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第1章 魔法少女との暮らし
1-8 魔法少女の登校
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二人は朝食を食べ終えた。その後は、二人で皿を洗ったり登校する準備などをした。ヒカリンは楽しそうにしている。鼻歌を歌いながら、桃色の髪を揺らす。
俊斗はテレビを消す。室内は外の風景と相対して静かである。その中でヒカリンの鼻歌が聞こえた。未だにキッチンにいる。
「ヒカリン、そろそろ学校行こうか」
「オッケー」
ヒカリンは緑とピンクい包まれた二つの弁当箱を持ってきた。
「はい、これ食べてね」
緑の方の弁当箱を俊斗の前に差し出した。
「え、弁当作ってくれたの?」
俊斗は驚きながらもそれを両手で丁寧に受け取った。
「うん! あ、嫌だった……?」
ヒカリンは俊斗に向けていた視線をその弁当箱に向けた。
「ううん! 全然そんなことないよ、ありがとう」
再び視線を俊斗に向けたヒカリン。嬉しそうに真っ白な歯を見せた。
「よし、じゃあ行こうか」
「うん!」
俊斗はその弁当箱をリュックにしまい、玄関に向かった。先にヒカリンが靴を履く。後ろで待つ俊斗の視線が下がる。
(スカートの丈短すぎないか……)
焦ってさらに下に視線を動かした。そこでは学校指定のローファーがヒカリンに履かれようとしていた。
(ローファーまで準備してあったのか)
ヒカリンが鍵を開け、ドアを開けた。
澄んだ青空が遠く広がっていた。そのグラデーションが時の流れを意識させた。
風が吹くと若干肌寒い朝だ。
「早く早くー」
「はいはい……よし、オッケー」
靴を履き終えた俊斗は、部屋を出て鍵を閉める。ヒカリンはすぐそばでその様子を不思議そうに見ていた。
「どんな学校なのかなー楽しみ!」
「ヒカリンには合ってる学校だと思うよ」
(女子ばっかりだからな……)
「そうなの! やったー!」
二人は階段の手前まで歩いた。ヒカリンはピンク色のリュックを揺らす。
ヒカリンはそこで立ち止まった。
「ねえ、あの人たちって知ってる人?」
ヒカリンは階段の下の辺りを見ている。俊斗は後ろから覗き込んだ。
「あっ……」
そこには紗香とルナが二人で話をしていた。幸い、俊斗とヒカリンには気づいていない。しかし、微かに聞こえる会話から、俊斗が降りてくるのを待っているようだった。
「ねえ、知ってるの?」
ヒカリンは俊斗の方を振り返った。
「え……まあ一応は……」
「オッケー!」
ヒカリンは階段を急いで降りて行ってしまった。
「え! ちょっと!」
俊斗の制止も聞かず、二人の前に向かった。
「はじめまして! 今日から法輝台高校に通うことになりました! 二年の間方ヒカリです! よろしくお願いします!」
そして、自己紹介を済ませてしまった。大きく髪をなびかせ、深く頭を下げた。
「転校生さん? こちらこそよろしくねヒカリちゃん、私は飯島紗香――」
「私は神崎ルナだ! 子供扱いするなよ!」
ヒカリンは勢いよく頭を上げた。
「はい!」
この流れを階段の上から見ていた俊斗。この後、いかに状況を二人に説明するかで頭の中が埋まっていた。
その様子がルナに見つかった。
「あ! やっと来たな俊斗! もしかしてこの子はお前の知り合いか?」
「あ、うん、まあ……そんな感じかな」
「そうだったのか! まあいい、早く降りてこい!」
「はあ……」
俊斗の鼓動は速くなった。今の状況では、ヒカリンが何を言い始めるかわからないからだ。
「あれ? でも、このアパートってもう空き部屋がなかったはずなんだけど……」
ヒカリンの方を見ている紗香。ヒカリンは何かを話し始めようとしていた。
(ヤバイ!)
