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8. 危険なドロップ品
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スライムは用意しておいた各種対策で、角ウサギは斧で狩っていく。どちらもワンパターンに慣れてしまわないように速攻で駆け寄って倒すだけでなく、あえて攻撃を誘ってから躱して倒したり、突進を斧の腹で受け止めたりと色々試してみる。
途中昼食や休憩を挟みながら探索を続け、どちらとの戦闘にも慣れてきたところで時計を見ると夕方の6時だった。
「そろそろ戻るか。」
俺は地上の出口に向かって元来た道を戻り始める。
数回戦闘を挟みながら移動し、出口直前にも角ウサギが姿を見せた。突進の速度にも慣れて楽に躱せるようになったので今回は突進に合わせてカウンターを入れてみる。
角ウサギが飛び込んできたところで斜め前に踏み込み、斧を振りぬくと刃が角ウサギの額にめり込む。頭を割られた角ウサギは血をまき散らしながら前方に転がっていった。
「……この倒し方はやめよう。」
まき散らされた血を浴びてドロドロになった自分の体を見て、この倒し方はもうしないと心に決めた。
今回は角ウサギを32匹、スライムを28匹狩った所で探索を終了する。 今日の戦果はコアが合わせて23個、毛皮が5枚、角が8本、兎肉が4つ、ローションが10本。あとは中身が分からない中瓶1本だ。
周りからギョッとした視線を浴びながらダンジョンを出ると急いでロッカールームに向かう。
ドロップアイテムをロッカーにしまうと備え付けのコイン式乾燥機能付き洗濯機で装備を洗い、その間に自分も返り血を流す事にする。
ロッカーからバスタオルと入浴セットを取り出してシャワールームに向かう。扉を開けようとすると向こう側から突然開けられた。
「おっと、わるいな。」
扉の向こうからは腰にバスタオルを巻き、鍛えられた上半身を男性が頭から被ったフェイスタオルで髪を拭きながら出てきた。タオルの隙間からと髭を生やした彫りの深いワイルド系の顔が見えた。
「いえ、こちらこそ。」
一度横に避けて男性を通すとシャワールームに入る。中は間仕切りで仕切られたシャワースペースにカーテンが付けられた簡易的な作りだった。
空いている適当なスペースに入り、頭からシャワーでお湯を被るとシャンプーとボディーソープで固まった血を洗い流していく。
「ふう。さっぱりした。」
シャワールームは室温と湿度が高く、ここいると汗をかきそうなので滴り落ちないようにざっと拭くと腰にタオルを巻いて足早にロッカールームに戻る。
ロッカーからフェイスタオルを取り出すとベンチに座って頭をタオルで拭き直す。
「よう。さっきは凄い返り血だったな。」
声がする方を見ると先ほどの男性がワイルドながらも人懐っこそうな笑顔をこちらに向けていた。
男性は先ほどのまま腰にタオルを巻いた姿のままフェイスタオルを肩にかけただけだった。さっきは見えなかった髪は赤茶色で後ろに流してある。
「隣、いいか?」
「どうぞ。」
他のベンチも空いているのだが俺は少し横にずれてスペースを空けてやるとニヤリと笑って隣に座った。
直ぐ近くに感じる鍛えられた肉体の熱に少し赤らみ、視線がチラチラと体に向いてしまう。
「あんなに返り血浴びるなんてかなりの大物とやり合ったのか?」
「大物とやり合うような深いところにはまだいけませんよ。ダンジョンには解放直後に少しもぐっただけで先週まで来てませんでしたし。今は浅いところでモンスターを狩ってるだけですよ。」
「じゃああの返り血は何だったんだ?」
「角ウサギを狩った時の方法が悪くて。今は斧を使ってるので普段は攻撃を躱してから振り下ろして首をはねるんですけど横着して突進に対して野球のバッティングのようにカウンターで振ったら血をまき散らしながら飛んで行ってしまって。」
「なんだ、そうだったのか。」
額が割れたウサギが血を撒き散らしながら飛んで行く様子は本当に悲惨だった。死体が消えるんだから撒き散らした血も消えてくれればいいのに。
あのときの事を思い出して思わずため息が漏れる。
「大物の情報に期待してたならご期待に沿えなくてすいません。」
「あぁ、別そういうつもりじゃないから気にしないでくれ。それより低階層を回ってるなら今度一緒に潜らないか?見たところ連れもいないみたいだしソロなんだろ?」
「そうですけど。かなり鍛えていらっしゃる様ですしそちらは深いところで活動してるんじゃないんですか?それにパーティの方は?」
「俺は元々ソロの探索者だ。パーティは時々気が向いたり、助っ人の依頼があればその間だけって感じだ。普段の活動場所は12層なんだがこの間、武器を壊しちまってな。今は浅いところで武器を鍛えるんだ。」
「そうだったんですか。武器の強化ってどのくらい強化されてるかとかわかるんですか?」
武器や防具が強化される話は聞いたが強化具合を調べる方法は聞いたことがなかった。
どのくらい強化されているのかわからないと深く潜る時に困るだろう。
「まぁ、感覚頼りでもいいがJDOで装備の鑑定もしてもらえるから依頼すれば強化状態を数値で出してくれるぞ。俺は新調したばかりだから当分は5階層辺りで活動してる。それでどうだ?一緒に潜る件。一緒に潜るなら色々アドバイスとかしてやれるぞ。」
深く潜るには探索のノウハウや探索者同士の暗黙の了解なんかもあるだろうし悪い話じゃないだろ。
俺はチラリと相手の鍛えられた体を見てバスタオルに隠された彼のイチモツを想像する。
特に何か出来なくても近くにいられるだけでなかなか美味しい状況だしな。
「わかりました。足を引っ張らないようにするので都合が合えばお願いします。」
「よし!そうこなくちゃな。じゃあちょっと待ってな。」
そう言って立ち上がるとロッカーの方に行ってしまった。
直ぐに戻ってきた彼の手には一枚のメモが握られていた。
「ほら、俺の連絡先。後で連絡してくれ。」
「ありがとうございます。」
受け取ったメモを見ると名前と電話番号、メールアドレスが書いてあった。
ライアン・リード
tel 080-xxxx-xxxx
mail xxxx.xxxxx@xxxx.co.jp
「リードさん?」
「ライアンでいい。あと敬語も無しな。」
グッと顔を近づけて言ってくるライアンに顔が紅くなる。
「あ、あぁ、わかった。よろしく、ライアン。」
「よし。」
そういって顔が離れると落ち着くが少し残念な気持ちになる。
「彫りが深いし、そうだとは思ってたけど日本語がうまいな。出身は?」
「あぁ。一応カリフォルニアってことになるが日本産まれ日本育ちだ。両親はどっちもアメリカ人だが親父が米軍所属でな。横須賀の基地にいる間に俺が生まれたんだ。一時期親父の地元のカリフォルニアもいたがほとんど日本で生活してたからな英語も日本語も問題なし。」
「そうか。親が軍人だと色々厳しそうだな。」
「親父には小さい頃から結構鍛えられてたし、戦闘訓練とか銃の打ち方も仕込まれたな。」
「そうか。それが今活きてるんだな。」
「まぁな。親父だけじゃなくて他の基地の軍人にも……。」
突然ライアンの顔が近づき耳元に息が掛かる。
「色々仕込まれたしな。」
「っ!」
ライアンの予想外の行動に思わず仰け反って距離を取る。顔が熱を持って先ほどより紅くなるのが分かる。
「なっ、なにを……。」
ピーピーピー
洗濯機から完了を知らせる電子音が鳴るが俺が使っている洗濯機はまだ動いている。
「おっ、終わったな。」
ライアンは洗濯機から中身を取り出していく。
「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。連絡くれよ。」
ライアンはニカッと笑い。ロッカーの方に消えていった。
「っはー。びっくりした。やっぱりチラチラ体を見てたのはバレてるか。」
「あぁ、そういえば。」
「っ!」
突然戻ってきたライアンに今の呟きを聞かれたかと思わず息を飲む。
「どうした?」
「い、いや、なんでもない。ライアンはどうしたんだ?」
「名前だよ、名前。あんたの名前を聞いてなかった。」
「あ、あぁ。そうだったか。悪い。俺は重森大地だ。」
「大地か。わかった、じゃあ連絡くれよ。待ってるぜ。」
そういってライアンは今度こそロッカーの方に消えて戻ってこなかった。
「ふう~、……は、はっくしょん。あー、こんな格好でいたから体が冷えたかな。」
俺はバスタオル1枚の格好だったことを思い出し、なんとなく気まずくてライアンに会わないように様子を窺いながら自分のロッカーで着替えを済ませて洗濯機が終わるのを待った。
「お待たせ致しました。ダンジョンで取得したアイテムをお預かりします。」
「これをお願いします。」
俺がカウンターに向かうとちょうど先週の人と同じ人が担当だった。ドロップ品が入った袋をカウンターに置き、中身を確認してもらう。
「今回も多いですね。」
「あっ、先週のこと覚えてましたか。」
「はい。一度にこれだけの量が持ち込まれることはありませんでしたから。持ち込まれる物の数はだいたい15から20個くらいで30個を越えたことはありません。」
そうなると提出するドロップ品を減らした方がいいか?でも、ダンジョンに置いてくるのはもったいないし、検品を受けずに持ち出すのは不味いしな。
「コアが23個、毛皮が5枚、角が8本、肉が4つ、小瓶が10本、中瓶が1本。この中瓶は見たことがないですね。」
「そうなんですか?」
「えぇ、この瓶はどこでドロップしましたか?」
「2階層のスライムからですけど。」
「そうですか。」
担当の女性はそうつぶやくメモを取って中瓶に貼り付けていた。
「では、こちらの札の番号でお呼びしますのでお掛けになってお待ち下さい。」
「あ、はい。お願いします。」
札を受け取ると後ろのベンチに座る。ポケットから携帯と先ほどのメモを取り出すとアドレス帳にライアンの連絡先を登録した。
そのままライアン宛てのメールを書いてる間に呼ばれたので編集中のメールは下書き保存してカウンターに向かう。
「お待たせ致しました。こちらが買取の場合の査定結果になります。」
コア 23個 × 50 = 1150 円
角ウサギの毛皮 5枚 × 150 = 750 円
角ウサギの角 8本 × 100 = 800 円
兎肉 4つ 計1400g × 100/100g = 1400 円
スライムローション 10本 × 30 = 300 円
王水 1本 × 500 = 500 円(強制買取)
合計 4900 円
「鑑定の結果の中瓶は王水という金属を溶解する強酸性の液体でした。こちらは危険物として強制買取となります。」
「王水ですか、珍しいものなんですか?」
「濃塩酸と濃硝酸の混合物で業者が使ったりするので物としては珍しいものではありません。ただ、ドロップ品として持ち込まれたことはないので珍しいともいえますね。すべて買い取りでよろしいですか?」
そう聞かれてスライムローションだけ持って帰って使おうと思っていたことを思い出した。
「スライムローションだけ持って帰ります。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。…………お待たせ致しました。こちらが買取分の査定結果とスライムローション10本です。宜しければ署名をお願いします。」
コア 23個 × 50 = 1150 円
角ウサギの毛皮 5枚 × 150 = 750 円
角ウサギの角 8本 × 100 = 800 円
兎肉 4つ 計1400g × 100/100g = 1400 円
王水 1本 × 500 = 500 円(強制買取)
合計 4600 円
「……はい、これで大丈夫です。」
俺は受け取りの署名をするとその場でローションを受け取りリュックにしまう。
「では買い取り金はお振込みしておきます。本日はお疲れ様でした。」
お礼を言って駐車場に向かうと直ぐに車に乗り込んで自宅に向かった。
「はぁぁぁ~。」
寝室に入ると荷物を置いて息を吐きながらベッドに体を投げ出す。そのままゴロゴロしながらポケットから携帯を取り出した。
メールアプリを起動して編集中だったライアン宛のメールを開くと無難な挨拶と一緒にダンジョンに潜るのを楽しみにしてる旨を書いて送信した。
「ライアンか。凄い身体だったな……。」
鍛えられた身体とタオルに隠されていたイチモツを想像して身体が熱くなる。下半身に血が集まるのを感じて、そこに手が伸びる。
「うっ……。んっ……。」
立ち上がった自分のモノを服の上からやわやわと揉みしだき、思わす声が漏れる。
ヴヴーヴヴーヴヴー
「っ!」
響く携帯のバイブ音に俺はビクリと肩を震わせて動きを止める。
「……早いな。」
携帯を確認するとライアンからの返信だった。メールを開くとメールをもらえて嬉しいと来週のダンジョン探索のお誘いだった。
