7 / 22
第1章 魔法少女との暮らし
1-7 深まる理解
しおりを挟む
高校生の男女が一つの部屋で日を跨ごうとしている。しかし、この二人に限っては疚しい想いはない。
たった数時間前に初めて出会った二人。静かな夜に流されるままだ。
「ねぇ、そろそろ寝ようよ」
ベッドに仰向けになり、テレビを観ているヒカリン。俊斗は椅子に座り勉強をしていた。
「まだ早いでしょ」
ヒカリンの方には目を向けなかった。
間もなく今日が終わろうとしている。
「えー、早くないよー、一緒に寝ようよー」
ヒカリンは身体を起こした。俊斗を見る。
ペンを動かすのをやめ、ヒカリンに視線を送る俊斗。しかし、何も話さない。
(てか、なんでこの部屋なんだよ……)
その時、自分が置かれている状況を客観的に把握した。魔法と少女、この間にある大きな差が通常の思考を妨げている。
ヒカリンと目が合った。
「ねぇ、一人じゃ怖いの」
「ここにいるじゃん」
再びペンを動かし始めようとした。しかし、ヒカリンがそれを遮った。
「お願い俊斗くん……」
突然、雰囲気が変わる。ヒカリンを見ると、悲しげな表情をしていた。それが自然な表情なのかあるいは作られたものなのか判断はつかない。布団を掴みながら俊斗を見ている。
「しょうがないなー」
「やったー! ありがとう!」
勉強道具を片付け、椅子から立ち上がる。部屋の明かりを消した。
テレビからの光だけが室内を照らす。
その間にヒカリンはベッドの左側に寄っていた。頭だけを出し、嬉しそうに待っている。
俊斗はそのベッドに向かった。
(本当に寝るのか……)
この歳になって女子と同じベッドで寝るということが実際に起きるとは、夢にも思っていなかった俊斗。若干の緊張とともに布団をめくった。
俊斗だけが鼓動を速くさせる。ゆっくりと身体を寝せ、布団をかけた。
ヒカリンは横目で俊斗を見ている。
この状況を紛らわすために、テレビはつけたままにしている。
「俊斗くん、テレビ消さないの?」
「あ、消す消す……」
その目的はすぐに失われた。ベッドから手を伸ばし、テレビ台の上にあるリモコンを手に取った。テレビが音も立てず、静かに消えた。
室内はカーテン越しに月明かりが差すだけだ。時計の秒針の音が響く。
ヒカリンに背を向けたまま寝ようとする俊斗。ヒカリンは仰向けのままだ。
「ねぇ、そっち向いたままじゃ怖いよ……」
小さな声で囁くヒカリン。その表情がどのようなものなのか、確認することはできなかった。
「あ、うん……」
俊斗は仰向けになった。照れからの緊張が高まった。何かを切り出そうにも、言葉が出ない。
「あのさ、なんで私がここで暮らすこと、オッケーしてくれたの?」
俊斗にとっては気まずい状況も、ヒカリンにとっては全くそうではなかった。
数時間前の決意を思い起こさせる質問。それまでの余計な緊張が軽いものになり始めた。
「それは……ヒカリンが俺と似てる何かをもってるって思ったからかな」
二人は仰向けのまま話を始めた。邪魔するものは何もない。
「似てる?」
「うん、まあ俺の勝手なんだけどさ……さっきヒカリンが言ってた十年前、仲良くしてた二人の親友が事故で亡くなったんだ。その頃は、家にいるよりもその二人と一緒に遊んでる時間の方が長いくらいでさ、その二人に突然会えなくなった時の辛さはとか悲しさとかは今でもはっきり覚えてるんだ。また二人に会える気がして、しょうがないんだよね……」
何かが吹っ切れたよう話した。その言葉一つひとつからは強い意志が感じられた。心で抱えていたものが少しずつ流れ出すかのようだった。
「そうだったんだ……」
ヒカリンは仰向けのまま静かに答えた。
「ごめん、暗い話しちゃって」
