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17.話し合いの終わり
しおりを挟む「私は二度目の人生で、一度目の人生を思い出す前に夢……を見たんです」
「夢?」
「はい。私が死んでからのその後の話です。
でもそれは映像ではなく、それが描かれている本。その本を読んでいる、という夢でした」
「見たことがない未来が書かれている本、か。興味深いね、僕も見てみたいよ」
父である王、ジョセフさん、そしてコンラートが微妙な表情を浮かべる中、アルベルトだけがそう言葉を口にした。
信じられない。本当に夢なんじゃないのか。そんなことを思われても当然なのに、否定することもなく興味深いと口にしたアルベルト。
表情も楽しげに、不思議な本を思い浮かべているのか笑っていた。
「…アルベルトは、信じてくれるの?」
「当たり前だよ。僕の嫁さんがこんなことで嘘つくわけないからね」
当たり前のようにそう答えられて、私は胸がきゅうっと締め付けられたかのように苦しくなった。
でもそれが不思議と嫌ではない。
これがなんなのかもうわかる。嬉しいんだ。
そう言ってもらえて、信じてもらえて私は嬉しいのだ。
「…アリシアはお前の嫁じゃないぞ…」
「ね、アリシア。その本はどんなことがかかれていたの?」
王の言葉を綺麗に聞き流したアルベルトに、私は苦笑する。
「王子とこれから現れる戦いの神子の話よ。
私が生きていたら、…たぶん二十になった頃、かな。
国に災いが起こるという予言がなされるの。それに打ち勝つために神子と王子が強くなるための旅に出る」
「災い?そんなのがあるの?」
「うん、災いがなんなのかまではわからないんだけど…」
私が見たのはあくまでも旅の途中まで、ルーク王子と神子の関係がいい感じになったときまでの話。
だからその災いに勝てたかまではわからない。
でもきっと勝って倒せているに違いない。だってあれは二人の話なんだから。
「災い、か…」
「伯父上はなにか知ってるの?」
「ああ。………神の愛し子の話をしただろう。
あれには続きがある」
「続き?なに?」
「愛し子が危険に晒されるとその時代の王に病として伝わる。まるで愛し子を守ることが国を守ることに繋がるように聞こえるが、これは勘違いではないんだ」
「まさか伯父上、神の怒りにふれたーとかいうつもり?」
からかうような眼差しを向けるアルベルト。
今まで反応していた王は今回ばかりはそうしなかった。
それどころかとても真剣な顔つきでじっとアルベルトをみる。
「そうだ」
「へ?」
「正しくは神を鎮められなかったために、災いとして災難が訪れる。
つまり愛し子が力を使うたびに、この大地に眠っている神が鎮まる。逆に愛し子が力を使わなくなると、神が災いとして目覚める。
アリシアが見た災いというのは、この事だろう」
言い切る王に誰もが口を噤んだ。
「…、じゃあアリシアがみた未来は、アリエルさんもアリシアもいないから起きたこと、ってこと?」
「そうだろう。……全く同じ人物でも何を考えていたのか、俺にはわからないな。そもそも王位の権威を振りかざすことがないように、法律や神殿があるというのに。
少なくとも神殿がきちんと介入できていれば、アリシアは処刑されずにすんだはずだ。それがなされてないなら、そもそもの体制がおかしかったのだろう」
おかしいの一言ですませていいものではないがな。と王は続けた。
「ま、まぁ、でも今は状況が違うでしょ。
神殿はアリシアが神子だということを把握しているし、そもそも今のアリシアは神殿預かりだ。
国民の間で有名な話だからね。天使のような歌声で癒しを与えてくれる神子が王都の神殿にいるって。だから僕もあってみたいと思ってあの時謁見の間に急いでいったんだもん。
処刑ともなれば必ず神殿が介入する状況だ。
それに、なによりアリシアが愛し子で国に欠かせない存在であることは今ここにいるメンバーも知っている。
だからこの先アリシアが処刑となることは絶対にありえない。
となれば、もうやることは王妃を追い詰めるための証拠集めくらいだ。
これが難関だけどね」
どうにかして確実な証拠を集めなければと目を細めるアルベルトは、さっきドエラという意味を知らなかった子供とは思えないほどに大人びていた。
「あの……、私を娘として公表していただけませんか?」
王妃に対して証拠が掴めないのならば作ってしまえばいい。
そう思い私は提案するが、すぐに拒まれた。
「いや、それはやめた方がいい。
王妃の目論見がアリシアを利用するためなら、俺の娘として公表するのは悪手だ。
お前に危害が及ぶ可能性が高くなる」
「そうだよ、アリシア。
伯父上の娘ってことは王女になるということ。そしたらあの王妃と必然的に関わらなければならなくなる。
命を狙われる可能性があるんだよ」
王妃の目的が分かった途端、私を娘として受け入れようと告げていた王が私の申し出を断った。
アルベルトも同じく、考え直すようにと私を諭す。
「だからこそ、です。
そこを現行犯で捕えられれば、状況が変わってくると思うのです」
王妃が私に利用価値をなくしたのならば、目の前に現れた私を殺そうとするだろう。
それを逆に証拠として利用できれば、形勢は変わると私は考えた。
「いや、王宮の中では武力を振るうことは難しい。それも王妃とならば、自らの手を汚すことはないだろう。
他者を使い、お前を狙ってくるはずだ」
「それって王妃側の人たちを使ってるってことですよね?
