魔法少女と世界を救うことになりました。

泡沫

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第1章 魔法少女との暮らし

1-9 新たな学校生活

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 ヒカリンは俊斗の前の席に座った。前を向くと、桃色の髪が左右に揺らされる。
 すぐに先生の話が続けられたが、その内容に俊斗の意識が向けられることはなかった。
 生暖かい風とともに、教室の気温は上昇していく。
 俊斗はただ無心で話が終わるのを待っていた。

「それじゃあ、授業の準備をしてね!」

 クラスが授業に向けて動き出した。近くの友人と話す者、教室から出ていく者、授業の課題を急いで済ませる者、教室の最後列からは様々な動きを捉えることができた。
 その中、俊斗はゆっくりとリュックから教科書とノートを取り出し、呼吸を整えた。

「俊斗くん! 席近いね!」

 後ろを振り返ったヒカリンは椅子の背もたれに手をかけた。

「ヒカリン……あっ、ヒカリはこのこと知ってたの?」

 幸い、俊斗が発した呼び方は誰にも気づかれていないようだった。

「ううん、全然知らなかったよー、私もびっくり!」

「だよねー、みんなもびっくりしたよ……あれ……」

 助けを求めて左右を見るも、両隣の二人はいつの間にか席を離れていた。

「なんかね、先輩がセットしてくれたみたい!」

「セットって……」
(先輩なんて奴だ……)

 俊斗はヒカリの勢いに押されるままだ。その場は何とかしのぐことができたが、授業中には何度も話しかけられ、全く集中することができなかった。両隣の二人はその二人をどこか羨ましそうに見ているだけであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

 昼休みになった。教室は乾燥した暑さに包まれていた。
 この時、俊斗はある葛藤を抱えていた。

「よいっしょっ!」

 ルナが自分の机を俊斗の机に思いっきりぶつけた。

「今日も一緒に食べようか」

「あ、うん」

 紗香も机を合わせた。
 しかし、俊斗の机には未だ何も置かれていない。すると、ヒカリが後ろを振り向いた。

「あ! 私も混ぜて!」

 ヒカリは自分の机を俊斗の方に向けた。そして、そのまま合わせる。

「これでオッケー!」

 俊斗とヒカリは向かい合って座った。俊斗は苦笑いするだけであった。
 ヒカリの机にはピンク色の弁当箱が置かれた。

「あれ? 俊斗くんは食べないの?」

 紗香がその様子に気づき、俊斗に顔を向けた。

「やっぱり、私のお弁当じゃ嫌だった……?」

「「私のお弁当⁇」」

 俊斗に向かって上目遣いをするヒカリ。
 そのヒカリの言葉に俊斗の両隣の二人は声を合わせた。そして、俊斗に二人の視線は集められた。

「どういうことだ、俊斗」

 ルナに迫られる。言い訳を考えようとしたが、何も浮かばない。仕方なく、事実に表現の変化を加えて説明することにした。

「今日の朝、時間あったから作ってもらったんだ、ほらコンビニのやつとかばかりだと身体に良くないからって」

 周囲の雰囲気に冷や汗をかきそうな勢いで焦らされる俊斗。話し終えても息を吸うことができなかった。

「ふーん」

 ルナの眼光が鋭くなった。

「じゃあ、私のも少しあげるよ」

 紗香は白の弁当箱から卵焼きを一つ取り出した。

「俊斗くん、はい、あーん」

 白の箸に挟まれた柔らかな卵焼きは俊斗の口に無理やり運ばれた。
 俊斗はその勢いからとっさに口を開けてしまった。

「アヴッ……」

「どうかな?」

 その卵焼きからはあまり味を感じなかった。
 紗香は前のめりになって訊いた。それも考えあっての行動だ。

「う、うん、美味しいよ」

「やった、ありがと!」

 俊斗は場の空気に流される。当然、この行動を取っていれば、クラスの注目はすぐに二人に集まった。
 俊斗はそれに耐え忍ぶことで精一杯の状況だった。

「おい俊斗! 私のも食べろ!」

 俊斗は右肩を強く掴まれ、後ろを向かされた。
 そして、ルナは黄色の弁当箱から、薄く切られハート形に細工された桃色のかまぼこを取り出した。それを俊斗の口の前に突き出した。
 俊斗の口は――二度目であるから――すぐには開かない。

