上 下
5 / 7

しおりを挟む
 侍女のサラを連れて隣国を訪れると、妙にあっさりと国王への謁見が認められた。
 というのも、どうやら私の知り合いらしい年配の使用人がいて、彼女が私を見て大泣きしたのをきっかけに、わらわらと人が集まり、矢を打つような早さで国王に私の来訪が伝えられたのだ。

 国王の書斎の扉を開けると、そこには書類に目を落とす男性がいた。
 動きやすい服装で、王冠の類は全くつけておらず、言われなければ平民のおじさんと誤解してしまう平凡な容姿。
 しかし彼はどことなく常人にはないオーラを放っていて、力強い目を私に向けた。

「ソフィア……」

 途端に驚いたように目を丸くして、手に持ったペンを床に落とす。
 そのまま固まってしまった国王に、私は苦笑しながら言葉を返す。

「えっと、ただいま?」

 瞬間国王は椅子から立ち上がり、私に抱き着いてきた。
 優しい香りに包まれて、思わず目頭が熱くなる。
 記憶に加えて、直感的に、この人が自分の父だと確信できる。

「よく帰ってきたな。ソフィア」

 感動の再開に関わらず、サラが呆れたようにため息をはく。

「国王様、少しソフィア様とくっつきすぎではないですか? あなたはこの国の王なのです、もう少し自覚を持ってください」

「あ、ああ。そうだな。すまない」

 少し名残惜しい気はしたが、父は私からそっと離れる。
 記憶にある通りの穏やかな性格は、今も健在のようだ。

「ソフィア。ここに帰ってきたということは、記憶が戻ったのだな」

「はい」

 私は頷くと、心を入れ替えるように呼吸をした。
 顔つきを真剣にさせて、言葉を続ける。

「なぜ私に幼少期の記憶がないのか、そしてあの国の孤児院へと送られたのか。お父様なら答えを知っているんじゃないかと思いまして。一体私に何があったのですか?」

 真剣に言ったつもりだったが、父は笑いを堪えきれないように顔を膨らませると、すぐに大笑いをした。
 
「な……私は真剣に……」

「悪い、悪い」

 父は腹を抱えてしばらく笑っていたが、目をこすりながら何とか笑いを抑え込む。
 そして最後には子を想う父らしい、優しい笑みを浮かべた。

「私の記憶ではこんなに小さかったのに……大きくなったんだな」

「はい。もう立派なレディですから」

「そうか。そうだよな」

 父は何度も自分を納得させるように頷くと、遥か彼方の記憶を見るように、目を細くする。
 
「ソフィア。私はお前を守りたかったのだ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

拝啓 私のことが大嫌いな旦那様。あなたがほんとうに愛する私の双子の姉との仲を取り持ちますので、もう私とは離縁してください

ぽんた
恋愛
ミカは、夫を心から愛している。しかし、夫はミカを嫌っている。そして、彼のほんとうに愛する人はミカの双子の姉。彼女は、夫のしあわせを願っている。それゆえ、彼女は誓う。夫に離縁してもらい、夫がほんとうに愛している双子の姉と結婚してしあわせになってもらいたい、と。そして、ついにその機会がやってきた。 ※ハッピーエンド確約。タイトル通りです。ご都合主義のゆるゆる設定はご容赦願います。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

お久しぶりです、元旦那様

mios
恋愛
「お久しぶりです。元旦那様。」

完結 「愛が重い」と言われたので尽くすのを全部止めたところ

音爽(ネソウ)
恋愛
アルミロ・ルファーノ伯爵令息は身体が弱くいつも臥せっていた。財があっても自由がないと嘆く。 だが、そんな彼を幼少期から知る婚約者ニーナ・ガーナインは献身的につくした。 相思相愛で結ばれたはずが健気に尽くす彼女を疎ましく感じる相手。 どんな無茶な要望にも応えていたはずが裏切られることになる。

【完結】私の小さな復讐~愛し合う幼馴染みを婚約させてあげましょう~

山葵
恋愛
突然、幼馴染みのハリーとシルビアが屋敷を訪ねて来た。 2人とは距離を取っていたから、こうして会うのは久し振りだ。 「先触れも無く、突然訪問してくるなんて、そんなに急用なの?」 相変わらずベッタリとくっ付きソファに座る2人を見ても早急な用事が有るとは思えない。 「キャロル。俺達、良い事を思い付いたんだよ!お前にも悪い話ではない事だ」 ハリーの思い付いた事で私に良かった事なんて合ったかしら? もう悪い話にしか思えないけれど、取り合えずハリーの話を聞いてみる事にした。

ご自分の病気が治ったら私は用無しですか…邪魔者となった私は、姿を消す事にします。

coco
恋愛
病気の婚約者の看病を、必死にしていた私。 ところが…病気が治った途端、彼は私を捨てた。 そして彼は、美しい愛人と結ばれるつもりだったが…?

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

処理中です...