異世界王子のシェアライフ

大国プルタニア

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　高度魔術師によって完成された転移魔法陣の第一次試験。

　プルタニア王国に新たなる歴史を刻む予定だった…。

　国内最高峰の魔術師として名高いノルン家のアルフォンスならば、リバウンドの影響も無く、予定地への転移可能と計算されていた。


「では、万が一の事も有る。もしも指定外のスポットに飛ばされた際は、再び王宮ここに戻ってくる…。」

　国内に仮定的に張り巡らされた転移魔法陣。王宮内を軸とし、少し魔力量を控えた中間地区、最果てには王宮と同じバランスでの配置。

　同じバランス同士ならば、確実に辿り着く筈だった…。均一化された消費魔力。万一に備え軽装備は身に付けていた。もしも転移先を間違えたとしても、返送分の魔力回復までの時間稼ぎが出来る様にと…。

　紙に書き写された式は、些細な誤差が生じていたが、それが他の魔術師ならば、その差は歴然だった。


　一刻を争うが故の荒療治…誰もがアルフォンスの力量を見誤っていた。

　魔法陣に吸い込まれていく過程で、何処からか聞き付けたであろう勘違い令嬢が、この日この時この場所に現れた。


「アルフォンス様！逃がしませんわよ。」


　計算外のイレギュラーが、展開中の魔法に飛び付こうとし、アルフォンスの魔力の流れに乱れが生じた…。


　魔法陣の発動条件は、魔力を流す者が誰を転送するか願わなければ、その他の者は引き込まれる事は無い。条件付きの魔法であった。

　だがしかし、それを理解していた上での動揺。この試験は関係者以外には伝わらぬよう箝口令が出されていた。

　それなのに、この令嬢はアルフォンスを尾行してこの場に入ってきてしまったのだ。


「ベルベット令嬢！近付いてはなりません！」


　研究者が彼女を止めに入るが、時既に遅し。魔法陣の中に一歩足を踏み入れてしまったライリーは、アルフォンスに飛び付いた…が、間に合わなかった。

　魔法陣の発動を終えたその場からは、魔力が消えて、ただの円だけが床に残る。

　そして一瞬にして姿を消してしまったアルフォンスに、「アルフォンス様はどこ⁉︎」と空振りした腕を動かすライリー。

「ベルベット令嬢、王子はここには居りません。」

「どう言うことですの？」

「これは転移魔法陣と言って、別の場所に移動する為に造られた高度な術式なのです。ですので…ここには…。」

　令嬢に説明をする最中、研究者が魔法陣の中央…ライリーの足元へと視線を向けた。


「な、なんて事だ‼︎」


　令嬢の足元…否、履き物の下には、さっきまでアルフォンスが着ていた衣類と軽装備が散らばっていた。


「拙いっ…もしかしたら身一つで転移したのかもしれない‼︎直ちに速馬を出し、ノルン様を救出せねば‼︎」


　
　こうして発覚した失敗。王宮内は騒ぎとなり、身包みひとつ持たぬでスポットに移された王子の捜索にあたったのだったが…。

　その後、アルフォンス・ノルン・プルタニアの姿を見た者は誰一人として居なかった。

　これは後に、プルタニア王国の歴史書に刻まれる事となる。

『国内最高峰の魔術師アルフォンス殿下失踪』


　まさかこの転移魔法陣が、異世界に繋がってしまった等とは…誰も思いもよらない。