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第1章 魔法少女との暮らし
1-2 突然の予感
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教室の窓の奥の方に見えるは校庭が見える。それは黄土色に眩しく光っている。午前の授業が終わり、昼休みになった。
俊斗が数学の授業の片付けをしていると、前の方から参考書を抱えた男子が近づいてきた。
「はじめまして、俺は鈴井友法、よろしく」
座っていた俊斗は立ち上がる。
「佐竹俊斗です、よろしく」
愛想笑いを浮かべ、初対面の相手に戸惑いながら話をした。
「なんだよーもっと軽くていいんだぞ俊斗、俺のことも友法って呼んでくれよな」
「あ、ありがとう、友法」
時の経過とともに不思議と気持ちが明るくなっていった。それは穏やかな陽気に誘われるようだった。
目の前には俊斗とほぼ同じ背の高さで短髪の友法。彼に心を緩めた瞬間だった。
「見ての通りこの高校は女子ばっかりだ。これを不幸と見るかチャンスと見るか、それは俊斗次第だからな」
友法はそう言うと口を大きく開いて笑った。俊斗への歓迎のつもりだったのだろうか。
俊斗はその友法に微笑んだ。
「それと、何か困ったことがあったら俺にいつでも聞けよ」
「ありがとう、助かるよ」
「当たり前だろ!」
友法は弾ける笑顔を見せながら、俊斗の肩に手を置いた。俊斗もつられて笑顔になった。
すると、友法は手に抱えた参考書を廊下のロッカーに片付けるために教室を出ていった。
俊斗は、登校から四時間ほどしか経っていないものの、目の前に広がるクラスに希望をもちはじめていた。
俊斗が椅子に座り、リュックから登校中に買ったコンビニのおにぎりを二つ机に置いた。すると、紗香が背後から話しかけてきた。
「ねえ俊斗くん、ちょっとお話があるからさ、いっしょにお弁当食べようよ」
振り返って見た机には既に桃色の弁当箱が置かれていた。紗香はその弁当箱に手を添え、首をかしげながら俊斗にこう提案した。
「うん、いいよ」
「ありがとー」
そう言うと紗香は自分の机を俊斗の机に優しくくっつけた。変な力が肩に入ってしまった。
「ん? どうしたの? やっぱりダメかな……?」
その様子に紗香はすぐに気がついた。紗香は紫の目の輝かせ、俊斗の顔を覗き込むようにして言った。
「ううん、全然そんなことないよ」
それに対し俊斗は気持ちを落ち着かせ、冷静に答えた。
窓からはさわ爽やかな風が流れてくる。
「オッケー」
そう言って紗香は椅子に座った。普段より近くに感じる人の気配に落ち着かない俊斗。紗香はそれに構う様子もない。
「それじゃあ食べよっか――」
「ちょっと待て! 私も混ぜろ!」
二人が食べ始めようとしているところに、ルナが大声で割り込んできた。その声は朝よりも元気さが増しているように感じた。
そう叫んだ直後、二人がルナを確認する間もなく、ルナは自分の机を思いっきり俊斗の机にぶつけた。
「えっ‼︎」
二人は同時に驚いた。教室中に大きな衝突音が響き、教室は一瞬の静寂に包まれる。教室中の視線がこの三人に集中した。しかし、事態を察したクラスメイトは再び何事もなかったかのように話し始め、教室には騒々しさが戻った。
それでも、俊斗と紗香はルナの方を見て驚きの顔をやめない。その状況に耐えきれなかったのか、ルナが始める。
「んーもう! いっしょに食べたいの!」
ふてくされた表情をするルナ。頬が赤くなっているのがわかった。
「あ、うん、いいよ」
俊斗は椅子に座りなおしながら返事をした。
「ふんっ」
発した声とは反対に嬉しそうな表情をするルナ。そのまま椅子に座る。
三人が横一列に並んで座った。
「それじゃあ、今度こそ食べようか」