なら、その者たちの権威を奪うのはどうでしょうか?流石に借りる手が少なくなれば王妃も…」
「貴族にはバランスというものがある。それを崩してしまうのは王族への信頼度を下げてしまうことに繋がってしまう」
「なら_」
「発言してもいいですか?」
コンラートが割り込むように口にした。
王は私との意見が平行線で埒が明かないと察したのか、コンラートに許可を出す。
「愛し子が複数人現れないことは王位を継いだ者しかわからない。それは王妃にも当てはまりますか?」
「…ああ、王妃にも伝えていなかったはずだ。
少なくとも俺は伝えていない」
「なら、私がアリエル様を見つけたと報告するのはどうでしょうか?」
コンラートの言葉に誰もが目を瞬いた。
「…コンラート、母は亡くなったんだよ?」
「わかってます。でもそれは誰も知らない。ただの平民の生死を知りたがり把握したい貴族はいないですから。
でも王妃は違う。もしアリシア様の母君に手をかけたのは王妃だとしても、自らの手で行ってはいないはず。
ならば死んだ姿も自分の目で確認はしていない筈です。
そこで私がアリエル様を見つけたと、嘘の報告をするのです。
私はアリエル様から直接アリシア様を託された人間でもある。
王妃がそのことを知れば、私の存在をも消そうとするはずと同時にアリエル様の死を再び確認なさるはず。
その場面で捕えることが出来れば、王妃が依頼主であったこと、そして依頼先もわかるはず。
これならばアリシア様が危ない状況に会うことも、証拠確保までの時間も短縮されませんか?
勿論これだけなら平民を殺そうとした王妃、としてたいした罪にはできませんが、愛し子だったということを先に公言出来れば王妃を咎められると思います」
コンラートの話に顔を上げる三人に私は戸惑った。
「それなら」と目を輝かせるアルベルトも、「影はもうついているな」と確認させる王も、「手配は終えています」と答えるジョセフさんも。
コンラートがその役をすることによって、コンラートが危険になることを理解していない。
「だめ!それだとコンラートが危ないでしょう!」
「アリシア様。私はあなたの護衛騎士なのです。
あなたの騎士でなかった頃の話でも、私が王妃に貴女様を手渡さなければきっと違う未来があったかもしれないと思うと、護衛として失格だと考えてしまうのです。
あの頃のアリシア様を守れなかった私に、チャンスをくださりませんか?」
「…ッ」
ずるい、と思った。
そんな風な言い方されてしまえば、断ることなんてできなくなる。
ここで断ってしまったら私がコンラートに護衛騎士失格と認めたことになるのだから。
懇願するコンラートに、私は俯いた。そして願う。
「…ケガ、しないで」
「はい」
「それでもケガしたらすぐに言って。
私が治すから。絶対」
「承知しました」
顔が見れなかった。見たら私が泣いてしまいそうだったから。
王妃とのいざこざに無関係だったはずのコンラートを巻き込んでしまった罪悪感。
ぎゅうと握りしめた手が温かい体温で包み込まれた。
潤む目で確認すると、アルベルトが私の手を握っている。
「アリシア、コンラートに使命を授けてくれてありがとう。
僕たちもできる限りの援助をつけることを約束する。ね、伯父上?」
「ああ。王妃に気付かれないように、となってしまうが必ず彼の命を守ることを誓おう」
二人の言葉に私は頷き、コンラートも感謝の言葉を口にした。
そして「ここからは勢いづけて行こう!」と明るく振る舞うアルベルトに、私たちは頷き、計画の最終打ち合わせをした。
上っていた太陽はもう傾き始め、空が赤く染まっている。
赤く色づいた空が暗闇に染まった頃、私はコンラートと共に王城を後にして、神殿へと戻ったのだった。
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