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第3章 シュルトーリア

蟻の巣探索①

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ベルグさんとの話が落ち着き、俺とガルドは途中だった昼食を手早く済ませた。

「さてと、そろそろ巣の中を確認するか?」

俺達が食べ終わったのを見計らってベルグさんが声をかけて蟻の巣の方に向かう。

「わかりました。これしまっちゃいますね。」

俺はガルドと腰を下ろしてた木箱と食器の類を異空間収納に収め、忘れ物が無いか確認すると急いでベルグさんの後を追い塞いであった蟻の巣の入り口に向かった。

「それじゃあ開けますけど爆発したり、火柱が上がるかもしれないのでいきなり覗き込まないでくださいね。」
「そんなことが起こるのか?」
「大丈夫だとは思いますけど可能性はあります。」

俺が心配してるのはバックドラフト現象だ。2時間も経ってるし大丈夫だと思うがもし火種でも残ってれば流れ込んだ酸素で爆発しかねない。

「じゃあ開けますよ。1、2の3!」

俺が声をかけて入り口を塞いでいた蓋をひっくり返して外すとスーッと空気が巣穴に流れこむのを感じる。

「……何も起こらないな。」
「そうですね。」

少し待っても何も起こらず安堵の息を漏らす。

「それじゃあ行ってきます。」
「なぁ……。」

中に入ろうと巣穴を覗き込んだ俺にベルグさんが声をかける。

「もう魔物も来てないし一緒に入ってもいいんじゃないか?一緒に入ればそのまま完了調査進められるぞ。」
「えぇぇ……でもロアがいますし。」
「空間魔法のディメンジョンルームに居させればいいじゃねぇか。」

確かに俺達がディメンジョンルームにいるも魔物はこなかったようだし、これから来そうな様子もない。

「わかりました。じゃあロアは一度ディメンジョンルームに入っててくれ。」
「(わかりました。何かあればいつでも呼んでくださいね。)」

ロアをディメンジョンルームに入れ、俺達は改めてファイアアントの巣穴に潜る。が……

「(むぅ……これは狭いな。)」
「あぁ、ガルドは体が大きくなったからな。通れそうか?」
「これは途中で引っかかるんじゃねぇか?」

奥の通路はそれなりに広いがそこから地上までの通路が体が大きくなったガルドには少々狭いようだ。

「(途中で引っかかるかもしれん。)」
「そっか。じゃあガルドもディメンジョンルームで待機しててくれ。ファイアアントが全滅してれば回収してくるだけだし、何かあれば呼ぶから。」
「(わかった。仕方あるまい。)」

ガルドをディメンジョンルームに入れてから改めてファイアアントの巣に潜る。
ちなみにバラムも体が大きくなっているが流動体のため、狭くても関係ない。むしろ潜り込みスキルのおかげで体を細くしたり平にしたりで狭いところもお構いなしだ。

「こ、これは!」

地上と巣を繋ぐ通路を進んでいくと先ほど仲間を呼ばれた通路に出る。そこで折り重なる大量のファイアアントの死体を見てベルグさんは驚きの声をあげた。

「うまくいったみたいですね。」
「あ、あぁ。巣の方から蓋を破ってくる様子が無かったとはいえ半信半疑だったんだがな。それにこいつは……。」

ベルグさんが太い通路に出ると直ぐそばのファイアアントの死体の一つの検分を始める。

「頭は無事、殻もほとんど傷が無い。最高の状態で素材がとれるな。」
「それは良かったです。そういえばファイアアントのランクって?」
「ファイアントのベースはランクEのアーミーアントだ。」
「じゃあファイアアントになると一つ上がってDですか?」
「そうだ。」

Dということはウェルズだったらオークとかが出る森の辺りの魔物と同じくらいだ。そう考えると確かに初心者には辛いだろう。

「討伐証明は触覚1対。これは時間が掛かりそうですね。」

入り口から入ってくる光で見える範囲のファイアアントだけでもげんなりするほどの量が見える。

「ディメンジョンルームに入れておいて、巣の奥を調べてる間にガルド達に触覚だけ切り取ってもらいましょう。」

俺は壁際にディメンジョンルームを開く。するとすぐに2人が顔を出した。

「(あれ?なにかあったんですか?)」
「ファイアアントの死体の量がすごくてな。ここに入れるから巣の奥の調査をしてる間に討伐証明の触覚だけ切り取っておいてくれないか?」
「(わかった。任せておけ。)」
「じゃあ運び込むからな。」
「(あー!待って!バラムが運ぶ!)」