間を開けずに紗香が言った。紗香の挨拶に二人が続く。
「いただきます」
「いただきます」
みなが二、三口を食べた頃、紗香が話し始める。
「えっとね、さっき言ったお話の内容なんだけど、俊斗くん、手芸部に入らない?」
「手芸部?」
予想していなかった部活の勧誘に口の動きを止める俊斗。そして、紗香の方を見た。
「うん、今ね、部員が二年生の三人しかいないの。そのうち二人は私とルナなんだけどね。今日の放課後、見学だけでもどうかな」
この類の誘いを断れない俊斗は、戸惑いながらも承知の返事をするしかなかった。
「ルナもいいよね?」
「もちろん! わ、私もそのために俊斗といっしょに食べようと思ったんだから!」
(そこまで訊いてない……)
ふと、俊斗は二人の会話に余計なことを考える。
焦った様子で紗香の問いかけに返事をするルナ。赤色の目が泳いでいるのがわかった。
「なら、見学してみるかな」
「やったー! ありがとう俊斗くん!」
そう言いながら紗香は俊斗の手をとる。後ろでルナがふてくされているのがわかった。
「それじゃあ今日の放課後案内するね」
「うん、よろしく」
こうして短い昼休みは一瞬で過ぎ去った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「みんなーさようなら!」
「さようならー」
歩美先生の相変わらずな挨拶で放課後が始まった。街が少しずつ黄色に染まっていく。俊斗はリュックを重そうに背負う。
「それじゃあついてきてね」
紗香とルナが既に教室から出ようと歩き始めていた。俊斗は二人に駆け寄り教室を後にした。
「手芸部の部室は同じ階のこの廊下の一番端っこにあるんだ、夕日がたくさん入るんだよ」
廊下の奥から夕日が差し込んでいるのが見える。
「なるほど、景色よさそうだね」
「うんうん!」
紗香の話にどう合わせて良いのかわからず、俊斗はズレた返事をしてしまう。だが、紗香はそれを気にすることなく廊下をスタスタと歩く。
ふと視線を感じ、俊斗は右下に目線を動かす。後ろの俊斗を片目で見ていたルナと目が合う。そして、すぐに前を向いてしまった。差し込む夕日が激しく揺れる金色の髪を照らす。
廊下の人混みの中、目の前の二人に俊斗は苦笑いをするしかなかった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここでーす!」
紗香は振り返り、右手を「手芸部」と書かれたドアに向けた。長い廊下を抜け、ようやく手芸部の部室に到着した。
「どうぞどうぞー」
紗香はすぐにそのドアを開け、室内に入り、俊斗を招く。その前にルナが部室に入った。俊斗は最後に部室に入る。
(ん……)
部室のドアに一歩近づいた時、他の部屋からは感じられなかった異様な何かを感じた。しかし、そのままドアに近づく。
「お邪魔します……」
「ようこそ手芸部へ!」
目の前にはテーブルがあり、その周りに六つほど椅子が並べられている。窓側にはホワイトボードもあり、壁際に引き出しや棚が並んでいた。部屋の広さは普通教室の半分ほどで、しっかりとした部室であった。
リュックを下ろしたルナは、窓を開ける。いたって普通の光景だ。
しかし、俊斗はこの室内にどこか違和感を覚えた。
「じゃあそこに座ってね」
紗香にそう言われ、ドアから一番近い席に座った。左側に紗香、右側にルナだ。ルナのふてくされた表情は未だ変わっていない。それに対し、紗香はとても楽しそうだ。
「俊斗くん、今日は手芸部を見学しに来てくれてありがとう! 本当はもう一人部員がいるんだけど、今日はお休みだからまた今度紹介するね。それじゃあ早速、手芸部の紹介を始めます! えっと、手芸部は今、これから始まる夏の……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三十分ほど手芸部について説明を受けた俊斗。紗香は相変わらず楽しそうに話していたが、途中からルナも話に混ざり、いつの間にか三人で盛り上がっていた。
