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第3章 シュルトーリア

冒険者講習3日目午前

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目を覚ました俺は身支度を整えてギルドに向かう。

昨日はギルドを出てしばらくしたところで講習の泊りがけ依頼とツェマーマンに依頼した浴室建設が被っていることに気が付いて慌ててツェマーマンの所に謝罪に行くことになってしまった。

ツェマーマンには呆れられたが最終的にはツケ分しっかり稼いで来い!と背中を叩かれ、笑って送り出してくれた。

ギルドに入ると『大地の盾』の皆さんが揃って待っていた。

「おはようございます。今日もよろしくお願いします。」
「おう。じゃあさっそく昨日までに教えたことを参考に依頼を受けて来い。」

ダイクンさんが立ち上がって依頼が張り出されたボードを指さす。

「受ける依頼の条件はランクCの依頼、野営で1泊して帰ってこれるものだ。」
「分かりました。あっ、そういえば、今回の依頼は俺と従魔だけで達成するってことでいいんですよね?」
「あぁ、俺達も付いていくし、野営なんかは一緒にするが依頼自体はタカシと従魔だけで達成してくれ。」
「わかりました。それじゃあ依頼を見てきます。」

ダイクンさん達と別れ、依頼をチェックする。大まかにランクごとに纏められてはいるが量が多いためよく見ればランクの境のあたりは混ざってしまっている。

「ボードから依頼を選ぶときも良く見て選ばないとな。」

討伐、納品、採取とランクCの依頼をチェックして回り、目に留まった一枚の依頼をボードから剥がした。


調査依頼
ランクC
概要:南東街道で発見された魔物の足跡の調査。
詳細:南東街道で破壊された馬車とこの付近で見ない魔物の足跡が発見された。
残された足跡から魔物は2足歩行で体長2.5~3m程の魔物。
足跡の位置、向きから南東街道沿いにあるハウセル森林に住み着いていると思われる。
具体的な魔物種族、数、行動範囲、住処などを調査してくること。
調査範囲は足跡が発見された地点からハウセル森林側10km圏内。
痕跡がそれより離れる場合は継続調査不要
報酬:得られた情報により変動。金貨5枚~20枚。
該当の魔物の脅威を排除した場合調査報酬とは別に金貨8枚


一昨日の講習で国内の大まかな地理とこの辺りの詳細な地理も教わっているのでハウセル森林の場所はわかる。南東街道を馬車で3時間くらい行けばハウセル森林に差し掛かる。そこからさらに2時間くらいは街道沿いに森林が続いている。

南東街道の先にある町に行く馬車に乗せてもらえれば昼頃には足跡の現場に着く。馬車がだめでも最悪『大地の盾』にはディメンジョンルームに入ってもらって、ロアに乗って移動すれば問題ない。
そこでお昼を取ってから森林に入る。研修とは言え従魔の使用に制限はかけないみたいだから子バラムを総動員して人海戦術で調べれば暗くなる前に足跡なりなんなり調査する起点となる痕跡は見つかるだろ。
暗くなったら森を出て街道沿いで一泊。翌日中断したところから再開して昼くらいには確認が終わるだろ。帰りは馬車が通り掛かれば良し。馬車が通らなければディメンジョンルームとロアで街に戻れば一泊で済む。

俺はこの依頼を受けた場合のスケジュールを組み立て、問題ないことを確認するとその依頼書を持ってダイクンさんの所に戻る。

「受ける依頼を決めてきました。一応確認してもらえますか?」
「どれ、見せてみろ。」

ダイクンさんに依頼書を渡し、これからの予定を説明する。

「そんなに従魔がいるのか?ん~……それならまぁ、いいだろ。」
「ありがとうございます。じゃあ受けてきますね。」

依頼書を返してもらい、カウンターで手続きを済ませると南東街道を通る馬車を探しにギルドを後にした。




「いやー、途中までとはいえタダで護衛してもらえるのはありがたいよ。最近は途中の森に変わった魔物が住み着いたって噂を聞くし。」
「いえ、こちらも馬車に乗せてもらえて助かります。今回の目的もその噂の魔物の調査ですから。」

ちょうどよく街道を行く馬車を見つけ、途中までになるが護衛する代わりにタダで馬車に乗せてもらえることになった。

道中一度だけゴブリンの襲撃があったがガルド達を呼び出すまでもなく、俺一人で対処する。

目的地に着いて馬車を降りるとすぐに昼食の準備を始める。ディメンジョンルームを開いて全員を外に出すと周囲の警戒を兼ねて自由にさせる。昨日一昨日と外に出してあげられなかったせいかガルドを含めオーク達は広いスペースを使って戦闘訓練を始めた。バラムは俺のそばにいるがロアは走り回っている。

その間に俺は大きい木箱に三口コンロと鉄板、肉と野菜を取り出す。今までは肉ばっかりだったがずっとそれではさすがにまずいので1日目の講習の後に野菜を大量に買い込んでおいた。

「なんだいそれ?」

食事の準備を進めていた所にクルツさんが近づいてコンロを指さした。

「これはコンロって言ってかまどの代わりに使う物です。」

そう言って俺はコンロに火をつける。

「こうしてセットしてある魔石を動かして火力を調整します。このコンロは三ヶ所別々に火力が調整できるのでそれぞれにフライパンでも鍋でも乗せて一度に調理できます。今回は3ヵ所を使う、この大型の鉄板を使って一気に肉と野菜を焼いていきます。」

説明しながらコンロを操作し、肉と野菜を焼いていく。それを見てクルツさんは目を輝かせた。

「凄いね!このサイズだと空間魔法かマジックバックが無いと持ち運びはできないけどものすごく便利そうだ。これはどこの商会で売ってるのかな?」
「これは自分で作った物なので。どこかで同じような物を売ってるのは見たことがないですね。」

そう答えると目を見開いてこちらを見てきた。

「タカシ君、魔道具の作成もできるの⁉」
「えぇ、まぁ。」
「凄いね!このコンロっていうのも凄く便利そうだ。」

ベルグさんに見せた時と同じようにクルツさんも興奮して目を輝かせている。聞けば『大地の盾』ではクルツさんが野営時の料理を担当しているらしい。

「普段は精々石を積んだ窯で干し肉を煮込んでスープにしてパンと食べる位だけど、その石を積んで窯にするのも結構重労働なんだよ。これなら石を積んで窯を作る必要が無くて手間が減るし、マジックバックがあればもう少し食べ物を持ってきてマシなものが作れるよ。」

クルツさんに手伝ってもらい、色々話しながら従魔を含めた俺達の分と『大地の盾』の食事を作っていった。




「さてっと。昼食も済んだし、そろそろ始めるよな?」
「いえ、まずは俺の従魔を散開させて痕跡を探すので俺達はまだここで待機です。というわけでバラム、よろしく頼むよ。」
「(は~い!)」

バラムに視線を向け、念話で指示を飛ばすとバラムは体から子バラムを分離させ、森に放つ。子バラムはバラムと意識を共有しているから痕跡が見つかればバラムを通して俺にも伝わる寸法だ。

その様子に出発しようと気合を入れていたダイクンさんは眉を顰める。

「……この人海戦術が使えるなら子バラムをもっと増やしてもいいかもな。」

そう呟いてから30分もしない内にバラムから足跡を見つけたと報告が上がった。
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