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㉓つづき
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驚く様子を見せる旦那様にサーシャは唇を噛みしめた。
何度も何度も助けを求め、それが無駄に終わっていたことがわかったあの時のことを思い出しているのだろう。
俺はサーシャの肩にポンっと手を乗せた。
「メイドの中に大奥様側の者がいたんですよ。
旦那様は新人ばかりを集めたと思っているようだが、そうではありませんでした。
何度も何度も手紙を出していた俺たちは当然、手紙を管理する使用人に旦那様からの手紙が届いていないかを確認しました。
そして“届いていない”と答えるその使用人の言葉を信じていました。
騎士団長でもある旦那様の元に手紙が届くのは時間がかかるのだろうと、そう思ったからですね。
だけどそうではなかった。何故かわかりますか?」
「……繰り返えされる回答が同じだったから、か?」
「その通りです。普通何度も色々な人に尋ねられたら、見逃しもあるかもしれないと、改めて探したりするもんでしょう?
例えそんな気持ちがなくとも、形だけでも取り繕うべきところをそいつはしなかった。
そして堪忍袋の緒が切れたんでしょうね、その者はいいました。“来るわけないでしょう!”と。声を荒げて。
その者の言動に疑問を抱いた俺たち使用人は目を盗んで集まり、情報交換をしていたというわけです」
「その情報交換の際、私も感じたことをいいましたよ。
奥様の手助けをするための行動を、監視して、そして公爵夫人に伝えている者がいると。
それが手紙を管理していたメイドと同じだったことがわかったのです!」
「それで外の使用人に協力してもらい、公爵家にいって尋ねてもらったところ、大奥様が連れてきた使用人と入れ替わっていたことがわかった。
そういうことでした」
「だから、私達は旦那様に連絡が取れないように手を打たれ、そして奥様を助けられないよう常に監視されていたんですよ。私たちが奥様を助けると、奥様が叱られますからね!
……しかも一般人から騎士団長への手紙は規制されています。個人で書くことも出来ません。
かと言って公爵家から出そうと思っても、そこには公爵夫人側の使用人も当然います。
私達だけじゃどうしようも出来なかったのです!」
叫ぶサーシャに旦那様は頭を押さえた。
「……そこからは想像できるでしょう。
掃除、洗濯を担当しているメイドの仕事を奥様が一人で行うようになったんです。
当然のように限界がきました。そして…」
「倒れている奥様を発見したんです。それが今日のことです…」
旦那様は少し沈黙を置いた後「そうか」と小さく呟いた。
「あの……」
「なんだ」
「大奥様が奥様になんといって言いくるめたのかはわかりませんが、奥様から聞いたことがあるんです。
使用人である俺たちは奥様が決めたことに口を出すことができないから、無理をしないようにと、そう言った時奥様はこういっていました。
“旦那様が帰ってくるまでに、もう少し体力を付けたいから”と」
「体力をつけたい?」
「はい。もし奥様と狩りや山登りにでもいく約束でもしているのでしたら、あまり無理はさせないようお願いします」
「いや、そういう約束はしていないが……」
悩む旦那様に、サーシャが赤い顔をしながら声を掛ける。
「あ、あのぉ……、もしかしたらですが…」
さっきまで涙を浮かべすぐにでも泣きそうだったサーシャは、今はニマニマとした表情に変わっていた。
感情の起伏が激しいな。
「なんだ?」
「も、もしかしたらですよ?奥様は旦那様との初夜で体力を増やさないとと思ったんじゃないかと思いまして…」
「それはなぜだ?」
「え!?だ、だって激しかったそうじゃないですか?!
あ、いえ!私は覗いてませんよ!?それに初夜を迎える際は奥様の世話係に任命されたメイドは何かあった時に備えて待機するんです!
その時担当にあたったメイドが“詳細はいえないけど、奥様はとても頑張ったわ”といっていましたし、突然やってきた公爵夫人たちにも“奥様の睡眠時間考えなさいよ!”とか言っていましたので、奥様は夫人の何かしらの言葉を真に受けて、旦那様の体力に合わせるために体力を付けようと、そう思ったんじゃないかと思ったんです」
要は夜の営みの為に、少しでも旦那様に満足して欲しいという奥様の気持ちに付け込んだ。と。
確かにあり得る話ではあるが、それでも貴族の女性にメイドの仕事をしろというのは受け入れがたいものなのではないか?
