8 / 8
8
しおりを挟む
父がこの街に戻ってくると聞いて、私は読んでいた本をしおりを挟まずに閉じてしまった。
「本当に?」
報せを伝えてくれた使用人に訊くと、彼女は「はい」と頷く。
急いで廊下に出ると、ロストも既にそこにいた。
「行こうリオン」
「うん」
……地獄の展開となった結婚式から一年が経過していた。
ロストはあの場で宣言した通り、エマとの婚約は破棄して、私と婚約した。
今では私たちは無事に結婚式を終えて夫婦となっていた。
エルダは天使の光を正面から浴びたせいか、失明してしまった。
私も同じように浴びたはずなのに目には何ら異常はなく、それが今でも不思議だった。
エマは母親の醜い姿を見て、自分のしたことの愚かさを反省した。
私を長年苦しめていたことを自分の口から白状すると、エルダと共に故郷へ帰った。
二人の故郷はここよりも田舎で、地図に載らないような小さな村らしい。
父のカールは、自分の罪を反省しエルダと離婚をした上で、この街を去った。
旧友で僧侶をしている人のところで、修業をしたいと言ったのだ。
少し悲しい気持ちになったが、私はそれを承諾した。
……玄関を出ると、庭に停まった馬車から父が降りる所だった。
ロストが私の背中を押してくれる。
「僕はここで待っているよ」
私は無言で頷くと、父の元へ走った。
父は私を見ると、途端に涙を流した。
「リオン……待たせてしまって申し訳ない…………」
「いえ……帰ってきてくれてありがとう」
正直、まだ完全に父のことを許したわけではない。
長年苦しむ私を無視してきたのだ、それを簡単に水に流すことなど不可能だ。
しかしそれでも、私にとっては世界でたった一人の父親なのだ。
いつかは許せる日が来ることを願っている。
もし本当に私が目も向けられないくらい醜い子だったら、誰からも愛されていなかったのだろうか。
ロストみたいな素敵な幼馴染と結婚することもできずに、孤独で苦しい人生を送っていたのだろうか。
ふとそんなことが疑問に浮かぶ。
泣いている父を見ながら少しだけ考えてみるが、答えは出そうになかった。
だが、もしも苦しみの中にいたとして、何か行動を起こさなければそこから抜け出せないことだけは明白だった。
実際私もそうだったから。
天使の言葉がなかったら今頃、あの埃っぽい部屋でずっと苦しんでいただろう。
「お父様。そろそろ泣き止んでくださいね」
結局あれ以来、天使は私の前には現れなかった。
単純に絶望を感じるほどの苦しみがなかったからかもしれないが、それとは違う理由な気がした。
「あ、そうだお父様。お父様が帰ってきたら聞きたいことがあったんです。お母様のこと、聞かせていただけませんか?」
父は目を乱雑に拭くと、「ああ、もちろんだ」と言って笑顔を浮かべる。
爽やかな風に包まれながら、私と父は手を振るロストの元へ歩いていく。
頭上の太陽はいつもより輝いている気がした。
「本当に?」
報せを伝えてくれた使用人に訊くと、彼女は「はい」と頷く。
急いで廊下に出ると、ロストも既にそこにいた。
「行こうリオン」
「うん」
……地獄の展開となった結婚式から一年が経過していた。
ロストはあの場で宣言した通り、エマとの婚約は破棄して、私と婚約した。
今では私たちは無事に結婚式を終えて夫婦となっていた。
エルダは天使の光を正面から浴びたせいか、失明してしまった。
私も同じように浴びたはずなのに目には何ら異常はなく、それが今でも不思議だった。
エマは母親の醜い姿を見て、自分のしたことの愚かさを反省した。
私を長年苦しめていたことを自分の口から白状すると、エルダと共に故郷へ帰った。
二人の故郷はここよりも田舎で、地図に載らないような小さな村らしい。
父のカールは、自分の罪を反省しエルダと離婚をした上で、この街を去った。
旧友で僧侶をしている人のところで、修業をしたいと言ったのだ。
少し悲しい気持ちになったが、私はそれを承諾した。
……玄関を出ると、庭に停まった馬車から父が降りる所だった。
ロストが私の背中を押してくれる。
「僕はここで待っているよ」
私は無言で頷くと、父の元へ走った。
父は私を見ると、途端に涙を流した。
「リオン……待たせてしまって申し訳ない…………」
「いえ……帰ってきてくれてありがとう」
正直、まだ完全に父のことを許したわけではない。
長年苦しむ私を無視してきたのだ、それを簡単に水に流すことなど不可能だ。
しかしそれでも、私にとっては世界でたった一人の父親なのだ。
いつかは許せる日が来ることを願っている。
もし本当に私が目も向けられないくらい醜い子だったら、誰からも愛されていなかったのだろうか。
ロストみたいな素敵な幼馴染と結婚することもできずに、孤独で苦しい人生を送っていたのだろうか。
ふとそんなことが疑問に浮かぶ。
泣いている父を見ながら少しだけ考えてみるが、答えは出そうになかった。
だが、もしも苦しみの中にいたとして、何か行動を起こさなければそこから抜け出せないことだけは明白だった。
実際私もそうだったから。
天使の言葉がなかったら今頃、あの埃っぽい部屋でずっと苦しんでいただろう。
「お父様。そろそろ泣き止んでくださいね」
結局あれ以来、天使は私の前には現れなかった。
