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第二章 帝都編

19. 補修

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孤児院に近づくと穴に詰め込まれた石と穴の大きさを見直す。

(変形で穴の形を整えて……。いや、建物に直接変形を掛けると何処に負荷とか影響が出るか分からないからな。石の方を穴の形に馴染むように整えるか。最後に液体化した石で隙間を埋めたいけど流れないようにローション状にして塗りつけれてばいけるか。)

「リゲルさんこの壁の向こう側ってどうなってますか?」
「ここは食堂ですね。今の時間ならだれもいないはずですが。」
「そうですか。ではちょっと手を加えますね。詰めてある石の形を下から順番に変えていくので上の方の石が穴からこぼれるかもしれませんが気にしないでください。」
「石の形を変える?」
「では、始めます。」

一番下の石に指を添え、石が液体のように流れて隙間を埋めるようにイメージして液体化と変形を発動すると、早回しで氷が解けていく様子を見ているかのように石の表面が流れて穴の凹凸に沿って広がっていく。ここで注意すべきはイメージで石の形を変えないこと。液体が触れている部分に沿って広がるようにだけイメージして整えていく。すると支える石がなくなったことで穴を塞いでいた石がゴロゴロと崩れ落ちた。

落ちた石を拾い、穴の縁に当てて再びスキルを発動すると、今度は穴の縁に沿うように形を変え、穴の形を四角く整えていった。

石を変形させた部分を揺すってみるが壁との凹凸がガッチリ噛み合い、まったく取れる様子はなかった。

「あとは詰める石の形を穴に合わせて整えて……!?」

石を穴の大きさに合わせて長方形のブロック状に変形させようと思ったところで視界がぐらりと揺らぎ、倦怠感が襲ってきた。

(これの症状は魔力枯渇?魔力にはまだ余裕があったはずなのに?)

ステータスを確認すると残り魔力が5で状態欄にははっきりと魔力枯渇と表示されていた。

(使ったスキルは液体化と変形が数回。まだ3分の1位は残るはず。……そうか、アダルトグッズじゃないから加護の負担軽減の適用外か。)
「どうしました?」

俺が手を止めてじっとしているのを不審に思ったのかリゲルさんがこちらを覗き込んできた。

「……魔力を使い過ぎたみたいです。」
「それはいけない。どうぞ中で休んでください。」
「でも、まだ作業が途中ですから。」
「ですが、そのままでは続けられないでしょう?」

リゲルさんの指摘はもっともで魔力が底をつきかけている以上、作業は続けられない。

「すみません。お言葉に甘えさせていただきます。」

リゲルさんの肩を借りて孤児院の中に入ると食堂に案内された。

「座ってゆっくりしていてください。すぐ戻ります。」
「ありがとうございます。」

椅子に座り、テーブルに突っ伏しているとことりと何かが傍に置かれる音がした。

「魔力の吸収率を上げる薬です。使ってください。」

顔を上げると液体が入った瓶が置かれていた。

「これってポーションですか?そんな効果な物使わせていただくわけには……!」
「大丈夫ですよ。これは以前ここにいた魔欠病の子の薬でももう使いませんから。」
「魔欠病?」
「えぇ、体内の魔力が自然と体外へ流れ出てしまい、常に魔力枯渇状態になる病気です。人を含めて生き物は魔力をどうやって回復させているか知っていますか?」
「それは、体内で魔力を作っているのでは?」
「半分正解です。体内で魔力を作ると同時に呼吸で大気中の魔力を取り込み吸収もしています。魔欠病患者の周辺は患者自身が流した魔力で待機中の魔力濃度が高くなっています。これはその大気中の魔力を吸収する効率を上げる薬です。少し古い物なのでそろそろダメになってしまいますから、ダメにするよりかは使っていただいた方が無駄にしなくてすみます。」
「……わかりました。ありがたくいただきます。これはこのまま一瓶飲み干せば?」
「はい。一瓶で一回分です。」

そう言われて蓋を開け呷ると少しだけ気分が楽になった気がした。

「ありがとうございました。この薬を飲んでいた子はどうしたんですか?」
「亡くなりました。魔欠病は治療法がない病気ですから。この薬もあくまで放出した魔力を呼吸で取り込みやすくするだけの対症療法でしかありませんし。」
「そうでしたか。っと、そうだ薬の代金を払わせてください。」
「いえ、いいんです。先ほど申しました通り、少し古い薬でダメにするのがもったいなかっただけですから。」
「それでもまだ効果のある薬ですし、教会への寄付も兼ねてということでこちらを。」

