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③旦那様のお義母様
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□
団長となったアルベルト様は初夜の翌日…というより初夜が終わった当日の朝早く身支度をしていました。
アルベルト様に朝方まで愛された私は小さく立てられた物音で目を覚まします。
「ん…」
朝方まで愛されていた私は襲い掛かる睡魔に完全に勝つことが難しく、うっすらと目を開くことしか出来ずにいましたが、それでもアルベルト様は私の頭を優しく撫でてくれていました。
私は寝ぼけながらも、優しく微笑むアルベルト様をみれたと思い、嬉しくなりました。
「これから仕事に行く。
君の為の時間が取れない……申し訳ない」
悔しそうに呟くアルベルト様に、私は寂しさを感じましたが、それでも確かに幸せを感じていました。
私との時間が取れないことに対し、アルベルト様が悔しそうにしていることがなによりも嬉しかったのです。
もしかして婚約中もこうだったのでしょうか?
…それならとっても嬉しいです。
でもアルベルト様はそんなに思い詰めなくてもいいのです。
婚約中のように、我慢出来ないほどに会いたい時は私から会いに行きますから。
だから…
「…アルベルトさま…いってらっさい…」
そう口にした私にアルベルト様はキスを落として部屋を出ていきました。
カチャと閉まる扉の音を最後に、私の意識は夢の世界へと落ちました。
◇
アルベルト様が徹夜で仕事に向かった数時間後、訪問者が訪れました。
お義母様と……初めて見るお方です。
といっても人伝えで聞いたこと。
デルオ公爵家で働くメイド達をアルベルト様が連れてきたといっても、抜けても問題ないような経歴が浅い人たちばかりと言っていたので、お義母様の隣にいるという女性をみたことがなかったとしても無理はないのです。
私は身支度を終わらせお義母様達が待つ客室へと向かいました。
取手に手を掛け開こうとしたところで中から話し声が聞こえてきます。
「こんな時間まで眠りこけているだなんて、とんだ堕落者ね」
「本当ね、アルもどこがよくてこんな子を選んだのか」
そうはいっても私が眠りにつけたのは早朝です。
お義母様と、見知らぬ女性の訪問で私は四時間にも満たない睡眠なのです。
寧ろ初夜の翌日の朝早くに前触れもなく尋ねてくる方が非常識なのではないでしょうか?
…それにしても人の旦那様を愛称で呼ぶ女性は誰なのでしょうか?
アルベルト様には男性の兄弟しかいないはずです。
私は心にもやもやとした気持ちを抱きつつ、扉を開けました。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
そして頭を下げて謝罪します。
「本当にね、どんな教育を受けてきたのかしら?」
「…申し訳ございません」
本来ならば来日の予定を前もって伝えておくのが常識ですが、それでも私は謝罪しました。
再度頭を下げる私に対し、お義母様がはぁと息を吐き出します。
「まぁいいわ。許してあげる」
「ありがとうございます。
……あの、こちらの女性はどなたでしょう?」
私はじっと見つめてくる女性に視線を向け、お義母様に尋ねました。
するとお義母様は不機嫌そうな表情を一転させて、笑顔になります。
「そういえば初めて顔を会わせるのね。彼女はギルバーツの婚約者でミレーナというの」
「よろしくね。メアリー…と呼ばせてもらってもいいかしら?」
どこか勝気な雰囲気を漂わせるミレーナ様に、私は了承する以外の選択肢はありませんでした。
「はい、構いません」
「よかったわ。私の事はミレーナ様と呼んでね」
「…わかりました」
アルベルト様のお兄様であるギルバーツ様の婚約者というならば、ミレーナ様は私より年上ということとなりますし、公爵家の後継者の婚約者ならばそれなりの身分は確実です。
様付けは当然のことですが、それを自分で言うのかと、私は思いました。
ですが敢えて疑問を口にすることはせずに、お義母様たちの予定を聞くこととします。
「…あの今日はどういった用件でいらっしゃったのでしょうか?アルベルト様ならお仕事に……」
「あら!なにも聞いていないのね」
「え?」
クスクスと憐れむように笑うミレーナ様に私は戸惑います。
そんな私にお義母様は言いました。
「アナタを教育しに来たのよ」
団長となったアルベルト様は初夜の翌日…というより初夜が終わった当日の朝早く身支度をしていました。
アルベルト様に朝方まで愛された私は小さく立てられた物音で目を覚まします。
「ん…」
朝方まで愛されていた私は襲い掛かる睡魔に完全に勝つことが難しく、うっすらと目を開くことしか出来ずにいましたが、それでもアルベルト様は私の頭を優しく撫でてくれていました。
私は寝ぼけながらも、優しく微笑むアルベルト様をみれたと思い、嬉しくなりました。
「これから仕事に行く。
君の為の時間が取れない……申し訳ない」
悔しそうに呟くアルベルト様に、私は寂しさを感じましたが、それでも確かに幸せを感じていました。
私との時間が取れないことに対し、アルベルト様が悔しそうにしていることがなによりも嬉しかったのです。
もしかして婚約中もこうだったのでしょうか?