「えっと、手芸部についてはこんな感じかな」
「ありがとう、なんか楽しかったよ」
「絶対入部するんだからな! 絶対だからな!」
「はい……」
ルナの威圧的な態度にも苦笑いで応じる俊斗。しかし、内心はとても穏やかな気分に浸っていた。気づかないうちにみな笑顔になっていた。この日始めて会ったはずの人たちとここまで仲良く話せたことに俊斗自身が一番驚いていただろう。
「あとは、この部室の物いろいろ見てみてね」
「うん」
紗香の提案に応じ、席を立つ俊斗。右側の棚の上に整理されていない雑誌が一冊だけあるのが目に入った。俊斗はその棚に近づき、雑誌を手に取った。
(『基礎から学ぶ魔法少女特集‼︎』って何これ……)
表紙を見ると魔法少女の格好をした少女がウインクをしながらポーズをとっていた。予想外の雑誌の題名に、表紙をめくろうか悩んでいると、その様子に気づいた紗香が話しかけてきた。
「あ、その雑誌は――」
「えっ‼︎」
一種の緊張状態にあった俊斗は自分に向けられたであろう突然の呼びかけに驚いた。振り返ると、紗香は不思議そうな顔をしている。その二人の間でルナは何かを作り始めていた。
「その雑誌は今日お休みの子の物だよ、興味あった?」
「う、ううん、たまたま見ただけだよ」
「そっか、何か気になったら質問してね」
「うん、ありがと……」
俊斗は肩の力を抜き、もう一度雑誌に目線を向けた。
(なんかおかしいな……)
俊斗はそう考えながらも雑誌を元あったところに戻した。他の本や雑誌はとても綺麗に並べられている。
部室の外を微かに風が通り抜ける。耳をすませば楽器の音色や合唱部の歌声、運動部の掛け声が聞こえてくる。気温は下がり始めた、澄んだ空も赤く染まり始めようとしていた。それはある気配の接近を示していたのかもしれない――。
俊斗が数学の授業の片付けをしていると、前の方から参考書を抱えた男子が近づいてきた。
「はじめまして、俺は鈴井友法、よろしく」
座っていた俊斗は立ち上がる。
「佐竹俊斗です、よろしく」
愛想笑いを浮かべ、初対面の相手に戸惑いながら話をした。
「なんだよーもっと軽くていいんだぞ俊斗、俺のことも友法って呼んでくれよな」
「あ、ありがとう、友法」
時の経過とともに不思議と気持ちが明るくなっていった。それは穏やかな陽気に誘われるようだった。
目の前には俊斗とほぼ同じ背の高さで短髪の友法。彼に心を緩めた瞬間だった。
「見ての通りこの高校は女子ばっかりだ。これを不幸と見るかチャンスと見るか、それは俊斗次第だからな」
友法はそう言うと口を大きく開いて笑った。俊斗への歓迎のつもりだったのだろうか。
俊斗はその友法に微笑んだ。
「それと、何か困ったことがあったら俺にいつでも聞けよ」
「ありがとう、助かるよ」
「当たり前だろ!」
友法は弾ける笑顔を見せながら、俊斗の肩に手を置いた。俊斗もつられて笑顔になった。
すると、友法は手に抱えた参考書を廊下のロッカーに片付けるために教室を出ていった。
俊斗は、登校から四時間ほどしか経っていないものの、目の前に広がるクラスに希望をもちはじめていた。
俊斗が椅子に座り、リュックから登校中に買ったコンビニのおにぎりを二つ机に置いた。すると、紗香が背後から話しかけてきた。
「ねえ俊斗くん、ちょっとお話があるからさ、いっしょにお弁当食べようよ」
振り返って見た机には既に桃色の弁当箱が置かれていた。紗香はその弁当箱に手を添え、首をかしげながら俊斗にこう提案した。
「うん、いいよ」
「ありがとー」
