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 エミリアとは政略結婚だった。
 厳しい両親が僕の結婚相手を勝手に決めて、勝手に顔合わせの日取りを組んだ。
 本当は同級生に好きな女の子がいたけど、それは黙っているしかなかった。

 彼女との初めての顔合わせの日、僕は好青年を演じた。
 百点満点の笑顔を見せたら、彼女は頬を赤くした。
 それが何だか可愛らしくて、僕はエミリアに興味を持つようになった。

 正式に夫婦となった時には、僕はエミリアのことが好きだった。
 しかし、それは長くは続かなかった。
 仕事がだんだんと忙しくなり、彼女に会える時間が増えても、僕は特に苦には感じなかった。
 むしろ自由すら感じていた。

 その時分かった、僕は心からエミリアを愛してはいないのだと。
 しかし彼女の前でそんなことは言えないから、いつも嘘をついていた。
 たとえそれが裏切りになるとしても、構わなかった。

 僕のその心の隙間を突くように、エミリアの妹カナリアは近づいてきた。
 彼女はエミリアとは違うタイプの女性で、惹き付けられるものがあった。
 その綺麗な指が偶然僕に触れる度、僕の心臓は高鳴った。
 そしてきっとこれが本当の愛なのだと思った。

 幸いなことに、カナリアも同じ気持ちだった。
 最初はどちらから誘ったのか覚えてないが、とにかく僕達はすぐに男女の仲になった。
 エミリアと夫婦となって一年と少しの出来事だった。

 それから僕はカナリアと会うために屋敷を購入した。
 二人で会う時はいつもそこに集まった。
 
 カナリアが部屋が汚いというから、使用人を一人だけ雇った。
 彼女は僕に惚れているようだったので、一回だけ抱いてやった。
 しかしカナリアと比べてつまらない女だったので、すぐに捨てた。
 それからは使用人の仕事だけを命じた。

 ……エミリアに僕とカナリアの関係がバレて一か月。
 僕は国王主催のパーティーに来ていた。
 会場につくと、カナリアが僕を見つけ駆け寄ってくる。

「マイク。あなたも来てたのね」

 今日もカナリアは世界一美しい。
 露出が多いドレスが体の美しさを更に際立たせていた。

「カナリア、会えて嬉しいよ。あれから全然会ってなかったからさ……」

「ふふっ、私も! パーティーが終わった後も……会える?」

 彼女の豊満な胸が僕に迫る。
 心臓がドクンと脈打つのを感じながら、僕は頷く。

「もちろんだよ。朝まで愉しもう。いつもみたいに」

 と、その時、会場の扉が大きく開かれた。
 扉近くにいた貴族が拍手をする。
 きっと王族の誰かでも来たのだろう、そう思い顔を向けた僕は唖然とした。

「え……嘘だろ……お、おいカナリア。あれを見ろ」

 僕の言葉にカナリアも扉の方へ顔を向ける。
 しかし彼女は驚きに顔を歪めて、絶句してしまう。

 そこにはこの国の第一王子であるレイド王子がいた。
 しかし、問題は彼がエスコートしている女性。
 それはエミリアだったのだ。

 二人は拍手に包まれながら、僕達の前まで歩いてくる。
 そしてレイド王子が口火を切った。

「あなたたちですね。僕の婚約者を裏切ったマイクとカナリアというのは」
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