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6、その頃の侯爵家

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■side 侯爵家



「なんだこの食事は!」

あの高飛車な女の子供をこの家から追い出せた後、徐々に悪くなる食事に声を上げた。

私と元妻は政略結婚だった。
私に対し、することやることなにも口出ししないという約束があったから”仕方なく”クラベリック家に婿養子としてはいったのだが、元々の侯爵の爵位は元妻のものだった。

その為仕事関係は全て元妻に任せ、私は”約束通り”遊び歩いていた。
元妻は私のすることになにも口出しすることはなかった。
愛もない政略結婚だからこそ、元妻との間に問題も起きなかったと思う。

だがそんな”楽しい”日々が過ぎていったとき、元妻が亡くなった。
原因不明とのことらしい。

元妻との子供がまだ未成年という事もあり元妻の爵位はそのまま私の物になり、邸も当然私の自由に使えるようになった。

”外で”出来た子供と新しい妻を招き入れて、共に暮らす。
実に快適な生活を送っていた。

新しい妻となってくれたマナビリアの事は愛している。

マナビリア…マリーとはまだ私が独身だった頃に知り合った。
果実のような真っ赤な唇に、豊満な乳房、細くクビれたウエストはなんとも情欲をそそり、私は何度も”店に通った”。

そうして出来た子供がエリアだ。

まだ子供だがマリーに似たのか成長していくたびに出るところは出てくる体に私は満足する。
まぁ自分の子供に”自分から”手を出すことはしないが…。
それでもエリアから誘ってきた場合は考えてやってもいいとは思っている。


さて、話を戻そう。

私は面倒だが侯爵当主としての仕事をこなし、”少しの息抜き”の為に外に出かける。
マリーは侯爵の仕事にはちんぷんかんぷんだったが、それでも”邸の事は任せられた為”エリアと共にどれほど着飾ってもなにもいわなかった。

マリーとエリアが来て暫くした後、元妻の子供が食事の席に姿を見せなくなった。
マリーは「学業で忙しいのよ」といってはいたが、”卒業した”はずだと記憶していたが気の所為だったのだろう。

まぁ、それでも私が何も言わなかったのは、元妻に似ている子供の顔をみることがなくなって安堵したからだ。

政略結婚とはいえ、外で子供を作った私に目を向けることもなく、結局最後まで私に関心を寄せなかったあの女の顔を。
これで二度と思い出すことはないと。

本当に元妻は残念な女だった。
もっとマリーのように揉みごたえのある胸で、男を刺激するような甘い喘ぎ声をあげるのならばまだしも、顔はよくても女性とは思えない小さな胸に、初夜しか交わってはいないが押し殺した声、唯一認めてもいい顔は枕に顔を埋めてみることもできず、本当に魅力も何もなかった。

まあ今ではマリーとエリアも一緒に穏やかな日々を過ごしている。

私は”たまの息抜き”が出来れば、もう十分満足なのだ。

侯爵家の当主として仕事は沢山あったが、雇っている執事も元妻から引き続き雇用している人材の為、私が”多少”やらなくとも仕事が片付いていることがあった。
その為公爵家からの縁談申し込みに気付くまで時間がかかってしまってしまったが。

スターレンズ公爵家長男。ヴァルレイ・スターレンズ。

眉目秀麗で文武両道。若くして既に公爵家後継者として父親から仕事を任されていると噂だ。


(そんな男が何故縁談申し込みを…?しかも元妻の子供に…)


どうせなら愛しているマリーとの娘のエリアを嫁がせたいと思った私は、食事中にマリーに意見を聞くために切り出した。


「あら、いいじゃないですか。
公爵家と縁が出来るのは素晴らしいことですよ」

「ふむ…、エリアお前はどうだ?
正直これだけ好条件な男ならエリアにふさわしいと思っているのだが…」


真っ赤なトマトにたっぷりと砂糖をかけて食べるエリアに尋ねると、エリアはにこりと微笑んだ。


「私は母様と父様のような恋愛結婚をしたいから遠慮しておきますわ」

「令息は顔立ちも整っていると聞いているが、お前のタイプではないのか?」

「いいえ。素敵な男性だとは思いますよ?でも…」

「でも?」


カチャと音を立ててフォークを置くエリア。


「私この前参加させていただいたお茶会で聞いたんです。
最近この国に異世界の女性が現れて、その女性を王子殿下とスターレンズの令息が囲っていると…」

「あ、ああ…確かにそういう噂を聞いたことがあるな」


正直そんな噂は知らなかった。
でも仕方ない。夜会等の社交場に顔を出していない私には情報源がなかったのだから。
でもこうして私の代わりにマリーとエリアが補ってくれるのならば問題はない。


「異世界の女性となれば後ろ盾はないでしょう?
そんな女性は王子の正妃、そして側室にできないと考えると、王子と一緒に囲っているヴァルレイ様がその女性を手に入れると思うんです。
となれば、私はヴァルレイ様と恋愛関係を築けず、ただのお飾りの妻ということになってしまうでしょう」

「それはならん!」

「それに考えてみてください」


愛する妻の娘をただの飾りと聞き、声を荒げた私の手にそっとマリーが手を添えた。


「この侯爵家は今は貴方が当主ですが、あの子が成人を迎えたら正式な後継者として爵位はあの子のものになってしまいます。
でもあの子を嫁がせてしまえば…嫡子はいなくなる。そうすれば侯爵家はずっと貴方のものです」


確かに、とそう思った。


「マリー、お前はなんて素晴らしい女性なのだ。
思えば君と出会ってから全てがうまくいっていた。男爵という身分だった私が、今では侯爵だ。
そろそろ成人となってしまうあの娘をどうしようかと思っていたが、こんな素晴らしい話はない」

「ええ、ええ。そうでしょう?
では早速お返事をしないといけないですわね」

「ああ、そうだな!」


そうして私は早速了承の返事を送り、あの元妻との娘を送り出した数日後のこの食事だ。


「シェフ!なんだこの食事は!?」


肉も魚もなにもない。緑オンリーな食事に私は目じりを吊り上げる。


「…そ、それが…食費が大幅にカットされてしまい…仕入することができなく…」

「食費がカットだと!?執事!どういうことだ!」

「それは奥様に伺ってください。
私としても遺憾なことなのです」

「は!? おい!どういうことだ!?」

「あら?新しいデザインのドレスを仕入れることは悪いことではないでしょう?
貴方だって購入することには承諾してくれたわ」

「だからといって食費を切り崩すやつがいるのか!?」

「新しいドレスは体型をみせるデザインですもの。その為には食事管理も必要ですわよ」

「それに私を巻き込むな!!!
……とにかく、食費はカットするな。贅沢したければ他の予算から考えろ」


その一言に眉をひそめた執事が視界の端に入ったが、妻はにこやかに微笑んだ。

ふぅ、とりあえずこれで大丈夫だろう。
女は金が掛かるというが、私にまで巻き込むのは勘弁してもらいたい。






難を逃れたと安堵した私だったが、本当の嵐はまだこれからだった。










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