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第一章

4. 国境沿いの街ボルドー

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翌朝、食堂で朝食を済ませた俺は注文しておいたサンドイッチを受け取って宿屋をチェックアウトした。

そのまま特に寄り道するわけでもなく大通りに出て、乗合馬車の集合場所へ向かうが通り沿いの雰囲気が昨日と少し違うように感じた。まだ少し時間もあるので歩く速度を緩め、集合場所へ向かいながら辺りの話し声に聞き耳を立てると不穏な会話が聞こえてきた。


また城の方で戦争の準備が始まってるらしいぞ。どうせまたちょっかい掛けて返り討ちにあうだけでしょ。なんでも勇者の召喚に成功して大々的に攻めるらしい。じゃあ、また戦争が始まんのか?また税や徴兵で厳しくなるわね。いい加減侵略なんて諦めてくれればいいのに。今に国境も封鎖されるかもね。逃げるなら今のうちか。


会話が混ざっているが勇者召喚と戦争の話が漏れているみたいだ。

(『ちょっかい掛けて返り討ちにあうだけ』?ちょっかい出されて返り討ちにするじゃなくて?)

どうも聞こえてくる話からすると王城で聞いた話とは違ってベオラルドからゲイルヨナスに仕掛けているように聞こえる。

(やっぱりあの話は嘘だったんだな。国境封鎖なんて言葉も聞こえたし、急いだほうがいいかもな。)

うっかり乗り遅れないように俺は歩く速度を戻し、余裕を持ってボルドー行きの馬車に乗り込んだ。


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幸い道中盗賊も魔物も出ることなく、2回程休憩を挟んで無事ボルドーに辿り着いた。

休憩の時にお昼用に買ってきたサンドイッチを食べながら同じ馬車に乗っていた人たちに話を聞くと、やっぱり戦争はゲイルヨナスが仕掛けてるのではなくベオラルドから仕掛けているらしい。おまけに対して相手にされず、仕掛ける度に国境沿いでアッサリ返り討ちにあっているらしい。

つまり、勇者召喚に成功して戦力ができた今、改めて大々的に攻め入る準備を進めているんだろう。

(まさか、なんの訓練も無しに高校生たちをいきなり戦場に立たせるようなことはしないだろうし、訓練してスキルに慣れればってい言ってたから多少の余裕はあるだろうけどなるべく急ごう。)

乗合馬車を降りた所で国境を越えて帝国に行く馬車が無いか聞いた所、街の南側に馬車の停留所があるらしい。宿の確保は後回しにして馬車が出る時間を確認するため、すぐに停留所に向かった。

「嘘だろ……。」

乗合馬車の停留所に立てられた看板を見て思わず思わずつぶやいた。


『エスペラルード帝国行き馬車臨時運休中』


「まさか、もう国境が封鎖された?いや、さすがに早すぎる。とりあえず宿を確保して酒場で情報収集だ。」

俺は走って宿屋をいくつか回り、一泊食事無し400ポルタの宿に部屋を取った。部屋だけ確認してすぐに酒場に向かう。

「いらっしゃい。空いてるところに座ってちょっと待ってて。」

なるべくたくさんの話し声が聞こえる酒場を探して入ると盛況で空いてる席を探すのが大変なくらいだった。ちょうどカウンターの冒険者らしき男の隣が一席空いていたので男に声をかけながらそこの席に座った。

「ちょっとお聞きしたいことがあるんですがいいですか?」
「あん?なんだ、あんた。」
「すいません、自分はカズマといいます。」

男に挨拶をしたところでちょうど給仕が通りかかったので男にエールを一杯と自分用にエールと適当に腹にたまる物を1人前注文した。

「なんだ、わかってんじゃねぇか。何が聞きたいんだ。知ってることなら答えてやるぞ。」
「帝国に行くためにここに来たんですが、乗合馬車が運休で途方に暮れてまして。国境付近の様子とか、ほかに帝国に行く人たちはどうしてるのかわかりますか?」
「あぁ~、あんたも戦争が始まる前に帝国に逃げる口か。」

