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「アリス! お前が王太子殿下の婚約者に選ばれたぞ!」
その報告は突然でした。
嬉しそうに笑う父と、涙を浮かべる母。
二人を見つめながら、私は夢の中にいるみたいに、気分がフワフワとしていました。
「良かったなアリス。今まで必死に勉強して頑張ってきたもんな。やっとお前の実力を国王様が認めてくださったんだ」
「王太子殿下のユノ様は聡明で優しい方だと聞くわ。大人しい性格のアリスにピッタリじゃない。幸せになるのよアリス」
「えっと……はい……」
困惑したように答えた私の頭の中は、未だに夢うつつでした。
どうやら国王様が、私を王太子殿下ユノ様の婚約者に選んだようなのですが、私には一切の実感がありません。
本当にこれは現実なのでしょうか?
「あの、お父様。本当に私はユノ様の婚約者に選ばれたのでしょうか? 学園でも勉強以外は大したことはしていませんし、人に自慢できる程の特技もありません。何かの間違いということはありませんか?」
そう確認してみると、お父様は机の上の紙を私に手渡しました。
「ここにちゃんと書いてあるだろ。お前をユノ様の婚約者に任命するって。王宮の印鑑まで押されている。これ以上何が必要なんだ?」
お父様はにっこりと笑いかけてきます。
蜂蜜のように甘い笑顔に身を任せる決意をすると、私は小さく頷きました。
「そうですね……確かにこれは正式な文書のようです。やはり私はユノ様の婚約者に選ばれたのですね」
私がユノ様の婚約者。
自覚した途端、急激に体温が上昇しました。
婚約者ということは、これからは王宮に住むのでしょうし、当然ユノ様と日々を共にします。
そして夜には……。
「きゃっ!!!」
恋する乙女のように私は顔を赤くしました。
恋なんて物語にしか登場しないまやかしのようなものだと思っていたのに、それが現実に突然現れたのです。
平凡な乙女である私など動揺して当然です。
「大丈夫か? アリス」
「アリス? 具合悪いの?」
私の様子を見て、両親が心配そうな目を向けてきます。
私は言葉すら出すことはできなくて、精いっぱいにかぶりを振りました。
やがて私の意図を察したのか、二人はニヤリと子供のような笑みを浮かべます。
「なるほど……あなたも遂に大人になったのね。勉強ばかりしていたから心配していたけど、もう大丈夫そうね。ね、あなた?」
「そ、そうだな……ははっ……よかったよかった」
お母様は嬉しそうでしたが、お父様の笑顔はぎこちないものでした。
娘の旅立ちを父親は嫌うと友人から聞いたことがありますが、本当のようです。
まぁ、正確には恋人と離れるみたいな寂しさを感じると彼女は言っていましたが。
「お父様。心配しないでください。私は今までたくさん勉強してきました。そのおかげで学園も首席で卒業することができました。これからは勉強が婚約に変わるだけです。勉強で培った忍耐を発揮するだけです」
私は努めて平静を装いました。
お父様はハッとした顔で頷きます。
「そうだな。うん、そうだ。お前ならきっと大丈夫だ。この国一番の学校で首席だったんだから。つまりこの国で一番頭が良い女なんだから。あ、でもたまにはここに帰ってきてくれよ? えっと……母さんがそうして欲しいって」
「ちょっとぉ……それはあなたの方でしょ?」
お母様は嬉しそうに眉を寄せました。
私はこの瞬間が大好きです。
子供の頃からずっと。
しかし、来月にはここを発ち、王宮に住まいを移すのでしょう。
あと何回この光景を見られるのかと思うと、少し寂しくなるような気もします。
「お父様、お母様……!」
珍しく私が大きな声を出したので、二人はさっと顔を向けました。
緊張はしますが、続きを言わないわけにもいきません。
勇気を振り絞り、私は口を開きます。
「今まで育ててくれて本当にありがとうございました。私……頑張りましゅ!」
「……え?」
「……はい?」
しまった……。
一瞬の沈黙の後、笑いが怒りました。
大事な所だったのに噛んでしまい、恥ずかしさで逃げたくなりました。
しかし、二人と一緒になって笑っていると、とても幸せでした。
不思議な気持ちです、本当に。
王太子殿下のユノ様とも、こうして笑い合えたなら幸せでしょう。
そんな光景を想像したら、少しだけ王宮に行くのが楽しみになりました。
儚い夢で終わらなければいいのですが……。
その報告は突然でした。
嬉しそうに笑う父と、涙を浮かべる母。
二人を見つめながら、私は夢の中にいるみたいに、気分がフワフワとしていました。
「良かったなアリス。今まで必死に勉強して頑張ってきたもんな。やっとお前の実力を国王様が認めてくださったんだ」
「王太子殿下のユノ様は聡明で優しい方だと聞くわ。大人しい性格のアリスにピッタリじゃない。幸せになるのよアリス」
「えっと……はい……」
困惑したように答えた私の頭の中は、未だに夢うつつでした。
どうやら国王様が、私を王太子殿下ユノ様の婚約者に選んだようなのですが、私には一切の実感がありません。
本当にこれは現実なのでしょうか?
