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「そうか、レイラも大変だったんだな」

 応接間にて、向かいのソファに座る、幼馴染のローは言った。
 私は小さく頷くと、探るように言葉を返す。

「ローも何かあったの?」

「まあね……実は、恋人に騙されていてさ……高い水晶玉を買わされたんだ。弟からおかしいって言われて、彼女のことよく調べてみたら、結婚詐欺師で……」

「そうだったの……それは大変だったわね」

 トールと婚約破棄してから既に半年が経過していた。
 トールとジェシカからの慰謝料も無事に支払われ、私たちは赤の他人となった。
 
「でもレイラには負けるよ。僕のはありきたり過ぎてつまらないだろ?」

 ローはそう言って笑うと、言葉を続ける。

「その後、トールとジェシカはどうしてるんだい? 二人仲良く暮らしているのかい?」

「あぁ……二人なら……」

 トールとジェシカは、婚約破棄を機に別れたらしい。
 何でもジェシカはトールのお金目当てで関係を持っていたらしく、彼の家が没落寸前だと分かると、霧に隠れるように姿が消えたという。
 
 トールはその後、家の経営不振で没落し、ここから遠く離れた田舎で暮らしているらしい。
 ジェシカの消息については全く分かっていない。

 私が全部説明し終えると、ローは急に緊張したような顔になった。

「レイラ……っていうことはさ、君は別にトールのことが好きだったわけじゃないんだよな?」

「ええまあ」

 一体彼は何を言いたいのだろう。
 不思議に思っていると、彼は真剣な眼差しを私に向ける。

「レイラ……その……君のことが好きなんだ。僕と婚約してくれないか?」

「……え?」

「自分でも急なのは分かってるよ! で、でも最近話している内にだんだん……もう気持ちを抑えられそうにない……」

 ローはそう言うと立ち上がり、私の元へ近づいてくる。
 どうなってしまうのだろう……心臓がバクバクと音を立てたその時、応接間の扉が勢いよく開いた。

「……ん? 何をやっているのだお前は」

 ゆっくり扉の方を向くと、そこには父がいた。
 昔から私を溺愛する、心優しき父だ。
 父はローを訝し気に睨みつけると、スタスタと近づいていく。

「おいロー……まさかお前、私のレイラに何かしたんじゃないだろうな?」

「あ、い、いや……お義父さん! 断じてそのようなことは……」

「お義父さんだと? 私はお前の父になったわけではない!」

 父の私への愛ゆえの厳しい態度に、ローはすっかり委縮してしまう。
 その光景を見つめながら私は微笑んだ。
 心臓は依然、音を立てていた。
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