魔法少女と世界を救うことになりました。

泡沫

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第2章 魔法の獲得

2-12 日曜日

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 六人は歩いて十分ほどの法輝台駅前にやってきた。日曜とだけあって人であふれている。キャリーケースを転がしながら改札を探す人、スマホを見ながら人とぶつかっている人、楽しそうにはしゃぐ中学生グループ。さっきまでの閑散とした様子は一変して、騒がしい駅前だ。

「じゃあさっそくカラオケいこー!」

「もう、しょうがないわね」

 あまり乗り気ではなかったはずのリリであるが、ヒカリに手を引かれ柔らかい表情をしていた。

「こら待てー!」

 その後をつけてルナと紗香が走り出す。四人の髪や衣服は暖かな日差しを浴びて揺らいでいる。その歩道の混沌に紛れた秩序ある輪郭に思わず見とれてしまうほどだった。

「ほら、俺らも行くぞ俊斗」

「あ、ああ」

 ふと我に戻された俊斗は四人の後を追ってカラオケ店に入る。
 紗香が予約を取っておいてくれたからスムーズに入出することができた。
 六人には丁度の広さの室内。外からは他の客の歌声が重低音とともに微かに響いてくる。一番最後に入室した俊斗は友法の隣の一番端の席に座ろうとした。

「どけ友法!」

 すると、その小さな体を生かして俊斗と友法の間にルナが割り込んできた。

「ちょっと狭くない?」

 どう反応していいかわからない俊斗は苦笑いを浮かべておく。

「それなら友法、もっとあっちにいけ」

「はいはいわかりやしたよ、みんな、もう少しそっちにずれてくれ」

 俊斗の左隣から円を描くようにして、みなが少しずつ間隔をとって移動する。

「それなら私もそっちに行かないといけないわね」

 そう言って俊斗の向かいに座っていたリリが、俊斗の右隣りに座ろうとしてきた。

「え、待って待ってもう座れないって」

「いいから」

 俊斗の右側にあるほんの十センチほどしかないソファーの隙間にリリが身体を押し付けるようにして座った。
 その勢いでリリの胸が俊斗の腕に当たりそうになる。

(近い近い!)

 一気に鼓動を速くさせ、身動きが取れなくなってしまう。両側から小柄な女子に密着され、無意識にリリの胸に視線が向いてしまった。

「俊斗、顔赤いわね、もしかして興奮してるの?」

 暗がりの中、微笑んだリリはより身体を近づけてきた。俊斗は慌てて視線を正面の黒テーブルに当てた。

「し、してないしてない、絶対にしてないから」

 肩に力が入り、呼吸が乱れてしまう。うなじの辺りにはリリの艶やかなツインテールがその動きに合わせてさらさらと当たっている。その感覚も相まって、余計に緊張してしまった。

「リリ、お前俊斗に近づきすぎだ!」

 ルナは俊斗の右腕を掴んだ。

「ちょっと!」

 俊斗は一言を発したまま、ルナの若干の柔らかな感触に頭が熱くなる。

「近づきすぎ? そんなことないわよ」

 今度はリリが俊斗の左腕を掴んだ。俊斗はもう何も話せない。左腕にかかる隠しきれない感触に理性を保つので精いっぱいだ。
 俊斗の両脇で赤い目同士が睨み合う。

「まったく、羨ましいわ」

「俊斗くん、相変わらずはしたないね、ヒカリちゃん」

「あ、あはは、そうだねー」

 呆れた表情でその様子を眺める友法と紗香に、ヒカリは苦笑いをするしかなかった。
 入口近くから、リリ・俊斗・ルナ・友法・紗香・ヒカリの順に半円の形に座っている。

「それじゃあ、まずはその三人から歌ってもらいましょう!」

 友法はそのまま二本のマイクを俊斗のまえに置いた。

「それなら、私と俊斗で歌うわよ」

 リリがマイクを二本とも取って、片方を俊斗に渡した。徐にそのマイクを受け取る俊斗。

「おい! 私が俊斗と歌うんだ!」

 ルナが俊斗の太ももに手をついて、リリが持つマイクを奪おうとする。必死に腕を伸ばして勢いをつけるが、リリはそのたびにマイクを遠ざける。

「なら、初めは私とルナで歌って、それを聴いた俊斗が歌いたいと思った方と歌えばいいわ」

「んー! しょうがないわかった!」

(なんでこうなるんだよ)

