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窓から差し込めた気持ちの良い朝日で、俺は目覚めた。
「もう朝か……」
あくびをしながら上半身だけ起こし、隣で眠るロゼの髪に触れる。
太陽を思わせるような真っ赤な綺麗な髪はサラサラしていて、肌触りがとても良い。
そのままずっと触っていると、ロゼが「うぅ」と目を覚ました。
「あれマーク? もう起きたの?」
「おはようロゼ」
「おはようマーク」
エミリアが家を去ってから既に二週間が経過していた。
婚約破棄の正式な決定は、今日の昼頃から彼女の実家にて執り行う予定だった。
「ロゼ……愛しているよ」
俺がロゼの頬にキスをすると、彼女は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ているだけで、心が幸福に満たされていくのが、はっきりと分かる。
彼女にもっと尽くしたい、何でもあげたい、そんな思いが込み上げてきた。
「なあ、ロゼ。婚約したら指輪を買いに行こう。君の好きなエメラルドの指輪を」
「ありがとうマーク。でも……お金かかっちゃうし……」
なんて出来た人間なのだろう。
自分の爵位をひけらかすこともなく、俺の心配までしてくれる。
高慢ちきなエミリアとは大違いだ。
「金のことなら心配しなくていい。エミリアと友人の使用人をあれだけ脅したんだ。婚約破棄の慰謝料くらい払うはずさ」
「ふふっ……そういえばそうね。たくさんお金貰えるといいね」
「ああ、きっと想像以上の慰謝料を払うはずさ。エミリアは小心者だからな。間違っても俺に歯向かうことなんてないさ。ははっ!」
エミリアは婚約当初からどこか鼻についていた。
まるで自分が高尚な貴族だと言わんばかりに落ち着きはらって、誰に対しても礼儀正しく敬語を使う。
確かにその言動は貴族の鏡なのかもしれないが、俺には少し窮屈すぎた。
やがて目障りに思うようになり、ロゼと浮気をした。
ロゼは彼女とは対照的に、明るく元気で、一緒にいて楽しかった。
彼女が俺の婚約者だったらどんなに幸せか……いつしかそんなことを考えるようになっていた。
「ロゼ。昼になったら一緒にエミリアの家に行こう。俺達の幸せの瞬間を一緒に見届けよう」
「ええ、もちろんよ。待ちきれないわ」
……昼になると俺とロゼは馬車に乗った。
そのまま馬車に二時間ほど揺られ、エミリアの実家へと到着した。
使用人に案内されるまま応接間に行くと、そこにはエミリアと彼女の父親がいた。
二人はほぼ同時に立ち上がると、軽く頭を下げる。
「マーク君。今日はよく来てくれた。そっちに座ってくれ。お連れの方もどうぞ」
彼女の父に促されるまま、俺達は長方形の机を挟んだ向かいの椅子に腰を下ろした。
俺の正面にはエミリアが、ロゼの正面にはエミリアの父親が座っている。
「早速だが、こちらの書類にサインをしてもらいたい」
エミリアの父親は自分の前に置かれていた紙を、俺の前に移動させた。
どうやらこれにサインをすれば婚約破棄が完了するらしい。
「ええ、もちろんです」
内容にさっと目を通し、慰謝料について何も書かれていないことが分かると、俺はエミリアに意味ありげな視線を送る。
「あれエミリア。慰謝料は君が持つという話じゃなかったかい? どうやら書き忘れているようだけど」
しかし、エミリアは微塵も動揺することなく、淡々と告げた。
「書き忘れてはいませんよ。慰謝料なんて私は払うつもりはありません。あなたにも慰謝料は求めません。ただし、今までしていた金銭面の援助は止めますけどね」
「……え?」
「もう朝か……」
あくびをしながら上半身だけ起こし、隣で眠るロゼの髪に触れる。
太陽を思わせるような真っ赤な綺麗な髪はサラサラしていて、肌触りがとても良い。
そのままずっと触っていると、ロゼが「うぅ」と目を覚ました。
「あれマーク? もう起きたの?」
「おはようロゼ」
「おはようマーク」
エミリアが家を去ってから既に二週間が経過していた。
婚約破棄の正式な決定は、今日の昼頃から彼女の実家にて執り行う予定だった。
「ロゼ……愛しているよ」
俺がロゼの頬にキスをすると、彼女は嬉しそうに笑う。
その笑顔を見ているだけで、心が幸福に満たされていくのが、はっきりと分かる。
彼女にもっと尽くしたい、何でもあげたい、そんな思いが込み上げてきた。
「なあ、ロゼ。婚約したら指輪を買いに行こう。君の好きなエメラルドの指輪を」
「ありがとうマーク。でも……お金かかっちゃうし……」
なんて出来た人間なのだろう。
自分の爵位をひけらかすこともなく、俺の心配までしてくれる。
高慢ちきなエミリアとは大違いだ。
「金のことなら心配しなくていい。エミリアと友人の使用人をあれだけ脅したんだ。婚約破棄の慰謝料くらい払うはずさ」
「ふふっ……そういえばそうね。たくさんお金貰えるといいね」
「ああ、きっと想像以上の慰謝料を払うはずさ。エミリアは小心者だからな。間違っても俺に歯向かうことなんてないさ。ははっ!」
エミリアは婚約当初からどこか鼻についていた。
まるで自分が高尚な貴族だと言わんばかりに落ち着きはらって、誰に対しても礼儀正しく敬語を使う。
確かにその言動は貴族の鏡なのかもしれないが、俺には少し窮屈すぎた。
やがて目障りに思うようになり、ロゼと浮気をした。
ロゼは彼女とは対照的に、明るく元気で、一緒にいて楽しかった。
彼女が俺の婚約者だったらどんなに幸せか……いつしかそんなことを考えるようになっていた。
「ロゼ。昼になったら一緒にエミリアの家に行こう。俺達の幸せの瞬間を一緒に見届けよう」
「ええ、もちろんよ。待ちきれないわ」
……昼になると俺とロゼは馬車に乗った。
そのまま馬車に二時間ほど揺られ、エミリアの実家へと到着した。
使用人に案内されるまま応接間に行くと、そこにはエミリアと彼女の父親がいた。
二人はほぼ同時に立ち上がると、軽く頭を下げる。
「マーク君。今日はよく来てくれた。そっちに座ってくれ。お連れの方もどうぞ」
彼女の父に促されるまま、俺達は長方形の机を挟んだ向かいの椅子に腰を下ろした。
俺の正面にはエミリアが、ロゼの正面にはエミリアの父親が座っている。
「早速だが、こちらの書類にサインをしてもらいたい」
エミリアの父親は自分の前に置かれていた紙を、俺の前に移動させた。
どうやらこれにサインをすれば婚約破棄が完了するらしい。
「ええ、もちろんです」
内容にさっと目を通し、慰謝料について何も書かれていないことが分かると、俺はエミリアに意味ありげな視線を送る。
「あれエミリア。慰謝料は君が持つという話じゃなかったかい? どうやら書き忘れているようだけど」
しかし、エミリアは微塵も動揺することなく、淡々と告げた。
「書き忘れてはいませんよ。慰謝料なんて私は払うつもりはありません。あなたにも慰謝料は求めません。ただし、今までしていた金銭面の援助は止めますけどね」
「……え?」
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