単純に絶望を感じるほどの苦しみがなかったからかもしれないが、それとは違う理由な気がした。
「あ、そうだお父様。お父様が帰ってきたら聞きたいことがあったんです。お母様のこと、聞かせていただけませんか?」
父は目を乱雑に拭くと、「ああ、もちろんだ」と言って笑顔を浮かべる。
爽やかな風に包まれながら、私と父は手を振るロストの元へ歩いていく。
頭上の太陽はいつもより輝いている気がした。
171
お気に入りに追加
189
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
完璧な妹に全てを奪われた私に微笑んでくれたのは
今川幸乃
恋愛
ファーレン王国の大貴族、エルガルド公爵家には二人の姉妹がいた。
長女セシルは真面目だったが、何をやっても人並ぐらいの出来にしかならなかった。
次女リリーは逆に学問も手習いも容姿も図抜けていた。
リリー、両親、学問の先生などセシルに関わる人たちは皆彼女を「出来損ない」と蔑み、いじめを行う。
そんな時、王太子のクリストフと公爵家の縁談が持ち上がる。
父はリリーを推薦するが、クリストフは「二人に会って判断したい」と言った。
「どうせ会ってもリリーが選ばれる」と思ったセシルだったが、思わぬ方法でクリストフはリリーの本性を見抜くのだった。
入り婿予定の婚約者はハーレムを作りたいらしい
音爽(ネソウ)
恋愛
「お前の家は公爵だ、金なんて腐るほどあるだろ使ってやるよ。将来は家を継いでやるんだ文句は言わせない!」
「何を言ってるの……呆れたわ」
夢を見るのは勝手だがそんなこと許されるわけがないと席をたった。
背を向けて去る私に向かって「絶対叶えてやる!愛人100人作ってやるからな!」そう宣った。
愚かなルーファの行為はエスカレートしていき、ある事件を起こす。
転生令嬢だと打ち明けたら、婚約破棄されました。なので復讐しようと思います。
柚木ゆず
恋愛
前世の記憶と膨大な魔力を持つサーシャ・ミラノは、ある日婚約者である王太子ハルク・ニースに、全てを打ち明ける。
だが――。サーシャを待っていたのは、婚約破棄を始めとした手酷い裏切り。サーシャが持つ力を恐れたハルクは、サーシャから全てを奪って投獄してしまう。
信用していたのに……。
酷い……。
許せない……!。
サーシャの復讐が、今幕を開ける――。
家が没落した時私を見放した幼馴染が今更すり寄ってきた
今川幸乃
恋愛
名門貴族ターナー公爵家のベティには、アレクという幼馴染がいた。
二人は互いに「将来結婚したい」と言うほどの仲良しだったが、ある時ターナー家は陰謀により潰されてしまう。
ベティはアレクに助けを求めたが「罪人とは仲良く出来ない」とあしらわれてしまった。
その後大貴族スコット家の養女になったベティはようやく幸せな暮らしを手に入れた。
が、彼女の前に再びアレクが現れる。
どうやらアレクには困りごとがあるらしかったが…
王太子妃候補、のち……
ざっく
恋愛
王太子妃候補として三年間学んできたが、決定されるその日に、王太子本人からそのつもりはないと拒否されてしまう。王太子妃になれなければ、嫁き遅れとなってしまうシーラは言ったーーー。
妹の婚約者自慢がウザいので、私の婚約者を紹介したいと思います~妹はただ私から大切な人を奪っただけ~
マルローネ
恋愛
侯爵令嬢のアメリア・リンバークは妹のカリファに婚約者のラニッツ・ポドールイ公爵を奪われた。
だが、アメリアはその後に第一王子殿下のゼラスト・ファーブセンと婚約することになる。
しかし、その事実を知らなかったカリファはアメリアに対して、ラニッツを自慢するようになり──。
妹は私から奪った気でいますが、墓穴を掘っただけでした。私は溺愛されました。どっちがバカかなぁ~?
百谷シカ
恋愛
「お姉様はバカよ! 女なら愛される努力をしなくちゃ♪」
妹のアラベラが私を高らかに嘲笑った。
私はカーニー伯爵令嬢ヒラリー・コンシダイン。
「殿方に口答えするなんて言語道断! ただ可愛く笑っていればいいの!!」
ぶりっ子の妹は、実はこんな女。
私は口答えを理由に婚約を破棄されて、妹が私の元婚約者と結婚する。
「本当は悔しいくせに! 素直に泣いたらぁ~?」
「いえ。そんなくだらない理由で乗り換える殿方なんて願い下げよ」
「はあっ!? そういうところが淑女失格なのよ? バーカ」
淑女失格の烙印を捺された私は、寄宿学校へとぶち込まれた。
そこで出会った哲学の教授アルジャノン・クロフト氏。
彼は婚約者に裏切られ学問一筋の人生を選んだドウェイン伯爵その人だった。
「ヒラリー……君こそが人生の答えだ!!」
「えっ?」
で、惚れられてしまったのですが。
その頃、既に転落し始めていた妹の噂が届く。
あー、ほら。言わんこっちゃない。
私と婚約破棄して妹と婚約!? ……そうですか。やって御覧なさい。後悔しても遅いわよ?
百谷シカ
恋愛
地味顔の私じゃなくて、可愛い顔の妹を選んだ伯爵。
だけど私は知っている。妹と結婚したって、不幸になるしかないって事を……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる