事故ってダンジョン攻略したら特典でやらかした

タスク

文字の大きさ
上 下
13 / 17

10. 待ち合わせ

しおりを挟む
土曜日、朝早く目を覚ました俺は手早く朝食を済ませて身支度を整える。ライアンとの待ち合わせにデートを楽しみにする学生のように胸が高鳴る。

デート先がダンジョンなんて殺伐としたところではあるけれど。別にデートでもないけど。

俺は待ち合わせに十分余裕を持って車に探索セットを積み込むとナビにライアンからメールがあった住所を打ち込む。しばらく検索が走ったあとナビが住所の場所を表示する。

「あぁ、あそこの大学の近くか。」

ナビが指し示す場所の側には有名な体育大学の名前が表示されている。ナビの縮尺や表示位置を変え、大体の道順を確認すると車を発進させた。

待ち合わせの15分前には指定の住所の位置に着いた。運転席の窓を開け、外を見る俺の目の前には塀に囲まれた大きなマンションが建っている。門のところに目を向けるとそこにはマンションが何であるかを告げる札が掛かっていた。

〇〇体育大学学生寮

「いやいやいや、さすがに学生ってことはないだろ。仮に学生だったとしても二十歳過ぎてたら問題ないよな。でも、もしまだ19とかだったりしたら……。いや、あの精悍な顔つきと色気で学生ってことはないだろ。確かにスポーツやってそうな凄い鍛えてる体ではあったけど、探索者ならそれくらいいるだろうし。そうだ、待ち合わせの目印になり易いからここにしたんだろ。やっぱりいきなり住んでるところの住所を教えるわけないよな。」
「何ぶつぶつ言ってるんだよ。」
「へっ?」

ハンドルに頭を預け、俯いて戸惑っていると窓の外から声を掛けられた。

「おはようさん。早かったな。」

窓の外にはリュックを背負ったライアンの姿があった。

「えっ。あ、あぁ。おはよう。車だから渋滞に巻き込まれて遅れたりしないようにな。」
「そうか。わるいな。迎えに来させて。」
「い、いや、それは気にしなくていい。それより、……今どこから来た?」
「どこって、そこから。」

そう言って親指を立てるとライアンの後ろにある学生寮を指さす。それに俺はわずかに青ざめる。

「ライアン、お前まさか学生か⁉」
「……あぁ、そういうことか。」

納得したといった風に頷いたライアンはニヤリと笑う。

「安心しろよ。俺はまだ学生だが21だぜ。顔とか歳のことはいつものことだけどよ。だから大地が俺に手を出しても。俺が大地に手を出しても問題なしだ。」
「なっ……!」

窓から顔を入れ、囁くように言ったライアンを顔を真っ赤にして凝視する。そういう所が学生らしくないって言うんだ。

「そもそも日本人の顔立ちが幼すぎるんだ。」
「はぁ~。まぁいい。とりあえず乗れよ。荷物は後部座席に積んでくれ。」

窓から顔を抜き、今言ったことが冗談、もしくは何もなかったかのように振舞うライアンに思わずため息が漏れる。

始めてあった時のロッカールームでもそうだったけど振り回されてるなぁ、俺。

ライアンが荷物を後部座席に乗せ、助手席に乗り込む。シートベルトをしっかり締めたことを確認して車を発進させた。

ダンジョンに向かう間にダンジョン内での行動やドロップ品の分配について打ち合わせをしておく。

「ダンジョン内での陣形とか行動ことだけど。」
「そうだなぁ。とりあえず俺が先頭でその後ろをついて来てくれ。知ってることもあるかもしれないけど、道中色々説明しながら進むわ。何かあれば都度確認して対応な。」
「わかった。モンスターはどうする?」
「単体のモンスターで大地が戦ったことがない奴なら大地がソロでやってみるといい。戦ったことがあるヤツなら交互だな。グループのモンスターなら2人でやるぞ。俺が引き付けるから大地が遊撃な。」
「俺は助かるが、いいのか?」
「ノープロ、ノープロ。装備の強化ができてれば12階層で活動してるんだぜ。装備強化なしでも肉体の強化はそのままだからな。5階層までのモンスターなら直撃貰ったって傷一つ負わねぇよ。」

ライアンはカラカラと快活に笑い、手を振って問題ないとアピールした。

「そうか、それじゃあ悪いけど頼むわ。」
「任せとけって。」
「あとはドロップ品の分配だけど、俺が護衛してもらう様なもんだし。ライアンが7割、俺が3割でいいか?」
「は?」

俺が分配率について話すとライアンは笑顔を引っ込め眉間に皺を寄せて不機嫌そうにこちらを見た。

各階層での戦闘するためにライアンを付き合わせることになるし指導料も考えるとそれでも少ないか?

