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第2章 魔法の獲得
2-13 友情
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午後三時を過ぎ、カラオケが終了した。カラオケに行ったのが久しぶりだった俊斗にとってはかなりの疲労具合だが、それ以上に盛り上がった数時間であった。
「ありがとうございましたー」
店員から挨拶をもらい、一同はカラオケ店を後にする。
「ふぇー、楽しかったー」
ヒカリがガラガラになった声を張り上げ、背伸びをした。
「すごい声だぞ、大丈夫か」
「そんなルナも声枯れてるわよ」
「うるさい!」
なんとも和ましい日曜日の午後である。この一週間の出来事がまるで嘘のように感じられる。街は黄色に色づき始め、駅前には学生の姿が多くなってきた。
六人の合間を縫って心地よい風が優しく吹きぬける。それぞれの髪のコントラストが俊斗の風景に躍動を与えた。
「この後どうしよっか」
最前列を歩く紗香が、後ろに手を組み振り返る。
「んー、西口のゲーセンは?」
「駅にゲームセンターなんてあったのか」
「マジか、俊斗知らなかったのか」
「そりゃ、引っ越してきたばかりだからな」
「ああ、そっか、それじゃあ場所を教えてやろうか。みんな、これからゲーセンはどうですか」
「うん、いいんじゃないかな」
「よし、たくさんとってやるぞ‼」
「紗香ちゃんとルナちゃんは賛成みたいだけど、残りの二人はどうする?」
「まあ、いいんじゃない」
「オッケーだよ!」
「よし、じゃあ行こう!」
一人意気込んだ友法、まもなく赤になりそうな信号を急いで渡る。それに続いてみなも駆け足で追いかける。
人混みの中を丁寧に抜けて進むと、そのゲームセンターは駅の中に入ってすぐのところにあった。
「ここだぞ」
「へー、こんなところにあったのか」
「なんだ、あんま乗り気じゃないな俊斗」
「あんまお金ないんだよ」
「んなこと気にすんなよー」
友法は俊斗のまだ若干の痛みを残す腹部を後ろから叩くとその入口で宣言した。
「よーしみんな出発だ!」
「おー!」
それに応えたのはヒカリのみだったが、俊斗を残す五人はそのまま店内に入っていった。
何も考えずただついてきた俊斗はそのまま入口に独り置いて行かれたのである。
(おいおい、なんだよこれ)
近くのベンチで座って皆が出てくるのを待とうと考えた俊斗が辺りを見回していると、
「俊斗ー、あれ取ってー」
金髪に赤い目をしたロリが、左袖を引っ張ってきた。
「え、俺?」
「そう! いいから来て!」
駄々をこねるルナに引かれるままに俊斗は店内に入っていく。連れていかれたのは入ってすぐ右に曲がったところにあるUFOキャッチャーの台であった。そこでは紗香がルナが戻るまでの台の確保をさせられていた。中には高さ一メートル弱はあるシロクマのぬいぐるみが座っている。
「これ!」
俊斗の左袖を引いたままのルナはそのシロクマを指さし、キラキラした赤い目で俊斗を見つめる。その一瞬見ただけでもわかる瞳の輝きに、今までリリがアンドロイドであるとして余計な心情を抱いていたことに強烈な違和感を覚えた。
「…………」
俊斗はその赤い目を見つめたまま固まった。
「な、なんだよ……」
ルナが恥ずかしそうに視線を落とし、左右に泳がす。その様子をみて俊斗は我に返る。
「あ、ごめん」
「いいから早く取れ!」
「はい!」
俊斗の袖を離したルナは、顔を赤くしながら紗香の方に寄った。その行動に俊斗は紗香と目を合わせて互いに苦笑い。
場の雰囲気に合われた俊斗であったが、その心情は複雑なものであった。しかし、余計なことを考えないように目の前のUFOキャッチャーに集中する。そのまま自分の財布から百円を取り出し、機械に投入した。
「俊斗くん、頑張って」
紗香に笑顔でガッツポーズを見せられた俊斗は余計に緊張して鼓動を速くする。
(マジかこれ取れるのか)
とりあえず、シロクマの直上から掴むことにした。ゆっくりとした横移動。ここは丁寧に止めた。次の縦移動、機械の横から覗き込むようにして止める。しかし、若干早く止めすぎてしまい、そのままシロクマの少し手前に下がっていった。
(……頼む!)