俺は下級マナポーションが3000ポルタだったことを考慮して、寄付も兼ねて小銀貨4枚4000ポルタをテーブルに出した。

「……わかりました。ありがたく頂きます。これで子供たちにお腹いっぱいに食べさせてあげられます。」

リゲルさんがお金を受け取るとそれをしまってくると言って席を立った。リゲルさんが戻るまでの間にステータスを見ていると15秒程で1回復しているようだ。

(15分位で全回復に近くなるか。継続的に魔力が回復する薬なら魔法使いの継戦能力の底上げになるかと思ったけど、もう少し高い効果が無いとそういう目的では使えないか。)

魔力の回復効率が少しでも良くなるようにそのまま目を閉じて瞑想のようなことをしていると5分ほどでリゲルさんが戻ってきた。

「体調はどうですか?」
「おかげさまでもうすっかり良くなりました。そろそろ穴を塞ぐ続きをやりますね。」
「また魔力枯渇になるといけませんし、お気持ちだけで十分ですよ。」
「自分で始めたことですし、訓練にもなりますから。」
「そうですか?それでは申し訳ありませんが、宜しくお願い致します。」

リゲルさんとは一度別れ、孤児院の外に出て先ほどの穴の場所に行くと続きをする。

「今度は残りの魔力に気を付けて、負担が少なるなるように注意しないとな。穴の大きさに合わせて石をブロック状にしたいけど小さい石を変形でブロックにしてたらまた魔力が足りなくなりそうだな。オナホールと同じように液体化して型に流し込んで大まかな形を作るのがよさそうだな。型は地面に穴を掘って作るか。」

壁の穴と同じ形でわずかに小さいくらいの穴を掘り、石で叩いて固めるとそこに大きめの石を一つ置く。

「使う石全部に術を掛けると魔力不足になりそうだからな。『錬金術 変質 液体化 粘度変更』。」

土に染み込みにくいように少しだけ粘土を付けた石の液体が型に広がるとそこに小石を投入していく。小石が液体になった石の嵩を増やし、液体に浸からなくなればまた石を液体にしてつぎ足し、また小石を入れる。液体が型いっぱいになったところで小石の投入を止めて、液体が固まるのを待つ。

「そろそろ良いか。」

液体が石に戻ったのを確認して地面から掘り出し、穴に入れてみると多少隙間はあるが狙った通りにちょうどいい形、大きさになっていた。

「ステータス的には少し休んだ方がいいか。」

型に使った穴を埋め、心許なくなった魔力の回復のために瞑想と深呼吸を始める。先ほどのポーションの効果が残っていたのか10分ほどで続きができるくらいになっていた。

「次はこれを穴に入れてできる隙間を埋めないとな。ここはやっぱり石を粘度のある液体にして作った石材に塗ってから穴に入れるのが良いか。」

石に適当な石を摘まめる位の粘度がある液体に変え、石材の側面に塗り付けると穴に押し込んでいく。壁と石材の隙間に収まらずに手前に溢れてきた分は壁に塗り付け、石材を埋め込んだところが壁と一体になるように均しておく。

「あとは食堂側も同じように均して終わりだな。」

食堂側に戻り、溢れ出て固まった部分を削り落とし、再び粘土のある液体にして穴を均すように塗り付けて出来栄えを確認する。

「色は目立つけど穴はきっちり埋まったな。細かいひび割れは注射器を作って隙間に液体化した石を流し込めば塞げそうだけど。今日は無理かな……。」

窓から空を見上げると日が傾き、赤く染まり始めていた。

「穴の方はどうなりましたでしょうか?」
「リゲルさん、ちょうどよかった。ここの穴はしっかり塞がりましたよ。補修に使った石の色が出てるんで目立ちますけど、隙間風が入ってくることは無いと思います。」

食堂に入ってきたリゲルさんに穴が見えるように立ち位置を変えるとリゲルさんは補修したところを見て目を見開いた。

「これは凄いですね。本当に穴が塞がっています。大工が直したみたいです。」
「ちなみに大工はどうやって穴を直すのかわかりますか?」
「大工のスキルに寄りますが穴を削って形を整えてから、石材を穴に合わせて削り、穴に嵌め込みます。あとは粘土で隙間を埋めて乾燥させたら終わりだと思います。」

