【完結】転生ヒロインに婚約者を奪われた私は、初恋の男性と愛を育みます

あおくん

文字の大きさ
25 / 92

25 婚約解消まで③

しおりを挟む
カルンはカリウスがアリエスと話をしている最中、渡された資料に静かに目を通していた。
だがその表情は怒りを滲ませ、腹立たしさが伺える。

「……この資料の原本は?」

カルンがそう告げたのは資料は手書きではなかったからだ。
均等に並べられた文字の配列に活版印刷特有の特徴的な凹み、インクの滲みから原本となる版が何処かに存在すると考えた。
ちなみにアリエスが活版印刷の技術を使ったのは、三人に渡す婚約破棄に関する書面を作成する際、一人分を書いたところで十分に疲れてしまったからだ。
写真なら現像すればいいが書面を作成するのは時間がかかる。
至るところから証拠を出しまくる男たちに、アリエスの手は筆を進ませるたびに黒く染まった。
だからこそ既に詳細を知ってしまっている両親に頼んだ。印刷という画期的な技術を。短時間に必要な部数を作成する方法という依頼を。
そうして手渡すために必要な部数の書類は完成したが、作成に使った版の扱いに困った。
何故ならアリエスの家は伯爵家。
カリウスなら同じ爵位の子息であるが、他の子息はそうもいかない。家に版を置いておけばどうなるかわからなかった。
最悪揉み消されてしまうかもしれなかったからだ。

「…信頼できる方に保管をお願いしています」

「この書類は君達以外に目を通しているのですか?」

「勿論です。私一人でこの技術を使うことはできませんから」

アリエスの言葉にカルンは手にしていた書類を置き腕を組んだ。

「いいでしょう。望み通り婚約は解消してあげます。ですがこの書類に関するもの全て破棄することが条件てす」

カルンは声高々に告げる。
アリエスが他の者に見せたと言っても、自分たちに情報が降りてきていないところをみると、悪くても家族までに留まっているだろうとカルンは考えたからだ。
そして広まる前に証拠隠滅を目論み、婚約解消の条件として堂々と主張したのだ。

アリエスは言いたいことはあったがぐっと堪え、一言だけ口にする。

「……婚約解消ではなく、婚約破棄です」

「互いに納得しての取り消しです。解消でも間違いではないでしょう。貴女達からの要求は慰謝料の支払いで、こちらからの要求は書面に関する全ての破棄なのですから」

一見アリエスが集めた証拠を破棄した場合のほうが損失は大きく感じられるが、アリエスは悩むことなく頷いた。

「畏まりました。私が集めた全ての情報の処分を約束しましょう」

アリエスの言葉にカルンはにやりと口角を上げると、筆を執り書面へとサインする。
そんなカルンの行動に続くようカリウスとロジェもサインした。

「……あの、私はどうして呼ばれたんです?」

男たちが婚約破棄に関する書類にサインをしている様子をアリエス達が静かに眺めていた中で、一人意味が分からないと不満げな表情を浮かべる女性がいた。
当初ピンクブロンドの髪でアリエスたちに知られた元婚約者の浮気相手、アリス・カルチャーシ男爵令嬢だ。
確かに浮気相手とはいえ、婚約解消にはアリスの存在は不要だ。既に写真にも逢瀬の様子を収められているため証言などいらない。実際にアリスには一言も話しかけられることはなかった。
それなのに何故呼ばれたのか不思議でしょうがないアリスは、自分をここまで連れてきたアリエスを不満げな表情で見つめた。

アリエスはカリウスがサインするのを見届けると書類の回収を優先してから、アリスへと体を向ける。

「待たせてしまってごめんなさい。アリス様を呼んだのは選んでもらおうと思ったからなのです」

「選ぶ?」

アリスはきょとんと目を瞬いた。

「ええ、この国では陛下の許可がなければ重婚は認められていません。そして元とはいえ長年婚約していた相手が思いを寄せる女性と結ばれたら……なんて考えたら手助けをしてあげたくて…。
それにアリス様がこのまま三人と関係を持つのは流石に見て見ぬふりは出来ないのです。先程もお伝えした通り、重婚は認められていないため、下手をすると将来罪に問われる可能性も……ですので私たちの婚約解消と合わせて、アリス様が選ぶ男性一人と婚約を結んでいただけたら、私たちも安心なのです」

アリエスは頬を赤らませ笑みを浮かべながら話した。
アリエスの言葉を聞いた男性たちは「余計なことを」と口にしながらもアリスに期待するかのように視線を向ける。
一方アリスは不都合なことでもあるかのように口元を引きつらせた。



しおりを挟む
感想 29

あなたにおすすめの小説

出来損ないと言われて、国を追い出されました。魔物避けの効果も失われるので、魔物が押し寄せてきますが、頑張って倒してくださいね

猿喰 森繁
恋愛
「婚約破棄だ!」 広間に高らかに響く声。 私の婚約者であり、この国の王子である。 「そうですか」 「貴様は、魔法の一つもろくに使えないと聞く。そんな出来損ないは、俺にふさわしくない」 「… … …」 「よって、婚約は破棄だ!」 私は、周りを見渡す。 私を見下し、気持ち悪そうに見ているもの、冷ややかな笑いを浮かべているもの、私を守ってくれそうな人は、いないようだ。 「王様も同じ意見ということで、よろしいでしょうか?」 私のその言葉に王は言葉を返すでもなく、ただ一つ頷いた。それを確認して、私はため息をついた。たしかに私は魔法を使えない。魔力というものを持っていないからだ。 なにやら勘違いしているようだが、聖女は魔法なんて使えませんよ。

婚約者が妹と結婚したいと言ってきたので、私は身を引こうと決めました

日下奈緒
恋愛
アーリンは皇太子・クリフと婚約をし幸せな生活をしていた。 だがある日、クリフが妹のセシリーと結婚したいと言ってきた。 もしかして、婚約破棄⁉

【完結】真の聖女だった私は死にました。あなたたちのせいですよ?