俊斗は階段を降りる速さを上げ、急いでヒカリンのそばに駆け寄った。
「私、俊斗くんの部屋に住んでぇううぅ……」
ヒカリンの口を手で塞いだ。息苦しそうにするヒカリン。無理やり言葉を発しようとしている。
「なんでもない、なんでもないから」
もがくヒカリンを抑える俊斗。
「なんでもないって、俊斗の部屋とかなんとかってヒカリが言ってただろ」
ルナは赤い目を尖らせて俊斗を睨んだ。
「いや……今日たまたま俺の部屋に来てただけだよ……」
俊斗は苦笑いをした。解決に向かいそうもない状況に諦めさえ感じていたが、同じ部屋で暮らすことになったと認めてしまえば、何か大きなものを失う気がしていた。
「あやしい……」
ルナが詰め寄る。腰に当てていた手を胸の前で組んだ。
「気になるけど、とりあえず歩こうか」
紗香はスマートフォンの画面を見て、時間を気にした。
(ありがとう紗香!)
俊斗はヒカリンの口を塞いでいた手を離した。その手は少し温かく湿っていた。
「うへぇー」
「大丈夫かヒカリ! あんな奴に近づくんじゃないぞ!」
ルナはリュックのショルダーベルトに手をかけている。そのままヒカリンの左に並んで歩き出した。
紗香はヒカリンの右について歩き出した。
紗香と
(今日も大変な一日になりそうだな……)
三人の後をつけるようにして俊斗も歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
学校に着いた。生徒の登校が一番集中する時間らしく、昇降口は混雑している。もちろん、そのほとんどが女子生徒である。
冷たい風がその中を抜けていった。
「うわー、すごい人だね」
「俺も思ったよ」
俊斗は姿勢を低くして、靴をロッカーに入れる。
「同じクラスになれるといいね、ヒカリちゃん」
「うん!」
紗香と言葉を交わし、ヒカリンはそのまま職員室に向かった。俊斗たちは教室に向かう。
「俊斗、ヒカリとはどういう関係なの?」
前を歩くルナはふてくされている。俊斗は訳がわからず、戸惑った。
「えっと、ただの知り合いだよ」
「ふーん」
ルナは俊斗から視線を大げさに外す。その隣を歩く紗香は二人の様子に笑っているようだった。
二人の髪はリズムを刻むかのようにして左右に揺れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
教室に着いた。生徒のほとんどが登校を終えているようだった。
校内には女子の高い声が響いていた。陽の光が教室の端に華やかさを与えていた。
三人が席に着く。
「あったかーい」
紗香は――角の辺りだけではあるが――太陽に温められた机に手のひらを当てる。そして、伸びをした。
「私も私もー!」
ルナは紗香の机の前に立ち、机に手のひらを優しく当てた。
ルナの一瞬の意外な一面に俊斗の寝ぼけた意識は集中した。
まもなく、朝のショートホームルームの時間だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チャイムがなり、歩美先生が教室に入ってきた。
「おはようございまーす!」
「おはようございます」
しかし、俊斗の前の席のには誰も座っていない。俊斗は辺りを見回した。すると、昨日は前の席にいたはずの女子が、廊下側から二列目の最後列の席に移動していた。
(なんであそこに座ってるんだろ)
その状況を理解してすぐ、先生の話が始まった。
「今日も六組に転校生がやってきましたー!」
教室がざわつく。空席は俊斗の前にしかないため、この席に転校生が座るのは確定していた。
(まさか……)
「それではどうぞー!」
「おはようございまーす!」
やはり、教室に元気に挨拶をしながら入ってきたのはヒカリンだった。
俊斗はまた固まってしまった。
「おー! ヒカリ!」
ルナは立ち上がり、叫んだ。
紗香は小さく手を振っている。
「それじゃあ、黒板に名前を書いて、自己紹介してください!」
ヒカリンは黒板に「間方ヒカリ」と縦に書き、クラスメイトの方を向いた。
「はじめまして、間方ヒカリです! みんなといっぱいお話しして仲良しさんになりたいです! よろしくお願いします!」
この自己紹介が終わると、クラスメイトからは「かわいい」の声が飛んだ。どうやら早速クラスに受け入れられたようだ。
その間も俊斗は何も考えることが出来ずにいた。
「ありがとー! ヒカリさんの席は……あの男の子の前でーす!」
「はい!」
ヒカリンは黒板の前から駆け足で俊斗の前の席に向かった。その間に俊斗に向かって両手でピースサインを作ってみせた。
