【完結】王女だった私が逃げ出して神子になった話

あおくん

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13.それぞれの思い(視点変更)

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(視点変更)


王城の王の執務室に連れていかれたアルベルトは、すっかり元に戻り凄んでくる兄であり王である男を見上げていた。

「なに?変な顔して」

どうしたの?となんでもなさそうな態度のアルベルトに王の眉間に皺が刻まれる。

「…お前、アリシアをどうするつもりだ…」

低くドスの聞いた声。
普通の子供ならばこれで震えあがるものだがアルベルトは普通の子供ではなかった。
まだ十という若さの少年は凄む王にも屈せずに、ぽっと頬を赤らませる。

「アリシアっていうんだね。可愛い……すっごく似合ってるよ」

わなわなと震える王をスルーし、アルベルトはアリシアを思い浮かべているのか頬に手を添えて、瞼を閉じる。
思い違いかもしれないが、赤らんだ頬が更に種に染まった気がした。

「やらんからな!」

そんなアルベルトに叫ぶ王。

「なんでさ!僕の理想的なお嫁さんなのに!なんで"伯父上"にそんなこといわれなくちゃいけないんだ!」

「なんでもなにもない!アリシアは俺の娘だ!
俺に決定権がある!!」

「アリシアの気持ちを尊重すべきだね!」

「アリシアはお前の事好きでも何でもないだろう!?初対面なんだからな!」

「一目惚れっていうのがあるでしょ!」

「ない!!」

「伯父上だって一目惚れ経験者の癖になにないって断定してるんだ!」

そう反論したアルベルトに王は口籠る。
そして従者の名を口にした。

「ジョセフ!!お前だろう!こいつに変なこと教えたのは!」

王とアルバイトの二人だけだった室内に、タイミングよく扉が開かれジョセフが現れる。
声が漏れていたのか、今現れたばかりのジョセフは深く息を吐き出した。

「丸聞こえですよ。お二人とも」

苦言を示すジョセフに二人は視線を逸らす。
ここまでの会話の中であったように王とアルベルトは本当の兄弟ではない。
王の弟夫婦が不慮の事故で命を落とした。その時両親の帰りを大人しく邸で待っていたアルベルトだけが生き残った。
両親を失ったアルベルトを前王は息子として受け入れ、王の年の離れた弟になったのだ。

だから人目のある場所ではアルベルトは王を兄上と言い、今のように一目がない場所では伯父と呼んでいた。

別にこれは公言している事実な為例え聞かれていても問題にはならない。
問題とされるのはこれから話される内容だ。

「アリシア様をお見送りしてきました」

「…アリシアには悪い事をしたな」

「いいえ、逆によかったかもしれません。
アリシア様はまだ迷っておられましたので…」

「…そうか」

先程とは打って変わった王の様子にアルベルトは首を傾げる。

「…王妃の事?」

的中させるアルベルトに王は驚くことなく肯定する。
実はこのアルベルトという少年は記憶の神子でもあるのだ。
まだ今よりも幼き頃神殿へと王位継承の儀式を行った際アルベルトもついてきていた。
その時に神殿の設備に触れ、神子として力を開花させたのだ。

王位を継いだ後、病に患った際「花が似合う女の人を探したほうがいいよ」とアルベルトは言った。
アリエルの事もアリシアの事も知らないのに花を特徴として告げたアルベルト。

「あそこの建物、本当に使ってない?」と口にしたアルベルトの言葉に疑問を抱いた王は、建物を調べさせると複数の足跡を発見された。
足跡からはアルベルトのものは見つからなかった。
小柄だが大人の男性のもの、そして素足のまだ小さな子供の足跡が発見された。
どちらもアルベルトの足跡とは全く違った。
また使用不可だと告げてから誰も招き入れたことが無い。それなのに残っている足跡が当時の自分をイラつかせた。
アリエルすら招待したことはないというのに。と。
だが自分が王子だった頃に使っていた建物。
あそこにはアリエルを思っていた頃の自分の思い出がたくさん詰まっている。
王は建物をすぐに封鎖した。

他にも政治に関わることも助言のように言葉を発したアルベルト。
記憶の神子とは、ただ物事を記憶するだけではなく、触れた物の過去を垣間見れる力を持つとアルベルトはいった。
そんなアルベルトに、今では言い当てられても動揺することはもうない。筈である。

