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第一章

1.プロローグ

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俺の名前はオオカミ 和馬カズマ。25歳。座右の銘は『気持ち良いは正義』。ゲイ寄りのバイでセックスは気持ち良ければ男も女もどっちもイケる。ただ、付き合うなら男の方が気を遣わなくていいし、色々と楽だ。自他ともに認める自慰行為好きでオナニー、アナニー、チクニー諸々含め自慰行為はセックス以上に大好きだ。そんなだから勤務先はアダルトグッズメーカー。学生の頃から知り合いに頼んだり、通販で買ったりと小遣いもバイト代も大半はアダルトグッズに消えた。でも、それだけ色々試してきただけあって、仕事では勤続3年にして色々なヒット商品を生み出した。仕事ももまだまだこれから。って時に……。

「これからどうしよう。」

太い道の脇で辺りを見渡しながら思わずため息が漏れる。通りを行きかう人たちはみんな見慣れない服装で剣やハンマー、弓などの武器を携帯している人もいる。

「はぁ~……。」

もう一度深いため息を付いて、昨日、自分が出てきたお城を見上げてこれまでのことを思い返す。

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「うしっ!」

会議室を出るとそこで行われた会議の内容に思わず小さくガッツポーズをとる。

「絶対にヒットさせるぞ。」

オフィスに戻り、自分に割り当てられたデスクに着くとすぐに隣の同僚が声を掛けてきた。

「何ニヤニヤしてんだよ。」
「べ、別にニヤニヤはしてないだろ。」
「いや、してたね。そんなの持ってニヤニヤして、完全にヤバイ奴。」

そういう同僚が指さすのは俺が持つ紙袋。その口からは先ほどの企画会議で使用した俺が務めるメーカーのヒット商品のサンプルがいくつか顔を覗かせている。

「そんなのって言い方はないだろ。俺らが作り出したヒット商品だぞ。」

そう言って俺はそこから製品を一つ取り出す。

「見ろ!この細かなヒダが付いたいくつもの突起!触ってみろ!少しずつ硬さが違うだろ!」

俺は取り出したオナホールをひっくり返して内側を見せつける。

「お、おう。俺も一緒に担当したヤツだからわかってる。」
「じゃあこっちだ!」

そう言って俺は別のサンプルと取り出す。

「見ろ!この見事な反りと浮き出た血管の再現!触ってみろ!2重構造どころじゃないぞ。硬さや質の違う4種類の素材でできた4重構造の本物の様な硬さと質感!」

見事に男性器を再現したディルドを手に取り浮き出た血管を再現した凹凸を指先で撫でる。

「あ、あぁ。これもヒットしたな。そういえばそんなに手が込んでるんだったか。」
「そうだ!お前は試したか?硬いとも柔らかいとも言えない絶妙なモノが中を押し広げてゴリゴリと……。」
「やめろ!俺にそんな趣味はない!」

同僚はそう言って俺の話を遮る。

「何を言ってるんだ。気持ち良ければそれでいいだろ?それにうちの商品なんだから一回位使ってみて使用感とか見ておいた方が他の商品との差とか改良点も見えてくるし……。」
「分かった、分かったから。それよりもう定時だぞ。」
「ん?もうそんな時間か。わかった。俺はコレ片付けないといけないから。」
「そうか。じゃあ、先に上がるわ。おつかれ。」