「あの、お父様。本当に私はユノ様の婚約者に選ばれたのでしょうか? 学園でも勉強以外は大したことはしていませんし、人に自慢できる程の特技もありません。何かの間違いということはありませんか?」
そう確認してみると、お父様は机の上の紙を私に手渡しました。
「ここにちゃんと書いてあるだろ。お前をユノ様の婚約者に任命するって。王宮の印鑑まで押されている。これ以上何が必要なんだ?」
お父様はにっこりと笑いかけてきます。
蜂蜜のように甘い笑顔に身を任せる決意をすると、私は小さく頷きました。
「そうですね……確かにこれは正式な文書のようです。やはり私はユノ様の婚約者に選ばれたのですね」
私がユノ様の婚約者。
自覚した途端、急激に体温が上昇しました。
婚約者ということは、これからは王宮に住むのでしょうし、当然ユノ様と日々を共にします。
そして夜には……。
「きゃっ!!!」
恋する乙女のように私は顔を赤くしました。
恋なんて物語にしか登場しないまやかしのようなものだと思っていたのに、それが現実に突然現れたのです。
平凡な乙女である私など動揺して当然です。
「大丈夫か? アリス」
「アリス? 具合悪いの?」
私の様子を見て、両親が心配そうな目を向けてきます。
私は言葉すら出すことはできなくて、精いっぱいにかぶりを振りました。
やがて私の意図を察したのか、二人はニヤリと子供のような笑みを浮かべます。
「なるほど……あなたも遂に大人になったのね。勉強ばかりしていたから心配していたけど、もう大丈夫そうね。ね、あなた?」
「そ、そうだな……ははっ……よかったよかった」
お母様は嬉しそうでしたが、お父様の笑顔はぎこちないものでした。
娘の旅立ちを父親は嫌うと友人から聞いたことがありますが、本当のようです。
まぁ、正確には恋人と離れるみたいな寂しさを感じると彼女は言っていましたが。
「お父様。心配しないでください。私は今までたくさん勉強してきました。そのおかげで学園も首席で卒業することができました。これからは勉強が婚約に変わるだけです。勉強で培った忍耐を発揮するだけです」
私は努めて平静を装いました。
お父様はハッとした顔で頷きます。
「そうだな。うん、そうだ。お前ならきっと大丈夫だ。この国一番の学校で首席だったんだから。つまりこの国で一番頭が良い女なんだから。あ、でもたまにはここに帰ってきてくれよ? えっと……母さんがそうして欲しいって」
「ちょっとぉ……それはあなたの方でしょ?」
お母様は嬉しそうに眉を寄せました。
私はこの瞬間が大好きです。
子供の頃からずっと。
しかし、来月にはここを発ち、王宮に住まいを移すのでしょう。
あと何回この光景を見られるのかと思うと、少し寂しくなるような気もします。
「お父様、お母様……!」
珍しく私が大きな声を出したので、二人はさっと顔を向けました。
緊張はしますが、続きを言わないわけにもいきません。
勇気を振り絞り、私は口を開きます。
「今まで育ててくれて本当にありがとうございました。私……頑張りましゅ!」
「……え?」
「……はい?」
しまった……。
一瞬の沈黙の後、笑いが怒りました。
大事な所だったのに噛んでしまい、恥ずかしさで逃げたくなりました。
しかし、二人と一緒になって笑っていると、とても幸せでした。
不思議な気持ちです、本当に。
王太子殿下のユノ様とも、こうして笑い合えたなら幸せでしょう。
そんな光景を想像したら、少しだけ王宮に行くのが楽しみになりました。
儚い夢で終わらなければいいのですが……。
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