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よん
しおりを挟むジリリリリリとなる目覚まし音でココは起きた。
上長からのお願いで取得した休暇は既に終わり、ココは今まで通りの朝を迎える。
ちなみにこの休暇の間、趣味である薬づくりは一切行っていない。
薬づくりと言っても個人的に使うハンドクリーム等の塗り薬が主なため、在庫となり捨てることにならないよう作らない日も当然あるが。
それでも、なんだか濃い経験をしたとはいえ、無駄に過ごしてしまった感があるココは不満に思う。
「むう、むむぐむんむむうむぅうむ!」
口の中のご飯を飲み込まないままココは気合を入れた。
ちなみに、どうせ一人暮らしだからという考えで飲み込まないまま発した言葉は「うん、仕事頑張りますか!」である。
そして一晩眠ったことで、イケメン変態鳥野郎への謝罪はすっかり忘れていた。
寝巻きから服を着替え、歯を磨き、身なりを鏡で確かめている時だった。
コンコンと扉から聞こえるココは首を傾げる。
ココの住むアパートには呼び出し音がなるインターフォンというものは設置されていない。
インターフォンはココの住んでいるアパートよりももっとグレードが高い住居に備え付けられており、一般的にはまだ普及されていない最新設備なのだ。
その為、用がある者は扉を叩いて住人に呼びかけるのが一般的だ。
ココは朝早くに尋ねるような人物に心当たりがなく、不思議に思いながら扉を開けた。
「おはよう!ココさん!」
昨日ぶりのイケメン変態鳥野郎である。
いや、もうこの際イケメンは外して変態鳥野郎で十分なのではないかとココは思った。
「お、はよう…」
思わず挨拶を返してしまったが、ココにとって変態鳥野郎は赤の他人、もっというならばいきなり全裸になって股間をピクつかせる変態鳥の露出狂だ。
昨日までは野蛮な行為を行ってしまったことに罪悪感から謝罪をと思ったが、一晩たった今ではその思いをきれいになくしたココは、挨拶を返さなくても良かったと後悔した。
「昨日はごめんね?付き合っているとはいえ、急に男の裸を見せられてココさんもびっくりしたよね」
確かにココは驚愕した。
思わず小さな鳥を、といっても正体は目の前の変態なのだが、思いっきり放り投げる程にココは驚いたのだ。
そして変態の言葉を聞いてココは思った。
付き合ってなどない、と。
一体いつから付き合うことになったのか、目の前の男に告白すらされていないココは甚だ疑問だった。
変態の言葉はまだ続く。
「それでさ、僕思ったんだけど、今までココさんの事を考えて会うときは鳥の姿で会っていたじゃない?
まぁ僕としては人間の姿でも鳥の姿でも、どっちの姿でも僕は僕だし、それに鳥の姿だとココさんに抱きしめてもらえて凄く嬉しかったから、……よかったんだけどさ。
でも、ココさんのことを考えたら、僕の人間の姿にも慣れたほうがいいと思うんだよね。
ほら、昨日みたいにそういう雰囲気になった時、またココさんを驚かせたくないしさ」
ね?どうかな?と無駄に綺麗な顔を全面にだし、顔の周りに無駄にキラキラな光を輝かせ、変態は首を傾げた。
もしココがこの男の事をただのカフェの店員の認識のままだったら、思わず頷いてしまうほどにあざとかった。
だがココは騙されない。
いや、意味不明な言葉の羅列が多すぎて、脳が処理に追いつけないだけなのだが。
私のことを考えて鳥の姿で会っていたということもそうだが、昨日みたいにそういう雰囲気になったら、と変態は言ったが、断じて甘い雰囲気ではなかったはずだ。
変態にとってはあの空気感も甘く感じられるのか。
第一私達はいつの時点で付き合ったのかと、ココの思考が行ったり来たりする。
「あ、そうだ!もし周りの目が気になるようなら今まで通り鳥の姿で来るよ!それならココさんも周りを気にしなくていいし、部屋の中で人間の姿になればココさんも自然と僕に慣れるよね!」
そもそも人間の姿に慣れるとはなんだ、とココは思った。
人間の姿ならカフェに行くたびにみていたし、目の前で鳥から人間へと変身する姿も見てしまったため、夢であればよかったのにと思うほど、あの可愛らしい鳥は目の前の変態だったと強く意識付けられている。
なんて悲しい現実なんだとココは思い、思わず目を伏せたときハッと気付いた。
変態がまだ外にいるのだ。
変態のくせに部屋に侵入していないだなんてと偏見まがいなことを思うが、ココにとっては幸いした。
握ったままの取っ手をひいて、思いっきり閉じる。
だが、扉は閉まらなかった。
なんで!?と目を見開くココの視界に、変態の靴が扉の隙間に滑り込ませていたのがみえる。
鉄でも入っているのかと思うほどに、靴は全く形を変えていなかった。
扉の隙間から男の手が割り込み、必死にココが引っ張っていようが徐々に開き始める扉。
「どうしたの??ココさん。
あ、まさか青のりがついてるか気になってるの?」
「………」
そんなこと気にしていなかったココは恐怖した。
何故ならじゃがいもに青のりを合わせたものを先程の朝食で食べていたからだ。
勿論ちゃんと歯磨きをしたときに、歯に何もついていないかチェックしている。
ココは恐る恐る振り返る。
そこにはちゃんと薄手のレースカーテンが広げられている窓の様子が目に入った。
ならば何故この男は知っているのだろう。
外から部屋の様子をうかがえる場所は、窓しかありえないはずなのに。
ココはごくりと唾を飲み込んだ。
「大丈夫だよ。ちゃんと取れてるから、気にしなくても平気だよ。
まぁ例えついていたとしても、僕がいつでも取ってあげるし、それにそんなココさんも可愛いと思うから安心して」
「…の、……すか?」
「!なになに?何でも聞いて!」
「…、わ…わたし達、い、いつから恋人になったんですか?!」
意を決して、ずっと気になっていたことをココは尋ねた。
勿論気になることは他にも多くあったが、一番聞きたいことはこれだった。
覚えていない、という言葉は語弊があるが、もしかしたら覚えていないことでケンが怒るかもしれないと思うと余計怖かった。
でも心の何処かでココのことを諦めてくれないかなという期待もある。
だが、それは杞憂だった。
むしろ余計に喜ばせてしまう。
ココが大好きなケンは花びらが舞うほどの笑顔を浮かべたのだ。
「ココさんってば僕のこと試してるんだね!でも僕はココさんの期待に応えられるよ!
付き合ったのは今からちょうど二年と六ヶ月前の今日で、結婚を前提にって告白した僕のプロポーズを受けてくれたあの日から、僕たちは付き合ってるんだよ!」
あの日のことは僕の大切な思い出なんだ!と、力任せに扉を開けた変態は、困惑しているココを抱きしめ「勿論ちゃんとしたプロポーズはするからね」と耳元で囁いたのだった。
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