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第二章 少年期 ~暗黒冥界~

第2話 ロントル=タートル

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「生身の人間なんて、久しぶりに見たのお」

  白い髭を生やした優しそうなお爺さんが立っている。ティアを助けるために来た【暗黒冥界】で、初めてあった人……間違えた、魂である。

  優しそうなお爺さんか……俺の前世のじいじを思い出すな。

  よく将棋の相手をして貰ったな。俺に王手をする度に『勝った勝ったは下駄の音!』と言って俺を威嚇してきたな。その他にも俺を威嚇する技を持っていたが、言うと寒いので言わないでおこう。

  そんなどうでもいい話はいいんだ。このお爺さんからこの【暗黒冥界】について聴いてみるか。

「初めまして。俺……私は、メロイト=ロガーリーという者です。“ロト”と、気軽に呼んでください」

「丁寧に紹介してくれてありがとうのお。我はロントル=タートルという者じゃ。皆からはトルトルと呼ばれておった。お主もそう読んでくれると嬉しいのお」

「では、トルトルさんと呼ばせて頂きます」

  ロントル=タートルか……どっかで見たなその名前。なんだっけな……?

「お主、珍しいのお。神級精霊と契を交わすなんて」

「ははは、まぐれで契約出来たんですよ」

「謙虚な事を言いなさって、運も実力の内だしのお」

  のんびりしたお爺さんだな。俺のじいじものんびりした人だったな。

  あれは苺狩りの時か。あ、苺狩り知ってます?苺を時間内に幾らでも食べていいという夢の様な企画のことです。その苺狩りを一緒に来ていたじいじと無事終え、乗ってきた車に戻る時、とてもゆっくりじいじは歩いたのだ。俺は、「のんびりし過ぎじゃない?」と聞いた。その時、じいじは、「これは仕方が無い事なんだよ」と言った。はて?どういう事?と、俺は、その時思った。車に無事戻り、席に着く。じいじも座ると、何故かホッとため息を吐いた。何に安心したのか、訝しげにじいじを見ていると、なんとズボンのポケットから苺を取り出したのだ!俺は戦慄した。それは、泥棒だと……。そう思っている束の間、じいじはにこやかに呟いた。「みんな!食べる?」と。これは我が張山家に伝わる「じいじ自然動作で泥棒事件」と、何年も笑い話として酒の肴にされた。

  ……ん?あんまのんびりした話ではないな。

『何故ニヤニヤしてるのだ?』

「思い出し笑い」


「ほお。お主は精霊とお話ができるのか」

  トルトルさんが驚いた様子で尋ねてきた。

「はい。できますよ。難しいことなんですか?」

  そう言えば、ティアは精霊とお話出来てなかったな。何でだろ?

「難しい事じゃよ。儂の知っとる限りじゃ、全てをぶち抜く恐怖の狙撃手 スナイパー、クラン=ヘイヘと、全てをぶち壊す戦闘馬鹿バトルジャンキータンラント=ルーデル。あとは、召喚された勇者達だけじゃのお」

  以外に難しいんだな。それにしても、ルーデルやヘイヘって……その2人で小国滅ぼせるって有名なヤツやん……。

「儂の生きてた時の話じゃ。もしかしたら話せる人間は増えてるかもしれんのお」

  確かに、増えてるかもな。

「儂が死んでから、もうかなり経ったしのお」

「この【暗黒冥界】では、3年以内には【冥界】へ誘われると聞いたのですが……デマなんですか?」

「いや、合っておる。儂は、まだ満足してないのじゃ……」

「と、言いますと?」

「儂は、天才と迄呼ばれた魔法使いだったんじゃ……凡百天災おも跳ね返す、とまで言われたモノじゃ。それでものお、よる年波には、勝てなくてのお。死ぬ前に、ある書物を書いたのじゃ……。儂が、未だに完成させていない、魔法。その名も、《魔素魔力変換》。これを、本に書き記したんじゃ……」

  あれ、その本知ってる。というか、それ使ってここに来た……

「この書物を、大事に使っておるか。この魔法のせいで、戦争等が起きてないか。儂は心配でのお……」

  確かに、この魔法は強力だ。これを極めれば、大魔法の特売セールが行える。……書いた本人としては、きっと、心配するだろうな……。

「トルトルさん。私、その魔法の書にあった、《冥界転移魔法》を使って、ここに来たんです」

「……何?まさか、あの魔法の書の仕組みに気付く知能の持ち主に出会えるとは……!並の頭脳じゃ、耐えられず、死ぬことも有り得るのにのお……!」

  マジか。危ねえじゃねえか。あの時、ちゃっかり《頭脳強化》行使しといて良かったー。ってか、見つけたのマグレだ。はははー。

「その魔法の書は、何処で見つけたのじゃ?」

「私の住んでいた国の城に、保管されていました」

  前世の知識なきゃ解けないようなモノ、誰も扱えないと思う。

「そうか。悪用などは……されておらんかったか?」

「そのような記述等は、ありませんでした」

「そうか……!それは、良かったのじゃ……!」

  喜んでる。なんか、いいことした気分。

「お?……そうか。儂、そろそろ【冥界】へ行かねばならんようじゃ……」

「満足をしたら、【冥界】に誘われる……つまり、満足した、ということなんですね」

「そうじゃ。良かった。お主が良い人間であって。神級精霊に好かれるような人間じゃ。儂は安心して【冥界】へ行ける……その魔法の書のこと、頼んだぞ」

  トルトルさんで、光が爆ぜた。俺は堪らず、目を瞑った。

  光が収まり、目を開けると、其処にはもうトルトルさんの姿は無かった。

  
  その光は、とても優しく、暖かく感じた。


『いい爺さんだった。お前もそう思わないか?』

「ああ。そんなトルトルさんの為にも、この《魔素魔力変換》を善いことに使わないとな」

『ふっ、お前が外道に堕ちそうになったら、俺が引っ張って元の道に戻してやるよ』

「へえ、じゃあお前が外道な精霊になっても、俺が引き摺り戻してやるよ」


『これからも宜しくな』

「こちらこそ」

 
  俺達は、ティアの探索を続けた。
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