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その後、私とエドワードの離婚は正式に決まった。
離婚後数日して退院した私は、実家に帰り、即座に部屋に籠った。
心配した両親が私に声をかけてくれたが、ろくな返事をすることができなかった。
何日が経ったのだろうか。
本棚の本も全て読み終えてしまい、私はふと景色を見るために、窓に近寄った。
眼下には綺麗に整備された庭が広がっていて、忙しなく働く人達がいた。
「……」
私はただその様子を茫然と見下ろしていた。
老人の庭師が大きなハサミを持って、どこかに消えていく。
使用人がほうきを手に、道を掃いている。
皆自分の役割があって、それに一生懸命で、それを見ていたら、自分には一体何があるのだろうかと疑問に思ってしまう。
考えすぎだろうか。
自分の手に目を移すと、ろくに陽光を浴びていない真っ白な手がそこにはあった。
何の穢れもない純白な手だ。
エドワードの手はもっと堅そうだった。
そして力強く、憧れていた。
もう触れることができないと思うと、なぜだか心が締め付けられる。
「もう終わったんだ」
私とエドワードは離婚した。
もう会うこともなければ、話すこともない。
これからは赤の他人としてお互いの人生を生きるのだ。
「諦めなきゃ」
私はベッドに戻ると、寝ることにした。
しかし一向に眠ることなどできなかった。
自分が無能な人間に思えて、ベッドから抜け出すと、とりあえず部屋を出た。
何をするでもなく廊下を歩き、すぐに息が切れる。
通りがかった使用人から心配されるが、構わず歩いた。
玄関まで来たところで、先ほどの庭を見ようと外に出た。
温かな陽光が照り付けていて、思わず目を閉じてしまう。
しかしゆっくりと開けると、そこには色鮮やかな世界が広がっていた。
「……行かなきゃ」
どうしてそう思ったのかは分からない。
しかし私は行かなくてはいけない気がした。
急いで馬車に乗り込み、御者に行先を告げる。
使用人に少し出かけると言っておいた。
両親は仕事で家にいなかったので、助かった。
いたら私の外出を許すはずがない。
馬車は森に到着し、止まった。
ここからは歩いていくしかないからだ。
私は整備された道を足早に歩いた。
鳥の鳴き声が耳に響いて、木洩れ日が体を照らす。
相変わらず息がすぐに乱れたが、どこかそれは気持ちがよかった。
今更になって、自分が生きていることに気づいた。
こんなにも世界は美しいなんて初めて知った。
踏みしめる大地が、耳を揺らす風が、全てが私の五感を通して感動を与えてくれる。
涙が出ても私は歩みを止めなかった。
そしてついに辿り着いた。
エドワードとの思い出の場所に。
「エドワード様……?」
湖の前にエドワードが立っていた。
私はそっと彼に近づいていく。
彼は私を見て、目を見開いた後、苦笑した。
「まさか君もここに来るなんて……一人で来たのかい?」
「はい。エドワード様も?」
「ああ。一人で来たかったんだ」
彼を見た瞬間、心臓がグンと跳ねたのは、きっとここまで歩いてきたからだろう……
離婚後数日して退院した私は、実家に帰り、即座に部屋に籠った。
心配した両親が私に声をかけてくれたが、ろくな返事をすることができなかった。
何日が経ったのだろうか。
本棚の本も全て読み終えてしまい、私はふと景色を見るために、窓に近寄った。
眼下には綺麗に整備された庭が広がっていて、忙しなく働く人達がいた。
「……」
私はただその様子を茫然と見下ろしていた。
老人の庭師が大きなハサミを持って、どこかに消えていく。
使用人がほうきを手に、道を掃いている。
皆自分の役割があって、それに一生懸命で、それを見ていたら、自分には一体何があるのだろうかと疑問に思ってしまう。
考えすぎだろうか。
自分の手に目を移すと、ろくに陽光を浴びていない真っ白な手がそこにはあった。
何の穢れもない純白な手だ。
エドワードの手はもっと堅そうだった。
そして力強く、憧れていた。
もう触れることができないと思うと、なぜだか心が締め付けられる。
「もう終わったんだ」
私とエドワードは離婚した。
もう会うこともなければ、話すこともない。
これからは赤の他人としてお互いの人生を生きるのだ。
「諦めなきゃ」
私はベッドに戻ると、寝ることにした。
しかし一向に眠ることなどできなかった。
自分が無能な人間に思えて、ベッドから抜け出すと、とりあえず部屋を出た。
何をするでもなく廊下を歩き、すぐに息が切れる。
通りがかった使用人から心配されるが、構わず歩いた。
玄関まで来たところで、先ほどの庭を見ようと外に出た。
温かな陽光が照り付けていて、思わず目を閉じてしまう。
しかしゆっくりと開けると、そこには色鮮やかな世界が広がっていた。
「……行かなきゃ」
どうしてそう思ったのかは分からない。
しかし私は行かなくてはいけない気がした。
急いで馬車に乗り込み、御者に行先を告げる。
使用人に少し出かけると言っておいた。
両親は仕事で家にいなかったので、助かった。
いたら私の外出を許すはずがない。
馬車は森に到着し、止まった。
ここからは歩いていくしかないからだ。
私は整備された道を足早に歩いた。
鳥の鳴き声が耳に響いて、木洩れ日が体を照らす。
相変わらず息がすぐに乱れたが、どこかそれは気持ちがよかった。
今更になって、自分が生きていることに気づいた。
こんなにも世界は美しいなんて初めて知った。
踏みしめる大地が、耳を揺らす風が、全てが私の五感を通して感動を与えてくれる。
涙が出ても私は歩みを止めなかった。
そしてついに辿り着いた。
エドワードとの思い出の場所に。
「エドワード様……?」
湖の前にエドワードが立っていた。
私はそっと彼に近づいていく。
彼は私を見て、目を見開いた後、苦笑した。
「まさか君もここに来るなんて……一人で来たのかい?」
「はい。エドワード様も?」
「ああ。一人で来たかったんだ」
彼を見た瞬間、心臓がグンと跳ねたのは、きっとここまで歩いてきたからだろう……
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