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 王子の言葉に応接間は凍り付いた。
 本当に吹雪が吹いたかのように冷たくなった室内で、国王が烈火の如く顔を赤くして叫んだ。

「レオン! お前は何を言っているんだ! ティアに謝れ! この馬鹿息子!」

 しかしレオン王子は一切動じていないようで、むしろ笑いながら言葉を返す。

「やだよ。僕は本当のことを言っただけさ。僕はこんな真面目な女の子は嫌いなんだよ。もっと可愛らしくて元気で、話しやすい子がいいなぁ」

 一体彼は何を言っているのだろうか。
 王子の性格については事前に聞いていたが、まさかここまで失礼な男の子だなんて想定してしなかった。
 品行方正で通っている私も、つい拳を握らずにはいられない。

 助けを求めるように父を見るも、父は冷や汗をかくのが精いっぱいのようだ。
 まあ確かに、ここで王子を責めなんかしたら、逆にこちらが責められてしまう。

 そうやって私が困っている間にも、王子は更に言葉を続ける。

「でも、学園を卒業したらこの子が僕の正妃に決まるんでしょ? それまでは婚約者っていう肩書なんでしょ? なら、別に婚約破棄しても問題ないわけだよね」

「なんてことを言うんだレオン!」

 どうやらレオン王子はただの馬鹿ではないらしい。
 もっと何も考えないような馬鹿なら御すことも可能だが、彼は生憎悪知恵が働くようだ。
 しかしこのまま黙っているわけにもいかないので、遂に私は口を開く。

「レオン王子。一つよろしいですか?」

「ん? ああいいよ。何でも言ってごらん。簡潔にね。ふふっ」

 私を馬鹿にするような笑い。
 それを見ただけで、内心煮えくり返る思いだったが、私は何とかそれを押さえつけ、冷静になる。
 
「レオン王子のような無能な人は、こちらから願い下げですよ?」

「な……」

 レオン王子の顔が固まり、応接間の空気が一気に冷えた。
 まるで雪国のように寒くなった室内で、父が私の肩を掴む。
 もちろん暖を取るためではない。

「ティア……な、何を言って……」

「何を言っているんだお前は!!!」

 父の声を遮ったのはレオン王子だった。
 顔を鬼のように真っ赤にして、悔しそうに歯ぎしりをしていた。
 得意の悪知恵もそんなに冷静さを欠いては機能しないだろう。

「私は本当のことを言っただけですよ? レオン王子は何か長所がおありなのですか? 噂に聞く限りだと、剣の腕も勉学も、既に二つ年下の弟様に追い抜かれているとか……しかもマナーも礼儀も知らないようですし、そんな人が本当のこの国を背負えるのかと私は不安で仕方ありません」

「だ、黙れ! 婚約者の分際で生意気を言うな!」

「しかし最初に生意気を言ってきたのはあなたの方ですよ?」

 私は目に力を込めて、王子を睨む。
 そこには今までの怒りが全部込められていて、王子は怯えたように椅子に背をピタリと付けた。

「あなたが無能である間は、私も同じようにあなたに接しましょう。しかしあなたが優秀であるというのなら、私も全身全霊でお支えしましょう。言っている意味分かりますよね?」

「まあぁ……」

 明らかに分かっていない返事をしたので、私は簡潔に付け加えることにした。

「つまり、あなたは優秀にならなければいけないということです。優秀にならなければ望む未来は来ないということです。好きな女の子とも一緒になることはできません」

「なんだと!?」

 今度は分かったらしい。
 王子は「剣術稽古に行ってくる!」と叫ぶと、そのまま椅子を立ち上がり応接間を出て行ってしまった。
 私は国王を見て、不安げに訊いた。

「……私、不敬罪に問われますか?」

 国王はどこか嬉しそうに首を横に振った。
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