そのまま数回メールを繰り返し、ライアンは毎回電車を使ってると言うので来週は俺が迎えに行ってダンジョン探索することになった。
「……風呂にするか。」
メールを終えたときには気持ちが落ち着いていた俺は続きをする気にもならず、風呂を沸かす為に寝室を後にした。
途中昼食や休憩を挟みながら探索を続け、どちらとの戦闘にも慣れてきたところで時計を見ると夕方の6時だった。
「そろそろ戻るか。」
俺は地上の出口に向かって元来た道を戻り始める。
数回戦闘を挟みながら移動し、出口直前にも角ウサギが姿を見せた。突進の速度にも慣れて楽に躱せるようになったので今回は突進に合わせてカウンターを入れてみる。
角ウサギが飛び込んできたところで斜め前に踏み込み、斧を振りぬくと刃が角ウサギの額にめり込む。頭を割られた角ウサギは血をまき散らしながら前方に転がっていった。
「……この倒し方はやめよう。」
まき散らされた血を浴びてドロドロになった自分の体を見て、この倒し方はもうしないと心に決めた。
今回は角ウサギを32匹、スライムを28匹狩った所で探索を終了する。 今日の戦果はコアが合わせて23個、毛皮が5枚、角が8本、兎肉が4つ、ローションが10本。あとは中身が分からない中瓶1本だ。
周りからギョッとした視線を浴びながらダンジョンを出ると急いでロッカールームに向かう。
ドロップアイテムをロッカーにしまうと備え付けのコイン式乾燥機能付き洗濯機で装備を洗い、その間に自分も返り血を流す事にする。
ロッカーからバスタオルと入浴セットを取り出してシャワールームに向かう。扉を開けようとすると向こう側から突然開けられた。
「おっと、わるいな。」
扉の向こうからは腰にバスタオルを巻き、鍛えられた上半身を男性が頭から被ったフェイスタオルで髪を拭きながら出てきた。タオルの隙間からと髭を生やした彫りの深いワイルド系の顔が見えた。
「いえ、こちらこそ。」
一度横に避けて男性を通すとシャワールームに入る。中は間仕切りで仕切られたシャワースペースにカーテンが付けられた簡易的な作りだった。
空いている適当なスペースに入り、頭からシャワーでお湯を被るとシャンプーとボディーソープで固まった血を洗い流していく。
「ふう。さっぱりした。」
シャワールームは室温と湿度が高く、ここいると汗をかきそうなので滴り落ちないようにざっと拭くと腰にタオルを巻いて足早にロッカールームに戻る。
ロッカーからフェイスタオルを取り出すとベンチに座って頭をタオルで拭き直す。
「よう。さっきは凄い返り血だったな。」
声がする方を見ると先ほどの男性がワイルドながらも人懐っこそうな笑顔をこちらに向けていた。
男性は先ほどのまま腰にタオルを巻いた姿のままフェイスタオルを肩にかけただけだった。さっきは見えなかった髪は赤茶色で後ろに流してある。
「隣、いいか?」
「どうぞ。」
他のベンチも空いているのだが俺は少し横にずれてスペースを空けてやるとニヤリと笑って隣に座った。
直ぐ近くに感じる鍛えられた肉体の熱に少し赤らみ、視線がチラチラと体に向いてしまう。
「あんなに返り血浴びるなんてかなりの大物とやり合ったのか?」
「大物とやり合うような深いところにはまだいけませんよ。ダンジョンには解放直後に少しもぐっただけで先週まで来てませんでしたし。今は浅いところでモンスターを狩ってるだけですよ。」
「じゃああの返り血は何だったんだ?」
「角ウサギを狩った時の方法が悪くて。今は斧を使ってるので普段は攻撃を躱してから振り下ろして首をはねるんですけど横着して突進に対して野球のバッティングのようにカウンターで振ったら血をまき散らしながら飛んで行ってしまって。」
「なんだ、そうだったのか。」
額が割れたウサギが血を撒き散らしながら飛んで行く様子は本当に悲惨だった。死体が消えるんだから撒き散らした血も消えてくれればいいのに。
あのときの事を思い出して思わずため息が漏れる。
「大物の情報に期待してたならご期待に沿えなくてすいません。」
「あぁ、別そういうつもりじゃないから気にしないでくれ。それより低階層を回ってるなら今度一緒に潜らないか?見たところ連れもいないみたいだしソロなんだろ?」
「そうですけど。かなり鍛えていらっしゃる様ですしそちらは深いところで活動してるんじゃないんですか?それにパーティの方は?」
