これが恋というものなのか。
幸せに浸った僕は、彼女を手に入れたいと思った。
しかしエレインが邪魔だった。
国王直々の婚約を、僕の身勝手な理由で破棄するのはあまりにもリスキーだった。
だから僕はベロニカと話し合い、彼女を貶める作戦を考えた。
エレインがベロニカをいじめたことにして、金を使って目撃者を作った。
今までと同じだ、僕のしたことが真実となり、世界に通じていく。
これで全てが丸く収まる。
僕は欲しい物を手に入れて、幸せな暮らしをするのだ。
子供が出来たら不出来でも褒めてあげよう。
僕が経験した苦痛なんて与えないように、大切に育ててあげよう。
……が、しかし。
僕の計画は国王の登場で一瞬にして崩れ去った。
エレインはどうやら国王の娘で、本当に王女であったらしい。
国王の怒りを買った僕は強烈なビンタを喰らい、のたうち回った。
「最高級の断罪を用意しておいてやる」
国王の言葉にベロニカはもう限界だった。
きっと国王側について、僕の罪を告発するだろう。
どうしてこうなる。
今まで全て上手くいっていたのに。
悔しさと怒りが込み上げて、同時に根拠のない自信が溢れてくる。
大丈夫だ、僕ならやれる。
昔のように、もう一度信頼を取り戻せる。
「僕は幸せになるんだ……」
もうあんな辛い日々に戻るわけにはいかない。
僕にはどんなことをしても幸せになる才能があるのだ。
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