どうしても部屋での出来事が頭から離れずにいる俊斗には微笑むしか応答の方法がなかった。しかし、決して悪い感情ではないことは確かであった。
窓から流れる風は気づかぬうちに暖かいものになっている。魔法少女との出会いがさらなる進展をもたらすとは、この時の俊斗には皆目見当がつかなかった――。
俊斗はテレビを消す。室内は外の風景と相対して静かである。その中でヒカリンの鼻歌が聞こえた。未だにキッチンにいる。
「ヒカリン、そろそろ学校行こうか」
「オッケー」
ヒカリンは緑とピンクい包まれた二つの弁当箱を持ってきた。
「はい、これ食べてね」
緑の方の弁当箱を俊斗の前に差し出した。
「え、弁当作ってくれたの?」
俊斗は驚きながらもそれを両手で丁寧に受け取った。
「うん! あ、嫌だった……?」
ヒカリンは俊斗に向けていた視線をその弁当箱に向けた。
「ううん! 全然そんなことないよ、ありがとう」
再び視線を俊斗に向けたヒカリン。嬉しそうに真っ白な歯を見せた。
「よし、じゃあ行こうか」
「うん!」
俊斗はその弁当箱をリュックにしまい、玄関に向かった。先にヒカリンが靴を履く。後ろで待つ俊斗の視線が下がる。
(スカートの丈短すぎないか……)
焦ってさらに下に視線を動かした。そこでは学校指定のローファーがヒカリンに履かれようとしていた。
(ローファーまで準備してあったのか)
ヒカリンが鍵を開け、ドアを開けた。
澄んだ青空が遠く広がっていた。そのグラデーションが時の流れを意識させた。
風が吹くと若干肌寒い朝だ。
「早く早くー」
「はいはい……よし、オッケー」
靴を履き終えた俊斗は、部屋を出て鍵を閉める。ヒカリンはすぐそばでその様子を不思議そうに見ていた。
「どんな学校なのかなー楽しみ!」
「ヒカリンには合ってる学校だと思うよ」
(女子ばっかりだからな……)
「そうなの! やったー!」
二人は階段の手前まで歩いた。ヒカリンはピンク色のリュックを揺らす。
ヒカリンはそこで立ち止まった。
「ねえ、あの人たちって知ってる人?」
ヒカリンは階段の下の辺りを見ている。俊斗は後ろから覗き込んだ。
「あっ……」
そこには紗香とルナが二人で話をしていた。幸い、俊斗とヒカリンには気づいていない。しかし、微かに聞こえる会話から、俊斗が降りてくるのを待っているようだった。
「ねえ、知ってるの?」
ヒカリンは俊斗の方を振り返った。
「え……まあ一応は……」
「オッケー!」
ヒカリンは階段を急いで降りて行ってしまった。
「え! ちょっと!」
俊斗の制止も聞かず、二人の前に向かった。
「はじめまして! 今日から法輝台高校に通うことになりました! 二年の間方ヒカリです! よろしくお願いします!」
そして、自己紹介を済ませてしまった。大きく髪をなびかせ、深く頭を下げた。
「転校生さん? こちらこそよろしくねヒカリちゃん、私は飯島紗香――」
「私は神崎ルナだ! 子供扱いするなよ!」
ヒカリンは勢いよく頭を上げた。
「はい!」
この流れを階段の上から見ていた俊斗。この後、いかに状況を二人に説明するかで頭の中が埋まっていた。
その様子がルナに見つかった。
「あ! やっと来たな俊斗! もしかしてこの子はお前の知り合いか?」
「あ、うん、まあ……そんな感じかな」
「そうだったのか! まあいい、早く降りてこい!」
「はあ……」
俊斗の鼓動は速くなった。今の状況では、ヒカリンが何を言い始めるかわからないからだ。
「あれ? でも、このアパートってもう空き部屋がなかったはずなんだけど……」
ヒカリンの方を見ている紗香。ヒカリンは何かを話し始めようとしていた。
(ヤバイ!)
俊斗は階段を降りる速さを上げ、急いでヒカリンのそばに駆け寄った。
「私、俊斗くんの部屋に住んでぇううぅ……」
ヒカリンの口を手で塞いだ。息苦しそうにするヒカリン。無理やり言葉を発しようとしている。
「なんでもない、なんでもないから」
もがくヒカリンを抑える俊斗。
「なんでもないって、俊斗の部屋とかなんとかってヒカリが言ってただろ」
ルナは赤い目を尖らせて俊斗を睨んだ。
「いや……今日たまたま俺の部屋に来てただけだよ……」
俊斗は苦笑いをした。解決に向かいそうもない状況に諦めさえ感じていたが、同じ部屋で暮らすことになったと認めてしまえば、何か大きなものを失う気がしていた。
「あやしい……」
ルナが詰め寄る。腰に当てていた手を胸の前で組んだ。
「気になるけど、とりあえず歩こうか」
紗香はスマートフォンの画面を見て、時間を気にした。
(ありがとう紗香!)