恋愛
聖女として国のために尽くしてきたフローラ。 しかしその力を妬むカリアによって聖女の座を奪われ、顔に傷をつけられたあげく、さらには聖女を騙った罪で追放、彼女を称えていたはずの王太子からは婚約破棄を突きつけられてしまう。 追放が正式に決まった日、絶望した彼女はふたりの目の前で死ぬことを選んだ。 フローラの亡骸は水葬されるが、奇跡的に一命を取り留めていた彼女は船に乗っていた他国の騎士団長に拾われる。 ラピスと名乗った青年はフローラを気に入って自分の屋敷に居候させる。 記憶喪失と顔の傷を抱えながらも前向きに生きるフローラを周りは愛し、やがてその愛情に応えるように彼女のほんとうの力が目覚めて……。 一方、真の聖女がいなくなった国は滅びへと向かっていた── ※小説家になろうにも投稿しています いいねやエール嬉しいです!ありがとうございます!

平民だからと婚約破棄された聖女は、実は公爵家の人間でした。復縁を迫られましたが、お断りします。

木山楽斗
恋愛
私の名前は、セレンティナ・ウォズエ。アルベニア王国の聖女である。 私は、伯爵家の三男であるドルバル・オルデニア様と婚約していた。しかし、ある時、平民だからという理由で、婚約破棄することになった。 それを特に気にすることもなく、私は聖女の仕事に戻っていた。元々、勝手に決められた婚約だったため、特に問題なかったのだ。 そんな時、公爵家の次男であるロクス・ヴァンデイン様が私を訪ねて来た。 そして私は、ロクス様から衝撃的なことを告げられる。なんでも、私は公爵家の人間の血を引いているらしいのだ。 という訳で、私は公爵家の人間になった。 そんな私に、ドルバル様が婚約破棄は間違いだったと言ってきた。私が公爵家の人間であるから復縁したいと思っているようだ。 しかし、今更そんなことを言われて復縁しようなどとは思えない。そんな勝手な論は、許されないのである。 ※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。

似非聖女呼ばわりされたのでスローライフ満喫しながら引き篭もります

秋月乃衣
恋愛
侯爵令嬢オリヴィアは聖女として今まで16年間生きてきたのにも関わらず、婚約者である王子から「お前は聖女ではない」と言われた挙句、婚約破棄をされてしまった。 そして、その瞬間オリヴィアの背中には何故か純白の羽が出現し、オリヴィアは泣き叫んだ。 「私、仰向け派なのに!これからどうやって寝たらいいの!?」 聖女じゃないみたいだし、婚約破棄されたし、何より羽が邪魔なので王都の外れでスローライフ始めます。

殿下、幼馴染の令嬢を大事にしたい貴方の恋愛ごっこにはもう愛想が尽きました。

和泉鷹央
恋愛
 雪国の祖国を冬の猛威から守るために、聖女カトリーナは病床にふせっていた。  女神様の結界を張り、国を温暖な気候にするためには何か犠牲がいる。  聖女の健康が、その犠牲となっていた。    そんな生活をして十年近く。  カトリーナの許嫁にして幼馴染の王太子ルディは婚約破棄をしたいと言い出した。  その理由はカトリーナを救うためだという。  だが本当はもう一人の幼馴染、フレンヌを王妃に迎えるために、彼らが仕組んだ計略だった――。  他の投稿サイトでも投稿しています。

【完結】婚約破棄されたので、引き継ぎをいたしましょうか?

碧井 汐桜香
恋愛
第一王子に婚約破棄された公爵令嬢は、事前に引き継ぎの準備を進めていた。 まっすぐ領地に帰るために、その場で引き継ぎを始めることに。 様々な調査結果を暴露され、婚約破棄に関わった人たちは阿鼻叫喚へ。 第二王子?いりませんわ。 第一王子?もっといりませんわ。 第一王子を慕っていたのに婚約破棄された少女を演じる、彼女の本音は? 彼女の存在意義とは? 別サイト様にも掲載しております

婚約破棄されたので、聖女になりました。けど、こんな国の為には働けません。自分の王国を建設します。

ぽっちゃりおっさん
恋愛
 公爵であるアルフォンス家一人息子ボクリアと婚約していた貴族の娘サラ。  しかし公爵から一方的に婚約破棄を告げられる。  屈辱の日々を送っていたサラは、15歳の洗礼を受ける日に【聖女】としての啓示を受けた。  【聖女】としてのスタートを切るが、幸運を祈る相手が、あの憎っくきアルフォンス家であった。  差別主義者のアルフォンス家の為には、祈る気にはなれず、サラは国を飛び出してしまう。  そこでサラが取った決断は?

処理中です...