そう言って話を始める男によると、

・乗合馬車は止められてるけど国境が封鎖されたわけじゃないので国境砦まで行けば普通に出国できる。
・ここから国境砦までは歩いて2時間ほどで行ける
・王国側の国境砦と帝国側の国境砦の間は森が広がる緩衝地帯で道は通っているがどちらの兵も入らないから魔物やら肉食動物やらがいて護衛なしに一般人が行くのは無謀
・魔物を警戒しながら行くので魔物の襲撃頻度によって徒歩では5~7日くらい掛かる
・ほかの人達については大きい商会なんかは独自に護衛を雇っているのでそのまま向かう。
・護衛がいない人はこの街に留まっていたり、ギルドで冒険者を雇ったりして向かう


「なるほど、では護衛さえ用意できれば簡単に帝国に行けそうなんですね。」
「用意できればだけどな。ギルドでも今は帝国行きの護衛依頼が増えてるから報酬は高めに払わないと引き受け手がいないだろうし。」
「参考になります。ありがとうございました。」

食事と情報収集を終えた俺は男にもう一杯エールを勧め、会計をして酒場を出た。


宿に戻って朝を迎え、俺は朝一で冒険者ギルドを目指した。人に道を尋ねながら進んで行くと3階建てらしき大きな建物の前に出た。

「ここが冒険者ギルドか。」

建物の正面に両開きの扉が設置され、その上にデカデカと『冒険者ギルド:ボルドー支部』の看板が掲げられている。

恐る恐る扉を開けて中の様子を窺ってみると、広いホールのようになっていて正面にカウンターがある。カウンターの上には『冒険者窓口』『冒険者登録窓口』『一般窓口』とあり、武器を持った人達がそこに並んでいた。

俺はその人たちの横を抜け、一般窓口へと向かう。

「いらっしゃいませ。冒険者ギルドへようこそ。ご依頼ですか。」
「はい、帝国の国境を越えて最初の街まで護衛と案内を頼みたいんですけど。ただ、馬車がないので徒歩になります。これだといくらぐらいが相場ですか?」
「護衛対象は何名ですか?」
「私、一人だけです。」
「そうですか……。う~ん、徒歩だと時間も掛かりますし、普段なら18000~20000ポルタ位なんですが今は23000ポルタ出す人が多いですね。急ぎでしたらそれ以上出していただいた方がいいです。」
「そうですか。」

予想はしていたがかなりの金額になる分、少し悩むがここで出し惜しみをすればいつまで王国にいることになるか分からない。その間の宿代なんかも掛かるわけで、それならいっそしっかり払ってさっさと王国からおさらばすることに決める。

「じゃあ25000ポルタ出します。」
「かしこまりました。では依頼内容と依頼料の確認をお願いします。間違いなければサインと依頼料のお支払いをお願いします。」

受付嬢が差し出した紙に書かれた依頼内容と依頼料に間違いがないことを確認してサインすると25000ポルタの支払いをする。冒険者が依頼を受けたら連絡をくれるというので連絡先として今泊まっている宿の名前を伝える。

「ご用件は以上でよろしいでしょうか?」
「あっ、あと今回の依頼、というか帝国までに用意した方がいいものがあれば教えていただきたいんですが。」
「かしこまりました。」

受付嬢はそういうとカウンターから1枚の紙を伏せて取り出した。

「こちら、護衛を付けて帝国へ向かう際に用意しておく物や注意点が記載した物になります。料金が10ポルタになりますがいかがでしょうか?」
「買います。」

俺は10ポルタでそれを貰うとそれを参考に持っていた方がいい物を買って回った。

「毛布代わりになる厚手のマント、買った。冒険者とはぐれた時のための火打ち石と着火剤、買った。最低限自衛のためのナイフ、買った。あと水と食料、テントはいざという時にすぐ逃げられないので使わない方が無難と。」

ギルドで買った用紙によると保存の利く干し肉や堅パンを余裕を持った日数分と水を2~3日分。水は途中の小川で補給可能とのことだ。

「干し肉と堅パンだと味気ないよな。せっかくアイテムボックスがあるんだし、使わないと勿体ないよな。」

俺はパン屋や肉屋、八百屋とその他にも数店舗周り、柔らかいパンやサンドイッチ、ハムやチーズ、トマトとそのまま食べられる物を余裕を持って20日分ほど買っていく。さらに水も樽で2樽買い、水袋ももう1つ追加しておく。

「小川で補給できるっていうけど川の真水はちょっと怖いからな。買った水は井戸水だし。」

マントや火打ち石なんかと合わせて3000ポルタも使ってしまった。お金がどんどん減っていくが食料は帝国についてから食べれば問題ない。

それから宿に戻るともうギルドから連絡が来ていて、明後日の朝8時頃にギルドに集合して出発。問題がある用なら明日の昼までにギルドに連絡をとのことだった。

冒険者が決まったなら明日にでも出たい位だが、冒険者側の準備もあるだろうし、出国できるなら問題なしとして宿に明後日出る旨を伝えて差額を返金してもらって、出発の朝を待った。


