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第一章

15. 帝都までの道のり

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パラパラと雨が幌に打ち付けられる音を聞きながら馬車の中でマントに包まって寒さに耐える。

オールバーンを出て6日目。予定通り3日目の昼に最初の乗り継ぎの街に着き、1泊してから4日目の朝にはその町を出た。4日目は曇り空ながら天気は持ったが5日目の昼から降り始めた雨に馬車や護衛の冒険者の足が取られ、進行速度が明らかに遅くなっていた。本来であれば今日の夕方には乗り換えの街に着く予定だったかそれは無理そうだ。

移動中何もしないのはもったいなのでマントの中で隠しながら錬金術の変形を使用して1つのインゴットをいろんな形に変形させたり、魔力が減ってきたら『付与術の基礎』の本を読み返したりとなるべく訓練と勉強に使った。

「それにしても冷えるな。」

天気が良ければ後部の幌は上げられ、外が見えるが今は雨が入らないように幌が降ろされている。それでも凍えるほどではないが雨で冷えた空気の出入りまでは防げず、馬車の中は冷たい空気で満たされてた。

何とかできないかと俺は背負い袋から取り出すフリをして、アイテムボックスから『付与術の基礎』の本を取り出した。

今の俺にできるのは錬金術と付与術。何とかできる可能性があるとしたら付与術だろう。俺は何か読み落とし、考え違いがないかページを行ったり来たりしながら何度も本を読み返す。

(あれ?そういえば……。)

俺はそこで一つ思いついた。

(『魔法付与』には魔法を使える人の手助けが必要って書いてあるけど『属性付与』には何も書いてないな。『属性付与』なら一人でできる?火属性を付与すればインゴットが熱くなったりしないかな?問題はスキルに含まれてない付与ってことだな)

暖をとれる可能性に気が付いた俺は本を何度も読み返し、スキルに無い付与の方法を確認する。

(重要なのはイメージ。イメージを明確にして固定するための名前。付与を定着させる魔力。)

俺は背負い袋を通して本をアイテムボックスしまうと同様に小振りのインゴットを取り出す。マントの内側でインゴットを両手で包むとその手に魔力を集める。

イメージするのは火。

「……『付与術 火属性付与』。」

周りの人に聞こえないようにぼそりとつぶやくが魔力がインゴットに入っていくような感覚はない。

(イメージが足りない?それか魔力か。)

俺は掌にさらに多くの魔力を集めてより明確に火をイメージする。小さな火種から酸素の代わりに魔力を取り込み大きくなる炎。チラチラと風に揺れる炎。炎から感じられるの熱。

「……『付与術 火属性付与』。」

再びぼそりとつぶやくとわずかに掌から魔力がインゴットに流れるような感覚があったがすぐに押し出されるように集めた魔力が霧散するのを感じた。

(……失敗か?)

マントの隙間からインゴットを覗いて鑑定するが火属性は付与されていなかった。

(ダメか。でも少しだけ魔力が入る感じはあったから方法は間違ってない。あとは何度も繰り返して練習するしかないか。)

それからイメージを変えたり、魔力が入っていく感覚に合わせて魔力を押し込むように流したりと付与の練習と魔力回復の間に本を読んだりと繰り返した。

「……『付与術 火属性付与』。」

雨が幌に打ち付けられる音で聞こえないだろうが隣に座っている男が怪訝な顔でチラチラこちらを見ている。狭い馬車の中で何度も同じことを呟くのが辛くなってきた頃、変化が訪れた。

大気中の魔力を吸収して大きくなる炎のイメージとその炎がインゴットを包み、インゴットが炎を吸収するイメージで付与を掛けたところ魔力がスルスルと入っていくのを感じた。その感覚に引きずられるようにイメージの中の炎がドンドンインゴットに吸い込まれていく。その感覚を逃がさないようにイメージを崩さずさらに掌から魔力を送る。

増加(微)4回分ほどの魔力を注いだところで魔力が入らなくなった。

「……できたっぽいけど、特に変わらないな。」

インゴットは若干暖かくなった気がしないでもないが、ずっと握っていたこともあって手の平の熱で温まったのか、火属性付与の効果か分からない程度でしかなかった。

ほとんど変わらない変化に解決を諦め、インゴットをアイテムボックスに収納すると眠って紛らわせようと目を瞑った。




昼休憩の為に馬車が止まった振動で目を覚ました。周囲の音から未だ雨が降っているのが分かる。

俺達は馬車の中でいつでも食事を取れるが馬車を引く馬や護衛して歩いている冒険者たちはそうはいかない。後部の幌を広げて天幕のように斜めに張り、その下で数人の冒険者が雨で濡れた地面に座ることもできずに立ったまま干し肉を齧り始めた。