「俊斗くんって優しいんだね……」
俊斗は一瞬大きく息を吸った。それまでの言動からは予想がつかなかった。ヒカリンから発せられた言葉の意味を改めて思い知った。
それと同時に、自らの経験とヒカリンの境遇が引き起こした複雑な感情が俊斗を取り巻いた。
(本当に辛いのはヒカリンのはずなのに……)
「それでさ、ヒカリンが頑張ってるのを知って、支えてあげたいって思ったから、オッケーしたかな」
喉の奥が締め付けられる思いがした。自分に似ていると言ったものの、自分にはない何かをヒカリンがもっていると感じたからだ。
ヒカリンは俊斗の方に身体を向けた。
「『かな』ってなにー、『かな』って」
俊斗は顔だけをヒカリンの方に向けた。ヒカリンは微笑んでいた。月明かりのせいなのかもしれないが、目が輝いて見えた。
「そのままの意味だよ」
「んもー」
頬を膨らませるヒカリン。俊斗は感情を抑えるために笑った。
「じゃあそのお返しに、私は家事とか料理とかするね!」
「本当にできるのかー?」
「できるよー、まったくもー」
「じゃあ、おねがいしようかな」
「うん! 任せて!」
楽しそうに話していたが、互いには異なった想いもあった。
しかし、相手のの複雑な想いを理解しようとしていることには変わりない。
「はぁー、今日もお疲れ私!」
ヒカリンは仰向けになった。俊斗も顔を天井に向ける。初めて見る天井の模様。薄暗い室内の中でぼんやりと浮かび上がる。
「お疲れ様……」
ヒカリンの方を見ると、既に微かな寝息を立てて寝てしまっていた。半分しか見えない寝顔は幼く、安心しているように見えた。
(だいぶ疲れたんだろうな……)
もう一度、天井の方を向き、静かに目を閉じた。
秒針の音の響きが大きな振動として伝わりそうなほど落ち着いた室内。
穏やかな夜はすぐに過ぎていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ピピピピピッピピピピピッ」
俊斗のスマートフォンが朝を知らせた。うつ伏せの俊斗は、すぐには止めようとしない。
薄眼を開けると、朝日が眩しく差し込んでいた。どうやらテレビもついているようだった。
(もう朝か……)
音のなる方に手を伸ばそうとした。
遠くの方から足音が聞こえてくる。
「うるさーい!」
アラームが止まった。左側に誰かの影が見えた。
「誰……うぅ……あ、ヒカリンか……」
「ヒカリンか……じゃないでしょもー! 俊斗くん! 何回ならしてるのー!」
「え……」
少し身体を起こし、時間を確認する。三十分の寝坊だ。重い目を擦る。
「ごめんごめん……え……」
ヒカリンは制服の上にエプロンを着ていた。腰に手を当てて俊斗を見下ろしている。
「どうしたの?」
「いや……その制服とエプロンどうしたの?」
「あ、これ? バッグに入ってたんだー」
「なるほど……」
「早くしないと朝ごはんできちゃうよー」
ヒカリンはキッチンの方に向かった。どうやら朝食を作っていたようだ。室内は食材の爽やかな香りに包まれていた。
(本当に作ってる……)
窓の外には、昨日より増して澄んだ真っ青な空。既に街が動き出していた。
テレビは普段と変わらず朝のニュース番組を流す。
俊斗はベッドから起き上がり、背伸びをする。どこからか不思議と気合が湧いてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも通り朝の支度を素早く終え、部屋に戻ってきた。
「おー! すごいじゃん!」
テーブルには二人分の和食の用意が済まされていた。どれも美味しそうに盛りつけられている。ご飯や汁ものからは湯気が立ち上る。
「すごいでしょー」
