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侍女のサラを連れて隣国を訪れると、妙にあっさりと国王への謁見が認められた。
というのも、どうやら私の知り合いらしい年配の使用人がいて、彼女が私を見て大泣きしたのをきっかけに、わらわらと人が集まり、矢を打つような早さで国王に私の来訪が伝えられたのだ。
国王の書斎の扉を開けると、そこには書類に目を落とす男性がいた。
動きやすい服装で、王冠の類は全くつけておらず、言われなければ平民のおじさんと誤解してしまう平凡な容姿。
しかし彼はどことなく常人にはないオーラを放っていて、力強い目を私に向けた。
「ソフィア……」
途端に驚いたように目を丸くして、手に持ったペンを床に落とす。
そのまま固まってしまった国王に、私は苦笑しながら言葉を返す。
「えっと、ただいま?」
瞬間国王は椅子から立ち上がり、私に抱き着いてきた。
優しい香りに包まれて、思わず目頭が熱くなる。
記憶に加えて、直感的に、この人が自分の父だと確信できる。
「よく帰ってきたな。ソフィア」
感動の再開に関わらず、サラが呆れたようにため息をはく。
「国王様、少しソフィア様とくっつきすぎではないですか? あなたはこの国の王なのです、もう少し自覚を持ってください」
「あ、ああ。そうだな。すまない」
少し名残惜しい気はしたが、父は私からそっと離れる。
記憶にある通りの穏やかな性格は、今も健在のようだ。
「ソフィア。ここに帰ってきたということは、記憶が戻ったのだな」
「はい」
私は頷くと、心を入れ替えるように呼吸をした。
顔つきを真剣にさせて、言葉を続ける。
「なぜ私に幼少期の記憶がないのか、そしてあの国の孤児院へと送られたのか。お父様なら答えを知っているんじゃないかと思いまして。一体私に何があったのですか?」
真剣に言ったつもりだったが、父は笑いを堪えきれないように顔を膨らませると、すぐに大笑いをした。
「な……私は真剣に……」
「悪い、悪い」
父は腹を抱えてしばらく笑っていたが、目をこすりながら何とか笑いを抑え込む。
そして最後には子を想う父らしい、優しい笑みを浮かべた。
「私の記憶ではこんなに小さかったのに……大きくなったんだな」
「はい。もう立派なレディですから」
「そうか。そうだよな」
父は何度も自分を納得させるように頷くと、遥か彼方の記憶を見るように、目を細くする。
「ソフィア。私はお前を守りたかったのだ」
というのも、どうやら私の知り合いらしい年配の使用人がいて、彼女が私を見て大泣きしたのをきっかけに、わらわらと人が集まり、矢を打つような早さで国王に私の来訪が伝えられたのだ。
国王の書斎の扉を開けると、そこには書類に目を落とす男性がいた。
動きやすい服装で、王冠の類は全くつけておらず、言われなければ平民のおじさんと誤解してしまう平凡な容姿。
しかし彼はどことなく常人にはないオーラを放っていて、力強い目を私に向けた。
「ソフィア……」
途端に驚いたように目を丸くして、手に持ったペンを床に落とす。
そのまま固まってしまった国王に、私は苦笑しながら言葉を返す。
「えっと、ただいま?」
瞬間国王は椅子から立ち上がり、私に抱き着いてきた。
優しい香りに包まれて、思わず目頭が熱くなる。
記憶に加えて、直感的に、この人が自分の父だと確信できる。
「よく帰ってきたな。ソフィア」
感動の再開に関わらず、サラが呆れたようにため息をはく。
「国王様、少しソフィア様とくっつきすぎではないですか? あなたはこの国の王なのです、もう少し自覚を持ってください」
「あ、ああ。そうだな。すまない」
少し名残惜しい気はしたが、父は私からそっと離れる。
記憶にある通りの穏やかな性格は、今も健在のようだ。
「ソフィア。ここに帰ってきたということは、記憶が戻ったのだな」
「はい」
私は頷くと、心を入れ替えるように呼吸をした。
顔つきを真剣にさせて、言葉を続ける。
「なぜ私に幼少期の記憶がないのか、そしてあの国の孤児院へと送られたのか。お父様なら答えを知っているんじゃないかと思いまして。一体私に何があったのですか?」
真剣に言ったつもりだったが、父は笑いを堪えきれないように顔を膨らませると、すぐに大笑いをした。
「な……私は真剣に……」
「悪い、悪い」
父は腹を抱えてしばらく笑っていたが、目をこすりながら何とか笑いを抑え込む。
そして最後には子を想う父らしい、優しい笑みを浮かべた。
「私の記憶ではこんなに小さかったのに……大きくなったんだな」
「はい。もう立派なレディですから」
「そうか。そうだよな」
父は何度も自分を納得させるように頷くと、遥か彼方の記憶を見るように、目を細くする。
「ソフィア。私はお前を守りたかったのだ」
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