最愛の人の子を姉が妊娠しました

６

「ブルーノ。話ってなに？」

　僕はマリアよりも先に教会を出て、仕事を装うため、街で時間が潰した。
　そして違和感のない時間に帰宅をすると、すぐにマリアを部屋に呼んだ。
　彼女はいつもの笑顔と共に、部屋に入っていたが、今はそれが悪魔の微笑みに見える。

「……思い当たる節があるんじゃないのか？」

　僕の緊張感ある口調に、マリアは眉を顰めた。

「え？　どういうこと？　思い当たる節なんてないわ。何が言いたいの？」

　よく嘘をついている人間は早口になると言うが、今のマリアがまさにそれだった。
　彼女は焦ったように僕に言うと、ぎこちない笑みを浮かべた。

「もしかしてこの子のこと？　そうね、そろそろ名前も決めなきゃね。ブルーノはどんな名前がいいと思う？」

　僕はマリアを見つめ、少し考えた。
　そしていい名前を思いついたので、ニヤリと笑みを浮かべた。

「ケビンなんてのはどうだ？」

「え……ケビン……あ、あぁ……で、でも……それじゃあありきたりじゃないかしら？」

　マリアの態度は明らかにおかしかった。
　あの教会で話していたケビンという男と同じ名前に、動揺したみたいだった。
　僕は続けて口を開いた。

「……マリア。その子は本当に僕の子なのかなぁ？」

　マリアの顔が一気に青ざめる。　
　しかし、まだ自分の不貞がバレていないと思っているのか、やはり笑顔で答えた。

「あ、当たり前でしょう？　他に誰の子だっていうの？　ふふっ、変なこと言うんだから」

「ははっ……本当に変だよな。君が今日教会へ行くわけはないし、ケビンという男と会うわけもないし、その男との子を僕の子だと偽るわけもないしなぁ」

「え……」

　マリアは顔面蒼白になった。
　もう笑顔すら浮かべる余裕もないようだった。
　僕がケビンとの関係を知っていることを察したみたいだった。

「ブルーノ……どうして……いや、違うの……あれは……その……」

「何が違うんだい？　君の後をつけて僕は本当に驚いたよ。君に他に男がいることにも驚いたけど、まさかその子が僕の子じゃなかったなんて。本当に残念だよ」

「ち、違う……」

「何が違うんだ！　お前は浮気していたんだろ！？　この尻軽が！！！」

　怒りで我を失ってしまいそうだった。
　僕が全力で怒号を上げると、マリアは体をびくっと震わした。
　しかしすぐに眉間にしわを寄せて、不機嫌そうな顔つきになる。

「あんただってサラを裏切ったくせに！　人のこと言えないんじゃないの！　あんななんかよりケビンの方が百倍魅力的よ！　私をストーカーなんてしないしね！」

「はっ！　じゃあそいつの所へでも行けばいい！　もう僕の前に顔を見せるな！」

「分かったわよ！　こんなダサい家、二度と来るものですか！」

　マリアは最期にそう言うと、扉を乱暴に閉め、去っていった。
　一人きりになった僕は大きなため息をはき、「くそっ！」と乱暴に床を足で叩いた。

　……それから僕は女性のことが信用できなくなった。
　両親がせっかく取り付けてくれた名家の令嬢との縁談も、彼女のことを過度に束縛してしまい、破断となった。
　
　次第に縁談すら断られるようになっていき、僕は酒に溺れた。
　気づいたら周りには誰もいなくなっていて、僕は本当に一人になっていた。
　両親は僕に最低限の仕事と家を与え、もう干渉しなくなっていた。

　僕は淡々と仕事を毎日こなしながら、イラついた日々を永遠に送る。
　誰も傍にいない、一人きりの人生を。