「俺は元々ソロの探索者だ。パーティは時々気が向いたり、助っ人の依頼があればその間だけって感じだ。普段の活動場所は12層なんだがこの間、武器を壊しちまってな。今は浅いところで武器を鍛えるんだ。」
「そうだったんですか。武器の強化ってどのくらい強化されてるかとかわかるんですか?」
武器や防具が強化される話は聞いたが強化具合を調べる方法は聞いたことがなかった。
どのくらい強化されているのかわからないと深く潜る時に困るだろう。
「まぁ、感覚頼りでもいいがJDOで装備の鑑定もしてもらえるから依頼すれば強化状態を数値で出してくれるぞ。俺は新調したばかりだから当分は5階層辺りで活動してる。それでどうだ?一緒に潜る件。一緒に潜るなら色々アドバイスとかしてやれるぞ。」
深く潜るには探索のノウハウや探索者同士の暗黙の了解なんかもあるだろうし悪い話じゃないだろ。
俺はチラリと相手の鍛えられた体を見てバスタオルに隠された彼のイチモツを想像する。
特に何か出来なくても近くにいられるだけでなかなか美味しい状況だしな。
「わかりました。足を引っ張らないようにするので都合が合えばお願いします。」
「よし!そうこなくちゃな。じゃあちょっと待ってな。」
そう言って立ち上がるとロッカーの方に行ってしまった。
直ぐに戻ってきた彼の手には一枚のメモが握られていた。
「ほら、俺の連絡先。後で連絡してくれ。」
「ありがとうございます。」
受け取ったメモを見ると名前と電話番号、メールアドレスが書いてあった。
ライアン・リード
tel 080-xxxx-xxxx
mail xxxx.xxxxx@xxxx.co.jp
「リードさん?」
「ライアンでいい。あと敬語も無しな。」
グッと顔を近づけて言ってくるライアンに顔が紅くなる。
「あ、あぁ、わかった。よろしく、ライアン。」
「よし。」
そういって顔が離れると落ち着くが少し残念な気持ちになる。
「彫りが深いし、そうだとは思ってたけど日本語がうまいな。出身は?」
「あぁ。一応カリフォルニアってことになるが日本産まれ日本育ちだ。両親はどっちもアメリカ人だが親父が米軍所属でな。横須賀の基地にいる間に俺が生まれたんだ。一時期親父の地元のカリフォルニアもいたがほとんど日本で生活してたからな英語も日本語も問題なし。」
「そうか。親が軍人だと色々厳しそうだな。」
「親父には小さい頃から結構鍛えられてたし、戦闘訓練とか銃の打ち方も仕込まれたな。」
「そうか。それが今活きてるんだな。」
「まぁな。親父だけじゃなくて他の基地の軍人にも……。」
突然ライアンの顔が近づき耳元に息が掛かる。
「色々仕込まれたしな。」
「っ!」
ライアンの予想外の行動に思わず仰け反って距離を取る。顔が熱を持って先ほどより紅くなるのが分かる。
「なっ、なにを……。」
ピーピーピー
洗濯機から完了を知らせる電子音が鳴るが俺が使っている洗濯機はまだ動いている。
「おっ、終わったな。」
ライアンは洗濯機から中身を取り出していく。
「じゃあ、俺はそろそろ行くわ。連絡くれよ。」
ライアンはニカッと笑い。ロッカーの方に消えていった。
「っはー。びっくりした。やっぱりチラチラ体を見てたのはバレてるか。」
「あぁ、そういえば。」
「っ!」
突然戻ってきたライアンに今の呟きを聞かれたかと思わず息を飲む。
「どうした?」
「い、いや、なんでもない。ライアンはどうしたんだ?」
「名前だよ、名前。あんたの名前を聞いてなかった。」
「あ、あぁ。そうだったか。悪い。俺は重森大地だ。」
「大地か。わかった、じゃあ連絡くれよ。待ってるぜ。」
そういってライアンは今度こそロッカーの方に消えて戻ってこなかった。
「ふう~、……は、はっくしょん。あー、こんな格好でいたから体が冷えたかな。」
俺はバスタオル1枚の格好だったことを思い出し、なんとなく気まずくてライアンに会わないように様子を窺いながら自分のロッカーで着替えを済ませて洗濯機が終わるのを待った。
「お待たせ致しました。ダンジョンで取得したアイテムをお預かりします。」
「これをお願いします。」
俺がカウンターに向かうとちょうど先週の人と同じ人が担当だった。ドロップ品が入った袋をカウンターに置き、中身を確認してもらう。
「今回も多いですね。」