そう言うと紗香は自分の机を俊斗の机に優しくくっつけた。変な力が肩に入ってしまった。
「ん? どうしたの? やっぱりダメかな……?」
その様子に紗香はすぐに気がついた。紗香は紫の目の輝かせ、俊斗の顔を覗き込むようにして言った。
「ううん、全然そんなことないよ」
それに対し俊斗は気持ちを落ち着かせ、冷静に答えた。
窓からはさわ爽やかな風が流れてくる。
「オッケー」
そう言って紗香は椅子に座った。普段より近くに感じる人の気配に落ち着かない俊斗。紗香はそれに構う様子もない。
「それじゃあ食べよっか――」
「ちょっと待て! 私も混ぜろ!」
二人が食べ始めようとしているところに、ルナが大声で割り込んできた。その声は朝よりも元気さが増しているように感じた。
そう叫んだ直後、二人がルナを確認する間もなく、ルナは自分の机を思いっきり俊斗の机にぶつけた。
「えっ‼︎」
二人は同時に驚いた。教室中に大きな衝突音が響き、教室は一瞬の静寂に包まれる。教室中の視線がこの三人に集中した。しかし、事態を察したクラスメイトは再び何事もなかったかのように話し始め、教室には騒々しさが戻った。
それでも、俊斗と紗香はルナの方を見て驚きの顔をやめない。その状況に耐えきれなかったのか、ルナが始める。
「んーもう! いっしょに食べたいの!」
ふてくされた表情をするルナ。頬が赤くなっているのがわかった。
「あ、うん、いいよ」
俊斗は椅子に座りなおしながら返事をした。
「ふんっ」
発した声とは反対に嬉しそうな表情をするルナ。そのまま椅子に座る。
三人が横一列に並んで座った。
「それじゃあ、今度こそ食べようか」
間を開けずに紗香が言った。紗香の挨拶に二人が続く。
「いただきます」
「いただきます」
みなが二、三口を食べた頃、紗香が話し始める。
「えっとね、さっき言ったお話の内容なんだけど、俊斗くん、手芸部に入らない?」
「手芸部?」
予想していなかった部活の勧誘に口の動きを止める俊斗。そして、紗香の方を見た。
「うん、今ね、部員が二年生の三人しかいないの。そのうち二人は私とルナなんだけどね。今日の放課後、見学だけでもどうかな」
この類の誘いを断れない俊斗は、戸惑いながらも承知の返事をするしかなかった。
「ルナもいいよね?」
「もちろん! わ、私もそのために俊斗といっしょに食べようと思ったんだから!」
(そこまで訊いてない……)
ふと、俊斗は二人の会話に余計なことを考える。
焦った様子で紗香の問いかけに返事をするルナ。赤色の目が泳いでいるのがわかった。
「なら、見学してみるかな」
「やったー! ありがとう俊斗くん!」
そう言いながら紗香は俊斗の手をとる。後ろでルナがふてくされているのがわかった。
「それじゃあ今日の放課後案内するね」
「うん、よろしく」
こうして短い昼休みは一瞬で過ぎ去った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「みんなーさようなら!」
「さようならー」
歩美先生の相変わらずな挨拶で放課後が始まった。街が少しずつ黄色に染まっていく。俊斗はリュックを重そうに背負う。
「それじゃあついてきてね」
紗香とルナが既に教室から出ようと歩き始めていた。俊斗は二人に駆け寄り教室を後にした。
「手芸部の部室は同じ階のこの廊下の一番端っこにあるんだ、夕日がたくさん入るんだよ」
廊下の奥から夕日が差し込んでいるのが見える。
「なるほど、景色よさそうだね」
「うんうん!」
紗香の話にどう合わせて良いのかわからず、俊斗はズレた返事をしてしまう。だが、紗香はそれを気にすることなく廊下をスタスタと歩く。
ふと視線を感じ、俊斗は右下に目線を動かす。後ろの俊斗を片目で見ていたルナと目が合う。そして、すぐに前を向いてしまった。差し込む夕日が激しく揺れる金色の髪を照らす。