「んっ!」

 さらに強く黄色の箸を突き出すルナ。頬を赤くし、明らかに照れている。

「いただきます……」

 恐る恐る口にしたかまぼこは微かな甘みをもっていた。
 すぐに箸を引き、うつむいたルナ。

「どうだ……」

「甘くて美味しいよ」

 感じた味がそのまま言葉になった。俊斗は目の前の状況にどうしても恥ずかしさを感じてしまっていた。

「ふん、当たり前だ!」

 やはり、満足そうにするルナ。すぐに身体の向きを直した。俊斗も座り直し、一呼吸をおいた。

「楽しそう! 私もやらせて!」

 ヒカリンが自分の弁当箱から何かを取り出そうとした。

「ゆっくり食べさせてくれー‼︎」

 天井に顔を向け、叫んだ俊斗。この後、忙しい昼休みになったことは言うまでもない。
 校舎は午後の太陽に照らされ、白くキラキラと輝いていた。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「さようならー!」

「さようなら」

 放課後になり、廊下は生徒で溢れかえった。俊斗は昨日と同じく手芸部の部室に向かわざるを得ない状況でいた。

(ヒカリン……いや、ヒカリはこれからどうするんだろ)

 そう思っていると、紗香がヒカリの肩を優しく叩いた。

「ねえ、ヒカリちゃん、今日って放課後暇かな?」

「うん、暇だよ」

「そっか! それじゃあ、手芸部の見学してみない?」

 ヒカリは紗香に詰め寄られる。しかし、全く動じなかった。
 俊斗とルナは並んで、その二人を少し離れたところで眺めていた。

「んー、手芸部か……」

「俊斗くんもいるよ!」

「そうなの! 見学するする!」

 ヒカリは紗香の手を取って軽く飛び跳ねた。その二人は色づき始めた日差しを背景に、美しく映っていた。

(判断材料俺かよ……)

 俊斗はその光景を前に苦笑いをした。
 ルナはその様子を冷めた目で見ていた。そして、俊斗の背中はルナによって思いっきり殴られた。

「グハッ……」

 その痛みは俊斗の気の緩みを警告するかのようだった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「ようこそ手芸部へー!」

「お邪魔しまーす!」

 手芸部の部室に着いた。昨日と変わらず、周囲から切り離された異様な雰囲気がそこにはあった。
 全員が椅子に座る。三人の並びは変わらず、ヒカリは俊斗の左隣に座った。

「本当はもう一人いるんだけど、今日もお休みしてるから今度紹介するね――」

(今日も休んでるのか……)

 昨日休みだった部員はこの日も来ていない。
 そして、昨日と同じ説明を三十分ほど聞かされるのであった。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

「手芸部って何か楽しそうだね!」

「でしょでしょ!」

 やはり、四人で楽しく盛り上がった。このままいけばヒカリは間違いなく手芸部に入部するだろう。俊斗もその未来を望んでいない訳ではなかった。

「それじゃあ、この部屋の物いろいろ見てみてね!」

「うん!」

 ヒカリは椅子から立ち上がった。そして、一つ大きく背伸びをする。

「俊斗くん、一緒に見ようよ!」

「うん、いいよ」

 特にすることも決めていなかった俊斗は昨日と同じ行動をすることにした。
 すると、ヒカリは真っ先にある雑誌を手に取った。
 俊斗は近づいてその雑誌を確認した。

(あ、昨日の魔法少女のやつだ……)

 ヒカリがその雑誌に興味をもつことにはすぐに納得できた。

「やっぱり興味あるんだ」

 紗香やルナがいることを考慮し、小さな声でヒカリに声をかけた。

「うーん、なんか不思議な感じがするんだよね……」

「不思議な感じ……」

 ヒカリはその雑誌を見つめたまま視線をずらさない。その意外な様子と言葉に俊斗ははっきりとしない疑問を抱かされた。
 昨日よりも気温は早く下がり始め、開けられた窓からの風が肌寒く感じられるほどだ。桃色の髪はヒカリの身体の動きに合わせ、しなやかに流れる。並べられた他の雑誌は驚くほど綺麗で傷一つないように見えた――。
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