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私が産まれた時、両親は泣いて喜んでいたらしい。
その時の写真を見たことが一度だけあるが、確かに両親は満面の笑みを浮べていた。
そのままの気持ちでずっといられたなら、どんなに素敵なことだったのだろう。
私が産まれた二年後、妹が生まれた。
妹は生まれながらにして容姿端麗で、両親はすぐに妹を溺愛した。
年月が経過していく毎に美しくなっていく妹に、両親の溺愛も比例すうように上昇していき、すぐに私のことなどほったらかしになった。
幼少期の私にはそれが辛いことだった。
何度も両親に話しかけては、今日合った取り留めもないことを告げる毎日。
しかし両親は興味のない様子で聞き流し、すぐに妹の元へと駆けていく。
次第に私は諦めるようになり、心を閉ざした。
そんな私の唯一の拠り所は勉強だった。
勉強は私の孤独や寂しさの感情をかき消してくれた。
問題と向き合い、歴史と向き合い、言葉と向き合い、私の脳が知識で埋め尽くされる度に、暗い感情は薄くなり、それが私の幸せとなった。
そのかいあって、私は大人顔負けの頭脳を持ち、ついに両親がそのことに気づいた。
正直嬉しかった。
やっと両親が自分を見てくれた、きっとこれからは妹のように溺愛してくれるに違いない。
愚かな私はそう期待してしまったのだ。
「メラ。お前には今日から領地経営をやってもらう」
父の言葉には微かに疑問があった。
そんなに大事な仕事を子供の私が本当にやっていいのだろうか。
しかしそう訊いた私に父は「任せたぞ」と信頼で答えてくれた。
私は意気込んで、領地経営に精を出した。
結果はすぐに出て、家の財政状況は右上がりとなった。
しかしその弊害もすぐに出た。
両親は増えた利益で妹の洋服や宝石、自分たちの浪費に使い、どんどんだらしのない生活をするようになった。
心配した私が声をかけるも、全く取り合ってもらえず、挙句の果てには怒鳴られることもしばしばあった。
そんな日々が長く続き、私は家族への愛を自分が失っていることに気づいた。
しかし悲しくはなかった。
むしろチャンスだと思った。
私は自分の人生を歩むことができるのだと言い聞かせ、まだ見ぬ自由を求めた。
……家を去る馬車に向かうと、そこには一人の年若い青年がいた。
彼は私を見ると、優し気に微笑む。
「では行きましょうか、メラ様」
「もう敬語は使わなくていいわよライト」
彼はライト。
この家の護衛騎士を務める青年だった。
そして秘かに交際している私の恋人だった。
私たちが馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
今頃家族は喜びの宴でもあげているのだろうな……そんなことを思いながら、住み慣れた我が家を私は見つめた。
「……寂しいかい?」
隣に座るライトがふいに口を開く。
私は馬車の窓からライトに顔を移すと、首を横に振った。
「ううん。やっと望んでいた自由を手に入れたもの。後悔はしてないわ。むしろワクワクしてる……あなたとの新しい暮らしに」
「そうか……僕もだよメラ」
いつかこんな日が来ると思っていた。
いや、家族に言われなければ自分から切り出そうと思っていた。
私はとっくにこの家から去りたかった。
愛するライトと共に、新しい人生をスタートさせたかった。
三年前。
私は父に一枚の書類にサインをさせた。
それは領地の所有者を私に移すというものだった。
経営上その方が都合が良いと言ってサインをさせたが、本当は別の狙いがあった。
きっと父はまだそれに気づいていない。
笑顔を浮かべる私を見て、ライトは呆れたように笑う。
「全く君は……またよからぬことを企んでいるのかい?」
「ふふっ……どうかしらね」
その時の写真を見たことが一度だけあるが、確かに両親は満面の笑みを浮べていた。
そのままの気持ちでずっといられたなら、どんなに素敵なことだったのだろう。
私が産まれた二年後、妹が生まれた。
妹は生まれながらにして容姿端麗で、両親はすぐに妹を溺愛した。
年月が経過していく毎に美しくなっていく妹に、両親の溺愛も比例すうように上昇していき、すぐに私のことなどほったらかしになった。
幼少期の私にはそれが辛いことだった。
何度も両親に話しかけては、今日合った取り留めもないことを告げる毎日。
しかし両親は興味のない様子で聞き流し、すぐに妹の元へと駆けていく。
次第に私は諦めるようになり、心を閉ざした。
そんな私の唯一の拠り所は勉強だった。
勉強は私の孤独や寂しさの感情をかき消してくれた。
問題と向き合い、歴史と向き合い、言葉と向き合い、私の脳が知識で埋め尽くされる度に、暗い感情は薄くなり、それが私の幸せとなった。
そのかいあって、私は大人顔負けの頭脳を持ち、ついに両親がそのことに気づいた。
正直嬉しかった。
やっと両親が自分を見てくれた、きっとこれからは妹のように溺愛してくれるに違いない。
愚かな私はそう期待してしまったのだ。
「メラ。お前には今日から領地経営をやってもらう」
父の言葉には微かに疑問があった。
そんなに大事な仕事を子供の私が本当にやっていいのだろうか。
しかしそう訊いた私に父は「任せたぞ」と信頼で答えてくれた。
私は意気込んで、領地経営に精を出した。
結果はすぐに出て、家の財政状況は右上がりとなった。
しかしその弊害もすぐに出た。
両親は増えた利益で妹の洋服や宝石、自分たちの浪費に使い、どんどんだらしのない生活をするようになった。
心配した私が声をかけるも、全く取り合ってもらえず、挙句の果てには怒鳴られることもしばしばあった。
そんな日々が長く続き、私は家族への愛を自分が失っていることに気づいた。
しかし悲しくはなかった。
むしろチャンスだと思った。
私は自分の人生を歩むことができるのだと言い聞かせ、まだ見ぬ自由を求めた。
……家を去る馬車に向かうと、そこには一人の年若い青年がいた。
彼は私を見ると、優し気に微笑む。
「では行きましょうか、メラ様」
「もう敬語は使わなくていいわよライト」
彼はライト。
この家の護衛騎士を務める青年だった。
そして秘かに交際している私の恋人だった。
私たちが馬車に乗り込むと、馬車はゆっくりと動き出した。
今頃家族は喜びの宴でもあげているのだろうな……そんなことを思いながら、住み慣れた我が家を私は見つめた。
「……寂しいかい?」
隣に座るライトがふいに口を開く。
私は馬車の窓からライトに顔を移すと、首を横に振った。
「ううん。やっと望んでいた自由を手に入れたもの。後悔はしてないわ。むしろワクワクしてる……あなたとの新しい暮らしに」
「そうか……僕もだよメラ」
いつかこんな日が来ると思っていた。
いや、家族に言われなければ自分から切り出そうと思っていた。
私はとっくにこの家から去りたかった。
愛するライトと共に、新しい人生をスタートさせたかった。
三年前。
私は父に一枚の書類にサインをさせた。
それは領地の所有者を私に移すというものだった。
経営上その方が都合が良いと言ってサインをさせたが、本当は別の狙いがあった。
きっと父はまだそれに気づいていない。
笑顔を浮かべる私を見て、ライトは呆れたように笑う。
「全く君は……またよからぬことを企んでいるのかい?」
「ふふっ……どうかしらね」
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