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「デュアルファングのリーダー、双剣士のガエルだ。」
「カズマです。よろしくお願いします。」

待ち合わせ場所に現れたのは6人組の冒険者だ。そのうちの一人、筋肉質で身長が190cmはあろうかという大柄な体格で2本の剣を下げた男が一歩前に出て挨拶してきたので俺も倣って挨拶をする。

(デカいな~。)

見上げる形であいさつをして、握手するとガエルがメンバーの紹介をしてくれた。

「タンクのアルヴィと剣士のエルノ、斥候のクロエ」

まず紹介されたのは前衛組の様だ。金属製の鎧を着て大きな盾を背負った男と革と金属を合わせた鎧を身に着けた男。革製で胸なんかの最低限しか覆っていない女性が紹介された。

「魔法使いのイストと治癒魔法使いのアンだ」

次が後衛組で黒いローブを被り、口ひげを蓄えた男白いポンチョを被った女性だ。

「よろしくお願いします。」

デュアルファングの皆さんに連れられて俺はボルドーの街を後にした。

国境砦に着いて手荷物などの簡単な検査を受けた後、無事王国を出ることに成功すると帝国に向けて道を進んで行く。

「それじゃあ、今日はこの辺で野営にしよう。」

初日は魔物に襲われることなく順調に進んで日が暮れる前に道を逸れて林に近づき、野営の準備を始めた。

「カズマさんは休んでいてくれ。」

お言葉に甘えて俺が座り込んで休憩しているとエルノさん、クロエさんが林に入って薪を拾ってきた。アルヴィさんがその間に浅い穴を掘り、むき出しの地面を作っていく。その間、ガエルさんとアンさんは警戒をしているのか座ることなく、周囲をキョロキョロと見渡している。

2人が戻ってくると掘った穴に薪を入れ、イストさんが魔法で火をつけて焚火を熾す。

焚火を囲んで本格的に休憩を始めると各々荷物から干し肉と堅パンを取り出した。

「あの、良かったら一緒にこれ食べませんか?」

俺はアイテムボックスから買っておいたサンドイッチを取り出した。

焚火を囲んでみんなが食料を出したのを見て思ったが、みんなが干し肉と堅パンを食べてる中一人だけサンドイッチやらハムやらを食べるのは気が引ける。

(というか非常に食べにくい。)

俺がアイテムボックスから物を取り出す様子を見て、クロエさんがすこし驚いたように声を上げた。

「へぇ~。カズマさん、アイテムボックス持ちですか。」
「はい、大したサイズじゃないんですけどね。それより、ボルドーで買ってきたサンドイッチです。どうぞ食べてください。」
「いいのか?まだ数日野営が続くんだが。」

俺がサンドイッチが詰まったバスケットを追加でいくつか取り出して差し出すとガエルさんが戸惑ったように言った。

「はい、かなり余裕を持たせて買ってあるので一緒に食べましょう。それに正直に言ってしまうと皆さんが干し肉と堅パンを食べるなか一人でこれを食べるのは悪い気がするので。」
「それは気にしなくていいんだが……。では、せっかくの厚意なのでいただこう。」
「はい、どうぞ。」

取り出したサンドイッチはあっという間になくなり、物足りなさげなガエルさん、アルヴィさん、エルノさんの前衛男性陣が持ってきていた干し肉を追加で食べていた。

食事が終わるとデュアルファングのみんなは交代でする見張りの相談を始めた。俺は寝かせてもらうがデュアルファングは4人が2時間交代で8時間見張るらしい。今回見張りに入らなかった2人は明日、見張りと言うようにローテーションするらしい。

見張りは二人体制じゃなくていいのか聞いてみると、デュアルファングは全員Cランクの冒険者で中堅の上位に入るらしい。一般人には危険な緩衝地帯の魔物も彼らにしたら大したことない魔物でよほどの数がせめて来なければ問題ないらしい。

例え数が攻めてきても見張りが声を掛ければすぐに起きられるだけの訓練は積んであるらしく、問題なく対応できるとのことだった。

それに安心すると、俺は彼らに見張りを任せて眠りに着いた。
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