そう言って帰る同僚を見送ってから、資料として使った商品を保管所に戻すと俺も荷物を纏めてオフィスを出た。



電車に揺られ、自宅の最寄駅に着くとの夕飯を買うために駅そばのショッピングモールに向かう。

ショッピングモールは平日の夜にも関わらず人でごった返していた。地下の食品売り場で割引シールが付いた弁当を買い。エレベータを待つ。

到着したエレベーターに乗り込み、扉を閉めようとすると高校生くらいの男女4人が駆けてきたので慌てて開のボタンを押した。

閉まりかけた扉が開き、彼らが乗り込んできた。

「すいません。ありがとうございます。」
「いえいえ、何階ですか?」
「あっ、4階お願いします。」

黒髪ロングの清純そうな女の子にそう言われて4のボタンを押す。

「ありがとうございます。」

扉が閉まり、エレベーターが動き始める。ふと操作ボタンの上にある鏡を見上げると俺の後ろにいる高校生たちが移る。
1人は明るい茶髪のヤンチャそうな男の子。その隣には先ほど受け答えした黒髪ロングの女の子。茶髪の子の反対の隣には黒髪短髪の硬派そうな男の子。その子の隣には黒髪ショートに眼鏡の委員長が似合いそうな女の子だ。見たところそれぞれカップルの様で茶髪君と黒髪ロングの子はガッツリ、短髪君とショートの子は顔を寄せ合いコソコソと内緒話でもするような軽い感じでイチャイチャしている。

(ふ~。お熱いことで……!)

そして俺は見えてしまった。茶髪君が片手で黒髪ロングの子を抱き寄せ、反対の手は短髪君の尻を揉んでいるのを。

(黒髪ロングの子は茶髪君の顔を見上げてる。ショートの子は斜め下を見てるけど短髪君と顔を寄せ合ってるから見えてない?いや、本当にお熱いことで。)

4人の関係性を気にしつつ、鏡越しに彼らを見ているとあることに気が付いた。

「おかしいな?」

扉が閉まってからそれなりに時間が経っているのに階数の表示が未だB1のままだ。もちろんF1とF4のボタンのランプはついているしウィーンというエレベーターの動作音は聞こえている。

「故障か?」

そう思って非常用ボタンに手を伸ばそうとした時、それは起こった。

「なんだ?!」

エレベーターの扉の隙間からモクモクと煙が床を這うように流れ込んできた。

「キャッ!」
「火事か?!」

高校生達も事態の異常さに気が付いたみたいだ。助けを呼ぶように声をあげたり、壁を叩いたりしている。そういう俺も非常用ボタンを押し続け何度も呼び掛けているがいっこうに反応がない。

「おい、誰かいないのか!」

そうこうしてると扉がガタガタと音を立てて揺れ始めた。

「助けが来た!おーい、エレベーターの中にいるぞ!」

茶髪君が前に出てガタガタ揺れる扉を叩いて声を上げる。

ダンッ!バンッ!

「なんだ!」
「キャァ!」
「眩っ!」
「グッ」

ひと際強く扉が叩かれたと同時に勢いよく扉が開き、目が開けていられないほどの光がエレベーターの中を満たした。高校生たちが悲鳴を上げ、俺も思わず腕で目を覆った。




「成功だ!」

目を覆ってから少し間が空いて声が聞こえた。その声に恐る恐る腕を下げると明らかにエレベータの中ではない、石造りの部屋で見慣れないヒダが付いた服や魔法使いの様なローブ、鎧を着た人たちに取り囲まれていた。

「異世界より参られし勇者様と3人の従者様。どうか我らをお救い……ください?」

一歩前に出てきた長い白髭を蓄えた老人が俺達を見て言いながら首を傾げる。それもそのはずだろう。事情はよく分からないが今のセリフの通りならここにいるはずなのは勇者と3人の従者。つまり4人だけだ。しかしここには俺も含めて5人いる。

「なにここ?」
「流行りの異世界召喚って奴?」

異世界召喚?傍でボソボソと高校生たちがしゃべっているのが耳に入る。アニメや漫画はあまり見る方ではないがそういった物が流行っているのは知っている。

「ゴホンッ。失礼しました。王よりこの度の件につきまして説明がありますのでこちらへどうぞ。」

先ほどの老人が咳払いをして注目を集めると俺達を先導するように歩き出した。

老人のあとに続いて通路を進むと段々と通路が煌びやかになり、ひと際大きな扉の前で足を止めた。

「こちらが謁見の間です。私が先導しますので皆様は横に並んで私の後に続いてください。私が止まって跪いたら皆様も同じようにお願いします。それから中では移動中も顔を上げないように私の足元を見ているようにしてください。王様から面を上げよと言われたら顔を上げてください。」
「えっ!そんないきな「では行きます。」」

