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 息子が収容された牢屋を去った私は、階段の途中で足を止めた。
 後ろからついてきた護衛の兵士も一緒に足を止める。

「どうかしましたか?」

 心配するような兵士の声が背後からして、私は「何でもない」と再び歩き出す。

 もし妻が生きていたら、こんな自分のガラスの心は一瞬にして見透かされてしまうだろう。
 だが、もうあいつはいない。
 死んだのだ。

 地上へと続く階段を上りきると、王宮の長い廊下が左右に広がっている。
 壁には高級な絵画が隙間を開けて並べられ、兵士が巡回をしていた。
 
「国王様ぁ!」

 左の方から声がしてそちらに顔を向けると、スフレが駆け寄ってきた。
 妻によく似た笑顔を浮かべ、私を不安げに見上げた。

「大丈夫ですか?」

「え……」

 その姿が妻と重なり、心臓がドクドクと脈を打った。
 しばらく唖然としていたが、このままでは不自然なので、私は彼女に背中を見て、咳ばらいをした。

「大丈夫だ。スフレ、部屋に行くぞ」

「はい!」

 護衛の兵士たちは何かを察したように、私たちから距離を開けて後をついてきた。
 スフレが私の隣を歩きながら、口を開く。

「国王様。ロット様はどうなさるのですか?」

「ああ……あいつは国外追放にするつもりだ」

「そうですか……よかった」

 安心したように息を吐くスフレを慎重に見下ろして、私は言いにくいことを言うように口を開いた。

「スフレ。嘘は止めろ」

「……え?」

 スフレの足が止まった。
 数歩先で私も足を止め、彼女を振り返る。
 見たこともないくらいに、青い顔をしていた。

「お前の嘘が見破れないほど、私は老いてはいない」

「え、えと、あの……」
 
 スフレはとうとう、青い顔を俯かせた。
 その態度が、私の言葉の証明になっていた。

「実はステラからそれとなくお前とロットの関係は聞いていた。お前を連れてパーティー会場に行けば真実を知れると言われたのだ」

「え……そんな……私だけじゃなかったの……」

 スフレは困惑したように目を泳がせた。
 そんな彼女に容赦なく、言葉を続ける。

「会場に入り、一目でロットが断罪されているのだと気づいた。あの場ではロットを悪者にして怒りをぶつけることしかできなかったが、悪の一端はお前にもあるのだろう?」

「ち、違います……わ、私は……」

 真っ青な顔で、スフレは私にすり寄ってきた。
 目に涙を浮かべて、命乞いをするように悲痛な表情になる。
 
「安心しろ。だからといって、お前を罪に問うつもりはない。元々、私がいけないのだ。妻の代わりなんか求めるから……この事態を引き起こしたのは私だ……私も悪の一端だ……」

 こんな不甲斐ない自分を、天国の妻は許すだろうか。
 いや、許されなくてもいい、それが自分のしたことへの贖罪だ。
 
「だが、スフレ。お前との関係は今を持って終わりだ。もう二度と私の目の前に現れるな。分かったな?」

 心がズキリと痛んだ。
 スフレは躊躇する様子もなく、何度も頷くと、逃げるように去っていった。
 私は大きなため息をつくと、頬を指でかく。

 人生とは時に苦しいものだが、いつかは絶対幸せになれる。
 妻がよく言って言葉に後押しされながら、私は歩きだした。
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