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「ブルーノ王子……どうして?」

ドクン。心臓が急に脈打つ。
王子の青い髪と瞳が、曇った心を晴らしてくれる。
王子は嬉しそうに微笑むと、立ち上がりクローネに顔を向けた。

「王女クローネ、あなたが僕の婚約者になりたがっていることは以前から知っていました。あなたがこの街に来たことを聞き、まさかと思いましたが急いでここに来ました」

クローネは驚いたように目を大きく見開いた。

「へぇ……その情報だけでよく来られましたね。王子であるあなたが王宮を抜けてきて、今頃宮殿はパニックになっているのでは?」

「生憎、僕は昔からよく王宮を抜け出していたものですから……誰かが上手くやってくれているでしょう。それより、あなたの方こそ大丈夫ですか? 一国の王女が護衛なしでここまで来るなんて」

「ふふっ……私は皆から信頼されているので大丈夫です。それに、私は見た目に反して強いんですよ?」

二人はまるで戦士のようににらみ合っていた。
しかし、王子は程なくして息をつく。

「そのようですね。では、そろそろ本題に入りましょう」

王子はそう言って私に手を差し伸べた。
私はその手を掴み、立ち上がる。手は依然として繋がれたまま。

「クローネ王女。僕はアカネと別れるつもりはありません。彼女と結婚し、王妃に迎え入れたいと考えています。ですから、あなたと一緒になる気は全くありません」

クローネは不機嫌な顔をしながら、言葉を返す。

「本当にその意味が分かっているのですか? その女と結ばれることの難しさや苦しみを……あなたは理解していますか?」

心臓がぎゅっと掴まれるような気持ちになったが、温かい王子の手に恐怖は静かに和らぐ。

「分かっています。しかし、僕は必ずやり遂げます。彼女と幸せな未来を築くために」

王子の堂々とした口調に、クローネは言い返す。

「そんなのは理想論です! 現実には不可能です! あなたには王子としての運命があるのです! この美しい私と結ばれる運命が!」

クローネは一気に言い募ると、激しく息を乱していた。王子は冷静に答える。

「もしそれが王子としての運命なのだとしたら、僕は王子じゃなくてもいい」

「……は?」

ブルーノ王子の気持ちが、彼の手を通じて伝わってくる。

「人生はもっと単純で素晴らしいものだ! 運命なんて屁理屈をこねるあなたには全く魅力を感じない。すぐにこの国から立ち去れ!」

「なんですって……」

クローネはショックを受けたようで、後ずさった。
そしてテーブル上に置かれたナイフをつかみ取った。

「許さない……運命に逆らうことは絶対に許さない」

「クローネ! 止めろ!」

王子が叫んだその瞬間、クローネは走り出した。

「あなたがいけないのよ……あなたがぁ!」

クローネが突き刺すナイフが王子に迫る。
王子は私の手を離し、横によけようとするが、クローネは予測していたかのように方向を変えた。

「運命に逆らった罰よ!」

心から王子を守りたい、たとえどんな傷を負ったとしても。

「死ねぇ、ブルーノ!」

「うわぁ!」

気づいたら私は飛び出していた。王子を突き飛ばし、自らがナイフの刃を受ける。
胸に走る激痛、しかし怖くはなかった。

「え……アカネ……? アカネ!」

王子の声が遠のくが、それでもよかった。
あなたが無事なら、それで……
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