王様に会うのに心の準備をする間もなく、まともな作法も知らないまま謁見というあまりにいきなりな展開に思わず止めようとするが、老人は気にする様子もなく扉を開けると先に行ってしまった。それに続いて高校生たちも横並びで行ってしまうので俺も慌ててショートの子の横に並ぶ。

しばらく進んだところで老人が止まり膝をついたので慌てて後に倣う。

「面を上げよ。」

そう言われて顔を上げると正面に煌びやかな椅子にこれまた煌びやかな服と装飾品を纏ったブ……恰幅の良い男性が座っていた。

「魔術師団長。よくぞ召喚の儀を成功させてくれた。」
「恐縮至極に存じます。」

どうやら老人は魔術師団長というかなり偉い人みたいだ。

「そなたの功績については後程労うとしよう。ひとまず下がってよい。」
「はっ!」

老人が返事をするとスッと立ち上がり俺達の横を抜け、部屋を出ていった。

「さて、よくぞ参られた異世界の勇者とその従者たちよ。どうか我が国にその力を貸してほしい。」

王様曰く
・数年前、魔族国に魔王が誕生し、この国、ベオラルドに攻めてきている
・今はまるでいたぶるように兵力を小出しにして攻めてきているので膠着状態だが魔族が全力で進行を開始したらまず勝ち目がない
・そこで助けを求めて召喚の儀を行った。
・どうか力を貸してほしい。

ということだ。

「そしてその召喚の儀とは異世界より勇者と3人の従者を招く儀式なのだが……宰相。」
「はい。皆様、”ステータス”と唱えてください。この世界に存在する者はその呪文で自身のステータスを可視化することができます。」
「「「「……”ステータス”。」」」」

高校生たちがお互いを見合い頷くと同時に唱えた。

「……ステータス。おぉぉ。」

俺も唱えると目の前に半透明のパネルが現れた。


【 名 前 】 カズマ・オオカミ
【 年 齢 】 25
【 職 業 】 錬金術師
【 称 号 】 異世界人  巻き込まれた者
【 レベル 】 1
【 体 力 】 50/50
【 魔 力 】 50/50
【 攻撃力 】 30
【 防御力 】 30
【 俊敏性 】 30
【 スキル 】 言語理解  鑑定解析  アイテムボックス  錬金術(1)  付与術(1)


「俺が勇者だ!」

表示された項目に目を通していると茶髪君が大きな声を上げた。続けて他の高校生たちも職業を声にする。どうやら茶髪君が勇者、黒髪ロングの子が聖女、短髪君が聖騎士、ショートの子が賢者らしい。

「なるほど。皆様すばらしい職業ですな。それでそちらの方は?」

そう言って宰相が俺の方を見てくる。

「……錬金…術師。」

場の空気が凍るのがはっきりと分かった。わかってた。明らかに高校生たちで1グループだし、称号にも巻き込まれた者なんてあるし俺が不要な異分子だってことは。

「錬金術師……ですか。聞いたことがない職業ですが、錬金術というスキルがあるのでおそらくその専門家ですな。半端者の職業です。」

宰相によると錬金術はモノの形を変えたり、性質を変化させたりと色々なことができるらしい。ただし、物の形を変えるにしても細工スキルの様な細かな形は作れないし、鍛冶スキルのように鋭利な物を作ることができるわけでもない。薬草からポーションを作ることもできるが調薬スキル程の効率もない。他のスキルでできることを一つのスキルで出来るがそれに特化したスキル程の効果はなく役立たず扱いらしい。