俊斗はヒカリンの口を塞いでいた手を離した。その手は少し温かく湿っていた。
「うへぇー」
「大丈夫かヒカリ! あんな奴に近づくんじゃないぞ!」
ルナはリュックのショルダーベルトに手をかけている。そのままヒカリンの左に並んで歩き出した。
紗香はヒカリンの右について歩き出した。
紗香と
(今日も大変な一日になりそうだな……)
三人の後をつけるようにして俊斗も歩き出した。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
学校に着いた。生徒の登校が一番集中する時間らしく、昇降口は混雑している。もちろん、そのほとんどが女子生徒である。
冷たい風がその中を抜けていった。
「うわー、すごい人だね」
「俺も思ったよ」
俊斗は姿勢を低くして、靴をロッカーに入れる。
「同じクラスになれるといいね、ヒカリちゃん」
「うん!」
紗香と言葉を交わし、ヒカリンはそのまま職員室に向かった。俊斗たちは教室に向かう。
「俊斗、ヒカリとはどういう関係なの?」
前を歩くルナはふてくされている。俊斗は訳がわからず、戸惑った。
「えっと、ただの知り合いだよ」
「ふーん」
ルナは俊斗から視線を大げさに外す。その隣を歩く紗香は二人の様子に笑っているようだった。
二人の髪はリズムを刻むかのようにして左右に揺れていた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
教室に着いた。生徒のほとんどが登校を終えているようだった。
校内には女子の高い声が響いていた。陽の光が教室の端に華やかさを与えていた。
三人が席に着く。
「あったかーい」
紗香は――角の辺りだけではあるが――太陽に温められた机に手のひらを当てる。そして、伸びをした。
「私も私もー!」
ルナは紗香の机の前に立ち、机に手のひらを優しく当てた。
ルナの一瞬の意外な一面に俊斗の寝ぼけた意識は集中した。
まもなく、朝のショートホームルームの時間だ。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
チャイムがなり、歩美先生が教室に入ってきた。
「おはようございまーす!」
「おはようございます」
しかし、俊斗の前の席のには誰も座っていない。俊斗は辺りを見回した。すると、昨日は前の席にいたはずの女子が、廊下側から二列目の最後列の席に移動していた。
(なんであそこに座ってるんだろ)
その状況を理解してすぐ、先生の話が始まった。
「今日も六組に転校生がやってきましたー!」
教室がざわつく。空席は俊斗の前にしかないため、この席に転校生が座るのは確定していた。
(まさか……)
「それではどうぞー!」
「おはようございまーす!」
やはり、教室に元気に挨拶をしながら入ってきたのはヒカリンだった。
俊斗はまた固まってしまった。
「おー! ヒカリ!」
ルナは立ち上がり、叫んだ。
紗香は小さく手を振っている。
「それじゃあ、黒板に名前を書いて、自己紹介してください!」
ヒカリンは黒板に「間方ヒカリ」と縦に書き、クラスメイトの方を向いた。
「はじめまして、間方ヒカリです! みんなといっぱいお話しして仲良しさんになりたいです! よろしくお願いします!」
この自己紹介が終わると、クラスメイトからは「かわいい」の声が飛んだ。どうやら早速クラスに受け入れられたようだ。
その間も俊斗は何も考えることが出来ずにいた。
「ありがとー! ヒカリさんの席は……あの男の子の前でーす!」
「はい!」
ヒカリンは黒板の前から駆け足で俊斗の前の席に向かった。その間に俊斗に向かって両手でピースサインを作ってみせた。
どうしても部屋での出来事が頭から離れずにいる俊斗には微笑むしか応答の方法がなかった。しかし、決して悪い感情ではないことは確かであった。
窓から流れる風は気づかぬうちに暖かいものになっている。魔法少女との出会いがさらなる進展をもたらすとは、この時の俊斗には皆目見当がつかなかった――。
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