それでも、シロクマには引っかかり、前に倒しながらそれを掴んだ。
後ろからは固唾をのんで見守る圧力。俊斗はそのシロクマに念じるしかなかった。
そのシロクマは頭を掴まれゆっくりと上昇していく。
(ここからなんだよなあ……)
その場にいる三人はシロクマの行方を凝視する。
(おち……るな……)
しかし案の定、シロクマは最高点に達した後そのまま下に落ちてしまう。
「あーもう! 俊斗下手すぎ!」
振り向くとルナが頬を膨らませて「もう一回やれ」と圧を送ってくる。ルナはそんなこと一言の発していないが俊斗は手際よく新たに百円を投入した。
ルナは少し満足そうに再び操作を始めた俊斗の手元を見つめる――。
「お! これで取れそう!」
「ホントか!」
それは俊斗が六百円を費やしたとき、少しずつ右の穴に近づいていたシロクマが漸くその真上まで移動してきたのだ。
「頑張れUFO‼」
(UFO応援する人初めて見たな……)
息を殺してシロクマの行方を見守る一同。そしてついに、最高点まで達したシロクマは穴の縁の上に勢いよく落ちた。
「そのまま落ちろ!」
久しぶりに叫んだ俊斗の声援もあってか、シロクマはとうとう頭から転がるように穴の中へ落下した。
「やったー‼」
「ふう……やっと取れた」
うつ伏せで倒れているシロクマを救い出した俊斗。二人の方に向きなおすと、紗香は小さく拍手をしてくれている。
なんだかうれしくなった俊斗は若干の笑顔を浮かべながらシロクマをルナに差し出した。
「ほら、取ったぞ」
「ありがと‼」
ルナはそのシロクマを受け取るのかと思ったら、そのシロクマもろとも俊斗に抱き着いた。
「え! ルナ⁉」
シロクマ越しに力を込めてしっかりと抱き着かれた俊斗は何もできず再び固まるだけだ。ルナはシロクマに顔をうずめてしまっているため、その表情をうかがうことができなかった。
カラオケの時にはあまり感じなかったルナの香りに、恥ずかしさやら緊張やらで紗香に助けを求めた。
「紗香、助けて」
「それじゃあ、私はヒカリちゃんたちのところに行ってくるね」
そう言って笑顔で立ち去ろうとする紗香。
「いや、ちょっと待って!」
しかし紗香は聞く耳を持たず手を振って店の奥の方に消えて行った。
(勘弁してよ……)
仕方なくルナの方に視線を移すと抱き着いたまま上目遣いのルナがすぐに提案してきた。
「よし、次のやつも取ってくれ」
「もう……わかったよ」
提案というより命令であるが、俊斗は仕方なくルナに従い次の台に向かうことにした。ルナと一緒にいることが嫌であると言ってしまえばそれは嘘だ。そんなことを、素直な笑顔を向けてくるルナを見ながら思った。
店内はものすごい騒音で溢れ、機械から放たれる眩い光で満ちている。その慣れない空間に俊斗は次第に目の前の単純なことにすら集中できなくなってしまっていた。今日が終わればまた忙しい日々が再開される。特に俊斗にとっては引っ越す前までの平穏な日々とは程遠い不安定な暮らしが待っていることであろう。その中に安らぎを求めようともがく俊斗であったが、現実はそう上手く確定しないのであった――。
「ありがとうございましたー」
店員から挨拶をもらい、一同はカラオケ店を後にする。
「ふぇー、楽しかったー」
ヒカリがガラガラになった声を張り上げ、背伸びをした。
「すごい声だぞ、大丈夫か」
「そんなルナも声枯れてるわよ」
「うるさい!」
なんとも和ましい日曜日の午後である。この一週間の出来事がまるで嘘のように感じられる。街は黄色に色づき始め、駅前には学生の姿が多くなってきた。
六人の合間を縫って心地よい風が優しく吹きぬける。それぞれの髪のコントラストが俊斗の風景に躍動を与えた。
「この後どうしよっか」
最前列を歩く紗香が、後ろに手を組み振り返る。
「んー、西口のゲーセンは?」
「駅にゲームセンターなんてあったのか」
「マジか、俊斗知らなかったのか」
「そりゃ、引っ越してきたばかりだからな」
「ああ、そっか、それじゃあ場所を教えてやろうか。みんな、これからゲーセンはどうですか」
「うん、いいんじゃないかな」
「よし、たくさんとってやるぞ‼」
「紗香ちゃんとルナちゃんは賛成みたいだけど、残りの二人はどうする?」
「まあ、いいんじゃない」
「オッケーだよ!」
「よし、じゃあ行こう!」
一人意気込んだ友法、まもなく赤になりそうな信号を急いで渡る。それに続いてみなも駆け足で追いかける。
人混みの中を丁寧に抜けて進むと、そのゲームセンターは駅の中に入ってすぐのところにあった。
「ここだぞ」
「へー、こんなところにあったのか」
「なんだ、あんま乗り気じゃないな俊斗」
「あんまお金ないんだよ」
「んなこと気にすんなよー」
友法は俊斗のまだ若干の痛みを残す腹部を後ろから叩くとその入口で宣言した。
「よーしみんな出発だ!」
「おー!」
それに応えたのはヒカリのみだったが、俊斗を残す五人はそのまま店内に入っていった。
何も考えずただついてきた俊斗はそのまま入口に独り置いて行かれたのである。
(おいおい、なんだよこれ)