「大体俺がやったことと同じですね。使ってるスキルが違いますが。」
「もしかして土魔法ですか?熟練の土魔法使いなら土から自由に形を作ったり、土を圧縮して固めたりできるそうですが。」
「いえ、違いますよ。」
「そうですか、最初に穴に詰めていた石の形を変えたようだったのでもしかしてと思ったんですが。」
「一応企業秘密ということで。」
「わかりました。これ以上聞きません。本日は本当にありがとうございました。」
「いえいえ、また来ていいですか?今度は準備してくるので他のひび割れも直せそうなところは直しましょう。」
「ありがとうございます。もちろん、いつでも来てください。」

孤児院を出て宿に戻ろうとしている途中ですっかり忘れていた配送依頼のこと思い出し、慌てて留守だった最後の1件の納品を終え、日が暮れる前にオーリーさんの工房に戻ってきた。

「ずいぶん時間が掛かりましたね。」
「すいません。最後の1件の御宅が留守で帰ってくるまで時間を潰してたら夕方になってしまって。慌てて納品してきました。これが納品と引き換えに受け取ってきた引換券です。」

アイテムボックスから引換券を取り出して渡すとオーリーさんの口から安堵の息がもれた。

「そうでしたか、今日中に納品してきてもらえれば問題ないので助かりました。」
「それじゃあ、問題なく依頼完了ということでいいですか?」
「もちろんです。本当にありがとうございました。」

受注書にオーリーさんのサインを貰い、改めて挨拶してから冒険者ギルドに向かった。

ギルドに着く頃には日が完全に落ちて辺りはすっかり暗くなっていた。中に入ると報告にピークも過ぎ、カウンターはがらんと空いていた。俺はそのうちの一つに向かう。

「こんばんは、ご用件をお伺いします。」
「こんばんは、依頼達成の報告です。」

受注書とギルドカードを受付嬢に手渡す。

「確認します。少々お待ちください。……確認できました。こちらが報酬の2500ポルタです。」

受付嬢がトレイに乗せてこちらに差し出した2500ポルタとギルドカードを受け取ると空腹感を感じた俺は足早にギルドを出て宿に戻った。

「お帰り!遅かったね。相席で良ければすぐに食事にできるよ。」
「わかりました。相席で問題ないので食事をお願いします。飲み物はエールで。」
「はいよ、あそこにマルセルがいるからそこの席で待ってておくれ。」

昨日と同じ女将さんらしき女性が指さした先は昨日と同じ席で、これまた昨日と同じ格好のマルセルさんが座っていた。彼女の指示に従ってマルセルさんがいる席に向かう。

「マルセルさん、こんばんは。」
「おぅ、カズマか。また相席か?」
「はい、いいですか?」
「もちろんだ。」

俺が席に着くとすぐに食事とエールが運ばれてきた。食べ始めて少ししてからマルセルさんから話を振ってきた。

「カズマは今日はギルドの依頼だったのか?」
「えぇ、オーリー木工工房という所の家具の配達依頼をしてきました。」
「家具の配送か。Gランクのステータスじゃ厳しかったろ?」
「いえ、アイテムボックスがありますから。」
「あぁ、そういえばそうだったな。それでもこの時間まで工房と配達先を何度も往復したならさすがに疲れたろ?」
「いえ、家具は一度にすべてアイテムボックスに入りましたからそれほどは。遅くなったのは留守の家があって戻ってくるまで教会と孤児院で時間を潰してたら思ったより時間が経っていたからですね。」
「一度に全部入ったのか?すごい大きさだな。それに、教会だけじゃなく孤児院にも行ってたのか?わざわざ孤児院に行って何してたんだ?」
「教会で神父兼院長のリゲルさんに会いまして。話の流れで孤児院を見させてもらったんです。そしたら壁に穴が開いていたので少し修理を。」
「ここの孤児院もボロだからな。カズマは壁の修理なんかできたのか?」
「今回初めてやりましたけどスキルを使って何とかって感じですね。途中、魔力を使い過ぎて倒れそうになりましたけど。マルセルさんは孤児院のことをご存じで?」
「俺はこの街の出身じゃないが門兵とはいえ守備隊副隊長にまでなったんだぞ。街のことなら大体分かるさ。……ところで相談があるんだがこの後部屋に行っていいか?」
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