拾われた孤児は助けてくれた令嬢に執着する

あおくん

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叙爵

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「平民アレンよ、此度の魔物討伐に活躍したことを称え男爵の位を授けるものとする」

王様が壇上に登ったアレンに剣を向けそう告げる。
アレンは片膝をついたままの姿勢でこう告げた。

「謹んで、お受けします」

この瞬間平民が爵位を授かるという前代未聞の事態に貴族たちは戸惑いつつも、手のひら同士を叩きその動揺を隠しながらアレンを讃える。
前代未聞というのは、平民が爵位を授かるという前例が今まで一度もなかったからだ。
あるのは貴族が持っている元々の爵位を上げることか、貴族に生まれた子息たちが功績をあげて叙爵を受けたことのみ。
だから“平民”と王様が口にした言葉に誰もが動揺を隠せなかった。

そしてその動揺は王様も想定していたのか、にやりと口端をあげる。

「これよりそなたはアレン・グレイト男爵と名乗るがいい。
そしてそなたの要望通り、一代限りの爵位の代わりに婚姻の自由を認めよう!」

王様の続けられた言葉に会場にいた者たちは一様に首を傾げた。
この国では男爵でも領地が与えられる。
高位貴族がもつ領地の面積には及ばないが、それでも領地を持つということはメリットが生まれるのだ。
だが一代限りの爵位となればそうはいかない。
相続できない者に領地を与えることが出来ないために、一代限りの爵位は領地なしの爵位とも呼ばれる。
だが好き好んで何故一代限りの爵位を?と周りが疑問と嘲りで染まった時、一人が口にした言葉が一気に広まった。

(婚姻の自由というのはもしや、どんな身分差があっても受け入れられるものでありませんか!?)
(まさか!いや…だがそれなら一代限りという爵位を希望するのも納得だ…。平民に、いや元平民に領地経営なんて出来もしないからな)
(確かにそれならありえるな。平民にしたら貴族に婿入りするのは玉の輿だ。しかも陛下が認めている婚姻ならば断われる貴族も少ない)
(待ってください。それなら王女様に婚姻を迫るのも自由なのではなくて!?)
(さ、流石にそれはありえないだろう!?)
(でも彼はこのような破格の扱いを受けるほどの功績を挙げているのですよ!?他の者たちを差し置いて!)
(だがそれは…、)

ざわざわとざわめきが大きくなる中、王様が剣を鞘に収めた音で一気に静まり返る。
まだ継承の最中であることを思い出したようだ。

そして異様なほどに静まり返る会場の中進行は進み、アレンへの叙爵の後は活躍した全ての者たちに褒美が与えられた。
さすがにアレンのように叙爵とはいかないが、それでも少なくない金一封が与えられる。

王様と王妃様のダンスの後、辺境伯が奥様と思わしき女性と共に踊り、そこからは自由に踊り始める。
だけどそんな中でも先ほどの授与式が印象的だったのか、踊りもせずにひそひそと話しあう者もいた。

「ミレーナ様」

「アレン!」

広い会場の中、どうやってアレンの元に行こうかと悩んでいた私にアレンの方からやってきた。
私は嬉しくなって駆け寄ろうとしたが、慌てて取り繕う。
流石に領地ではないしかも社交の場で女性が駆ける姿は好ましく映らないことを私は知っている。
しかもかなりの人たちがいまだにアレンに注視している中で、そんなヘマは出来なかった。
ちらちらとアレンに向けられる視線を感じながら、私はアレンの体に視線を向ける。

(怪我は本当にないのかしら…?)

「ミレーナ様、ご安心を」

「え?」

「私の全てはミレーナ様に捧げております。
ミレーナ様の許可なくこの身を傷つけることはいたしません。
どうしても信じられないというなら……、ミレーナ様自ら確認してください」

「え!?」

「アレン。言葉に気を付けなさい」

アレンの言葉に思わず顔を赤く染める私に見かねたのか、お父様がアレンに注意を促す。
アレンは「申し訳ございません」と謝りながら、それでも嬉しそうに笑った。
久しぶりに見たアレンの笑顔が、とても輝いて見える。
私は熱の引かない表情でじっとアレンを見上げていたのだが、アレン越しに背が高くそしてとても鍛えていることが分かるガッシリとした体をした男性がこちらに向かってくるのが見えた。

(あの人は確か王様の後に踊っていた…)

「ミレーナ様_」 

「グレイト男爵」

アレンが私に何かを言おうとしたところで、遮る形で近づいてきていた貴族が声を掛ける。
先程王様から授かったばかりのグレイトというアレンの姓だ。
アレンはとても嫌そうな表情を隠しもせずに向ける。

「辺境伯様…、どうかしましたか?」

アレンが尋ねると、今気付いたとばかりに辺境伯は私達に目を向けた。

「おお、取込中だったか。それは申し訳ないことをした。
私はジャン・オルゴットという者だ。辺境伯領を任されている。
すまないが、少しの間グレイト男爵をお借りしてもいいですかな?」

「お初にお目にかかります。レリスロート子爵家当主のキース・レリスロートと申します。
こちらは私の妻のカミーラで、私の娘のミレーナです。
勿論私たちはオルゴット辺境伯の後でも構いませんよ」

それでは行こうか。とお父様がお母様と私に促し、私は名残惜しく感じたがその場から離れようとした時、アレンに手を握られた。
「え?」とアレンを見上げるが、アレンは一度寂しげに微笑みを浮かべた後、すぐに辺境伯に顔を向ける。
まるで私に【離れていかないで】と言っているかのようだった為、その手を振りほどくことなく私はその場に留まってしまった。

そんなアレンの様子に辺境伯は「ほぉ」と呟きながら一度瞼を閉じた後、静かに尋ねた。

「グレイト男爵。もう一度誘いに来た。私の領地に来ないか?」



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