キッチンの方からヒカリンが満足そうに歩いてきた。既にエプロンを脱いでいる。
「ほら、座って座ってー、早く食べよ」
「うん」
二人は向かい合って椅子に座った。暖かな朝だ。
一日前には想像もつかなかった光景に感動する俊斗。大きく息を吸った。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
俊斗は魚とご飯を共に口に運んだ。まだ熱を保った食材が全身を温める感覚に襲われた。
「めっちゃ美味しい」
昨日までのヒカリンからは想像もつかない現状に興奮すら覚えた。ヒカリンは嬉しそうにしている。
「おー! よかったー」
「本当に作ってくれたんだ、ありがとう」
「どういたしまして!」
その笑顔は差し込む日差しよりも眩しかった。揺れた桃色のポニーテールが朝の時間に躍動を与えた。
「そういえば、この食材ってどうしたの?」
「バッグに入ってたんだー」
「魔法のバッグすごいな……」
この言葉を聞いたヒカリン焦った様子を見せた。
「あ、でも、料理は魔法使わないで自分でしたんだよ!」
ひかりんは俊斗の方を見て、少し肩を上げる。なぜか困り顔だ。
俊斗はその様子から気持ちを汲み取った。
「大丈夫、わかってるよ」
「えへへー」
すぐに嬉しそうな表情に変わった。俊斗も笑顔になった。
朝食の美味しさに余計なことを考えずにいることができた俊斗。
その様子を気づかれないように見ていたヒカリンは、飛び跳ねたいほど嬉しい気持ちになっていた。
「なんでここまでしてくれるの?」
口を動かしながら俊斗は訊いた。
「だって……泊めてくれただけでも嬉しいからだよ」
ヒカリンは心にある気持ちを抑えた。しかし、俊斗のことはしっかりと見つめている。
俊斗は少し恥ずかしくなり、食べる勢いを上げた。
「そ、そっか、あはは」
(やったー! これからも頑張ろうっと!)
二人には時がものすごい速さで進んでいくように感じられた。朝の少しの時間に二人の距離はかなり縮まったようだ。
穏やかに流れる空気がその後の未来を伝えることはなかった。
アパートの前の道からは、一つの影が二人に視線を送っていた――。
たった数時間前に初めて出会った二人。静かな夜に流されるままだ。
「ねぇ、そろそろ寝ようよ」
ベッドに仰向けになり、テレビを観ているヒカリン。俊斗は椅子に座り勉強をしていた。
「まだ早いでしょ」
ヒカリンの方には目を向けなかった。
間もなく今日が終わろうとしている。
「えー、早くないよー、一緒に寝ようよー」
ヒカリンは身体を起こした。俊斗を見る。
ペンを動かすのをやめ、ヒカリンに視線を送る俊斗。しかし、何も話さない。
(てか、なんでこの部屋なんだよ……)
その時、自分が置かれている状況を客観的に把握した。魔法と少女、この間にある大きな差が通常の思考を妨げている。
ヒカリンと目が合った。
「ねぇ、一人じゃ怖いの」
「ここにいるじゃん」
再びペンを動かし始めようとした。しかし、ヒカリンがそれを遮った。
「お願い俊斗くん……」
突然、雰囲気が変わる。ヒカリンを見ると、悲しげな表情をしていた。それが自然な表情なのかあるいは作られたものなのか判断はつかない。布団を掴みながら俊斗を見ている。
「しょうがないなー」
「やったー! ありがとう!」
勉強道具を片付け、椅子から立ち上がる。部屋の明かりを消した。
テレビからの光だけが室内を照らす。
その間にヒカリンはベッドの左側に寄っていた。頭だけを出し、嬉しそうに待っている。
俊斗はそのベッドに向かった。
(本当に寝るのか……)
この歳になって女子と同じベッドで寝るということが実際に起きるとは、夢にも思っていなかった俊斗。若干の緊張とともに布団をめくった。