「そっか。なら他の証拠を集めないとだね」

「そうだな。力を借りてもいいか?」

「任せてよ。ずっと気になってたんだ…、伯父上のあの建物に閉じ込められてた子のこと。
あの時は一瞬しか記憶を見れなかったから、顔とか全くわからなかったけど、…すごく酷い姿だった。
あれから誰にも使われていないなら、まだきっと記憶を見れる」

見れなくなる記憶もあるのだろう、ブツブツと呟くアルベルトに何とも言えない表情で王はアルベルトの頭を撫でる。

もっと早く気づければよかった。
アリシアが捕らえられているときに。
アルベルトの言葉をきっかけに調べたときには、足跡からしてアリシアが自らの足で逃げた後。
だがこうしてアルベルトの言葉から捕らえられていたアリシアを思い浮かべると、王は強い怒りを感じていた。

何故気付かなかった。
何故知らなかった。

毛嫌いしていたとしてももう少し王妃の行動を注視していれば、もっと早くアリシアを、いやアリシアだけではなくアリエルも助けられたかもしれない。

「ジョセフ、王妃に影を付けろ。
公爵家に気付かれないようにな」

大げさなようだが王族は一挙手一投足記録として残される。
それは王妃にも当てはまることだが、これを公爵家は強く拒み、影を付けることを拒絶した。
まだ王妃ではないから。に始まり、前王の承諾は取っていると口にし、影を付けることを断ってきた。
今思うと後ろめたいことをしているからこその発言だ。
だが王位を継いだ自分の地盤を固めたいがために、後回しにしてしまったのだ。

今度こそ娘を守ろう。その思いを強く持った王は決意する。

「ねぇ、伯父上」

「なんだ。甥よ」

「やるなら徹底的に、だよね。
前の僕はよくわからなかったけど今ならはっきり言える。
僕のお嫁さんを苦しめたやつら、絶対許せないって」

「……」

何故こんなにも状況を理解しているのか。誰が説明したわけでもなく、王妃への敵意を露にする自分の甥であり、弟でもあるアルベルトに王は思った。
そんな王の気持ちを察したのか、アルベルトはいう。

「同じ神子だからかわからないけど、彼女に関しては触れなくても記憶が見れたんだよ。
本当、掃除も行き届いていない汚い部屋で、寒さを凌ぐ寝具も与えられず、ただただ転がされるように眠っていた。…いや、あれは倒れていたって表現があっているね。
風呂も入らせてもらえず、汚い布で力強く体を拭かれて、肌なんて赤く染まって声にならない悲鳴をあげていた。
唯一救いなのは手を上げられていなかったこと。暴力がなかったことだね。
でもそれがよかったことだなんて思えないけど……」

王は絶句した。
アリシアから詳細を聞いたわけではなかったが、聞いた話よりもひどい環境で暮らしていたのだ。

「僕がアリシアに惚れたのはなにも外見だけじゃないよ。
今よりもっと幼かった彼女は、自分の手で運命を切り開いた。その行動力と心の強さにも惹かれたんだ。
年齢なんて関係なく、普通ならあの環境は耐えられない。自分の生きる理由も見つけられず、ただじっと時が過ぎていくだけ。だけど彼女はそうしなかった」

アルベルトが振り向くと、そこには涙を流すジョセフがいた。
自分より年上な筈のジョセフの涙腺の緩さに引いてしまったが、しょうがないと苦笑する。

記憶の神子として目覚めたアルベルトは、様々な人の記憶を見て達観した大人のような子供になってしまったからだ。
現実に夢を見ることもなく、冷めた目を向ける子供になってしまった。
年相応な子供ではなく、冷めた大人のような子供になってしまった。

だがアリシアにあったあの日、初めて自分と同じ神子に出会える喜びで普段からは想像できない行動をとってしまったが、きっとアリシアの第一印象は悪くなかっただろうとアルベルトは祈る。

「絶対に潰そう。アリシアが乗り気がなくても、許せないものは許せない」

「ああ、逃げる事なんて出来ないよう確実な証拠を集めるんだ」


癒しの神子、アリシアがいない間で王妃を捕らえ、潰そうと心に誓った者たちの意思を共有し合った瞬間だった。



(視点変更終)
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