22 / 26
叙爵
しおりを挟む
□
「平民アレンよ、此度の魔物討伐に活躍したことを称え男爵の位を授けるものとする」
王様が壇上に登ったアレンに剣を向けそう告げる。
アレンは片膝をついたままの姿勢でこう告げた。
「謹んで、お受けします」
この瞬間平民が爵位を授かるという前代未聞の事態に貴族たちは戸惑いつつも、手のひら同士を叩きその動揺を隠しながらアレンを讃える。
前代未聞というのは、平民が爵位を授かるという前例が今まで一度もなかったからだ。
あるのは貴族が持っている元々の爵位を上げることか、貴族に生まれた子息たちが功績をあげて叙爵を受けたことのみ。
だから“平民”と王様が口にした言葉に誰もが動揺を隠せなかった。
そしてその動揺は王様も想定していたのか、にやりと口端をあげる。
「これよりそなたはアレン・グレイト男爵と名乗るがいい。
そしてそなたの要望通り、一代限りの爵位の代わりに婚姻の自由を認めよう!」
王様の続けられた言葉に会場にいた者たちは一様に首を傾げた。
この国では男爵でも領地が与えられる。
高位貴族がもつ領地の面積には及ばないが、それでも領地を持つということはメリットが生まれるのだ。
だが一代限りの爵位となればそうはいかない。
相続できない者に領地を与えることが出来ないために、一代限りの爵位は領地なしの爵位とも呼ばれる。
だが好き好んで何故一代限りの爵位を?と周りが疑問と嘲りで染まった時、一人が口にした言葉が一気に広まった。
(婚姻の自由というのはもしや、どんな身分差があっても受け入れられるものでありませんか!?)
(まさか!いや…だがそれなら一代限りという爵位を希望するのも納得だ…。平民に、いや元平民に領地経営なんて出来もしないからな)
(確かにそれならありえるな。平民にしたら貴族に婿入りするのは玉の輿だ。しかも陛下が認めている婚姻ならば断われる貴族も少ない)
(待ってください。それなら王女様に婚姻を迫るのも自由なのではなくて!?)
(さ、流石にそれはありえないだろう!?)
(でも彼はこのような破格の扱いを受けるほどの功績を挙げているのですよ!?他の者たちを差し置いて!)
(だがそれは…、)
ざわざわとざわめきが大きくなる中、王様が剣を鞘に収めた音で一気に静まり返る。
まだ継承の最中であることを思い出したようだ。
そして異様なほどに静まり返る会場の中進行は進み、アレンへの叙爵の後は活躍した全ての者たちに褒美が与えられた。
さすがにアレンのように叙爵とはいかないが、それでも少なくない金一封が与えられる。
王様と王妃様のダンスの後、辺境伯が奥様と思わしき女性と共に踊り、そこからは自由に踊り始める。
だけどそんな中でも先ほどの授与式が印象的だったのか、踊りもせずにひそひそと話しあう者もいた。
「ミレーナ様」
「アレン!」
広い会場の中、どうやってアレンの元に行こうかと悩んでいた私にアレンの方からやってきた。
私は嬉しくなって駆け寄ろうとしたが、慌てて取り繕う。
流石に領地ではないしかも社交の場で女性が駆ける姿は好ましく映らないことを私は知っている。
しかもかなりの人たちがいまだにアレンに注視している中で、そんなヘマは出来なかった。
ちらちらとアレンに向けられる視線を感じながら、私はアレンの体に視線を向ける。
(怪我は本当にないのかしら…?)