「っと、悪いな。8:2くらいか?」
「悪いな、こういう時の相場を知らないんだ。」
「……馬鹿にしてんのか?」

ライアンが出す雰囲気がさらに険悪になっていく。

「じゃあ9:1か?悪いな、こういう時の相場を知らな「ちっげーよ!!5:5に決まってんだろ!!」」

俺が9:1を提案するとライアンが叫ぶように遮った。

「はぁ~……。そもそも探索は俺から誘ったことだろ。」

一度大きなため息をつき、気持ちを落ち着かせるようにしてから続けた。

「俺は大地が気になって声を掛けたし、あんだけアピールしてただろ。そんな巻き上げるようなことをするわけないだろ。そういうことをする奴だと思ってたのかよ。」
「別にそんなつもりだったんじゃないんだ。悪い。」
「分かればいいんだけどよ。第一そんな指導料を取るようなことをするなら探索に誘った時に説明するだろ。」
「そうか。それもそうだな。」
「だろ。こんな直前に分け前の話するとか悪徳だろ。」

そう言ってまた笑いだしたライアンにつられて俺も笑った。

「……それで、どうなんだよ。」

そこでふとライアンが真面目な顔になった。さっきまでの快活な笑顔とのギャップにドキリとする。

「ど、どうって?」
「今言ったろ。あれだけ露骨にアピールしてたんだぞ。目逸らしたり、赤くなったり反応は良さそうだったが、正直なところどうなんだよ。」
「あ~…その、何だ。ライアンは「待った、やっぱ無し!!」……えっ?」

突然のやっぱ無し宣言に思考が思わずフリーズする。やっぱりアピールしてきてたのは何かの間違いだったか。

「っと悪い。勘違いすんなよ。」

残念に思ってたのが顔に出ていたのかライアンが少し慌てたように続ける。

「結果がどっちであれ、今聞くとダンジョン探索に影響しそうだからな。また今度聞くわ。」
「……そっか、わかった。じゃあまた今度な。」

そうして再びダンジョン内での動きについて話を詰めながら横浜ダンジョンに向かった。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

削除予定です

伊藤ほほほ
ファンタジー
削除します

元勇者のデブ男が愛されハーレムを築くまで

あれい
ファンタジー
田代学はデブ男である。家族には冷たくされ、学校ではいじめを受けてきた。高校入学を前に一人暮らしをするが、高校に行くのが憂鬱だ。引っ越し初日、学は異世界に勇者召喚され、魔王と戦うことになる。そして7年後、学は無事、魔王討伐を成し遂げ、異世界から帰還することになる。だが、学を召喚した女神アイリスは元の世界ではなく、男女比が1:20のパラレルワールドへの帰還を勧めてきて……。

辻ダンジョン掃除が趣味の底辺社畜、迷惑配信者が汚したダンジョンを掃除していたらうっかり美少女アイドルの配信に映り込み神バズりしてしまう

なっくる
ファンタジー
ダンジョン攻略配信が定着した日本、迷惑配信者が世間を騒がせていた。主人公タクミはダンジョン配信視聴とダンジョン掃除が趣味の社畜。 だが美少女アイドルダンジョン配信者の生配信に映り込んだことで、彼の運命は大きく変わる。実はレアだったお掃除スキルと人間性をダンジョン庁に評価され、美少女アイドルと共にダンジョンのイメージキャラクターに抜擢される。自身を慕ってくれる美少女JKとの楽しい毎日。そして超進化したお掃除スキルで迷惑配信者を懲らしめたことで、彼女と共にダンジョン界屈指の人気者になっていく。 バラ色人生を送るタクミだが……迷惑配信者の背後に潜む陰謀がタクミたちに襲い掛かるのだった。 ※他サイトでも掲載しています

Hしてレベルアップ ~可愛い女の子とHして強くなれるなんて、この世は最高じゃないか~

トモ治太郎
ファンタジー
孤児院で育った少年ユキャール、この孤児院では15歳になると1人立ちしなければいけない。 旅立ちの朝に初めて夢精したユキャール。それが原因なのか『異性性交』と言うスキルを得る。『相手に精子を与えることでより多くの経験値を得る。』女性経験のないユキャールはまだこのスキルのすごさを知らなかった。 この日の為に準備してきたユキャール。しかし旅立つ直前、一緒に育った少女スピカが一緒にいくと言い出す。本来ならおいしい場面だが、スピカは何も準備していないので俺の負担は最初から2倍増だ。 こんな感じで2人で旅立ち、共に戦い、時にはHして強くなっていくお話しです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

高校からの帰り道、錬金術が使えるようになりました。

マーチ・メイ
ファンタジー
女子校に通う高校2年生の橘優奈は学校からの帰り道、突然『【職業】錬金術師になりました』と声が聞こえた。 空耳かと思い家に入り試しにステータスオープンと唱えるとステータスが表示された。 しばらく高校生活を楽しみつつ家で錬金術を試してみることに 。 すると今度はダンジョンが出現して知らない外国の人の名前が称号欄に現れた。 緩やかに日常に溶け込んでいく黎明期メインのダンジョン物です。 小説家になろう、カクヨムでも掲載しております。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...