身分が高い貴族の中には、メイドは同じ貴族でも身分が低い者が担当するという話を聞いたことがあるが、それでもそういう場合は側仕えとしての筈だ。
水仕事が多い仕事は基本、平民出身のメイドが担当するのは変わらないだろう。
まぁ俺は調理場が仕事の為、そんな事情は詳しく知っていないが。
「そ、それが、メアリーがメイドの仕事をした理由ならば、なんて可愛らしい…いや、これは是非ともすぐに記憶を戻してもらい…真意を確かめたい…」
顔を赤く染め旦那様がぶつぶつと呟いていた為耳を澄ますと、そんな言葉が聞こえてきた。
それが奥様がメイドの仕事を行っていた理由なのだとしたら、なんて羨ましいんだと俺は思う。
奥様のような可愛らしい女性にそこまでされたら男として黙っていれないだろう。色んな意味で。
何度も何度も助けを求め、それが無駄に終わっていたことがわかったあの時のことを思い出しているのだろう。
俺はサーシャの肩にポンっと手を乗せた。
「メイドの中に大奥様側の者がいたんですよ。
旦那様は新人ばかりを集めたと思っているようだが、そうではありませんでした。
何度も何度も手紙を出していた俺たちは当然、手紙を管理する使用人に旦那様からの手紙が届いていないかを確認しました。
そして“届いていない”と答えるその使用人の言葉を信じていました。
騎士団長でもある旦那様の元に手紙が届くのは時間がかかるのだろうと、そう思ったからですね。
だけどそうではなかった。何故かわかりますか?」
「……繰り返えされる回答が同じだったから、か?」
「その通りです。普通何度も色々な人に尋ねられたら、見逃しもあるかもしれないと、改めて探したりするもんでしょう?
例えそんな気持ちがなくとも、形だけでも取り繕うべきところをそいつはしなかった。
そして堪忍袋の緒が切れたんでしょうね、その者はいいました。“来るわけないでしょう!”と。声を荒げて。
その者の言動に疑問を抱いた俺たち使用人は目を盗んで集まり、情報交換をしていたというわけです」
「その情報交換の際、私も感じたことをいいましたよ。
奥様の手助けをするための行動を、監視して、そして公爵夫人に伝えている者がいると。
それが手紙を管理していたメイドと同じだったことがわかったのです!」
「それで外の使用人に協力してもらい、公爵家にいって尋ねてもらったところ、大奥様が連れてきた使用人と入れ替わっていたことがわかった。
そういうことでした」
「だから、私達は旦那様に連絡が取れないように手を打たれ、そして奥様を助けられないよう常に監視されていたんですよ。私たちが奥様を助けると、奥様が叱られますからね!
……しかも一般人から騎士団長への手紙は規制されています。個人で書くことも出来ません。
かと言って公爵家から出そうと思っても、そこには公爵夫人側の使用人も当然います。
私達だけじゃどうしようも出来なかったのです!」
叫ぶサーシャに旦那様は頭を押さえた。
「……そこからは想像できるでしょう。
掃除、洗濯を担当しているメイドの仕事を奥様が一人で行うようになったんです。
当然のように限界がきました。そして…」
「倒れている奥様を発見したんです。それが今日のことです…」
旦那様は少し沈黙を置いた後「そうか」と小さく呟いた。
「あの……」
「なんだ」
「大奥様が奥様になんといって言いくるめたのかはわかりませんが、奥様から聞いたことがあるんです。
使用人である俺たちは奥様が決めたことに口を出すことができないから、無理をしないようにと、そう言った時奥様はこういっていました。
“旦那様が帰ってくるまでに、もう少し体力を付けたいから”と」
「体力をつけたい?」
「はい。もし奥様と狩りや山登りにでもいく約束でもしているのでしたら、あまり無理はさせないようお願いします」
「いや、そういう約束はしていないが……」
悩む旦那様に、サーシャが赤い顔をしながら声を掛ける。
「あ、あのぉ……、もしかしたらですが…」
さっきまで涙を浮かべすぐにでも泣きそうだったサーシャは、今はニマニマとした表情に変わっていた。
感情の起伏が激しいな。
「なんだ?」
「も、もしかしたらですよ?奥様は旦那様との初夜で体力を増やさないとと思ったんじゃないかと思いまして…」
「それはなぜだ?」
「え!?だ、だって激しかったそうじゃないですか?!
あ、いえ!私は覗いてませんよ!?それに初夜を迎える際は奥様の世話係に任命されたメイドは何かあった時に備えて待機するんです!
その時担当にあたったメイドが“詳細はいえないけど、奥様はとても頑張ったわ”といっていましたし、突然やってきた公爵夫人たちにも“奥様の睡眠時間考えなさいよ!”とか言っていましたので、奥様は夫人の何かしらの言葉を真に受けて、旦那様の体力に合わせるために体力を付けようと、そう思ったんじゃないかと思ったんです」
要は夜の営みの為に、少しでも旦那様に満足して欲しいという奥様の気持ちに付け込んだ。と。
確かにあり得る話ではあるが、それでも貴族の女性にメイドの仕事をしろというのは受け入れがたいものなのではないか?
身分が高い貴族の中には、メイドは同じ貴族でも身分が低い者が担当するという話を聞いたことがあるが、それでもそういう場合は側仕えとしての筈だ。
水仕事が多い仕事は基本、平民出身のメイドが担当するのは変わらないだろう。
まぁ俺は調理場が仕事の為、そんな事情は詳しく知っていないが。
「そ、それが、メアリーがメイドの仕事をした理由ならば、なんて可愛らしい…いや、これは是非ともすぐに記憶を戻してもらい…真意を確かめたい…」
顔を赤く染め旦那様がぶつぶつと呟いていた為耳を澄ますと、そんな言葉が聞こえてきた。
それが奥様がメイドの仕事を行っていた理由なのだとしたら、なんて羨ましいんだと俺は思う。
奥様のような可愛らしい女性にそこまでされたら男として黙っていれないだろう。色んな意味で。
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