廊下の人混みの中、目の前の二人に俊斗は苦笑いをするしかなかった……。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ここでーす!」
紗香は振り返り、右手を「手芸部」と書かれたドアに向けた。長い廊下を抜け、ようやく手芸部の部室に到着した。
「どうぞどうぞー」
紗香はすぐにそのドアを開け、室内に入り、俊斗を招く。その前にルナが部室に入った。俊斗は最後に部室に入る。
(ん……)
部室のドアに一歩近づいた時、他の部屋からは感じられなかった異様な何かを感じた。しかし、そのままドアに近づく。
「お邪魔します……」
「ようこそ手芸部へ!」
目の前にはテーブルがあり、その周りに六つほど椅子が並べられている。窓側にはホワイトボードもあり、壁際に引き出しや棚が並んでいた。部屋の広さは普通教室の半分ほどで、しっかりとした部室であった。
リュックを下ろしたルナは、窓を開ける。いたって普通の光景だ。
しかし、俊斗はこの室内にどこか違和感を覚えた。
「じゃあそこに座ってね」
紗香にそう言われ、ドアから一番近い席に座った。左側に紗香、右側にルナだ。ルナのふてくされた表情は未だ変わっていない。それに対し、紗香はとても楽しそうだ。
「俊斗くん、今日は手芸部を見学しに来てくれてありがとう! 本当はもう一人部員がいるんだけど、今日はお休みだからまた今度紹介するね。それじゃあ早速、手芸部の紹介を始めます! えっと、手芸部は今、これから始まる夏の……」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
三十分ほど手芸部について説明を受けた俊斗。紗香は相変わらず楽しそうに話していたが、途中からルナも話に混ざり、いつの間にか三人で盛り上がっていた。
「えっと、手芸部についてはこんな感じかな」
「ありがとう、なんか楽しかったよ」
「絶対入部するんだからな! 絶対だからな!」
「はい……」
ルナの威圧的な態度にも苦笑いで応じる俊斗。しかし、内心はとても穏やかな気分に浸っていた。気づかないうちにみな笑顔になっていた。この日始めて会ったはずの人たちとここまで仲良く話せたことに俊斗自身が一番驚いていただろう。
「あとは、この部室の物いろいろ見てみてね」
「うん」
紗香の提案に応じ、席を立つ俊斗。右側の棚の上に整理されていない雑誌が一冊だけあるのが目に入った。俊斗はその棚に近づき、雑誌を手に取った。
(『基礎から学ぶ魔法少女特集‼︎』って何これ……)
表紙を見ると魔法少女の格好をした少女がウインクをしながらポーズをとっていた。予想外の雑誌の題名に、表紙をめくろうか悩んでいると、その様子に気づいた紗香が話しかけてきた。
「あ、その雑誌は――」
「えっ‼︎」
一種の緊張状態にあった俊斗は自分に向けられたであろう突然の呼びかけに驚いた。振り返ると、紗香は不思議そうな顔をしている。その二人の間でルナは何かを作り始めていた。
「その雑誌は今日お休みの子の物だよ、興味あった?」
「う、ううん、たまたま見ただけだよ」
「そっか、何か気になったら質問してね」
「うん、ありがと……」
俊斗は肩の力を抜き、もう一度雑誌に目線を向けた。
(なんかおかしいな……)
俊斗はそう考えながらも雑誌を元あったところに戻した。他の本や雑誌はとても綺麗に並べられている。
部室の外を微かに風が通り抜ける。耳をすませば楽器の音色や合唱部の歌声、運動部の掛け声が聞こえてくる。気温は下がり始めた、澄んだ空も赤く染まり始めようとしていた。それはある気配の接近を示していたのかもしれない――。
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