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第1章 魔法少女との暮らし
1-1 新しい日常
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日差しが眩しく感じられ始めた五月の初め、佐竹俊斗は私立法輝台高校に転校しなければならないと親から告げられた……。
法輝台高校は家から遠いため、学校近くにある二階建てのアパートに引っ越すことになり、今やっとその引っ越しが完了した。
「ありがとうございました」
「はい、それでは失礼します」
引っ越し業者の男が玄関のドアを閉めた。このアパートは建てられたばかりで、室内はもちろん外装もとても綺麗だ。それに、学生には学校からの補助金が出るらしい。俊斗がいる部屋は二〇六号室。室内ではダンボールとその中から取り出した少しの家具。窓からは夕日が差し込んでいる。
静寂と時計の秒針の音だけけが、一人暮らしにはちょうどの広さの室内に響く。窓の外には夕日に紅く染まった街が広がっていた。
「なんで転校しないといけなかったんだろ……」
中学二年生の妹は転校せずに、なぜか俊斗だけが転校することになった。両親は転校の理由を詳しくは教えてくれなかったが、どこか嬉しそうで「おめでとう」とばかり言っていた。
「まあ、いっか」
細かいことは気にしない性格だ。初めての一人暮らしと新たに始まる高校生活。俊斗は自分に向かって押し寄せる夕景を眺め、心を弾ませずにはいられなかった。明日は初めての登校だ――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ピピピピピッピピピピピッ……」
「ん……」
枕元に置いてあるスマートフォンが朝の六時を告げる。ベッドの上の俊斗は重たい目を擦りながらそのアラームを止めた。外からは小鳥のさえずりが流れてくる。
俊斗はベットから起き上がり、カーテンを開けた。真っ青な空の下、街がキラキラと輝きを放つ。清々しい朝だ。窓を開け、一つ背伸びをする。
「よし!」
爽やかな風が俊斗の身体を撫でる。これから始まる日常に想像を膨らませながら、朝の準備を始めた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俊斗は椅子に座りながら、小さなテレビから流れる朝のニュース番組を眺めている。前のテーブルには食べ終わったカップ麺。そもそも一人暮らしなのにテーブルは四人がけだ。そのおかげで部屋は狭く感じられる。
テレビの上の壁にかけられた時計が学校に向かう時刻(八時二十分)を指した。椅子から立ち上がり、朝食の片付けをする。テーブルの上にあるスマートフォンを手に取った。身長一七〇センチメートルほどの俊斗には少し大きな制服を身にまとい、鏡の前でネクタイの調子を整えた。
玄関に向かい、ゆっくりと靴を履く。
「行ってきます」
そう一言、誰もいない部屋に向かって言った。ドアを閉め、鍵をかける。
俊斗の住むアパートは一つの階に七部屋あり、合わせて十四部屋ある。全ての部屋に誰かが住んでいて、俊斗が来る前は、この部屋だけが空いていたようだ。
左側に歩き始め、階段を降りる。突然吹いた風に少し茶の混じった黒髪が乱れる。暖かな日差しの下、俊斗は心を弾ませ、学校に向かう。あることを忘れていることには気づかずに――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
歩いて五分ほどで学校に着いた。普通の生徒より遅れて登校するように言われていたため、周りには誰もいない。広い敷地に東西に伸びる校舎。陽の光に照らされ、白く光っている。その校舎の正面にある正門から昇降口に入った。
「おはようございます。佐竹俊斗です」
「おはよう、佐竹くんだね、ちょっと待ってね」
昇降口近くの事務室にいた事務員の人と話す。眠そうな目をしたおじさんだった。
俊斗が事務室の前の廊下で待っていると、事務室隣の職員室の方から若い女性の先生が走ってくるのが見えた。
「俊斗くーん、待たせてごめんねー」
「いえ、大丈夫です」
(この人が先生なのか……)
肩まで伸びた茶髪と身長に合わない大きな胸が揺れている。俊斗は下に目線をずらさないようにするので必死だった。