冷たい空気が馬車の中に一気に流れ込んでくるが護衛してくれている冒険者に文句を言う乗客はいない。

(ほかにも冒険者がいたはずだけど幌の天幕は狭いからな。見張りも兼ねて交代で食事にするんだろ。こういうのを見ると俺が冒険者としてやっていくのは無理だと思えるな。)

1時間程して冒険者たちが全員休憩を取り終わると幌の天幕が戻されて馬車が動きだした。

それから一泊すると夜のうちに雨は上がり、前日までとはうってかわってカラッと晴れた青空の下を進み、7日目の昼過ぎに帝都行きの馬車に乗り換える街に着いた。

「さてと。今日はここで止まって明日の朝出発かな。」

ここからは途中の街で乗り降りはあるが同じ馬車で一気に帝都までいける。途中の街では割符を受け取って翌朝出発の同じ馬車に再び乗ることになる。もちろん途中の街までの料金だけ払ってその街でしばらく滞在してもいいが帝都までの料金を一括で払った方が割安だ。

俺は馬車を降りると帝都行きの馬車の明日の出発時間を確認してから宿屋を探して歩き出した。

大通りを進み、すぐに目に入ったこじんまりとした宿屋に入る。

「いらっしゃい。」

カウンターで恰幅の良い女将さんらしき人がすぐに出迎えてくれた。

「1人で一泊なんだけど部屋空いてますか?」
「空いてるよ。うちは食堂がないから食事は付かないけど1人部屋なら一泊350ポルタだよ。」
「じゃあ一泊お世話になります。」

外に食べに行くのはめんどくさいが宿代が安く済むのはありがたい。

「それじゃあこれがカギ。部屋は2階の一番手前だよ。」
「ありがとうございます。ちなみにお勧めの食堂はありますか?」
「それなら前の大通りを街の中心に向かって進んで。右側4件目の食堂がお勧めだよ。」
「ありがとうございます。夕飯はそこに行ってみます。」

俺は部屋に背負い袋を置くとベッドに横になった。火属性を付与したインゴットを取り出し、鑑定を掛ける


【 名 前 】 鉄のインゴット(微火)
【 種 別 】 金属素材
【 説 明 】 鉄鉱石を精製し規定の重さ、形状に固めた物。微弱な火属性の付与が掛けられている。


「火属性の付与はできているけど効果は微弱か。」

そのままステータスから付与術を確認する。

「付与術に火属性付与はまだ追加されてないっと。本にも何回も繰り返すとってあったし、やっぱり一回付与した位じゃダメか。」

インゴットをしまい、ステータスも閉じてこれからの予定を考える。

「夕食を食べに出るにはまだ早いけど夕食時まで部屋でゴロゴロするにはもったいない時間なんだよな。『付与術の基礎』は何度も読み返したし、錬金術の訓練もどうせまた馬車の中でやるしな……。」

ベッドに横になったまま窓の外に意識を向けると大通りを行き交う人たちの声が聞こえてくる。

「しばらく散歩でもするか。」

出かけることに決めた俺は盗難防止のために背負い袋をアイテムボックスに仕舞い、部屋を出た。

大通りを街の中央に向かってフラフラ歩いていると一軒の店が目に留まる。

(葉っぱにフラスコのマーク……薬屋か?ちょうどいいし、この世界の薬を調べてみるか。いずれ精力剤とかも作ってみたいしな。)

看板に掛かったマークから薬屋を連想した俺は扉を開いた。

「いらっしゃい。」

中に入ると正面のカウンターにやや丸縁眼鏡を掛けた初老の男性が座っていた。

「ここって薬屋であってますか?」
「あぁ、うちは魔法薬ポーション屋だよ。」
魔法薬ポーション?」
魔法薬ポーションを知らんのかい?魔力で効能の高めた薬のことだよ。普通の薬と違って即効性と効果の高さが売りだ。」
「なるほど。ここではどんな魔法薬ポーションを扱ってるんですか?」
「どんなといわれてもね……。魔法薬ポーションとして一般的なケガを治すヒールポーションとか魔力を回復させるマナポーションとか。あとは状態異常回復魔法薬ポーション。他にも色々あるよ。」
「へ~。疲れをとるようなポーションはありますか?」
「それならスタミナポーションだね。」