…それならとっても嬉しいです。
でもアルベルト様はそんなに思い詰めなくてもいいのです。
婚約中のように、我慢出来ないほどに会いたい時は私から会いに行きますから。
だから…
「…アルベルトさま…いってらっさい…」
そう口にした私にアルベルト様はキスを落として部屋を出ていきました。
カチャと閉まる扉の音を最後に、私の意識は夢の世界へと落ちました。
◇
アルベルト様が徹夜で仕事に向かった数時間後、訪問者が訪れました。
お義母様と……初めて見るお方です。
といっても人伝えで聞いたこと。
デルオ公爵家で働くメイド達をアルベルト様が連れてきたといっても、抜けても問題ないような経歴が浅い人たちばかりと言っていたので、お義母様の隣にいるという女性をみたことがなかったとしても無理はないのです。
私は身支度を終わらせお義母様達が待つ客室へと向かいました。
取手に手を掛け開こうとしたところで中から話し声が聞こえてきます。
「こんな時間まで眠りこけているだなんて、とんだ堕落者ね」
「本当ね、アルもどこがよくてこんな子を選んだのか」
そうはいっても私が眠りにつけたのは早朝です。
お義母様と、見知らぬ女性の訪問で私は四時間にも満たない睡眠なのです。
寧ろ初夜の翌日の朝早くに前触れもなく尋ねてくる方が非常識なのではないでしょうか?
…それにしても人の旦那様を愛称で呼ぶ女性は誰なのでしょうか?
アルベルト様には男性の兄弟しかいないはずです。
私は心にもやもやとした気持ちを抱きつつ、扉を開けました。
「お待たせしてしまい申し訳ございません」
そして頭を下げて謝罪します。
「本当にね、どんな教育を受けてきたのかしら?」
「…申し訳ございません」
本来ならば来日の予定を前もって伝えておくのが常識ですが、それでも私は謝罪しました。
再度頭を下げる私に対し、お義母様がはぁと息を吐き出します。
「まぁいいわ。許してあげる」
「ありがとうございます。
……あの、こちらの女性はどなたでしょう?」
私はじっと見つめてくる女性に視線を向け、お義母様に尋ねました。
するとお義母様は不機嫌そうな表情を一転させて、笑顔になります。
「そういえば初めて顔を会わせるのね。彼女はギルバーツの婚約者でミレーナというの」
「よろしくね。メアリー…と呼ばせてもらってもいいかしら?」
どこか勝気な雰囲気を漂わせるミレーナ様に、私は了承する以外の選択肢はありませんでした。
「はい、構いません」
「よかったわ。私の事はミレーナ様と呼んでね」
「…わかりました」
アルベルト様のお兄様であるギルバーツ様の婚約者というならば、ミレーナ様は私より年上ということとなりますし、公爵家の後継者の婚約者ならばそれなりの身分は確実です。
様付けは当然のことですが、それを自分で言うのかと、私は思いました。
ですが敢えて疑問を口にすることはせずに、お義母様たちの予定を聞くこととします。
「…あの今日はどういった用件でいらっしゃったのでしょうか?アルベルト様ならお仕事に……」
「あら!なにも聞いていないのね」
「え?」
クスクスと憐れむように笑うミレーナ様に私は戸惑います。
そんな私にお義母様は言いました。
「アナタを教育しに来たのよ」
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