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「国王様。大変です。エレイン様が婚約者のダレン様より、婚約破棄を言い渡されております!」
部屋の扉が開き、長年私に仕えていた執事が焦ったようにそう言った。
公務の真っ最中だった私は書類から目を上げて、彼を見る。
「いつも言っているだろう……エレインの話をする時は扉を閉めろと」
「あ……し、失礼しました……」
執事が扉を閉めると、私は即座に眼光を鋭くした。
「それで……エレインが婚約破棄とはどういうことだ? 今頃王宮内の大広間でパーティーでも楽しんでいるのではないのか?」
「そ、それが……どうやらパーティーの最中に婚約破棄を宣言されたようでして……何でもエレイン様が男爵令嬢をいじめたと……」
「何だと!?」
怒りが全身に湧き立ち、私は思い切り立ち上がっていた。
執事が恐怖で体を震わし、身を縮めている。
「あいつがそんなことするわけがないだろう! そんなのは冤罪に決まっておる!」
「は、はい! わ、私もそう思うのですが……ダレン様は名家の公爵家の出身ですし…他の貴族が賛同し始めるのも時間の問題かと……」
「くそっ……」
私は机をドンと叩いた。
どうやら私はゴミのような男をエレインの婚約者にしてしまったらしい。
「今から行く」
「え?」
困惑した表情をする執事に、私はもう一度言い放つ。
「私が行くと言ったんだ! あの馬鹿ダレンを一発殴ってやる!」
「あ、し、しかし……」
止めようとする執事を振り切り、私は部屋を飛び出した。
……廊下を歩きながら、私は昔の出来事を思い出す。
エレインが産まれた時のことを。
……私の妻が産んだのが女であることが分かった時、私はここに置いてはいけないと思った。
その当時の王宮内は荒れていて、王位継承権を狙う家臣が何人もいた。
こんな混沌とした場所に生まれて間もないエレインを置いておくのは、酷くむごい所業に思えた。
だから私は妻と相談して、彼女をとある公爵家の養子とすることにした。
王宮の外にいれば安全だし、エレインが大人になって内乱がおさまっていれば、また王宮に戻ってくるように言えばいい。
そう考えていた。
そうして時は過ぎ、彼女が十八になる頃には、内乱はおさまっていた。
私は妻と共に、エレインの元を訪れて、彼女が本当は王女であることを告げた。
そして王宮に戻ってこないかと誘ってみたが、彼女は「少し考えさせてください」と言った。
それもそのはずだ。
彼女にとっては生まれこそ王宮だったが、育ての親は公爵夫妻。
彼らを今まで本当の両親だと思っていたエレインにとって、直ぐに決断することなどできるわけがない。
罪滅ぼしのようにエレインに縁談をとりつけたが、それも迷惑に思っていたのかもしれない。
「国王様。せめて穏便にお願い致します」
執事の声に、私は長い記憶の夢から覚めた。
隣を足早に歩く執事に顔を向けると、苦笑してみせる。
「それはダレン次第だ……あの男がエレインを傷つけるのなら、容赦はしない。たとえ名家であろうとな。エレインは王女なのだから」
執事の深いため息が聞こえたが、私は無視して歩き続けた。
程なくしてパーティー会場の扉が見えてくる。
私は扉の前で立ち止まると、深く深呼吸をしてから扉を思い切り開けた。
部屋の扉が開き、長年私に仕えていた執事が焦ったようにそう言った。
公務の真っ最中だった私は書類から目を上げて、彼を見る。
「いつも言っているだろう……エレインの話をする時は扉を閉めろと」
「あ……し、失礼しました……」
執事が扉を閉めると、私は即座に眼光を鋭くした。
「それで……エレインが婚約破棄とはどういうことだ? 今頃王宮内の大広間でパーティーでも楽しんでいるのではないのか?」
「そ、それが……どうやらパーティーの最中に婚約破棄を宣言されたようでして……何でもエレイン様が男爵令嬢をいじめたと……」
「何だと!?」
怒りが全身に湧き立ち、私は思い切り立ち上がっていた。
執事が恐怖で体を震わし、身を縮めている。
「あいつがそんなことするわけがないだろう! そんなのは冤罪に決まっておる!」
「は、はい! わ、私もそう思うのですが……ダレン様は名家の公爵家の出身ですし…他の貴族が賛同し始めるのも時間の問題かと……」
「くそっ……」
私は机をドンと叩いた。
どうやら私はゴミのような男をエレインの婚約者にしてしまったらしい。
「今から行く」
「え?」
困惑した表情をする執事に、私はもう一度言い放つ。
「私が行くと言ったんだ! あの馬鹿ダレンを一発殴ってやる!」
「あ、し、しかし……」
止めようとする執事を振り切り、私は部屋を飛び出した。
……廊下を歩きながら、私は昔の出来事を思い出す。
エレインが産まれた時のことを。
……私の妻が産んだのが女であることが分かった時、私はここに置いてはいけないと思った。
その当時の王宮内は荒れていて、王位継承権を狙う家臣が何人もいた。
こんな混沌とした場所に生まれて間もないエレインを置いておくのは、酷くむごい所業に思えた。
だから私は妻と相談して、彼女をとある公爵家の養子とすることにした。
王宮の外にいれば安全だし、エレインが大人になって内乱がおさまっていれば、また王宮に戻ってくるように言えばいい。
そう考えていた。
そうして時は過ぎ、彼女が十八になる頃には、内乱はおさまっていた。
私は妻と共に、エレインの元を訪れて、彼女が本当は王女であることを告げた。
そして王宮に戻ってこないかと誘ってみたが、彼女は「少し考えさせてください」と言った。
それもそのはずだ。
彼女にとっては生まれこそ王宮だったが、育ての親は公爵夫妻。
彼らを今まで本当の両親だと思っていたエレインにとって、直ぐに決断することなどできるわけがない。
罪滅ぼしのようにエレインに縁談をとりつけたが、それも迷惑に思っていたのかもしれない。
「国王様。せめて穏便にお願い致します」
執事の声に、私は長い記憶の夢から覚めた。
隣を足早に歩く執事に顔を向けると、苦笑してみせる。
「それはダレン次第だ……あの男がエレインを傷つけるのなら、容赦はしない。たとえ名家であろうとな。エレインは王女なのだから」
執事の深いため息が聞こえたが、私は無視して歩き続けた。
程なくしてパーティー会場の扉が見えてくる。
私は扉の前で立ち止まると、深く深呼吸をしてから扉を思い切り開けた。
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