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人気者のライトの叫びは、すぐに群衆を焚きつけた。
彼が言うのならと浅はかな言葉を鵜呑みにして、私へ痛々しい視線が次々に向けられる。
すっかり悪者になってしまった私は、どうしようかと思いながらも、いっそのこと離婚を了承するのもいいかもしれないと、思い始めていた。
確かにライトのことは好きだったから、離婚は悲しい。
しかし堂々と嘘をはき、冤罪をかけてきた彼に対して、愛は急速に消失していき、彼のどんな所が好きだったのか、思い出せないほどになっていた。
「もしかして、二人は関係を持っているのですか?」
ふいにこぼれた疑問。
ライトは一瞬戸惑ったような顔をした後で、スフィアを見て小さく頷く。
彼女も頷き返すと、ライトは私に顔を戻し、口を開いた。
「そうだ。僕はスフィアのことを心から愛している。お前とは違って、澄んだ心を持った彼女のことを」
贔屓目に見ても、スフィアの心が澄んでいるとは到底思えない。
私に冤罪をかけるために、涙ぐむ演技までした女だ。
それとも、真実の愛の元では、そういう細かい矛盾は消えてなくなるのだろうか。
「お前と離婚した後、彼女を新しい妻にするつもりだ。そして人生をかけて守っていく。男として誓う」
「ライト様ぁ!」
スフィアが嬉しそうにライトに抱きついた。
周囲から歓声が上がり、二人の陳腐な演技に拍手を飛ばす人までいた。
どうやらライトと同じ知能レベルの参加者がいたものだと呆れつつ、私は口を開く。
「本当に離婚でよろしいのですね?」
念のため聞いてみると、ライトは力強く頷いた。
「ああ、もちろんだ。お前なんかには微塵も未練はない。僕はスフィアと幸せになるよ」
彼に賛同するように、今度はスフィアが口を開く。
「奥様。ライト様を解放してあげてください。彼の幸せを望むのなら!」
今度はライトがスフィアに抱きついた。
お決まりの完成と拍手が飛び交う。
ここまで来ると、むしろおかしいのは自分の方だろかと錯覚してしまう。
しかし群衆の中には、この状況に違和感を隠しきれない女性も何人かいるみたいだし、私の感性が大幅に間違っていることはないのだろう。
「……分かりました」
私がそう言うと、ライトとスフィアの顔がぱっと輝く。
「離婚は了承致します。お時間があれば書面上でも……」
「そんなものは必要ない!」
ライトの鋭い声が会場に響き渡る。
「証人ならここにたくさんいるじゃないか……皆様! たった今、リアから離婚の承諾を得ました! 離婚が正式に決定したことをここに宣言致します!」
馬鹿な男たちがすぐに歓声を上げた。
ライトとスフィアは抱き合い、互いの愛を確かめあっている。
ライトがふいに私に顔を向けて、意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前が了承したのだからな。後から取り消すと言っても、受け付けるつもりはないよ」
「ええ、もちろん構いませんよ。そちらこそ、後から取り消すことなどないように、お願い致します」
「ふん、そんなことするはずがない。僕はこのスフィアと幸せに満ち溢れた人生を築いていくんだ」
私は何も言わずに彼らの背を向けた。
しかしふと思い立ち、顔だけ振り返り、スフィアに目を細める。
「なるほどね……」
私は微かに口角を上げると、再び歩きだした。
背後から祭りのような歓声が飛んできたが、特に気にすることもなく、会場を後にする。
後ろ手に扉を閉めると、近くにいた初老の執事に問いかける。
「国王様はどちらにいらっしゃいますか?」
彼が言うのならと浅はかな言葉を鵜呑みにして、私へ痛々しい視線が次々に向けられる。
すっかり悪者になってしまった私は、どうしようかと思いながらも、いっそのこと離婚を了承するのもいいかもしれないと、思い始めていた。
確かにライトのことは好きだったから、離婚は悲しい。
しかし堂々と嘘をはき、冤罪をかけてきた彼に対して、愛は急速に消失していき、彼のどんな所が好きだったのか、思い出せないほどになっていた。
「もしかして、二人は関係を持っているのですか?」
ふいにこぼれた疑問。
ライトは一瞬戸惑ったような顔をした後で、スフィアを見て小さく頷く。
彼女も頷き返すと、ライトは私に顔を戻し、口を開いた。
「そうだ。僕はスフィアのことを心から愛している。お前とは違って、澄んだ心を持った彼女のことを」
贔屓目に見ても、スフィアの心が澄んでいるとは到底思えない。
私に冤罪をかけるために、涙ぐむ演技までした女だ。
それとも、真実の愛の元では、そういう細かい矛盾は消えてなくなるのだろうか。
「お前と離婚した後、彼女を新しい妻にするつもりだ。そして人生をかけて守っていく。男として誓う」
「ライト様ぁ!」
スフィアが嬉しそうにライトに抱きついた。
周囲から歓声が上がり、二人の陳腐な演技に拍手を飛ばす人までいた。
どうやらライトと同じ知能レベルの参加者がいたものだと呆れつつ、私は口を開く。
「本当に離婚でよろしいのですね?」
念のため聞いてみると、ライトは力強く頷いた。
「ああ、もちろんだ。お前なんかには微塵も未練はない。僕はスフィアと幸せになるよ」
彼に賛同するように、今度はスフィアが口を開く。
「奥様。ライト様を解放してあげてください。彼の幸せを望むのなら!」
今度はライトがスフィアに抱きついた。
お決まりの完成と拍手が飛び交う。
ここまで来ると、むしろおかしいのは自分の方だろかと錯覚してしまう。
しかし群衆の中には、この状況に違和感を隠しきれない女性も何人かいるみたいだし、私の感性が大幅に間違っていることはないのだろう。
「……分かりました」
私がそう言うと、ライトとスフィアの顔がぱっと輝く。
「離婚は了承致します。お時間があれば書面上でも……」
「そんなものは必要ない!」
ライトの鋭い声が会場に響き渡る。
「証人ならここにたくさんいるじゃないか……皆様! たった今、リアから離婚の承諾を得ました! 離婚が正式に決定したことをここに宣言致します!」
馬鹿な男たちがすぐに歓声を上げた。
ライトとスフィアは抱き合い、互いの愛を確かめあっている。
ライトがふいに私に顔を向けて、意地の悪い笑みを浮かべた。
「お前が了承したのだからな。後から取り消すと言っても、受け付けるつもりはないよ」
「ええ、もちろん構いませんよ。そちらこそ、後から取り消すことなどないように、お願い致します」
「ふん、そんなことするはずがない。僕はこのスフィアと幸せに満ち溢れた人生を築いていくんだ」
私は何も言わずに彼らの背を向けた。
しかしふと思い立ち、顔だけ振り返り、スフィアに目を細める。
「なるほどね……」
私は微かに口角を上げると、再び歩きだした。
背後から祭りのような歓声が飛んできたが、特に気にすることもなく、会場を後にする。
後ろ手に扉を閉めると、近くにいた初老の執事に問いかける。
「国王様はどちらにいらっしゃいますか?」
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