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 兵士に連れていかれたのは、地下牢だった。
 堅牢な牢屋に、汚らしい石の床と壁。
 日の光など到底当たるはずもなく、壁に掛けられた灯りが不気味にユラユラと揺れていた。

 どうして王子である僕がこんな処遇を受けなければいけないのか。
 叫びたい気持ちを何とか堪えているも、一緒に連れてこられたシフォンにはその忍耐力がないようだ。

「離して! 私は無実よ! ロット様とは無関係よ!」

 パーティー会場を出た時から、彼女はこの調子で叫び続けていた。
 声がかすれ、痛々しい声になっても、彼女は一向に黙る気配はない。
 
 兵士は僕達を牢屋の前まで連れてくると、牢屋を開けて、中に放り込んだ。  
 雑な扱いに異を唱えたくなるが、これ以上評判を下げるわけにはいかない。
 
「何するのよ! 私が誰か分かってこんなことをしているんでしょうね!」

 一緒に放り込まれたシフォンは、怒りの声を上げていた。
 その能のない行動に、僕の心からすっと愛が消えていく。
 彼女はこんなにも下品で、世間知らずの令嬢だったのだろうか。
 体を重ねたことを秘かに後悔していると、階段を下りてくる足音がした。

 灯りに照らされて、それが国王だと分かる。
 彼は牢屋まで歩いてくると、僕達に心の通っていないような冷たい瞳を振り下ろした。

「ロット。お前にはがっかりだ」

 時間が経って落ち着いたのか、会場で見せた怒りの籠った声ではなかった。
 少し悲しみを帯びた、父親らしい声だった。

「僕は……どうなるのですか?」

「とりあえずステラとは離婚をさせる。その後、王位を剥奪し、国外追放へと処す」

「そんな……」

 ステラとの離婚は否めないと覚悟していた。
 しかし国外追放なんていう大事には発展しないと高を括っていた。
 だって僕達は親子なのだから。
 国王は、次いでシフォンへと目を移すと、告げる。

「お前もだシフォン。せめてもの情けで、二人一緒の場所に置いてやる」

 それを聞いたシフォンは暗い顔を若干明るくさせて、僕を見つめた。
 言われなくても、彼女の心の声が聞こえるようだった。
 生憎それは、僕のものとは正反対だろうが。

「二人とも、罪を償え」

 国王はそれだけ言うと、牢屋の前を去っていった。
 シフォンがそっと僕の手を握る。

「ロット様。きっと二人なら大丈夫ですよ」

 思わず全身に嫌悪感が湧き立った。
 元はといえば、こいつに夢中になっていなければ、こんなことにはならなかった。
 ステラのことを妻として大切にして、傍に置いて、時に抱いてやれば良かったのだ。
 そんなに簡単なことだったのに、どうして僕はそれができなかったのだろう。

 いつだって後悔は後にやってくる。
 遥か昔に聞いたその言葉を、僕はしみじみと実感していた。
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