バラムが声(念話)をあげると体を薄く伸ばし水のように地面に広がっていく。

「どうしたんだ?運ぶんじゃないのか?」
「いや、バラムが運ぶっていうので……。」
「(バラムね!おっきくなったからこんなこともできるんだよー!)」
「うぉ、なんだ⁉」

地面に広がり、ファイアアントの下に入りこんだバラムの体が震えるとファイアアントの死体がまるで氷の上を滑るかのようにスーッとこちらへ寄ってきた。

どうやらファイアアントと地面の隙間に入れた体を先端からこちらに循環させて上に乗ったものを動かしてるみたいだ。

「自分の体の上に乗せて、動かしてるのか。よく考えたな。」
「(えへへ~。)」
「(じゃあ僕もお手伝いします。バラムさん、ここまで集めてくれたら僕が奥に積んでおきますよ。)」

そういったロアは足元から影を伸ばし、バラムが運んできたファイアアントに巻き付けると持ち上げて部屋の隅に積み上げていく。

初めて会った時に俺を捕まえて引きずったり体の向きを変えさせたりしたアレだ。今はあの時の霞のような状態ではなく、影と言えるほど濃くなっている。

「シャドウバインドの応用がうまくなったな。」
「(ご主人様に言われて、この中にいる時に練習してたんですよ。)」
「そうか、そのまま続ければ続ければこれで槍とか剣が作れるかもな。」
「(はい、頑張ります。)」

そのまま外の光が届く範囲の回収を終えるとディメンジョンルームには5,60匹ほどのファイアアントが積み上げられた。

「……奥の通路にもまだたくさんありそうだけどこれ以上は暗くて先が分からないな。」
「(ふむ、ではここまでにしてここを閉じるか?)」
「そうだな。残りは異空間収納に入れておくから後にしよう」
「(じゃあ気を付けてくださいね。)」

ガルドとロアに見送られ、ディメンジョンルームを閉じると通路の奥の暗闇に目を凝らす。

「さてと、じゃあ奥に行くとするか。」
「はい。」

俺は異空間収納から先ほど作ったライトを付与した魔石をいくつか取り出す。

「ほう、便利なモンもってるんだな。」
「最初に巣に入った時に暗かったので作りました。魔石の中の魔力が残ってる間は光り続けますから異空間収納が使えないと保管が不便ですけど。」

そう言って取り出したライトの魔石をバラムに持たせる

「バラム、長さを変えた触手を伸ばしてこれで前の方を照らしてくれるか?」
「(はーい!)」

先端に魔石を包んだ触手がスルスルと通路の先に伸びて辺りを照らし始める。

すると通路には先ほどまでの周囲と同じようにファイアアントの死体がまだまだ残っていた。

「これはまた大量だな。」
「そうですね。報酬がとんでもないことになりそうですけどこの規模の巣を潰そうと思うとどのくらい人が必要なんでしょうか?」
「作戦にもよるし全体像がまだ見えないからなんとも言えないが……。そうだな、ランクD冒険者が長期戦で巣の外で活動してるやつを少しずつ倒して数を減らすやり方なら2~3パーティの合同。巣に潜って殲滅するなら10パーティぐらいで入れ替わりで交代しながらか。」
「依頼を受けたとき俺一人だったんですけど。」
「お前さんはランクCだしな。それに依頼を受ける前に情報を集めて作戦を立てておくのも冒険者の仕事だ。そういう意味では作戦もなしに巣に突っ込んで仲間を呼ばれたお前が悪いといも言えるな。まぁ、無傷で巣を壊滅させたんだから結果オーライともいえるが、これに懲りたら今度からはしっかり情報収集してから依頼を受けるんだな。」
「……そうします。」

ベルグさんと話しながら触手の伸ばしたバラムを先頭に巣の奥へ進む。道中のファイアントは地面に異空間収納を開いて落とし入れていった。

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