俊斗だけが鼓動を速くさせる。ゆっくりと身体を寝せ、布団をかけた。
ヒカリンは横目で俊斗を見ている。
この状況を紛らわすために、テレビはつけたままにしている。
「俊斗くん、テレビ消さないの?」
「あ、消す消す……」
その目的はすぐに失われた。ベッドから手を伸ばし、テレビ台の上にあるリモコンを手に取った。テレビが音も立てず、静かに消えた。
室内はカーテン越しに月明かりが差すだけだ。時計の秒針の音が響く。
ヒカリンに背を向けたまま寝ようとする俊斗。ヒカリンは仰向けのままだ。
「ねぇ、そっち向いたままじゃ怖いよ……」
小さな声で囁くヒカリン。その表情がどのようなものなのか、確認することはできなかった。
「あ、うん……」
俊斗は仰向けになった。照れからの緊張が高まった。何かを切り出そうにも、言葉が出ない。
「あのさ、なんで私がここで暮らすこと、オッケーしてくれたの?」
俊斗にとっては気まずい状況も、ヒカリンにとっては全くそうではなかった。
数時間前の決意を思い起こさせる質問。それまでの余計な緊張が軽いものになり始めた。
「それは……ヒカリンが俺と似てる何かをもってるって思ったからかな」
二人は仰向けのまま話を始めた。邪魔するものは何もない。
「似てる?」
「うん、まあ俺の勝手なんだけどさ……さっきヒカリンが言ってた十年前、仲良くしてた二人の親友が事故で亡くなったんだ。その頃は、家にいるよりもその二人と一緒に遊んでる時間の方が長いくらいでさ、その二人に突然会えなくなった時の辛さはとか悲しさとかは今でもはっきり覚えてるんだ。また二人に会える気がして、しょうがないんだよね……」
何かが吹っ切れたよう話した。その言葉一つひとつからは強い意志が感じられた。心で抱えていたものが少しずつ流れ出すかのようだった。
「そうだったんだ……」
ヒカリンは仰向けのまま静かに答えた。
「ごめん、暗い話しちゃって」
「俊斗くんって優しいんだね……」
俊斗は一瞬大きく息を吸った。それまでの言動からは予想がつかなかった。ヒカリンから発せられた言葉の意味を改めて思い知った。
それと同時に、自らの経験とヒカリンの境遇が引き起こした複雑な感情が俊斗を取り巻いた。
(本当に辛いのはヒカリンのはずなのに……)
「それでさ、ヒカリンが頑張ってるのを知って、支えてあげたいって思ったから、オッケーしたかな」
喉の奥が締め付けられる思いがした。自分に似ていると言ったものの、自分にはない何かをヒカリンがもっていると感じたからだ。
ヒカリンは俊斗の方に身体を向けた。
「『かな』ってなにー、『かな』って」
俊斗は顔だけをヒカリンの方に向けた。ヒカリンは微笑んでいた。月明かりのせいなのかもしれないが、目が輝いて見えた。
「そのままの意味だよ」
「んもー」
頬を膨らませるヒカリン。俊斗は感情を抑えるために笑った。
「じゃあそのお返しに、私は家事とか料理とかするね!」
「本当にできるのかー?」
「できるよー、まったくもー」
「じゃあ、おねがいしようかな」
「うん! 任せて!」
楽しそうに話していたが、互いには異なった想いもあった。
しかし、相手のの複雑な想いを理解しようとしていることには変わりない。
「はぁー、今日もお疲れ私!」
ヒカリンは仰向けになった。俊斗も顔を天井に向ける。初めて見る天井の模様。薄暗い室内の中でぼんやりと浮かび上がる。
「お疲れ様……」
ヒカリンの方を見ると、既に微かな寝息を立てて寝てしまっていた。半分しか見えない寝顔は幼く、安心しているように見えた。
(だいぶ疲れたんだろうな……)
もう一度、天井の方を向き、静かに目を閉じた。
秒針の音の響きが大きな振動として伝わりそうなほど落ち着いた室内。