「二年六組担任の安藤歩美です、今日からよろしくね! それと、歩美って呼び捨てしてくれてもいいんだからね」
歩美先生は慣れた様子でウインクをする。
「よ、よろしくお願いします」
歩美先生の異様なテンションに戸惑い苦笑いをした。
「それじゃあ、教室に行きましょう、二階にあるから着いてきてね」
「あ、はい」
歩美先生に連れられ、二階の教室に向かう。その教室は階段を上ってすぐ左にあった。
「今日から俊斗くんがお勉強する教室はここです!」
「は、はあ……」
歩美先生が右手を教室に向かって広げる。教室のなかでは生徒が朝自習をしているようだ。
俊斗はまた苦笑いで返した。
先に歩美先生が教室に入る。
「おはようございまーす!」
「おはようございます」
先生の元気な挨拶に生徒が返事をする。どうやら歩美先生は普段からこの調子のようだ。
「先週も言った通り、今日からこのクラスに新しいお友達が増えまーす! 佐竹俊斗くん入ってきてー!」
歩美先生の様子に余計な緊張を感じていた俊斗は、開けっ放しのドアから教室に入る。その間、生徒の方は見れなかった。
「それじゃあ、黒板に自分の名前を書いて自己紹介してね」
「はい」
俊斗は白チョークを取り、黒板にゆっくりと自分の名前を縦書きで書いた。そして、バレないように深呼吸をし、後ろを振り返った。その時だ、
「え……」
息を飲んだ。俊斗の中にあったあの余計な緊張は一気に消え去った。思い描いていた光景とは全く違っていたからだ。これからクラスメイトになるであろう目の前の人たちはほとんどが女子で、男子は数えるほどしかいなかったのだ。
「ん? どうしたの? 俊斗くーん?」
「あ、すみません、えっと……佐竹俊斗です、今日からよろしくお願いします」
「はーいオッケー、それっじゃあ、俊斗くんの席は……、窓側から二列目の一番後ろの席ね!」
「はい」
俊斗は言われた席に向かい、リュックを下ろし、席に座る。周りの席は全員女子だった。
俊斗は黒板の方を見ると、全身に入っていた力を抜いた。
(マジか……)
「えーっと、朝の連絡は以上! 授業の準備をしてくださーい」
すぐに朝のショートホームルームは終わった。若干の放心状態の俊斗が右に置いたリュックに手を伸ばそうとすると、左の席の女子が話しかけてきた。
「えっと、俊斗くん? はじめまして、飯島紗香です。よろしくね」
肩より少し伸びた黒髪が背後から差す日差しを受けて輝いた。清楚な彼女は俊斗を笑顔で見つめていた。
「うん、よろしく――」
俊斗は話を続けようとしたが、今度は後ろから話しかけられた。
「おい、お前、私にも挨拶しろ!」
後ろを振り返ると、小学生と見間違えるほどの女子が腰に手をあて、ふてくされた表情で立っていた。
「よ、よろしくね……」
引きつった表情で返す。
すると、彼女は一瞬、嬉しそうな表情を浮かべた。しかし、何かを隠すようにすぐに表情を戻し、話を続けた。
「ん……まあいい! 私は神崎ルナだ、俊斗には特別私を呼び捨てにするのを許してやっても構わないぞ」
そう言うと、ルナは腰まで伸びた金髪を揺らしながら顔を横に向け、片目だけで俊斗を見つめる。
(呼び捨てにしたほうがいいよな……)
「じゃあ、ルナ……」
「特別だからな! 特別!」
どこか満足そうな表情のルナ。俊斗は苦笑い。それを聞いていた紗香がまた話しかけてきた。
「それじゃあ私のことも呼び捨てにしていいよ、そうしないと平等じゃないもんね」
「え、じゃあ……紗香」
「うんうん!」
紗香は嬉しそうに俊斗を見る。その表情にどこか謎の安心感を覚えた。俊斗は気づかぬうちに笑顔になっていた。
その状況に間髪入れずにルナが話し始める。
「んーもう! お前ら! なに二人でイチャイチャしてるんだ!」
そう言いながら、ルナは椅子に座ったままの俊斗の背中に抱きついた。
「えっ! ルナ⁉︎」
驚いて俊斗は胸の前にあるルナの手に自分の手をかけることしかできなかった。
「私と仲良くしないと許さないんだからな!」
「う、うん……」
紗香はこの二人を見て微笑むだけであった。ルナはなかなか離れようとしない。俊斗は苦笑いをしながら落ち着いてこの状況を理解しようとした。
(なんなんだこの状況……)
