イケメンな鳥とストーカー

あおくん

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いつから僕たちが付き合い始めたのかと、僕の愛を試したく思ったココさんは、それでも僕がちゃんと答えられるか不安気な表情を浮かべながら見つめるココさんを、僕は初めて人間の姿のまま抱き締めた。

ココさんは特別細いわけではない。

細すぎるわけでもなく、かと言って太くもなく、健康的な、所謂普通の体型をしている。

だから触れたら折れてしまいそうとは一度も思わなかった。

それでも抱き締めた時、僕はなんて小さいんだと思った。

そして僕の腕の中にすっぽりと収まるココさんは、まるで運命の人のようだと誰かから教えられているかのように思った。


(いや、"よう"ではない。運命なんだ)


そう。運命。

元から決まっていたのだ。

僕とココさんが出会うことも、想いが通じ合って付き合うことも、そしてこれから先一生共に過ごすことも。


抱きしめ合っていると、ココさんが僕から離れる。

腕につけている時計を見ると、もうココさんの出社時間が迫っていた。

寂しく感じるけれども仕方ない。

それよりも“照れて”走り去るココさんに、やっぱり早く慣れてもらわねばと、そう思った。










「いいんじゃない?」


ココは愕然とした。
有給の合間に起きた出来事を、勇気を振り絞ったココが、同僚の中で唯一女性社員に話した返事がアレだからである。

勿論鳥の獣人だったということはいってはいない。
それを告げると例え本当に変態であったとしても、大人なのに裸で行動する変人だと告げているのと同じだと思ったからだ。

ココは優しかった。
だが、だからこそ変態にも強く出れないというマイナス点があげられるが、そこはココの本質の問題だからどうしようもない。


「え?なにがいいの?だって告白されていないのにいつの間にか結婚を前提に付き合ってるって思われてるんだよ!?
それにその人のお店の人たちにも広がって……。
それにそれに今日だって家に来たんだよ!?」


私本当にびっくりして……とココは呟いた。

ちなみに鳥だということを告げていないココは、男の裸を見てしまったことも伝えていない。
仮に男の裸をみたといってしまえば、どんな経緯があったかを話すことになる。
そして今日の朝ご飯を男がピタリと当てたこともだ。
普通の鳥だと思いこんでいたココは結果として、変態を家の中へと招き入れていたのだ。
ココの見ていない隙を見て、なにかを仕組まれてしまった可能性もある。
結局は鳥だということを言ってしまうことになる為、ココは断じて言わなかったのだ。

だからなのか同僚は深刻に受け止めなかった。


「だってイケメンでしょー?それにココがいってるのってあの乗合馬車近くにあるカフェのことでしょ?あそこイケメン多いし、いーじゃんいーじゃん!
あー、イケメンに入れられる珈琲かぁ…。
私もイケメンの淹れた珈琲のみたいなぁ…、超イケメンの人いるんだけどあの人が淹れたところ見たことないんだよねー……、そうだ!
本当に付き合ってさ、彼氏経由で私にも淹れてくれるようにお願いしてよ!」

「もー!!真面目に考えてよ!」

「アハハハ!冗談冗談!」


ココの同僚は笑っていたが、同僚の話す超イケメンの男こそケンであり、変態鳥勘違い男である。

ちなみにココはケン以外のスタッフのことはあまり知らない。
ココ相手に接客していたのは変態だけだからである。
いや、一度だけ別の人が担当した事があるが、殆ど変態が対応していた為、"だけ"という表現を使ってもいいだろう。

つまり同僚のいう超イケメンが変態であることをココは知らないのだ。

知っていたらココは同僚を必死に説得するだろう。


「…ねぇ……お願いなんだけど、今日家まで着いてきてくれない?」


ココと同僚は帰宅方向が一緒だ。
入社したては同期で、同じ女性で、家の方角も同じなこともあり、すぐに仲良くなったのである。
だが、ココが気にしてしまうくらい家と家の間隔は開いていた。
まだココの家の方が近ければ罪悪感も感じないだろうが、悲しいことにココの家の方が同僚よりも遠かった。
だがそんなこと屁でもないというかのように、笑顔で同僚は受け入れた。


「いいよいいよ!明日休みだしさ、帰り道にお酒買って宅飲みしよー!」


魅力的な同僚の提案に瞬いた後、ココは久しぶりに笑った。


「ありがとう!!!お礼といってはなんだけど、お酒代は私が出すね!」

「まぢ!?じゃあ私は美味しそうなおつまみ買うよ!」


同僚と笑い合いながら楽しいことへの計画を立てる二人。
やっぱり楽しみがあると仕事がはかどる気がするわ!と笑いながら作業場に向かう同僚の言葉通り、仕事の区切りがついたココがふと時計を見上げると、終業時間になっていた。
同僚を待たせまいと無菌服から着替え、建物から出るとそこに同僚が待っていた。


「よし!帰ろう!」


そう言った同僚と共に帰宅する。
勿論買い出しに行くのは忘れない。
今日一番の優先事項だからだ。


「そのイケメン君いたりするかなぁ?」

「どうだろう……家に来られたのは今日の朝が初めてだから…」


勿論人間の姿では。が言葉の頭につく。


「いやー見てみたい!そのイケメン君!」

「他人事だと思ってー…、あ」

「ん?どうし………」


まだ家には近いとは言い難い場所で急に足を止めるココにつられるように、同僚もまた足を止める。

二人は見てしまったのだ。
イケメン二人が激しく争う姿を。

ココは見て気付いてしまったのだ。
昨日の夜出したゴミ袋を"知らないイケメン"が持っていることを。

同僚は察してしまったのだ。
二人のイケメンがゴミ袋を取り合う様子から、ストーカー行為をしている最中なのだと。

勿論変態、いやここはケンといったほうがわかりやすいだろう。
ケンがストーカー行為を行っていたのかはまだわからない。
もしかしたらココのゴミを守るために立ち向かっただけなのかもしれないのだ。


だが二人は踵を返す。


「ね、私の家に期限近いカマンベールチーズあるんだよね」

「ワインあるしちょうどいいね。蜂蜜かけて食べる?」

「ココってばおっしゃれ~」


なるべく音を立てないよう静かにこの場から去ろうとする二人の声はとても小さかった。



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