「ステータスはどのようになっていますか?」

俺はステータスを順番に読み上げていく。その内容に宰相の顔に皺が寄っていく。

「せめて、ステータスが高いか貴重な戦闘系スキルでもあればと思ったのですが……。レベル1でステータスは子供同然。アイテムボックスのスキルは珍しくはありますが、200人に1人くらいは所有しているスキルですし、その程度の魔力では大した量は入らないでしょう。それに鑑定ではなく鑑定解析ですか?それも聞いたことがないスキルですね。」

ステータスについて詳しく聞いてみるとレベルは魔物を倒すことで効率よく上がるが、それ以外の様々な要因で経験が溜まりレベルアップする。魔物を倒したことがない25歳の平均はレベル5だという。そして体力魔力はレベル5相当だが攻撃力、防御力、俊敏性はレベル1として妥当。つまり子供と同じだという。
どうやらアイテムボックスは持っている魔力によって大きさが変わるようで一般的な魔力量の俺では精々背負子一つ分が良い所らしい

「スキルレベルも1では役立たずもいいところですね。」

スキルレベルとはスキルの横に()で表示される数字のことで、そのスキルに関連する能力の熟練度であり、スキルがもたらす補正力だ。スキルレベルは1から10まで。1~2は見習い以下、3でようやく見習い、5で並み、8でプロ、10になると国宝級だそうだ。

「ちなみに他の皆様は」

宰相が高校生たちに声を掛けると高校生たちもステータスを読み上げる。彼らのステータスは俺と桁が一つ違う。同じレベル1だが最低の項目でも100あり、スキルは言語理解、アイテムボックスは共通だが彼らも鑑定解析の類似らしい鑑定を持っているし、聖剣術やら聖盾術やら全属性魔術やらと凄そうなスキルが並んでいる。スキルレベルもほぼ全てが7で、最低でも5だ。

「実に素晴らしい。皆様なら少し訓練してスキルを活用することに慣れれば、すぐに活躍できることでしょう。それでカズマ殿でしたな。あなたにこちらか提示できる道は2つです。」
「……2つですか。」
「1つはお金をお渡ししますのでここから出て行っていただく道。こちらの都合で巻き込んで呼んでしまったことですし、財政状況は厳しいですが4~5ヶ月宿暮らしができる位の金額は保証しましょう。もう1つは新兵として騎士団に入団する道。」

提示されるべきもう1つの道が提示されないことに思わず慌てる。

「ま、待ってください。そのどっちかなんですか?!私だけ先に元の世界に帰してもらうことはできないんですか?」
「それは無理ですね。」

俺の要望は間髪いれず却下された。

「送還の儀は召喚の儀と対になっています。1回の召喚につき送還も1回。貴方1人送還すれば勇者様方を送還できなくなります。それとも貴方は自分1人で帰るから勇者様方に一生こちらにいろと?」
「いや、そう言うことならそんなこと言いませんけど。」

宰相にそう言われて高校生達を見れば睨むようにこちらを見ている。

「それならせめて錬金術のスキルがありますから見習い薬師として働かせ「それも無理ですね。」……。」
「城には優秀な薬師が揃っていますがポーションを作る材料が潤沢にあるわけではありません。錬金術という非効率的なスキルで使用する程ほどの余裕はありません。それに錬金術には魔力を使います。その程度の魔力では大したことはできないでしょう。それならまだ兵士として魔物の一匹、魔族の1人でも殺してくれた方がありがたい。」

バッサリと言い切られなんとも言えない不信感がこみ上げてくる。視線だけ周囲に向けて見ると兵士達が小バカにしたようにニヤニヤとこちらを見ていた。

視線を宰相と王様に戻すとこちらも兵士達ほど露骨では無いものの口角を僅かに上げ、嘲笑うような視線を向けていた。

「くっ……。わかりました。出ていきます。」
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