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 パーティーから数日。
 窓際の椅子に座り、私は雨が降る街並みを眺めていた。
 傘をさして歩いている人が何人かいて、馬車が時折道を忙しなく進んでいく。
 
 その光景を何を考えるでもなく、じっと見つめていた私の心に、ふと恐怖が湧いてくる。

 本当にこのままでいいのだろうか。
 ロットに自分の気持ちを伝えることもなく、意味もない淡々とした夫婦生活を続けていくのだろうか。
 
「ダメだ、こんなの」

 自分の都合の良い前向きな気持ちが溢れてくる。
 しかし私はそれを正義だと勘違いして、こんな自分は救われるはずだと確信する。
 部屋を出て、ロットの部屋へと向かう。
 残酷な未来を暗示するように、雨音は強まっていたが、私はそれに気が付かなかった。

 ……ロットの部屋の扉をノックして名前を言うと、程なくして疲れたような声が返ってくる。

「さっさと入れ」

「失礼します」

 扉を開けて中に入ると、ロットは机上の書類に目を走らせていた。
 忙しそうに手も動かして、次々に書類を確認している。

「お仕事中失礼致します。実は、ロット様にご相談したいことがあって」

「……なんだ?」

 彼は目を上げずに言葉を返す。
 その態度が悲しくなりながらも、私は勇気を出して口を開く。

「私を除け者にするのは止めて頂きたいのです」

「は?」

 予想外の言葉だったのか、ロットの手が止まる。
 次いで、灰色の冷たい瞳が私を見上げた。

「何を言い出すかと思えば……くだらないことを言っていないで、お前は妻としての自覚をもっと持て。些細な傷を大袈裟に叫ぶな」

「大袈裟ではありません! これは正当な意見です! それに、私が妻というのなら、パーティー会場で他の女性とばかり一緒にいるのは、おかしいではありませんか!」

 思っていたよりも言いたいことがすっと言えた。
 しかしロットは私を嘲笑するように、口の端を上げる。

「ふふっ、シフォンに嫉妬しているのか。無駄なことを。あいつはお前よりも爵位は低いが、数段美しく、聡明な女性だ。故に、僕みたいな高等な人間と十分に釣り合う。パーティー会場で一緒にいるのはそういう理由があるためだ。お前じゃ僕には釣り合わない」

「そんな……」

「自分の無能を人のせいにするな。お前となんて、父の命令じゃなければ、絶対に結婚していない。あぁ、シフォンが僕の妻だったのなら、どんなに幸せだったことか」

 確かに美男美女の二人はよく似合いそうだ。
 ロットはシフォンと結ばれる未来でも想像したのか、頬を赤くした。
 私は唇を噛みしめ、自分がどれだけ馬鹿で愚かな人間であったのか再確認した。
 もうこの人には何を言っても無駄だというのに、意味のない期待を抱いていたようだ。

「もういいです」

 拗ねたように言うと、私は踵を返した。
 ロットは何も言葉を返すことはなく、再び書類をいじる音がした。

「失礼しました」

 部屋を出て自室までの廊下を歩く。
 横目で窓に目を移すと、先ほどよりも雨が激しくなっていた。
 いっそのことあの雨が、この辛い現実を洗い流してくれたらいいのに。
 そうなれば、私はもっと楽に生きられるのに。
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