イケメンな鳥とストーカー

あおくん

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「ココさん!おかえりなさい!」


ココを呼び止める声が二人の元まで届いた。
いや、届いたという表現は足りないだろう。
この開けた場所で反響したと言ってもいいぐらいの声量だった為に、ココは足を止めざるを得なかった。


「た、だいま…」


振り返りそう返したココに、本当に嬉しそうに満面の笑みを浮かべるケン。
ココは少し複雑な気持ちになる。
かなりの距離があるはずなのに難なくココの声を拾い上げたからだ。


ちなみに同僚は


(どういう関係よ!?ストーカーに対して親密そうな言葉を告げるだなんて!え、ちょっと待って!遠くてわからなかったけど、あれさっき話してた一番のイケメンじゃない!?)


と驚きの表情を浮かべている。


同僚は知らないが、元々ココとケンという超イケメン店員の変態男は顔見知りである。
カフェという店の中限定で、「お疲れ様」「気をつけて帰ってくださいね」等の言葉は普通に交わしていた。

勿論ケンの中では鳥の姿でも交流していたために、それ以上の関係だと思いこんでいるが…。

そういう経緯があり、たとえ変態だとわかったとしてもココが理解できる言葉をかけられれば、今までの流れで気さくに返してしまうのだ。


「…ね、ココ」


小声で囁かれたことでココは同僚の存在を思い出す。


「ごめんね、今日は一緒に飲めなそう…。ここまで付き合ってくれてありがとう」

「…私こそ役に立てなくてごめん」

「ううん。そんなことない。とても心強かった」


そう話すココの言葉は嘘偽りない本心だ。
一人だったらもっと色々なことを考え、お店へと寄り道した今よりも、更に家に辿り着くまでに時間がかかっていたいだろう。
ありがとうと心の中で呟いて見送る。


「ココさん、今日は友達と飲むつもりだったの?」


帰っていく同僚の後ろ姿を見てケンは呟いた。
顔は無表情。
先程の笑顔はどこにいったのかと、ココは恐ろしく感じた。


「あ、うん…、でもやめたの」

「そうなんだ!よかった!」


なにが嬉しいのか、キラキラ輝く笑顔を浮かべるケンからココは目をそらす。
変態勘違い男だが、顔はイケメンなのだ。
眩しすぎて目が潰れそうだとココは思うが、それ以上にやっぱり同僚を帰して正解だとも思った。
同性なら大丈夫という考えではないっぽいのだ。この変態は。


「…あの…、そちらは?」


そして遂にココは気になっていたもう一人の人物へと目を向けた。
何故かココが出したゴミ袋をケンと共に持つ男。
それはゴミなんだぞという言葉は口には出さない。
もう一人の男はどうか分からないが、とりあえずケンにそういった常識は通じないのだとココは認識している。
だが男と顔を合わせたことがないココは、知っているケンにとりあえず確認したのだ。


「そう!ココさん!こいつ危ないよ!要注意人物!!」


要注意人物はお前だ。


「朝ココさんを見送っていたら、こいつココさんのゴミ袋を漁ってたんだよ!」

「おい!!」

「こんなストーカー男がいるようなアパートなんてやめよ!?僕のところおいでよ!一緒に住もう!?」

「ふざけんなよてめぇ!!」


恐ろしいことをいっているが、ひとまず置いておこう。

それよりも二人の間にはもしかしたら互いに齟齬があるのかもしれない。

例えばこのアパートで出されるゴミの日が徹底されていない場合、だれが守らないのか突き止めるべく、管理者が確認することだってあるだろう。
その管理者がこの男性なのかもしれないとココは思った。
そしてタイミング悪くケンにみられ、争いに発展した。

パッと思いついただけだが、この推測はとても可能性が高いとココは考えた。

例え漁りはじめた、いや確認し始めが朝だとしても、今が夕方であっても、今までずっと揉めていたのかと、そんな疑問は綺麗に掻き消す。
誰だって、希望は持ちたいものだ。

そしてやっぱり変態の発言は気になるもので、同棲を提案しないでもらいたい。

本当に身の危険を感じるココは、現実逃避をし空を仰ぐ。


「ふざけてんのはテメーだ!人の恋人にちゃっかいかけてんじゃねーよ!」

「何が恋人だ!ココに恋人はいねーんだよ!」

「ざけんな!僕がココさんの恋人なんだ!現実見やがれ!つーか、もうごみ袋から手離せよ!このストーカー野郎!」

「誰がストーカーだ!俺はココが捨てたもう用済みのココの物が欲しいだけだ!ストーカー行為してんのはてめーだろ!?家まで押し付けやがって!」

「それがストーカー行為つーんだよ!つーか恋人が家に遊びに来るのは当然だろ!?」

「朝っぱらからこねーよ!常識考えろ!」

「ストーカーが常識語ってんじゃねーよ!」


なんと意外にもケンはゴミとして出されたゴミはゴミだという認識を持っていた。
とても当たり前のことだが、それがココの心を持ち直す。

やはり例え変態男でも、カフェの店員と客の関係であったとしても、少し会話をする顔見知りなのだ。

少しでも常識を持っていてくれてよかったとココは思う。

だが、それでもココは辛くなった。
恋人がいないことを大声で言わないでほしいし、ゴミを漁るような人とあたかも知り合いだと告げるように、名前で呼ばないで欲しい。
というか、貴方は誰だ。とココは思った。

そして一番大事なこと。

ココの考えた管理人という可能性を、この男たちは大声で見事に否定しているのだ。
ココは涙を流しそうなほど辛かった。


「「ココ(さん)!!!」」

「は、はい!」


もう決着はついたのか。
まぁ朝からずっと揉めていれば流石に決着も着くだろう。

二人は息ぴったりにココへと振り向く。


「「僕(俺)がココ(さん)を守るから!!!」」



そう叫ばれた言葉にココは表情が抜け落ちた。

そして今だに双方に握られているココの出したゴミ袋をみて、ココは思う。



変態に加えてストーカーが増加したのだと。











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