近くのベンチで座って皆が出てくるのを待とうと考えた俊斗が辺りを見回していると、
「俊斗ー、あれ取ってー」
金髪に赤い目をしたロリが、左袖を引っ張ってきた。
「え、俺?」
「そう! いいから来て!」
駄々をこねるルナに引かれるままに俊斗は店内に入っていく。連れていかれたのは入ってすぐ右に曲がったところにあるUFOキャッチャーの台であった。そこでは紗香がルナが戻るまでの台の確保をさせられていた。中には高さ一メートル弱はあるシロクマのぬいぐるみが座っている。
「これ!」
俊斗の左袖を引いたままのルナはそのシロクマを指さし、キラキラした赤い目で俊斗を見つめる。その一瞬見ただけでもわかる瞳の輝きに、今までリリがアンドロイドであるとして余計な心情を抱いていたことに強烈な違和感を覚えた。
「…………」
俊斗はその赤い目を見つめたまま固まった。
「な、なんだよ……」
ルナが恥ずかしそうに視線を落とし、左右に泳がす。その様子をみて俊斗は我に返る。
「あ、ごめん」
「いいから早く取れ!」
「はい!」
俊斗の袖を離したルナは、顔を赤くしながら紗香の方に寄った。その行動に俊斗は紗香と目を合わせて互いに苦笑い。
場の雰囲気に合われた俊斗であったが、その心情は複雑なものであった。しかし、余計なことを考えないように目の前のUFOキャッチャーに集中する。そのまま自分の財布から百円を取り出し、機械に投入した。
「俊斗くん、頑張って」
紗香に笑顔でガッツポーズを見せられた俊斗は余計に緊張して鼓動を速くする。
(マジかこれ取れるのか)
とりあえず、シロクマの直上から掴むことにした。ゆっくりとした横移動。ここは丁寧に止めた。次の縦移動、機械の横から覗き込むようにして止める。しかし、若干早く止めすぎてしまい、そのままシロクマの少し手前に下がっていった。
(……頼む!)
それでも、シロクマには引っかかり、前に倒しながらそれを掴んだ。
後ろからは固唾をのんで見守る圧力。俊斗はそのシロクマに念じるしかなかった。
そのシロクマは頭を掴まれゆっくりと上昇していく。
(ここからなんだよなあ……)
その場にいる三人はシロクマの行方を凝視する。
(おち……るな……)
しかし案の定、シロクマは最高点に達した後そのまま下に落ちてしまう。
「あーもう! 俊斗下手すぎ!」
振り向くとルナが頬を膨らませて「もう一回やれ」と圧を送ってくる。ルナはそんなこと一言の発していないが俊斗は手際よく新たに百円を投入した。
ルナは少し満足そうに再び操作を始めた俊斗の手元を見つめる――。
「お! これで取れそう!」
「ホントか!」
それは俊斗が六百円を費やしたとき、少しずつ右の穴に近づいていたシロクマが漸くその真上まで移動してきたのだ。
「頑張れUFO‼」
(UFO応援する人初めて見たな……)
息を殺してシロクマの行方を見守る一同。そしてついに、最高点まで達したシロクマは穴の縁の上に勢いよく落ちた。
「そのまま落ちろ!」
久しぶりに叫んだ俊斗の声援もあってか、シロクマはとうとう頭から転がるように穴の中へ落下した。
「やったー‼」
「ふう……やっと取れた」
うつ伏せで倒れているシロクマを救い出した俊斗。二人の方に向きなおすと、紗香は小さく拍手をしてくれている。
なんだかうれしくなった俊斗は若干の笑顔を浮かべながらシロクマをルナに差し出した。
「ほら、取ったぞ」
「ありがと‼」
ルナはそのシロクマを受け取るのかと思ったら、そのシロクマもろとも俊斗に抱き着いた。
「え! ルナ⁉」
シロクマ越しに力を込めてしっかりと抱き着かれた俊斗は何もできず再び固まるだけだ。ルナはシロクマに顔をうずめてしまっているため、その表情をうかがうことができなかった。
カラオケの時にはあまり感じなかったルナの香りに、恥ずかしさやら緊張やらで紗香に助けを求めた。
「紗香、助けて」
「それじゃあ、私はヒカリちゃんたちのところに行ってくるね」
そう言って笑顔で立ち去ろうとする紗香。
「いや、ちょっと待って!」
しかし紗香は聞く耳を持たず手を振って店の奥の方に消えて行った。
(勘弁してよ……)
仕方なくルナの方に視線を移すと抱き着いたまま上目遣いのルナがすぐに提案してきた。
「よし、次のやつも取ってくれ」
「もう……わかったよ」
提案というより命令であるが、俊斗は仕方なくルナに従い次の台に向かうことにした。ルナと一緒にいることが嫌であると言ってしまえばそれは嘘だ。そんなことを、素直な笑顔を向けてくるルナを見ながら思った。
店内はものすごい騒音で溢れ、機械から放たれる眩い光で満ちている。その慣れない空間に俊斗は次第に目の前の単純なことにすら集中できなくなってしまっていた。今日が終わればまた忙しい日々が再開される。特に俊斗にとっては引っ越す前までの平穏な日々とは程遠い不安定な暮らしが待っていることであろう。その中に安らぎを求めようともがく俊斗であったが、現実はそう上手く確定しないのであった――。
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