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人間なんて簡単に裏切るのよ。
妹のカナリアはそう言いたげな目で私を見ていた。
しかし、顔だけは申し訳なさそうに歪めていた。
「お姉ちゃん。ごめんねぇ……」
私は後悔した。
この屋敷に来ることもなければ、こんな悲しい思いしなくてよかったのに。
夫と妹が不倫をしている場面なんて見なくてもよかったのに……
……三年前、私とマイクは結婚した。
マイクは街でも有名な侯爵家の一人息子で、将来家を継ぐことが決定していた。
そんな彼の結婚相手として選ばれたのが、伯爵令嬢の私、エミリアだった。
初めての顔合わせの日の、彼の素敵な笑顔は、一瞬で私の心を動かした。
この人と人生を添い遂げたい……魔法にかけられたように、私にそう思わせた。
私とマイクの縁談は順調に進み、無事に結婚を果たした。
私は住み慣れた家を離れ、マイクの屋敷で暮らすことになった。
これから幸せな毎日が待っている……そう確信して疑わなかった。
「エミリア。今日も綺麗だね。愛してる」
初めの一年は、マイクは毎日のように私に愛を囁いてくれた。
とても恥ずかしくなったが、私もそれに頑張って応えていた。
しかし結婚生活二年目に入ると、彼はだんだん変わっていった。
仕事が忙しくなり、顧客との接待という名目で、家をよく空けるようになった。
その頃の私は彼を信頼しきっていたので、全く疑うこともなく、むしろ頑張ってねと励ましの言葉をかけていた。
するとマイクは決まって、こう言った。
「ありがとうエミリア。君のためなら僕はどんな苦労も乗り越えられるよ」
嬉しかった。
愛されているのだと思っていた。
しかし、結婚生活三年目に入ると、それが間違いかもしれないと疑念を抱き始める。
三年目。
マイクは相変わらず仕事で忙しく、二週間に一回しか家に帰らないようになっていた。
しかも私と顔を合わせるとため息をはき「どいて邪魔」と不機嫌そうに言う。
初めは仕事でイライラしていたのだろうと、自分に言い聞かせていたが、それが何回も続く頃には、もう夫婦仲は冷めてしまっているのだと気づいた。
マイクが私に何も言わなくなった頃、私のマイクへの愛は見えない程に小さくなっていた。
「奥様。マイク様への請求書が届いておりますが……」
マイクと結婚して三年と半年が過ぎたある日。
メイドが私に請求書を手渡した。
その時にはマイクはほとんど家に帰ってこなくなっていたので、彼への手紙や請求書などは代わりに私が預かることになっていた。
「ありがとう、見ておくわね」
請求書を見ると、それは家にかけられた税金に対してのものだった。
この国では、家に土地の広さに応じた税金がかけられていて、毎月一定の額を国に納める制度があった。
しかし住所の欄を見た私は首を傾げた。
「これって……この家じゃないわね……」
なぜか住所が間違っていたのだ。
しかも単なる文字の書き間違えという類のものではなく、住所自体がそっくり別のものだったのだ。
「ということは、マイクはこの家の他に屋敷を持っている……ということかしら?」
なぜだか胸がざわついた。
彼は侯爵家の人間であるから、余分な屋敷の一つや二つ持っていても不思議ではない。
しかし、そんな話は今までに聞いたことはないし、どこか説明しにくい不安を感じていたのだ。
私は覚悟を決めると、その住所に向かってみることにした。
まだ昼過ぎなので仕事で家を空けているかもしれないが、屋敷の存在を確かめるだけでも十分だ。
請求書もマイクに渡さなければいけないし。
私は請求書を手に、馬車に乗った。
妹のカナリアはそう言いたげな目で私を見ていた。
しかし、顔だけは申し訳なさそうに歪めていた。
「お姉ちゃん。ごめんねぇ……」
私は後悔した。
この屋敷に来ることもなければ、こんな悲しい思いしなくてよかったのに。
夫と妹が不倫をしている場面なんて見なくてもよかったのに……
……三年前、私とマイクは結婚した。
マイクは街でも有名な侯爵家の一人息子で、将来家を継ぐことが決定していた。
そんな彼の結婚相手として選ばれたのが、伯爵令嬢の私、エミリアだった。
初めての顔合わせの日の、彼の素敵な笑顔は、一瞬で私の心を動かした。
この人と人生を添い遂げたい……魔法にかけられたように、私にそう思わせた。
私とマイクの縁談は順調に進み、無事に結婚を果たした。
私は住み慣れた家を離れ、マイクの屋敷で暮らすことになった。
これから幸せな毎日が待っている……そう確信して疑わなかった。
「エミリア。今日も綺麗だね。愛してる」
初めの一年は、マイクは毎日のように私に愛を囁いてくれた。
とても恥ずかしくなったが、私もそれに頑張って応えていた。
しかし結婚生活二年目に入ると、彼はだんだん変わっていった。
仕事が忙しくなり、顧客との接待という名目で、家をよく空けるようになった。
その頃の私は彼を信頼しきっていたので、全く疑うこともなく、むしろ頑張ってねと励ましの言葉をかけていた。
するとマイクは決まって、こう言った。
「ありがとうエミリア。君のためなら僕はどんな苦労も乗り越えられるよ」
嬉しかった。
愛されているのだと思っていた。
しかし、結婚生活三年目に入ると、それが間違いかもしれないと疑念を抱き始める。
三年目。
マイクは相変わらず仕事で忙しく、二週間に一回しか家に帰らないようになっていた。
しかも私と顔を合わせるとため息をはき「どいて邪魔」と不機嫌そうに言う。
初めは仕事でイライラしていたのだろうと、自分に言い聞かせていたが、それが何回も続く頃には、もう夫婦仲は冷めてしまっているのだと気づいた。
マイクが私に何も言わなくなった頃、私のマイクへの愛は見えない程に小さくなっていた。
「奥様。マイク様への請求書が届いておりますが……」
マイクと結婚して三年と半年が過ぎたある日。
メイドが私に請求書を手渡した。
その時にはマイクはほとんど家に帰ってこなくなっていたので、彼への手紙や請求書などは代わりに私が預かることになっていた。
「ありがとう、見ておくわね」
請求書を見ると、それは家にかけられた税金に対してのものだった。
この国では、家に土地の広さに応じた税金がかけられていて、毎月一定の額を国に納める制度があった。
しかし住所の欄を見た私は首を傾げた。
「これって……この家じゃないわね……」
なぜか住所が間違っていたのだ。
しかも単なる文字の書き間違えという類のものではなく、住所自体がそっくり別のものだったのだ。
「ということは、マイクはこの家の他に屋敷を持っている……ということかしら?」
なぜだか胸がざわついた。
彼は侯爵家の人間であるから、余分な屋敷の一つや二つ持っていても不思議ではない。
しかし、そんな話は今までに聞いたことはないし、どこか説明しにくい不安を感じていたのだ。
私は覚悟を決めると、その住所に向かってみることにした。
まだ昼過ぎなので仕事で家を空けているかもしれないが、屋敷の存在を確かめるだけでも十分だ。
請求書もマイクに渡さなければいけないし。
私は請求書を手に、馬車に乗った。
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