浮気相手とお幸せに

杉本凪咲

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マークの顔が意味が分からないといったように歪んだ。

「エミリア? お前は何を言っているんだ? 金銭面の援助? そんなの俺は一切……」

「ええ、あなたは知らないでしょうね」

冷たい声で私はそう言う。

「しかし、私の家からあなたの家へ、婚約した時から金銭的な援助があったこと確かです。そうですね? お父様?」

「その通りだ」

父は頷くと、諭すようにマークに告げる。

「マーク君。君は知らさせていないだろうが、君の実家は私の援助なしでは成り立たない程に衰弱していた。縁談が決まった段階で、私が君の家に援助を行うことは決まっていた。見返りに君の父上が所有する人脈を私に分けてもらっていた」

「そ、そんな……俺はなにも……」

「父上なりの気遣いだったんだろう。息子には心配をかけないようにと、一生懸命に頑張っていたんだ。だが、最近になって事業の収益が右肩下がりになってきた。契約通りの援助額ではどうすることも出来ずに、父上は私に相談してきた」

父がそう言うと、私は一通の手紙を机の上に置いた。
それをチラリと見ながら、父が言葉を続ける。

「それで私たちは話し合いを重ね、君の父上は事業から手を引くことになった。毎月の援助金は次の事業を興すまでの足しにする予定だった。そして父上はこの手紙で全てを君に伝えようとした」

「え……でも俺はそんな手紙受け取って……」

「申し訳ありません。私が持っていました」

マークが私をキッと睨みつけた。

「なんでお前が俺宛の手紙を持っているんだ?」

「マークさんに手紙の管理を任されましたので。しかし内容を少し見て、このことをマークさんに伝えるべきかどうか迷いました。これを知ればあなたに不要な心配をかけてしまう……そう考えていたのです。その点は本当に申し訳なかったと思っています」

本来なら手紙の対応を早くするべきだったが、直後に浮気騒動が起こり、そっちに気が取られてしまっていたのだ。

「だ、だが……じゃあ俺の家はどうなるんだ? 事業を辞めて、金銭面での援助も打ち切り……どうすればよかったんだ!」

マークは声を荒げた。
隣のロゼは状況が呑み込めていないのか、不思議そうな目でマークを見ていた。

「あなたが私を裏切ることがなければ、こんなことにはなりませんでした。援助金は婚約という契りの元に支払われていました。婚約破棄して両家の関係も無くなるのですから、援助金が無くなるのも当然のことです」

「そんな……」

「ねえねえマーク。どういうこと? なんでそんなに焦っているの?」

能天気な声を出したロゼに、マークは食ってかかる。

「お前は馬鹿か! 俺の家は事業に失敗して、再生するための金もないんだぞ! こんなの没落するに決まっている! 俺はもう貴族じゃいられないんだ!」

「え……」

ロゼの顔が真っ青に染まる。
だが自分のお腹に手を当て、無理やりに苦笑する。

「う、嘘だよね? そんな……私たちの子はどうするの……? え? 私の家もそんなにお金は……裕福な暮らしは? 宮殿みたいな大きな屋敷は?」

「そんなの無理に決まっているだろ! 達はもうそんな生活はできないんだ! 慎ましく暮らしていくしかない!」

「そんなぁ……」

マークとロゼのやりとりを見て、私はため息をついた。
なぜ私はこんな人を愛してしまったのか、あんなに尽くそうと必死になっていたのか。
目の前にいるのは魅力など全然ない、ただの哀れな男性だった。

「マークさん。話を戻しますが、こちらの婚約破棄の紙にサインを頂けますか? もしサインして頂けないようでしたら、浮気のことを世間に公表してさらに慰謝料を取ろうと考えています」

「サ、サインするよ!」

マークは顔面蒼白になりながらも、何とかサインをし終えた。
私はニッコリと笑顔を浮かべると、マークに言い放つ。

「今までありがとうございました。どうかお幸せに」
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