穏やかな夜はすぐに過ぎていった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ピピピピピッピピピピピッ」
俊斗のスマートフォンが朝を知らせた。うつ伏せの俊斗は、すぐには止めようとしない。
薄眼を開けると、朝日が眩しく差し込んでいた。どうやらテレビもついているようだった。
(もう朝か……)
音のなる方に手を伸ばそうとした。
遠くの方から足音が聞こえてくる。
「うるさーい!」
アラームが止まった。左側に誰かの影が見えた。
「誰……うぅ……あ、ヒカリンか……」
「ヒカリンか……じゃないでしょもー! 俊斗くん! 何回ならしてるのー!」
「え……」
少し身体を起こし、時間を確認する。三十分の寝坊だ。重い目を擦る。
「ごめんごめん……え……」
ヒカリンは制服の上にエプロンを着ていた。腰に手を当てて俊斗を見下ろしている。
「どうしたの?」
「いや……その制服とエプロンどうしたの?」
「あ、これ? バッグに入ってたんだー」
「なるほど……」
「早くしないと朝ごはんできちゃうよー」
ヒカリンはキッチンの方に向かった。どうやら朝食を作っていたようだ。室内は食材の爽やかな香りに包まれていた。
(本当に作ってる……)
窓の外には、昨日より増して澄んだ真っ青な空。既に街が動き出していた。
テレビは普段と変わらず朝のニュース番組を流す。
俊斗はベッドから起き上がり、背伸びをする。どこからか不思議と気合が湧いてきた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
いつも通り朝の支度を素早く終え、部屋に戻ってきた。
「おー! すごいじゃん!」
テーブルには二人分の和食の用意が済まされていた。どれも美味しそうに盛りつけられている。ご飯や汁ものからは湯気が立ち上る。
「すごいでしょー」
キッチンの方からヒカリンが満足そうに歩いてきた。既にエプロンを脱いでいる。
「ほら、座って座ってー、早く食べよ」
「うん」
二人は向かい合って椅子に座った。暖かな朝だ。
一日前には想像もつかなかった光景に感動する俊斗。大きく息を吸った。
「それじゃあ、いただきます」
「いただきます」
俊斗は魚とご飯を共に口に運んだ。まだ熱を保った食材が全身を温める感覚に襲われた。
「めっちゃ美味しい」
昨日までのヒカリンからは想像もつかない現状に興奮すら覚えた。ヒカリンは嬉しそうにしている。
「おー! よかったー」
「本当に作ってくれたんだ、ありがとう」
「どういたしまして!」
その笑顔は差し込む日差しよりも眩しかった。揺れた桃色のポニーテールが朝の時間に躍動を与えた。
「そういえば、この食材ってどうしたの?」
「バッグに入ってたんだー」
「魔法のバッグすごいな……」
この言葉を聞いたヒカリン焦った様子を見せた。
「あ、でも、料理は魔法使わないで自分でしたんだよ!」
ひかりんは俊斗の方を見て、少し肩を上げる。なぜか困り顔だ。
俊斗はその様子から気持ちを汲み取った。
「大丈夫、わかってるよ」
「えへへー」
すぐに嬉しそうな表情に変わった。俊斗も笑顔になった。
朝食の美味しさに余計なことを考えずにいることができた俊斗。
その様子を気づかれないように見ていたヒカリンは、飛び跳ねたいほど嬉しい気持ちになっていた。
「なんでここまでしてくれるの?」
口を動かしながら俊斗は訊いた。
「だって……泊めてくれただけでも嬉しいからだよ」
ヒカリンは心にある気持ちを抑えた。しかし、俊斗のことはしっかりと見つめている。
俊斗は少し恥ずかしくなり、食べる勢いを上げた。
「そ、そっか、あはは」
(やったー! これからも頑張ろうっと!)
