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プロポーズは場所を変えて
しおりを挟む辺境伯の言葉に周りは騒然となった。
辺境伯領はこの国の砦という役割もあって、かなりの実力主義。
高位貴族の出であったとしても、実力が伴わなければ平気で追い出されるような場所なのだ。
例え功績を積み、爵位を賜ったアレンでもそれは平民の身分で参加した陛下からの恩情。
“そこまで”差のない実力だったとしても一部の貴族に爵位を与え、序列を変え変化が生まれるよりはと、平民に爵位を与えたのはそういう意味だったのだろうと“憶測”を立てていた貴族たちが辺境伯の言葉に耳を傾けた。
辺境伯が勧誘したという事実が、アレンに対しての評価が一気に変わった瞬間だった。
そして小さな話し声が大きくなり、会場の視線はアレンと辺境伯に集まる。
それも余裕を持ってダンスを踊っていた高位貴族も足を止めるほどだ。
そんな中、アレンはおくびれもなく返事を返す。
「以前にもお伝えしましたが、お断りさせていただきます」
(以前?)(以前とは一体…?)そんな言葉が聞こえてくるが、アレンと辺境伯は全く気にもしなかった。
ちなみに私はアレンに手を繋がられている為沢山の視線の中立っていた。
殆どがアレンと辺境伯に注目が言っているが(あの令嬢はなんですの?)といったような疑問の声が聞こえてくるから、少し、いやかなり居心地が悪い。
「それは残念だ。理由は、陛下が仰っていた“婚姻の自由”か?」
「そうです。私は愛する女性の隣に一生いるため、今回の魔物討伐に参戦しただけですから」
「それが、もしや…」
ちらりと辺境伯の視線が私に移された。
すると今までアレンと辺境伯に向けられていた周りの視線が一気に私へと突き刺さる感覚を覚える。
(やだ、怖い…)
私は震えた。
品定めするかのような視線に、まるでこの場にいることが相応しくないと訴えているかのような視線が次々と突き刺さる。
繋がれているアレンの手を振り払って、今すぐここから逃げたくなった。
「申し訳ございません。辺境伯様。
その質問の答えは今は出来ません」
「…何故だ?」
「私は大事な話をする相手の優先順位は守りたい性分ですので。
そして“大事な話”をするためにそろそろ失礼しても?」
そう告げたアレンに辺境伯は苦笑した。
「ああ。もう私の用事は終わったからな」
「では、失礼させていただきます」
「ああ……、っとそうだ。その“大事な話”をするならば、会場から出て右手側にある庭園がお薦めだぞ。
あそこは私でも目を奪われるくらいに綺麗だからな」
辺境伯の言葉に、アレンは今日初めて辺境伯に対して笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」と感謝を告げて、私に一言「申し訳ございません」と告げてから抱き上げる。
女性ならば一度は憧れる姫抱きというやつだ。
だけど実際やられたら、体の密着度とか、互いの顔の近さとか、手の置き場とか、自分の体重とか色々気になるところが出てきてしまう。
でも先ほどまで感じていた不安な気持ちが一気に消え失せてしまったから驚きだ。
しかし、ここはパーティーが開かれている会場内。
はっきりいって羞恥心でどうにかなってしまいそうだった。
「あ、アレン重いでしょう?!早くおろして!」
「それは聞くことが出来ないお願いですね。我慢してください」
「どうして!?」
「ミレーナ様は今日高いヒールをお召しになっているでしょう?
私は爵位を賜り、そしてミレーナ様と結ばれるという今日という日をずっと待っていました。
一分一秒も早く貴方に受け入れてもらいたいのです」
「それがヒールとどう関係あるのよ?!」
「私がミレーナ様を抱いて歩いたほうが早く歩けるという事ですよ。
それに、私はプロポーズをするのも、プロポーズを受け入れてくれる場面も、他人には見せたくありません」
そんな言葉のやりとりをしていると、あっという間に会場の出入り口へとたどり着く。
確かに私が歩くよりもかなり早く到着した。
走っていないのに、ただ歩いていた振動しか伝わってこなかったのに、一体どんな歩幅をしているのだろう。
そんなこんなでアレンに抱きかかえられて移動しているとあっという間に王城にある庭園へとたどり着く。
夜でも魔道具でライトアップされている為、色とりどりの花が夜空の下に輝き、私はその幻想的な光景に目を奪われた。
「ミレーナ様_」
「あ、待って。待ってアレン」
十中八九プロポーズであろうアレンの言葉を遮った私に、アレンは不思議そうな眼差しを向ける。
「言葉を遮ってごめんね。でも私、アレンにどうしてもいいたいことがあったの」
「それは…なんでしょうか?」
話しを促すアレンに、私は一つ深呼吸をする。
ドキドキと忙しなく心臓が音を奏でているが、好きな人前にしたらこれ以上落ち着くことは出来なそうだと諦めた。
「まずはお帰りなさい。貴方にとても会いたかった。アレンの無事をずっと祈っていたわ」
「ミレーナ様……。ただいま帰りました。
そしてミレーナ様の気持ちは手紙を通じて届いておりました」
笑みを浮かべるアレンに私も口端があがるのを感じる。
でもここからが本題だ。
ずっと言いたかった。謝りたかったことを伝えなければいけない。
そしてあの時の返事を“きちんと”返さなければいけない。
「アレン。ごめんなさい」
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