「ミレーナ様、ご安心を」
「え?」
「私の全てはミレーナ様に捧げております。
ミレーナ様の許可なくこの身を傷つけることはいたしません。
どうしても信じられないというなら……、ミレーナ様自ら確認してください」
「え!?」
「アレン。言葉に気を付けなさい」
アレンの言葉に思わず顔を赤く染める私に見かねたのか、お父様がアレンに注意を促す。
アレンは「申し訳ございません」と謝りながら、それでも嬉しそうに笑った。
久しぶりに見たアレンの笑顔が、とても輝いて見える。
私は熱の引かない表情でじっとアレンを見上げていたのだが、アレン越しに背が高くそしてとても鍛えていることが分かるガッシリとした体をした男性がこちらに向かってくるのが見えた。
(あの人は確か王様の後に踊っていた…)
「ミレーナ様_」
「グレイト男爵」
アレンが私に何かを言おうとしたところで、遮る形で近づいてきていた貴族が声を掛ける。
先程王様から授かったばかりのグレイトというアレンの姓だ。
アレンはとても嫌そうな表情を隠しもせずに向ける。
「辺境伯様…、どうかしましたか?」
アレンが尋ねると、今気付いたとばかりに辺境伯は私達に目を向けた。
「おお、取込中だったか。それは申し訳ないことをした。
私はジャン・オルゴットという者だ。辺境伯領を任されている。
すまないが、少しの間グレイト男爵をお借りしてもいいですかな?」
「お初にお目にかかります。レリスロート子爵家当主のキース・レリスロートと申します。
こちらは私の妻のカミーラで、私の娘のミレーナです。
勿論私たちはオルゴット辺境伯の後でも構いませんよ」
それでは行こうか。とお父様がお母様と私に促し、私は名残惜しく感じたがその場から離れようとした時、アレンに手を握られた。
「え?」とアレンを見上げるが、アレンは一度寂しげに微笑みを浮かべた後、すぐに辺境伯に顔を向ける。
まるで私に【離れていかないで】と言っているかのようだった為、その手を振りほどくことなく私はその場に留まってしまった。
そんなアレンの様子に辺境伯は「ほぉ」と呟きながら一度瞼を閉じた後、静かに尋ねた。
「グレイト男爵。もう一度誘いに来た。私の領地に来ないか?」
「平民アレンよ、此度の魔物討伐に活躍したことを称え男爵の位を授けるものとする」
王様が壇上に登ったアレンに剣を向けそう告げる。
アレンは片膝をついたままの姿勢でこう告げた。
「謹んで、お受けします」
この瞬間平民が爵位を授かるという前代未聞の事態に貴族たちは戸惑いつつも、手のひら同士を叩きその動揺を隠しながらアレンを讃える。
前代未聞というのは、平民が爵位を授かるという前例が今まで一度もなかったからだ。
あるのは貴族が持っている元々の爵位を上げることか、貴族に生まれた子息たちが功績をあげて叙爵を受けたことのみ。
だから“平民”と王様が口にした言葉に誰もが動揺を隠せなかった。
そしてその動揺は王様も想定していたのか、にやりと口端をあげる。
「これよりそなたはアレン・グレイト男爵と名乗るがいい。
そしてそなたの要望通り、一代限りの爵位の代わりに婚姻の自由を認めよう!」
王様の続けられた言葉に会場にいた者たちは一様に首を傾げた。
この国では男爵でも領地が与えられる。
高位貴族がもつ領地の面積には及ばないが、それでも領地を持つということはメリットが生まれるのだ。
だが一代限りの爵位となればそうはいかない。
相続できない者に領地を与えることが出来ないために、一代限りの爵位は領地なしの爵位とも呼ばれる。
だが好き好んで何故一代限りの爵位を?と周りが疑問と嘲りで染まった時、一人が口にした言葉が一気に広まった。
(婚姻の自由というのはもしや、どんな身分差があっても受け入れられるものでありませんか!?)
(まさか!いや…だがそれなら一代限りという爵位を希望するのも納得だ…。平民に、いや元平民に領地経営なんて出来もしないからな)
(確かにそれならありえるな。平民にしたら貴族に婿入りするのは玉の輿だ。しかも陛下が認めている婚姻ならば断われる貴族も少ない)
(待ってください。それなら王女様に婚姻を迫るのも自由なのではなくて!?)
(さ、流石にそれはありえないだろう!?)
(でも彼はこのような破格の扱いを受けるほどの功績を挙げているのですよ!?他の者たちを差し置いて!)
(だがそれは…、)
ざわざわとざわめきが大きくなる中、王様が剣を鞘に収めた音で一気に静まり返る。
まだ継承の最中であることを思い出したようだ。
そして異様なほどに静まり返る会場の中進行は進み、アレンへの叙爵の後は活躍した全ての者たちに褒美が与えられた。
さすがにアレンのように叙爵とはいかないが、それでも少なくない金一封が与えられる。
王様と王妃様のダンスの後、辺境伯が奥様と思わしき女性と共に踊り、そこからは自由に踊り始める。
だけどそんな中でも先ほどの授与式が印象的だったのか、踊りもせずにひそひそと話しあう者もいた。
「ミレーナ様」
「アレン!」
広い会場の中、どうやってアレンの元に行こうかと悩んでいた私にアレンの方からやってきた。
私は嬉しくなって駆け寄ろうとしたが、慌てて取り繕う。
流石に領地ではないしかも社交の場で女性が駆ける姿は好ましく映らないことを私は知っている。
しかもかなりの人たちがいまだにアレンに注視している中で、そんなヘマは出来なかった。
ちらちらとアレンに向けられる視線を感じながら、私はアレンの体に視線を向ける。
(怪我は本当にないのかしら…?)