全開の教室の窓から(朝に俊斗が受けた風とは違った)爽やかな風が三人に向けて吹いた。黒髪と金髪が波を描き揺れるとともに、俊斗の心も微かに揺れた。
俊斗の日常は始まったばかりだ――。
法輝台高校は家から遠いため、学校近くにある二階建てのアパートに引っ越すことになり、今やっとその引っ越しが完了した。
「ありがとうございました」
「はい、それでは失礼します」
引っ越し業者の男が玄関のドアを閉めた。このアパートは建てられたばかりで、室内はもちろん外装もとても綺麗だ。それに、学生には学校からの補助金が出るらしい。俊斗がいる部屋は二〇六号室。室内ではダンボールとその中から取り出した少しの家具。窓からは夕日が差し込んでいる。
静寂と時計の秒針の音だけけが、一人暮らしにはちょうどの広さの室内に響く。窓の外には夕日に紅く染まった街が広がっていた。
「なんで転校しないといけなかったんだろ……」
中学二年生の妹は転校せずに、なぜか俊斗だけが転校することになった。両親は転校の理由を詳しくは教えてくれなかったが、どこか嬉しそうで「おめでとう」とばかり言っていた。
「まあ、いっか」
細かいことは気にしない性格だ。初めての一人暮らしと新たに始まる高校生活。俊斗は自分に向かって押し寄せる夕景を眺め、心を弾ませずにはいられなかった。明日は初めての登校だ――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「ピピピピピッピピピピピッ……」
「ん……」
枕元に置いてあるスマートフォンが朝の六時を告げる。ベッドの上の俊斗は重たい目を擦りながらそのアラームを止めた。外からは小鳥のさえずりが流れてくる。
俊斗はベットから起き上がり、カーテンを開けた。真っ青な空の下、街がキラキラと輝きを放つ。清々しい朝だ。窓を開け、一つ背伸びをする。
「よし!」
爽やかな風が俊斗の身体を撫でる。これから始まる日常に想像を膨らませながら、朝の準備を始めた――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
俊斗は椅子に座りながら、小さなテレビから流れる朝のニュース番組を眺めている。前のテーブルには食べ終わったカップ麺。そもそも一人暮らしなのにテーブルは四人がけだ。そのおかげで部屋は狭く感じられる。
テレビの上の壁にかけられた時計が学校に向かう時刻(八時二十分)を指した。椅子から立ち上がり、朝食の片付けをする。テーブルの上にあるスマートフォンを手に取った。身長一七〇センチメートルほどの俊斗には少し大きな制服を身にまとい、鏡の前でネクタイの調子を整えた。
玄関に向かい、ゆっくりと靴を履く。
「行ってきます」
そう一言、誰もいない部屋に向かって言った。ドアを閉め、鍵をかける。
俊斗の住むアパートは一つの階に七部屋あり、合わせて十四部屋ある。全ての部屋に誰かが住んでいて、俊斗が来る前は、この部屋だけが空いていたようだ。
左側に歩き始め、階段を降りる。突然吹いた風に少し茶の混じった黒髪が乱れる。暖かな日差しの下、俊斗は心を弾ませ、学校に向かう。あることを忘れていることには気づかずに――。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
歩いて五分ほどで学校に着いた。普通の生徒より遅れて登校するように言われていたため、周りには誰もいない。広い敷地に東西に伸びる校舎。陽の光に照らされ、白く光っている。その校舎の正面にある正門から昇降口に入った。
「おはようございます。佐竹俊斗です」
「おはよう、佐竹くんだね、ちょっと待ってね」
昇降口近くの事務室にいた事務員の人と話す。眠そうな目をしたおじさんだった。
俊斗が事務室の前の廊下で待っていると、事務室隣の職員室の方から若い女性の先生が走ってくるのが見えた。
「俊斗くーん、待たせてごめんねー」
「いえ、大丈夫です」
(この人が先生なのか……)
肩まで伸びた茶髪と身長に合わない大きな胸が揺れている。俊斗は下に目線をずらさないようにするので必死だった。
「二年六組担任の安藤歩美です、今日からよろしくね! それと、歩美って呼び捨てしてくれてもいいんだからね」
歩美先生は慣れた様子でウインクをする。
「よ、よろしくお願いします」
歩美先生の異様なテンションに戸惑い苦笑いをした。
「それじゃあ、教室に行きましょう、二階にあるから着いてきてね」
「あ、はい」
歩美先生に連れられ、二階の教室に向かう。その教室は階段を上ってすぐ左にあった。
「今日から俊斗くんがお勉強する教室はここです!」
「は、はあ……」
歩美先生が右手を教室に向かって広げる。教室のなかでは生徒が朝自習をしているようだ。
俊斗はまた苦笑いで返した。
先に歩美先生が教室に入る。
「おはようございまーす!」
「おはようございます」
先生の元気な挨拶に生徒が返事をする。どうやら歩美先生は普段からこの調子のようだ。
「先週も言った通り、今日からこのクラスに新しいお友達が増えまーす! 佐竹俊斗くん入ってきてー!」
歩美先生の様子に余計な緊張を感じていた俊斗は、開けっ放しのドアから教室に入る。その間、生徒の方は見れなかった。
「それじゃあ、黒板に自分の名前を書いて自己紹介してね」
「はい」
俊斗は白チョークを取り、黒板にゆっくりと自分の名前を縦書きで書いた。そして、バレないように深呼吸をし、後ろを振り返った。その時だ、
「え……」
息を飲んだ。俊斗の中にあったあの余計な緊張は一気に消え去った。思い描いていた光景とは全く違っていたからだ。これからクラスメイトになるであろう目の前の人たちはほとんどが女子で、男子は数えるほどしかいなかったのだ。
「ん? どうしたの? 俊斗くーん?」
「あ、すみません、えっと……佐竹俊斗です、今日からよろしくお願いします」
「はーいオッケー、それっじゃあ、俊斗くんの席は……、窓側から二列目の一番後ろの席ね!」
「はい」
俊斗は言われた席に向かい、リュックを下ろし、席に座る。周りの席は全員女子だった。
俊斗は黒板の方を見ると、全身に入っていた力を抜いた。
(マジか……)
「えーっと、朝の連絡は以上! 授業の準備をしてくださーい」
すぐに朝のショートホームルームは終わった。若干の放心状態の俊斗が右に置いたリュックに手を伸ばそうとすると、左の席の女子が話しかけてきた。
「えっと、俊斗くん? はじめまして、飯島紗香です。よろしくね」
肩より少し伸びた黒髪が背後から差す日差しを受けて輝いた。清楚な彼女は俊斗を笑顔で見つめていた。
「うん、よろしく――」
俊斗は話を続けようとしたが、今度は後ろから話しかけられた。
「おい、お前、私にも挨拶しろ!」
後ろを振り返ると、小学生と見間違えるほどの女子が腰に手をあて、ふてくされた表情で立っていた。
「よ、よろしくね……」
引きつった表情で返す。
すると、彼女は一瞬、嬉しそうな表情を浮かべた。しかし、何かを隠すようにすぐに表情を戻し、話を続けた。
「ん……まあいい! 私は神崎ルナだ、俊斗には特別私を呼び捨てにするのを許してやっても構わないぞ」
そう言うと、ルナは腰まで伸びた金髪を揺らしながら顔を横に向け、片目だけで俊斗を見つめる。
(呼び捨てにしたほうがいいよな……)
「じゃあ、ルナ……」
「特別だからな! 特別!」
どこか満足そうな表情のルナ。俊斗は苦笑い。それを聞いていた紗香がまた話しかけてきた。
「それじゃあ私のことも呼び捨てにしていいよ、そうしないと平等じゃないもんね」
「え、じゃあ……紗香」
「うんうん!」
紗香は嬉しそうに俊斗を見る。その表情にどこか謎の安心感を覚えた。俊斗は気づかぬうちに笑顔になっていた。
その状況に間髪入れずにルナが話し始める。
「んーもう! お前ら! なに二人でイチャイチャしてるんだ!」
そう言いながら、ルナは椅子に座ったままの俊斗の背中に抱きついた。
「えっ! ルナ⁉︎」
驚いて俊斗は胸の前にあるルナの手に自分の手をかけることしかできなかった。
「私と仲良くしないと許さないんだからな!」
「う、うん……」
紗香はこの二人を見て微笑むだけであった。ルナはなかなか離れようとしない。俊斗は苦笑いをしながら落ち着いてこの状況を理解しようとした。
(なんなんだこの状況……)
全開の教室の窓から(朝に俊斗が受けた風とは違った)爽やかな風が三人に向けて吹いた。黒髪と金髪が波を描き揺れるとともに、俊斗の心も微かに揺れた。
俊斗の日常は始まったばかりだ――。
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