「あっ、先週のこと覚えてましたか。」
「はい。一度にこれだけの量が持ち込まれることはありませんでしたから。持ち込まれる物の数はだいたい15から20個くらいで30個を越えたことはありません。」
そうなると提出するドロップ品を減らした方がいいか?でも、ダンジョンに置いてくるのはもったいないし、検品を受けずに持ち出すのは不味いしな。
「コアが23個、毛皮が5枚、角が8本、肉が4つ、小瓶が10本、中瓶が1本。この中瓶は見たことがないですね。」
「そうなんですか?」
「えぇ、この瓶はどこでドロップしましたか?」
「2階層のスライムからですけど。」
「そうですか。」
担当の女性はそうつぶやくメモを取って中瓶に貼り付けていた。
「では、こちらの札の番号でお呼びしますのでお掛けになってお待ち下さい。」
「あ、はい。お願いします。」
札を受け取ると後ろのベンチに座る。ポケットから携帯と先ほどのメモを取り出すとアドレス帳にライアンの連絡先を登録した。
そのままライアン宛てのメールを書いてる間に呼ばれたので編集中のメールは下書き保存してカウンターに向かう。
「お待たせ致しました。こちらが買取の場合の査定結果になります。」
コア 23個 × 50 = 1150 円
角ウサギの毛皮 5枚 × 150 = 750 円
角ウサギの角 8本 × 100 = 800 円
兎肉 4つ 計1400g × 100/100g = 1400 円
スライムローション 10本 × 30 = 300 円
王水 1本 × 500 = 500 円(強制買取)
合計 4900 円
「鑑定の結果の中瓶は王水という金属を溶解する強酸性の液体でした。こちらは危険物として強制買取となります。」
「王水ですか、珍しいものなんですか?」
「濃塩酸と濃硝酸の混合物で業者が使ったりするので物としては珍しいものではありません。ただ、ドロップ品として持ち込まれたことはないので珍しいともいえますね。すべて買い取りでよろしいですか?」
そう聞かれてスライムローションだけ持って帰って使おうと思っていたことを思い出した。
「スライムローションだけ持って帰ります。」
「かしこまりました。少々お待ち下さい。…………お待たせ致しました。こちらが買取分の査定結果とスライムローション10本です。宜しければ署名をお願いします。」
コア 23個 × 50 = 1150 円
角ウサギの毛皮 5枚 × 150 = 750 円
角ウサギの角 8本 × 100 = 800 円
兎肉 4つ 計1400g × 100/100g = 1400 円
王水 1本 × 500 = 500 円(強制買取)
合計 4600 円
「……はい、これで大丈夫です。」
俺は受け取りの署名をするとその場でローションを受け取りリュックにしまう。
「では買い取り金はお振込みしておきます。本日はお疲れ様でした。」
お礼を言って駐車場に向かうと直ぐに車に乗り込んで自宅に向かった。
「はぁぁぁ~。」
寝室に入ると荷物を置いて息を吐きながらベッドに体を投げ出す。そのままゴロゴロしながらポケットから携帯を取り出した。
メールアプリを起動して編集中だったライアン宛のメールを開くと無難な挨拶と一緒にダンジョンに潜るのを楽しみにしてる旨を書いて送信した。
「ライアンか。凄い身体だったな……。」
鍛えられた身体とタオルに隠されていたイチモツを想像して身体が熱くなる。下半身に血が集まるのを感じて、そこに手が伸びる。
「うっ……。んっ……。」
立ち上がった自分のモノを服の上からやわやわと揉みしだき、思わす声が漏れる。
ヴヴーヴヴーヴヴー
「っ!」
響く携帯のバイブ音に俺はビクリと肩を震わせて動きを止める。
「……早いな。」
携帯を確認するとライアンからの返信だった。メールを開くとメールをもらえて嬉しいと来週のダンジョン探索のお誘いだった。
そのまま数回メールを繰り返し、ライアンは毎回電車を使ってると言うので来週は俺が迎えに行ってダンジョン探索することになった。
「……風呂にするか。」
メールを終えたときには気持ちが落ち着いていた俺は続きをする気にもならず、風呂を沸かす為に寝室を後にした。
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