二人には時がものすごい速さで進んでいくように感じられた。朝の少しの時間に二人の距離はかなり縮まったようだ。
穏やかに流れる空気がその後の未来を伝えることはなかった。
アパートの前の道からは、一つの影が二人に視線を送っていた――。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説

収納大魔導士と呼ばれたい少年
カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。
「収納魔術師だって戦えるんだよ」
戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

いちGo! らぶイーたん
光海ひろあき。
ファンタジー
栃ノ木苺愛は生まれも育ちもトチギの小学生。
ある日苺愛は、亡くなった大好きなおばあちゃんのタンスから偶然、
苺レリーフの鍵をみつけ、お庭にある開かずの蔵に入りました。
蔵をあけるとそこは、
甘くて可愛いがたくさん詰まった不思議な魔法の世界、「いちごのくに」でした。
足を踏み入れたいちごのくにの住人たちはとても優しく、
お城に招かれた苺愛は、
たくさんのいちごスウィーツをご馳走になりました。
そしていちごのくにの王子、「いちごショート王子」から次のことを伝えられました。
・実は苺愛は、いちごのくにの伝説のプリンセス、「いちごのくにのイーたん」のひとりだということ。
・伝説では、いちごのくにのプリンセスは、
異世界であるトチギ生まれのトチギを愛する女の子がなれること。
・そして、実はいま、「いちごのくに」は謎の暗雲に包まれ、
国中の草花や川、大切ないちごが枯れかけて困っていること。
・「いちごのくに」を救うには、トチギの人々から生まれる希望のエネルギー「ストロベリスタル」が必要なこと。
つまりトチギに住む人々が元気になれば、「いちごのくに」も元気になること。
おもてなしをしてくれた、優しくて素敵ないちごの国のために、
伝説の「いちごのくにのイーたん」のひとり…
「らぶイーたん」になることを決意する苺愛。
大好きなトチギのみんなと、いちごのくにを元気にするために、
らぶイーたんの活躍が始まります!
「今日もベリーがんばりまぁす!」
忘却の艦隊
KeyBow
SF
新設された超弩級砲艦を旗艦とし新造艦と老朽艦の入れ替え任務に就いていたが、駐留基地に入るには数が多く、月の1つにて物資と人員の入れ替えを行っていた。
大型輸送艦は工作艦を兼ねた。
総勢250艦の航宙艦は退役艦が110艦、入れ替え用が同数。
残り30艦は増強に伴い新規配備される艦だった。
輸送任務の最先任士官は大佐。
新造砲艦の設計にも関わり、旗艦の引き渡しのついでに他の艦の指揮も執り行っていた。
本来艦隊の指揮は少将以上だが、輸送任務の為、設計に関わった大佐が任命された。
他に星系防衛の指揮官として少将と、退役間近の大将とその副官や副長が視察の為便乗していた。
公安に近い監査だった。
しかし、この2名とその側近はこの艦隊及び駐留艦隊の指揮系統から外れている。
そんな人員の載せ替えが半分ほど行われた時に中緊急警報が鳴り、ライナン星系第3惑星より緊急の救援要請が入る。
機転を利かせ砲艦で敵の大半を仕留めるも、苦し紛れに敵は主系列星を人口ブラックホールにしてしまった。
完全にブラックホールに成長し、その重力から逃れられないようになるまで数分しか猶予が無かった。
意図しない戦闘の影響から士気はだだ下がり。そのブラックホールから逃れる為、禁止されている重力ジャンプを敢行する。
恒星から近い距離では禁止されているし、システム的にも不可だった。
なんとか制限内に解除し、重力ジャンプを敢行した。
しかし、禁止されているその理由通りの状況に陥った。
艦隊ごとセットした座標からズレ、恒星から数光年離れた所にジャンプし【ワープのような架空の移動方法】、再び重力ジャンプ可能な所まで移動するのに33年程掛かる。
そんな中忘れ去られた艦隊が33年の月日の後、本星へと帰還を目指す。
果たして彼らは帰還できるのか?
帰還出来たとして彼らに待ち受ける運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる