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父の遺言書を偶然に見つけてしまった僕は焦った。
このままでは未婚の僕は遺産や領地が少なくなってしまう……危機感を覚えた僕はアナシアと結婚した。
父の余命は長くて五年だと聞いていたので、その内死んでくれると思っていた。
しかし父は何度も持ちこたえ、このままでは契約の五年が過ぎてしまうと思った。
そうなったら全て水の泡だ。
僕はその恐怖心に囚われ、父を毒殺することに決めた。
……アナシアの家を去った僕は自分の屋敷に帰っていた。
馬車を降り、怒りそのままに家の中に入ると、侍女が僕を待っていた。
「エンド様。お母様がいらっしゃっています。緊急の用事があるとかで……今、応接間に」
「ああ、すぐ行くよ」
一体何だろうか。
父の遺産関連のものは全て受け取ったし、ララが失踪したことも伝えている。
不審に思いながらも応接間に入ると、そこには妙に落ち着いた母の姿があった。
「エンド。座りなさい」
母の向かいのソファに腰かけると、母は言葉を続けた。
「あなた……何か隠していることない?」
「はい? 隠していること? そんなのないよ」
もしかしてアナシアが何か入れ知恵をしたのだろうか。
ララという場合もある。
「そう……」
母は一瞬悲しそうな顔をすると、おもむろに手を上に上げパンと叩いた。
瞬間、応接間の扉が勢いよく開き、数人の兵が入ってきた。
「な、なんだお前ら!」
動揺したのも束の間、彼らは素早い動きで僕を拘束していく。
「やめろ!」僕の声だけが応接間に響く。
「エンド……本当に残念だわ」
兵士に拘束された僕を母が見下ろしていた。
目には涙が浮かび、苦悶の表情に満ちている。
「夫が死んだ時、実は胃の中から毒物が検出されていたの……医者は間違えて夫が飲んだのだろうって言ってたけれど、私はずっとそのことが気にかかっていた。そして最近あなたの昔の部屋を整理していたら、それと同じ成分を持つ薬草が出てきてね」
「そ、それだけで僕を犯人扱いか!? 僕は実の息子だぞ!!」
「ええ、それだけでも私はあなたを裁くわ。だって私のあの人への愛は本物だから」
母の目はどこか狂気に染まっていた。
まるで自分の目を見ているようで、僕はハッと気づく。
この人は僕の母親なんだ……僕がララを一番に優先したように、この人も父を一番に想っているのだ。
「エンド。本当に残念だわ」
僕の人生はもっと幸せになるはずだった。
こんなあっけない幕切れをするはずがなかった。
しかし、現実は僕は思っていたよりも、残酷で容赦ないようだ。
僕は静かに目を閉じると、絶望を噛みしめた……
このままでは未婚の僕は遺産や領地が少なくなってしまう……危機感を覚えた僕はアナシアと結婚した。
父の余命は長くて五年だと聞いていたので、その内死んでくれると思っていた。
しかし父は何度も持ちこたえ、このままでは契約の五年が過ぎてしまうと思った。
そうなったら全て水の泡だ。
僕はその恐怖心に囚われ、父を毒殺することに決めた。
……アナシアの家を去った僕は自分の屋敷に帰っていた。
馬車を降り、怒りそのままに家の中に入ると、侍女が僕を待っていた。
「エンド様。お母様がいらっしゃっています。緊急の用事があるとかで……今、応接間に」
「ああ、すぐ行くよ」
一体何だろうか。
父の遺産関連のものは全て受け取ったし、ララが失踪したことも伝えている。
不審に思いながらも応接間に入ると、そこには妙に落ち着いた母の姿があった。
「エンド。座りなさい」
母の向かいのソファに腰かけると、母は言葉を続けた。
「あなた……何か隠していることない?」
「はい? 隠していること? そんなのないよ」
もしかしてアナシアが何か入れ知恵をしたのだろうか。
ララという場合もある。
「そう……」
母は一瞬悲しそうな顔をすると、おもむろに手を上に上げパンと叩いた。
瞬間、応接間の扉が勢いよく開き、数人の兵が入ってきた。
「な、なんだお前ら!」
動揺したのも束の間、彼らは素早い動きで僕を拘束していく。
「やめろ!」僕の声だけが応接間に響く。
「エンド……本当に残念だわ」
兵士に拘束された僕を母が見下ろしていた。
目には涙が浮かび、苦悶の表情に満ちている。
「夫が死んだ時、実は胃の中から毒物が検出されていたの……医者は間違えて夫が飲んだのだろうって言ってたけれど、私はずっとそのことが気にかかっていた。そして最近あなたの昔の部屋を整理していたら、それと同じ成分を持つ薬草が出てきてね」
「そ、それだけで僕を犯人扱いか!? 僕は実の息子だぞ!!」
「ええ、それだけでも私はあなたを裁くわ。だって私のあの人への愛は本物だから」
母の目はどこか狂気に染まっていた。
まるで自分の目を見ているようで、僕はハッと気づく。
この人は僕の母親なんだ……僕がララを一番に優先したように、この人も父を一番に想っているのだ。
「エンド。本当に残念だわ」
僕の人生はもっと幸せになるはずだった。
こんなあっけない幕切れをするはずがなかった。
しかし、現実は僕は思っていたよりも、残酷で容赦ないようだ。
僕は静かに目を閉じると、絶望を噛みしめた……
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