そう言って男性はカウンターの下から地球の栄養ドリンクで使われている様な小瓶を1本取り出して目の前でフルフルと軽く振った。それに合わせて中に入ったピンク色が付いた半透明の液体がチャプチャプと音を立てる。

「飲めば疲れが取れるししばらくは疲れにくくなる。コレは下級スタミナポーションで1本で1000ポルタね。」
「1000ポルタか~……。」

提示された値段に頭を悩ませる。魔法薬について調べるなら必要経費だが2泊分と考えると悩ましい。

魔法薬ポーションとしては安いほうだよ。ちょっとした傷を治す程度の下級ヒールポーションですら2500ポルタはするからね。」

そう言われて比較するとスタミナポーションは確かに安い。

「下級ってことは中級とか上級もあるんですか?」
「うちで扱ってるのは中級までだよ。下級スタミナポーションなら飲めば疲れが取れて、2~3時間くらいは疲れにくくなるよ。中級なら12時間位かね。もちろん個人差はあるよ。体力は人それぞれだからね。それから疲れにくくなるだけだから魔法薬ポーションの効果を超えて激しく動けばもちろん疲れるよ。」
「なるほど。ちなみに魔法薬ポーションは副作用とか注意事項はないんですか?」
「種類に関係なく短時間で大量に摂取すると魔法薬ポーション中毒になって効果が落ちるよ。あと開封したらすぐに飲むこと。魔法薬ポーションは魔力で効能の高めた薬だって言ったけどその魔力は放っておくとすぐに抜けていくからね。魔力が抜けたらただの水薬と変わらないよ。魔法薬ポーションの瓶には中身の魔力が抜けないようにする効果があるから開封しなければ問題ないが開封したら飲み口からどんどん魔力が抜けていくよ。」
「魔力が抜けないように……」

それを聞いて一つ閃いた。瓶は一見ガラス製、栓はコルクだ。開封してもコルクを締め直せは密封できそうな容器になっている。

「開封した後にまたコルクをしっかり締めれば魔力が抜けるのは防げますか?」

訪ねると男性は怪訝な顔をして首を捻る。

「そりゃ、できるがわざわざ開封して締め直す必要なんかないだろ?」
「……うっかり別の魔法薬ポーションを開けちゃった時とかに?」
「まぁそういうことが起こらないとも限らないか?まぁいいか。それで買うのかい?」
「とりあえず、1本ください。」

お金を無駄にはできないが必要経費として割り切ることに決めた。割り切った俺はさらにポーションを買い足す。

「あとマナポーションはいくらですか?」
「下級なら3000ポルタ。中級なら10000ポルタだよ。回復量は下級で60前後、中級で200前後ってところだね。」
「それじゃあ下級マナポーションを1本。」
「まいど。他にはあるかな?」
「こういった魔法薬ポーションがあるか分からないんですが勃起薬とか精力剤、媚薬関係はありますか?」
「あぁ、そっちが本命かい。まだ若いのにねぇ。」
「えっと、まぁ。」

研究のためとは言えず、あいまいに言葉を濁しておく。

「あいにくうちでは扱ってないよ。」
「そうですか。」
「この街にはポーションを使ってまで子供を作らないといけないような家はないからね。帝都の魔法薬ポーション屋なら扱ってるんじゃないか?」
「なるほど。」

需要の問題なら扱っていないのも理解できる。

「それじゃあ。今の2本だけで大丈夫です。」
「下級スタミナポーションと下級マナポーション、合わせて4000ポルタだね。……まいどどうも。」

お金を払ってポーションが入った瓶を2本受け取ると魔法薬ポーション屋を出る。建物の影で買ったばかりのポーションをアイテムボックスに仕舞い、散歩を再開した。

「4000ポルタは思い切り過ぎたかな。」

キョロキョロ辺りを見渡しながら大通りをさらに歩く。街の中央に着いたのか円型ロータリーの様な広場に辿り着いた。その中央には小振りながら綺麗な噴水が設置されていた。

「へ~。噴水があるのか。」

噴水の縁に腰掛けてひと息つくと広場をぐるりと見渡す。冒険者ギルドや商業ギルド、大きな商店など主要な建物が広場を囲むように集合していた。

「ここにくればほとんどの用事が済むんだな。」

色々な建物を見ているとちょうど噴水の向こう側の建物に目が留まった。立派な建物が並ぶ中一軒だけこじんまりとした建物がちょこんと建っている。

その建物が気になった俺はその建物に向かった。
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