公爵家の娘になりました

杉本凪咲

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外では激しい雨が降っていた。
まるでクララを川に突き落としたあの日のように。
馬車に窓に雨粒が打ちつけ、下に流れていく。
その光景を僕は真剣に見つめていた。

「シモン様。どうかされましたか?」

向かいに座る秘書が口を開く。

「いや、何でもない……」

嘘だった。
本当は何でもないわけがない。

……クララを川に突き落とした翌日、てっきり大騒動になるかと思ったが、なぜかクララは生きていた。
それに、そんなことはなかったみたいな顔をして、僕に気軽に接してくる。

僕は混乱した。
殺人が失敗したことは明らかだったが、彼女が僕を断罪しない理由が分からない。
本人は頭を打ち記憶が曖昧だと言っていたが、あの川は深い。
川底に頭を打ち付けるとは思わないし、なによりこれが罠と言う可能性も考えられる。

もし罠なのだとしたら……クララの考えていることが途端に分からなくなった。

「なぁ……もし自分を殺そうとした相手が目の前に現れたら、君ならどうする?」

秘書は少し考えた後、淡々と言う。

「確実に叫んで助けを呼びますね。また殺しにきたと思いますから」

「だよな」

僕も彼女と同じ意見だった。
クララが仮に僕に罠を張って、あの日のことをしらばっくれようとしていたとしても、それを微塵も表情に表さないというのは至難の業だ。
あの短絡的で、頭の悪いクララなら尚更のこと。

ならば、やはり彼女は記憶を失ったという説が有力だ。

だがしかし、僕にはもう一つの仮説があった。

「それと、自分と瓜二つの人間なんていると思うかい?」

またも秘書は少し考えた後で、かぶりを振る。

「双子か奇跡でも起きない限りは……そんなことはないかと」

「……」

僕の目はしっかりと窓に打ちつける雨粒を見つめていた。

もし、もしだ……クララに瓜二つの人間がいて、彼女の両親がそれをクララの代わりに家に住まわせているとしたら、全てに説明がつく。

なぜか新聞にも乗らない公爵令嬢の殺人、記憶があいまいな婚約者、違和感を覚える肌の味。

そしてあのクララは自分の誕生日までも忘れてしまっている。
僕がほのめかした嘘の誕生日に迷いもなく乗ってきた。

やはり、あのクララは僕の知っているクララではないのかもしれない。
もしくは川に落ちたショックで本当に記憶を無くしてしまったのかだ。

「シモン様。到着しました」

「ああ」

秘書は先に馬車を降りると、大きな黒い傘をさした。
僕は仕事用のカバンを手に取ると、その傘のしたに入る。
目の前にはクララの家があった。
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