 いじけた様子のルナは俊斗のマイクを奪いリリを睨む。それに対してリリは余裕の表情だ。

「じゃあ、曲は俊斗が選んで」

「え! 俺⁉」

「あんたが判定者なんだから仕方ないわ」

「仕方ないって……」

「早く」

「はい」

 急いでタッチパネルを手に取り、選曲に取り掛かる。
 曲名を探している暇はなさそうだから月間ランキングから二人が歌えそうなボーカロイドの曲を選んだ。

「これで大丈夫?」

「いいわ」

「よし頑張るぞ!」

 その曲は丁度パートが二つに分かれている。

「私は黄色のパートにするぞ!」

「なら、私は赤のパートね」

 こうして分担が決定し、室内に一瞬の静寂と再びの緊張が訪れた。

「かけるぞ」

 俊斗が開始のボタンをタップすると、曲が流れ始めた。歌う二人以外はみなタンバリンやマラカスなどを手に取っているが、俊斗は二人の間に挟まれ何も手にしていない。
 十秒ほどの前奏のあとに、リリが歌い始めた。

「え、意外とうまいじゃん」

 ふとこぼした俊斗の声が聞こえたのかはわからないが、満足そうな表情で歌っている。いつものとがった声とは違った、透き通った華やかな歌声に状況を忘れて思わず聴き入ってしまう。乗り気ではなかったはずなのに、なぜか裏切られた気持ちだ。
 その歌声に、室内は盛り上がる。

「すごいすごーい!」

 ヒカリはタンバリンをこれでもかと振り回した。
 そうこうしているうちに、ルナのパートが回ってきた。リリの歌声にも動じず、しっかり息を吸って歌い始めた。

「やば……」

 いつもは口が悪く怒鳴ってばかりのルナだが、室内に響いたのはいつもの様子からは想像がつかないほどの女子の萌える歌声だった。しっかりとした芯をもち彩のある歌声に、俊斗は感動してしまった。

「いいぞルナー!」

 マラカスを持った紗香は曲のリズムに合わせてそれを振る。
 その後も演奏は続き、五分もしないうちに終了した。

「「「いえーい!」」」

「はぁー、余計な気張っちゃったわ」

「本当だまったく、これから俊斗と歌うのに」

 向かいで聴いていた三人は、その終了とともに音を鳴らす。しかし、俊斗にそのような余裕はない。これから、この二人の歌姫の中から片方を選ばなければならないのだ。

「おー‼ 九十九点‼ 二人ともすごいじゃん‼」

 友法が指さした画面には確かに高得点が表示されていた。ますます場が盛り上がる。

「さあ俊斗、どっちがいいか選ぶんだ」

(やめてくれ友法……)

 両脇の二人は何も言わず、マイクを握って俊斗を見つめている。室内には外から聴こえる音楽だけが静かに響き、みな緊張の面持ちで俊斗の答えを待っている。
 この状況からはやく脱したい俊斗は、急いで意を決した。

「リリで……」

「「「うおぉー‼」」」

 再び場が盛り上がりをみせ、俊斗はいたたまれない気持ちだ。

「ふん、ルナには悪かったわね」

「んー‼ なんで、なんでなの俊斗‼」

 ルナは俯いて涙目になりながら俊斗の右腕をポコポコと叩く。

「この後一緒に歌うから、ルナもすごい上手かったよ」

「そんなお世辞いらない! ひどいよ俊斗!」

 なぜかルナの口調がいつものような悪さを保っていなかった。ますます申し訳なくなってしまった俊斗は弁解を試みる。

「ルナがロリ声だったから――」

「ドサッ」

「いでっ‼」
(なんで褒め言葉じゃん!)

 ルナの心を汲み取れない俊斗の腹部は、鈍い音を立ててルナの右腕に打たれた。
 その後、猛烈な痛みに耐えながらリリと歌い、続けてルナと歌った。美声に支えられ何とか歌い切った俊斗だが、ルナも俊斗と歌えたことで機嫌が少しずつ回復していった。
 ほかの皆も順々に歌い、六人の絆がなんだかんだ深まっていったように感じる。両脇に女子の温もりを感じながらもどうにか理性を保つ俊斗であった――。
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