「ミレーナ様、ご安心を」
「え?」
「私の全てはミレーナ様に捧げております。
ミレーナ様の許可なくこの身を傷つけることはいたしません。
どうしても信じられないというなら……、ミレーナ様自ら確認してください」
「え!?」
「アレン。言葉に気を付けなさい」
アレンの言葉に思わず顔を赤く染める私に見かねたのか、お父様がアレンに注意を促す。
アレンは「申し訳ございません」と謝りながら、それでも嬉しそうに笑った。
久しぶりに見たアレンの笑顔が、とても輝いて見える。
私は熱の引かない表情でじっとアレンを見上げていたのだが、アレン越しに背が高くそしてとても鍛えていることが分かるガッシリとした体をした男性がこちらに向かってくるのが見えた。
(あの人は確か王様の後に踊っていた…)
「ミレーナ様_」
「グレイト男爵」
アレンが私に何かを言おうとしたところで、遮る形で近づいてきていた貴族が声を掛ける。
先程王様から授かったばかりのグレイトというアレンの姓だ。
アレンはとても嫌そうな表情を隠しもせずに向ける。
「辺境伯様…、どうかしましたか?」
アレンが尋ねると、今気付いたとばかりに辺境伯は私達に目を向けた。
「おお、取込中だったか。それは申し訳ないことをした。
私はジャン・オルゴットという者だ。辺境伯領を任されている。
すまないが、少しの間グレイト男爵をお借りしてもいいですかな?」
「お初にお目にかかります。レリスロート子爵家当主のキース・レリスロートと申します。
こちらは私の妻のカミーラで、私の娘のミレーナです。
勿論私たちはオルゴット辺境伯の後でも構いませんよ」
それでは行こうか。とお父様がお母様と私に促し、私は名残惜しく感じたがその場から離れようとした時、アレンに手を握られた。
「え?」とアレンを見上げるが、アレンは一度寂しげに微笑みを浮かべた後、すぐに辺境伯に顔を向ける。
まるで私に【離れていかないで】と言っているかのようだった為、その手を振りほどくことなく私はその場に留まってしまった。
そんなアレンの様子に辺境伯は「ほぉ」と呟きながら一度瞼を閉じた後、静かに尋ねた。
「グレイト男爵。もう一度誘いに来た。私の領地に来ないか?」
99
お気に入りに追加
393
あなたにおすすめの小説

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが
カレイ
恋愛
天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。
両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。
でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。
「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」
そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。



拾った宰相閣下に溺愛されまして。~残念イケメンの執着が重すぎます!
枢 呂紅
恋愛
「わたしにだって、限界があるんですよ……」
そんな風に泣きながら、べろべろに酔いつぶれて行き倒れていたイケメンを拾ってしまったフィアナ。そのまま道端に放っておくのも忍びなくて、仏心をみせて拾ってやったのがすべての間違いの始まりだった――。
「天使で、女神で、マイスウィートハニーなフィアナさん。どうか私の愛を受け入れてください!」
「気持ち悪いし重いんで絶対嫌です」
外見だけは最強だが中身は残念なイケメン宰相と、そんな宰相に好かれてしまった庶民ムスメの、温度差しかない身分差×年の差溺愛ストーリー、ここに開幕!
※小説家になろう様にも掲載しています。

継母の品格 〜 行き遅れ令嬢は、辺境伯と愛娘に溺愛される 〜
出口もぐら
恋愛
【短編】巷で流行りの婚約破棄。
令嬢リリーも例外ではなかった。家柄、剣と共に生きる彼女は「女性らしさ」に欠けるという理由から、婚約破棄を突き付けられる。
彼女の手は研鑽の証でもある、肉刺や擦り傷がある。それを隠すため、いつもレースの手袋をしている。別にそれを恥じたこともなければ、婚約破棄を悲しむほど脆弱ではない。
「行き遅れた令嬢」こればかりはどうしようもない、と諦めていた。
しかし、そこへ辺境伯から婚約の申し出が――。その辺境伯には娘がいた。
「分かりましたわ!これは契約結婚!この小さなお姫様を私にお守りするようにと仰せですのね」
少しばかり天然、快活令嬢の継母ライフ。
▼連載版、準備中。
■この作品は「小説家になろう」にも投稿しています。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

クラヴィスの華〜BADエンドが確定している乙女ゲー世界のモブに転生した私が攻略対象から溺愛されているワケ〜
アルト
恋愛
たった一つのトゥルーエンドを除き、どの攻略ルートであってもBADエンドが確定している乙女ゲーム「クラヴィスの華」。
そのゲームの本編にて、攻略対象である王子殿下の婚約者であった公爵令嬢に主人公は転生をしてしまう。
とは言っても、王子殿下の婚約者とはいえ、「クラヴィスの華」では冒頭付近に婚約を破棄され、グラフィックは勿論、声すら割り当てられておらず、名前だけ登場するというモブの中のモブとも言えるご令嬢。
主人公は、己の不幸フラグを叩き折りつつ、BADエンドしかない未来を変えるべく頑張っていたのだが、何故か次第に雲行きが怪しくなって行き────?
「────婚約破棄? 何故俺がお前との婚約を破棄しなきゃいけないんだ? ああ、そうだ。この肩書きも煩わしいな。いっそもう式をあげてしまおうか。ああ、心配はいらない。必要な事は俺が全て────」
「…………(わ、私はどこで間違っちゃったんだろうか)」
これは、どうにかして己の悲惨な末路を変えたい主人公による生存戦略転生記である。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる