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彼女のピアノを弾く細い指が大好きだった。
私がそれに見惚れていると、彼女は優しい声で言う。

「マルネさん、次はあなたの番ですよ」

「はい……」

まだ十歳の子供であった私の小さな心臓が高鳴る。
恐る恐る鍵盤に指を置いて、ぎこちない手つきで演奏を始めた。
彼女はそれを静かに聴いて、終わると拍手をしてくれた。

「よくできましたね、マルネさん」

その笑顔が大好きだった。
ああ、これが恋なのだと、私が気づくのに時間はかからなかった。

六年後。
貴族学園に入学を果たした私は、淡々と教室まで向かっていた。
入学式が終わり、指定された教室へと移動する。
既に友人を作った人達は楽し気に歩を進めていたが、生憎私は一人だった。

気を重くしながらも、教室へと入る。
自分の席を確認して机を見た時、鼓動が波打った。

「え……」

そこには私の初恋の人に、瓜二つの女生徒がいた。
ピアノの先生であった彼女のように大人びてはいないが、顔はそっくりで、学生の時はちょうどそんな顔だったと納得できる程。

彼女は私の隣の席に座り、本を読んでいた。
私は胸に手を当てて心臓の音を確認すると、自分の席へと進む。

鼓動はどんどん早くなり、私の体を容赦なく高揚させていく。
やっとの思いで自分の席に座り、私は彼女へと声をかける。

「ね、ねえ……何の本を読んでいるの?」

彼女は少し暗い目を私に向けて、本のタイトルをぼそっと呟いた。
本なんてあまり読まない私は返答に困るが、名前すら聞いていないことに気づき、慌てて自己紹介をする。

「私はマルネ、隣の席だね。これからよろしくね」

「う、うん……シャルロット……です……よろしく」

シャルロット、それがあなたの名前なのね。

……子供の頃、私の初恋は無残に散っていった。
想いを寄せていたピアノの先生は、貴族の男性と結婚をして、もう家には来なくなった。

しかし私は、もう一度素晴らしい恋に出会うことができた。
きっと皆は認めてはくれないけれど、私だけこの気持ちを大事にしていこう。
なかったことにするのは、とても辛いことだから。

「どうかしたの?」

シャルロットが首を傾げる。
その仕草が愛らしくて、私は屈託のない笑顔を浮かべた。
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